サイレントシグナル
レン様作







瓦礫の上に、迷彩模様の隊服を着た男が座っていた。
しばらく、黒い夜空に浮かぶ星空を眺めていたが、男はズボンのポケットから、銀色のライターを取り出した。
そして、そのまま右手を胸ポケットに運ぶ。
中からは煙草箱を取り出し、比較的短い煙草を取り出すと、口にくわえ火を点けた。

火がしっかり点いたのを男は確認すると、深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
すると白い煙が漆黒の夜空に昇っていった……。

遠くから、断続的な銃声が聞こえる。
重機関銃の音だ。
何を狙っているかはもう分かっている。

リオレウスだろう。

一夜にして、辺り一面を焼け野原にした憎き怪物。
突如、出現したかと思えば、爆発的に増殖し各地に現れ始めた。
さらに、他にも様々なモンスターが出現し、人々を襲い、世界はパニック状態に陥った。
だが、そこで全国的に組織が作られた。

その組織の名はモンスターハンター。

その名の通り、モンスターを狩る人々の事を指す。
元々、軍を元に作られたものだ。
だが最近は、モンスターを狩っていく内に軍とは独立した組織になっていった。
そのおかげかどうかは分からないが、ハンターというのも一つの職業になり、志願者も増え、ますます組織力は上がっている。

その、志願者の志願理由は千差万別だったが……すべて、復讐だ。

家族を殺された、愛する人を失った、帰る場所を焼き払われた。
どんなに、理由があっても結局は復讐。
怒りと、悲しみと、憎しみからその者達は入隊していった。

だが、この男は違った。
物心ついた時から、一人だった。

だから、帰る場所なんてない。

家族もいない。

愛する人なんてのも考えたこともない。

志願理由なんてまったくと言っていいほど無かった。
ただ、毎日毎日モンスターを狩っているだけの生活。
それが何となく、つまらないと感じていた。

(結局、なんで俺はこんなことやってるんだろうなぁ……)

ぼーっともう一度考えながら、夜空をじーっと眺めていると。

「……隊長! ジルファ隊長!!」

近くから大声で自分の名を叫ばれ、物思いから覚める。
横下を見ると、同じ隊服を着た若いハンターが険しい表情で立っていた。
そして、視線は真っ直ぐ自分の口元に向かっている。

「かってーな……」

若いハンターに聞こえないように呟くと、立ち上がり、瓦礫から飛び降りた。
そして、煙草は地面に捨てると、靴底で踏みつけ火を消す。

それを見届けると、若いハンターは早口で喋りたてた。

「急いでください。リオレウスがこの地区に襲撃するとの報告です!」

「わかった……。すぐいく」

やれやれといった感じでジルファは返事をすると、若いハンターはすぐに基地の方へ戻っていった。
それを見送ってから、ジルファはもう一度背後を振り返った。
元々街だったが、今は瓦礫の山が連なっているだけの殺風景な場所。
それを見て、怒りを感じるわけでなく、哀しみも感じるわけでもなく、ただ、ジルファは長いため息をついた。
人間は、結局何をしてきたのだろうと思いながら。



基地(と言ってもテントが一つか二つあるだけ)の方へ戻ると、辺りは騒然としていた。
無線機に向かって叫ぶ者。
銃器を持ち、慌しく走り回るハンター達。
かなり危機迫る状況だった。

それで、ジルファはというと―――

(皆さん、がんばってるねぇ……)

ぼへぇ、とそんな事を思いながらその状況を眺めていた。
眺めている、だけだった。
元いた場所へ帰って、もう少し煙草吸っていようかな、と思い始めた頃

「何ぼーっと突っ立ってんのよ!」

突然、女性の声と共に後ろから後頭部を叩かれ、前につんのめった。
只の張り手なんだろうが、それでも痛いものは痛い。

「いってぇ〜……」

叩かれた後頭部をさすりながら後ろを振り返ってみると、偉そうな女が腰に両手をあてこちらを睨んでいた。
顔の輪郭はシャープで、目鼻立ちすっきりしている。
艶やかな黒髪は腰まで伸びていて美しい。

誰もが美人と認めるだろう。だが……。

「アンタ、馬鹿じゃないの? こんな状況だっていうのに」

途轍もなく、口が悪い。

「うるせぇ……」

ジルファは目の前の生意気な女、キール・V(ヴァン)・ハーヴェントに向かって言い返す。
と、今度はグーパンチが目の前から飛んできた。
頭を軽く横に動かしてそれをかわしながら、ジルファは聞く。

「んで、状況は?」

するとキールは露骨に形のいい眉をしかめて、答えた。

「リオレウスは今、第二地区の上空を飛行中とのこと。恐らく、すぐにこちらに来るわね」

第二地区と言ったら、もう目と鼻の先だった。
ジルファはやれやれとため息をつきながら、戦闘準備の指令を出そうと辺りのハンターに顔を向けた、が

ドォオオンンッッ!!

突如、近くで爆音が鳴り響く。
生暖かい熱風が地面の土を巻き上げる。
まい上がった砂埃が収まってから、目を隠していた腕をどかすと前にあったテントが炎を上げて燃え上がっていた。
その近くにいた、ハンターは悲鳴をあげ、逃げ戻ってきている。

中にいた者たちは……即死だろう。助けに行く必要もない。
さすがに、危機感を覚えたジルファはすぐに指令を出そうと口を開く。

「全員、この場から離れるんだ! 攻撃部隊は別エリアへひとまず移動し、態勢を整えろ」

自分としては精一杯の声を出したつもりだが、周りの悲鳴や騒々しい音に掻き消されてしまった。
もう一度と、ジルファが口を開くが、その前に

「総員、直ちに退避! すぐさま別エリアへ移動し、態勢を整えなさい!」

凛とした、威厳溢れる声が辺りに響き渡る。キールだ。
いくつもの悲鳴や怒号、戸惑いの声の中を確実にその声は通り抜けていった。

それまで騒々しかったのが嘘のように静まり返り、その場の時間が一瞬止まったが―――

「はいッ!」

いくつもの声が、同時に返ってきた。
そして、逃げ惑う者はいなくなり、それぞれが自分の役目を果たそうと動き始たのだ。

(へぇ……)

と同時に、何か複雑な気分になった。
副隊長であるキールの方が隊長だと言えば、納得されそうな気がする。
決して自分の方が隊長らしいか、と聞かれれば頷くことはできないが、それでも気持ちのいい思いはしなかった。

「ジルフィ!」

装甲車から自分の名前を(間違って)呼んでいる声が聞こえて、はっと我に返る。
そんなこと考えてる場合じゃないと、すぐにキールのいる装甲車に駆け寄る。

「ジルフィ、アンタは機関銃でリオレウスの相手をして」

運転席のドアを開き、乗り込みながらキールは言う。

「分かった。それと、俺の名前は何度も言うが、ジルファだ」

ジルファはそれだけ言うと、装甲車に乗り込み、ハッチを上に押し開き取り付けられていた機関銃の銃口を空に上げた。
夜空の向こうに何か赤いものが動いているのがなんとか見えた。
それはグングンこちらに近づいてきている。

「総員、直ちにエリアGに移動! 急げ!!」

運転席から、キールが無線機に向かって命令を下しているのが聞こえた。
それとほぼ同時に、装甲車が発進する。

「グォオオオオオオオーーーッ!!」

装甲車を追いかけるかのように咆哮が夜空の彼方から轟いた。
機関銃ごと後ろを振り向くと、紅き空の王リオレウスが確かに存在していた。
ジルファはすぐさま標準をリオレウスに合わせ、引き金をひいた。
機関銃が小刻みに振動すると同時に数百個もの空薬莢がバラバラと落ちていく。
だが、数百もの弾丸による弾幕が張られたにも関わらずリオレウスは一度羽ばたくと弧を描くようにして弾丸を全て避けてしまった。
他の装甲車からも機関銃が撃たれているが、全て外れている。

「ちっ!」

さらに狙いを定めようと簡易スコープの十字を向けるが、まるで鷹のように飛び回るので標準がつかない。
そんな間にリオレウスが急に飛行速度を上げ、こちらめがけて滑空してきた。
まずいとジルファは思ったが、ちょうど真上を通り過ぎただけだった。

「ッ!」

轟、とその後に続くように起こったとてつもない風圧に一瞬身動きがとれず固まってしまったが、すぐに、機関銃ごと体を前に向ける。
そして、絶句した。
リオレウスが大きく旋回してこちらに顔を向け、口を大きく開いていたのだ。
歯と歯の間から、火がチロチロと漏れ出している。

「来るぞ!」

それがなんの前兆か分かったジルファはすぐに運転席に向かって叫ぶと、装甲車が急激に左に曲がり、車体が大きく揺れる。
猛熱を放つ炎球が横すれすれを通り地面に激突し、爆音と共に大きな穴が空いた。

とてつもない威力だ。あんなもの喰らったら、一瞬で装甲車など消し飛ぶだろう。
そんな風にジルファが思った矢先、隣を走っていた装甲車が爆音と共に、想像通り消し飛んだ。
それを機に、第一発、第二発と炎球が空から襲い掛かってくる。
共に走っていた装甲車の何台かは次々とその炎球に次々と破壊されていった。もう残っているのは自分達だけになる。

「もっと、スピード上げろよ!」

焦ったジルファは機関銃を撃ちながら、運転席にむかって叫ぶ。

「これが限界よ! アンタもしっかり狙って撃ちなさいよね!!」

そうキールに言い返されて、もう一度引き金を引くが、乾いたカチッカチッとした音しか鳴らなかった。

(こんな時に弾切れかよ。整備班は何をやって……)

そこまで思ってから、そういえばその整備班も先の炎球でもう殺されていたとジルファは思い出した。
苦々しく渋い顔を作ると、車内に体を入れ助士席に這う様にして座る。

「弾切れだっ! 後はもう全速力で逃げ切れ!」

「簡単に言わないでくれるっ? こっちだって必死なんだか」

キールが言い切らないうちにすぐ左で爆音が起こる。
爆風で車体が大きく右に傾いた。

「このっ!」

キールはすぐにハンドルを左に切る。
何とか横転しかけた装甲車を戻すと、今度は一気にハンドルを右に切った。
すると瓦礫の奥に目的地が、救済地があるのが見えた。

「あっ……た?」

キールは喜びの声を上げかけたが、途中から困惑の声に変わってしまう。
確かにエリアG、廃屋となったデパートの中に作られた緊急の基地はあった。
だが、入り口の前には何かの衝撃のせいか電柱が倒れていて、車では入れなくなっている。

「くそっ。キール、急いで車から降り……おい、キール?」

すぐに反応が無くて横を見てみると、キールは口元を曲げ、笑っていた。目は笑ってない。

嫌な予感がする。
もしかして、とは思うが……。
ジルファは額から冷や汗を掻きながら口元を引きつらせる。

「いっけぇえええええ!」

あろうことか、キールは勢いよくアクセルを踏みつける。予感的中。

「まてまて! いく、なぁああああああ!?」

慌てて止めようとしたが、揺れる車体のせいで語尾が悲鳴に代わってしまった。
そのまま一気に装甲車は電柱でふさがれている入り口に向かって突っ込む。
が。
直前になって倒れていた電柱に引っ掛かり、猛スピードを出していたために大きく車体が引っくり返ってしまう。

「あ……」

呆然とキールは声を出す。

後ろで炎球が放たれたのか爆音が鳴り、爆風でそのまま吹き飛ばされた。
装甲車はさらに勢いが付くと、ひっくり返ったまま閉まっていたドアをぶち破る。

(あ、じゃねぇだろ……)

ジルファが、呆然とそんなことを思っている間に、装甲車は逆さまのまま屋内に突っ込んだ。



遠くからリオレウスの雄叫びが聞こえたが、それはゆっくりと離れていった。
しばらく待ち、リオレウスが戻ってくる気配が無い事を確認するとキールと頷き合う。
それからジルファは狭い車内の中で何とか頭を上にすると、逆さまのドアを内側から蹴り飛ばして、こじ開けた。
反対側からも同じような音がして、キールの土埃で咽る声が聞こえる。

「ったく、無茶すんなよ」

装甲車を挟んで反対側にいるキールにそう言うが

「そう? 無茶でもなんでも無事着いたんだから、いいじゃない」

さらっと、すぐに返事が返された。

(これのどこが無事なんだよ……)

目の前に転がる無惨な装甲車を見ながら思う。
あちこち窪んで、ひしゃげている。これはもう使えないだろう。
ただでさえ組織は金がなくて、物資が足りてる状況じゃない。
その事をキールは知っているはずなんだが。

(考えるだけ無駄か……)

ため息をついていると、キールが自分の背中を突いてるのに気づき振り返る。

「ジルフィ、何かおかしいと思わない?」

滅多に見せない緊張した表情でキールは聞いてきた。

「ジルファ。……確かにな。人の気配がない」

そう答えながら、ジルファは改めて辺りを見渡してみる。
こんな物音をたてて基地に入ってきたというのに、他のハンターが一人も来ないというのが変だ。
他にも灯りが何もついていないのもおかしい。

「場所を変えたんじゃないのか?」

「そんなはずないわ。さっきまで、連絡がついてたんだから」

キールは首を横に振ると、そう答える。

(じゃぁ、急に問題でも起きたのか? ……とりあえず、用心しとくか)

右手を右腰のホルスターに持っていき、対モンスター用の大口径の自動拳銃、『ファング』と名づけた物を抜く。
弾数を確認したり、ロックを外したりしていると、キールがこちらを見ているのに気づいた。

「なんだよ?」

「あんた、まだそんな物使ってるの?」

呆れたようにキールに言われて、右手にある暗闇の中でも黒く輝くファングに目を向けた。

そんな物、そうキールが言った理由は分かっている。
ファングは大口径で弾自体の威力は途轍もなく高く、一発で小型モンスターは狩れる。
が……その分リスクもでかい。
まず、撃った時の反動が恐ろしく強く、連射は不可能。片手撃ちはなんとか出来る程度。
さらに、手入れを怠るとすぐに不良がおこる。
扱いが難しい銃として、最も人気が少ない一つだ。使うハンターなど酔狂と思われてしまう。

「俺が何を使おうと勝手だろ。とにかくいくぞ」

そう言い返しながら、ファングのスライドを引く。

「あんたって、ホント変わってるよね……」

お前に言われたくない。
そう言おうとしたが、いきなり何か投げ渡され言葉が出せなかった。
受け取ってみると、それは暗視スコープなのが分かった。

「こういうとこだけは、用意周到だな」

「何か皮肉ってるわね」

つまらなそうにそう言うキールは既に暗視スコープを装着済みだった。
ジルファもゴム布の部分を頭にかけると、目の部分にスコープを下ろす。
一気に辺りがさっきよりも良く見えるようになった。

と、その時。
視界の端で何か動いた気がして、その方に顔を向ける。
だが、何もいないし、動いてもいなかった。

「どうしたの?」

「いや……見間違いだと思う」

一応、そう言っておくが、限界まで気を引き締めファングをすぐさま撃てるように引き金には指をかけておく。
キールも小首を傾げながらも、大型ナイフをいつの間にか手に持っていた。

「それより、行くぞ。もしかしたら、上の方にいて気づかなかっただけかもしれない」

「そうね。何も起こってないといいけど……」

二人は慎重に、足音をたてないように上階へ行く階段に向かった。
微かに後ろから気配を感じながら……。

二人は階段の前についたが、やはり他に人がいるような感じはしなかった。
耳をすませてみても、物音一つ聞こえない。
後ろにいるキールに目で二階に上がると伝えると、ジルファは上階へと先に足を進めた。
一歩、一歩、慎重に階段を上る。
二階につき壁から顔だけ出して、周りの様子を見てみると何かがうごめいていた。
よく見ると、青と黒の縞模様の鱗を持つ、小型の肉食動物『ランポス』だと分かる。その数5匹。

(ランポスか……)

一匹一匹は大した事無い。だが、群れになると別だ。
あの手足に持つ鋭い鉤爪で肉をざっくりやられてしまう。
ファングを握りなおして、銃口をランポス達に向け、引き金を引こうとするが。

「ちょっと待って、ジルフィ」

そんな声と共に肩を叩かれたので、引き金を引くのを止めた。
振り向くと、キールが小声で言う。

「派手に銃声ならしたら、他に何かいたとき面倒でしょ。ここは私が……」

キールは大型ナイフを腰の鞘に収めると、隊服の中から投擲用の小型ナイフを数本取り出した。
さっきのナイフに比べると刀身が細く、頼りなさげだが切れ味はある。
その小型ナイフを右手に一本掴むと、ゆっくり腕を振り上げ―――目に見えない速さで振り下ろした。

直後、一番近くにいたランポスの首に小型ナイフが突き刺さっていた。
暗視スコープで見ているせいか、ランポスは妙に赤黒い血を吹き出しながら、その場に横倒しに倒れる。
すると、他のランポス達が異変に気づき、喧しい鳴き声を発しようとするが……。
その前に、一匹、また一匹とキールのナイフが頭や喉笛に突き刺さり絶命していく。

このまま見つからずに、事が済むかもしれない。
と、ジルファは思い始めたが、残り二匹というところで、生き残りのランポスはこちらの姿を発見したらしい。
体をこちらに向け、駆け出してきた。

(ちっ……)

今度こそと、ジルファはファングを構え物陰から体を出す。
標準をすぐさまランポスに合わせようと銃を真っ直ぐ構えたが、その先をキールが長髪をなびかせて駆け出していた。
ジルファが静止の声を出す前に、キールは鞘から抜いた大型ナイフで襲い掛かってくるランポスの内の一匹の喉をすれ違いざまに切り裂く。
そのまま、回転しながら横にいる最後の一匹の首に刃を突きたてた。
ランポスは口から血を吐き、数回痙攣した後、動かなくなった。

「ふぅ……」

軽く息を吐くとナイフを引き抜き、大して疲れてないような振る舞いを見せると、付いた血のり適当に振り払ってから鞘に収めた。

「腕をまた上げたな」

「まぁね。ナイフだと、銃と違ってほとんど無音で狩れるのが好きなのよ」

無音で狩れる。つまり、モンスターに気づかれないという事だ。
気づかれないほうが確かに楽だし、余分な体力も使わない。それほど、良いことはないだろう。

自分もやってみようか、そうジルファが思っているとき。
ガタン、と。硬い物が地面に落ちる派手な音が背後から聞こえた。
反射的に、ファングを抜き構え後ろを振り返る。
キールもナイフを取り出した。

「ひ、ひゃぁっ!」

すると、情けない男の悲鳴が聞こえた。
二人は声のした方に近づいてみると、自分達と同じ隊服を来た若い男のハンターが腰を抜かしてへたり込んでいた。
顔が真っ青で、がくがくと震えている。

二人は青年の視線がこちらの獲物に向いていることに気づき、すぐにしまった。
それから、青年に近づいた。

「……ここで何してる? 他の隊員はどこだ?」

見下ろしながら、ジルファは聞く。

「み、みんな上階の部屋にか、隠れています。ら、ランポスの群れがデパート内に侵入して……。暗闇の中じゃどうしようもなくて……」

青年の言葉は呂律が回っていないが、それでも理解は出来た。
ここの隊員たちは全員隠れてたから、自分達が騒音をたてて入ってきたことに気づかなかったのだろう。

「で、なんでお前はここにいるんだ?」

青年はびくっ、と一瞬震えると、気まずげに俯き答える。

「じ、自分は見回りで来たんですが……いつの間にかランポスがうようよ歩いてて……その、怖くてずっと隠れてたんです」

なんとも情けないハンターがいるものだ。
ジルファはため息をつく。なんだか、突然やる気がなくなった気がする。

「どうする? 今から助けに行くか?」

後ろで、さっきから黙って話を聞いていたキールに話しかける。

「先へ行くか、戻るかって聞かれたら……ここは行くしかないでしょうね。やっぱり」

「何でだよ?」

「こっちを見て、ジルファ」

そう言われて、ジルファはキールの視線の先を見てみると、二つで一組の光があった。それも数え切れないほど。
よく見れば、それが生き物の目だと分かる。そして、それがランポスのことだとも。
またしても青年の悲鳴が後ろから聞こえた。

「さっきの物音のせいで気づかれたんでしょうね……」

やれやれ、という感じで言っているが、声には焦りがあった。
ジルファも少なからず、まずいと思った。数が多すぎる。二〇匹以上いるだろう。

「で、どうする?」

「あんたなら?」

「逃げる」

「あたしも賛成」

二人は頷き合うと、クイッと180度、体の向きを変え―――脱兎。
その言葉通り、青年を引っ張りながらその場から逃げ出した。

「ギャァッギャァッ!!」

後ろから甲高い鳴き声と共に、大量の足音が追いかけてくる。
動きが早すぎる。この分だとすぐに追いつかれてしまう。

「おい!」

引っ張られながら走る青年に声をかける。

「は、はい!?」

「その、他の隊員が隠れてるっていう、部屋は何処にあるんだ?」

「え、えっと。す、すぐそこを右に曲がってください!」

慌てて青年は言うと、指を先の通路に差す。
ジルファとキールは言われた通りに、通路を右に曲がった。だが、進路方向にはランポスが三匹待ち構えていた。

「めんどくせぇ……」

ジルファはそう呟きながらファングを構えると、狙いを定め引き金を引く。
鈍い銃声と共に銃口が一瞬輝き、左の一匹の体が見えない何かに殴られたように倒れる。
さらに、一拍置いてから引き金を引く。真ん中の一匹が倒れた。

(最後は……)

ジルファは残りの一匹も撃ち殺そうと銃口を向けるが、その前にキールがナイフを逆手に構え、ランポスに近づきざまに首に向かって振り払う。
ランポスの首は綺麗に切断され、宙を舞い、後ろに落ちるのが見える。
そのまま後ろを視線を後ろに向けると、多勢のランポス達がすぐ後ろにまで迫ってきていた。今のランポスたちのせいだ。

「……ちっ」

ジルファは通路の横に並ぶ数台のガチャガチャを見つけると、銃口を向け引き金を引く。
ガチャガチャの丸い透明なケースは砕け散り、大量のカプセルボールが一気に転がりだす。
通路は一面、ボールで埋め尽くされるが、それに気づかず、ランポスはそのままそこに突っ込み

「ギャッ、ギャァッ!」

先頭を走っていたほとんどのランポスは滑り、転んだ。
だが、次々と後ろから新たなランポスが転んだものを踏みしめ追いかけてくる。

「くそっ、きりがねぇ!」

苛立ちを隠さず、ジルファは吐き捨てる様に言う。
そろそろ足にも限界が来ていた。青年など、息切れを起こして今にも倒れそうだ。
まずい。と、思い始めたとき。進路方向にまたしても黒い影が現れた。
また、ランポスか。ジルファは舌打ちしたが

「目を閉じろ!」

突然、そんな声が影の方から聞こえ、間違いだと分かった。
すぐに三人は言われるがままに目を閉じた。そうさせる何かが声にはあったからだ。
その刹那、軽い炸裂音と共に瞼を閉じても分かるほど強い光が辺りで炸裂する。

(スタングレネードか!)

追いかけてきたランポスが揃って悲鳴を上げるのを聞きながら、ジルファは閉じた目を開く。
前方には背中に何か背負った男が立っていた。
その顔に見覚えがある。そいつは。

「ディアン!」

キールが隣で驚きの声を上げた。
自分とキールの仲間、ディアン・デュオンがいたのだ。

「よぅ、ジルファ。何か苦労してるじゃねえか」

口端を曲げ、にやにや笑いながらディアンは言う。

「うるせぇ」

そう言い返しながらも、内心は助かったと思った。
キールや青年も同じ気持ちだろう。

「ま、とにかくこっちだ。ランポスどもの目が治る前にな」

そう言いながら、ディアンが向かった先は分厚い扉のある、大きな倉庫だった。
分厚い扉を急いで閉め、四人はランポスの甲高い悲鳴を後ろから聞きながら中に入る。
中は非常用なのか、灯りが付いていて、明るい。
そして、倉庫内を見渡せば、数十人のハンターがあちこちに武器を抱えて座っている。
恐らくはディアンの隊員の以外に、他の隊の者も混じっているのだろう。

「ま、とりあえず。立ったまま話すのもなんだから、そこらへんに腰かけろや」

そう言うと、ディアンはその巨体を床にどっしりと腰を下ろした。
ジルファたちも床に座る。

「やれやれ。こっちはよ、ここで待機してたんだけどな。ランポスの群れが来るもんだから、出るに出れなくってなぁ」

ディアンは声は困ったように言っているが、顔は笑っている。
何だか、困った事になっていない気がしてしまうが、周りを見ると違う。
数十人のハンターの七割、いや八割がたが手や足に包帯を巻き、怪我をしている。
さらに、下を見て、俯く目には恐怖が浮かんでいた。
それはジルファには見覚えがある。
ありすぎるほど、ある。
モンスターの脅威を肌で感じ、死にそうな思いをして生き残った人の、ハンターの目だ。

ジルファはぼんやりとそんな者たちを眺めていると、数十人の内の幾人かがこちらを睨むように見ているのに気が付いた。
恐怖のほかにも、苛立ちを含んだ表情で。

何なのだろう。何か、まずい事でもしたか。
ジルファは少し考えて、基地に入ったときの事を思い出した。
やはり、あんな入り方をしたのはまずかったか。
いや、だが、あれはキールがやったことで―――

「リオレウスが来て、あのランポスたちが隠れたのがちょうどここだったのね。そして、獲物をついでに見つけた。そんなとこでしょうね」

と、頭の中で言い訳をしていると、隣でそのキールが現状を冷静に判断している。
少し、訳も無くむかついた。
だが、キールとはもう何年かの付き合い。
そんなこと、いちいち考えても仕方がないと諦め、軽くため息をした。

「……ん、そう言えば。見張りは置かなかったのか? 何で、簡単に侵入なんか許した?」

ふと、ため息をついた時、疑問に思ったことを口にすると、傍で先程助けた青年がビクリと体を震わせたのが見えた。
すると、ディアンは複雑な顔で青年の顔を見る。

「いや、あのな……。そいつが見張りをしていたんだけどよ……。その、何だ……そいつ、うたた寝しちまったらしい」

ジルファは、その時自分がどんな顔をしているか分からなかった。
きっと、唖然として間抜けな顔をしているだろう。
キールもただ、呆然としている。

「す、すいません! 本当に、すいません!」

隣で青年は大声で謝ると、大げさに頭を地面につけ土下座をする。
額が地面と擦れるぐらいの土下座だ。
さすがに、ディアンは青年を止めさせようと声をかけた。

「いや、そこまでしなくても―――」

「そんな奴、庇う事ないですよ」

酷く冷めた声が聞こえた。

「そいつのせいで、ランポス共の侵入は許しちまうわ、俺たちはこんな怪我をするわで散々な目に合わせられたんですから」

さっきの声が続けると、周りのハンターもそうだそうだと、囃す。
気持ちは分からなくは無い。
たった一人のへまで、死にそうになったなら自分だってたまったものじゃない。
そうジルファは、横目で土下座している青年を見ながら思った。
そんなとき。

「うるせぇっ!」

囃し声の中、ディアンは叫ぶと立ち上がろ、他のハンターを睨みつけた。

「テメェらだって、間違うことはあるだろう。何でも一人に責任を押し付けて、自分ばかり悪くねぇなんて思ってんじゃねぇぞ!」

一気に騒いでいたハンターたちの声が静かになった。
全員、顔を青くして視線をディアンと合わせないように逸らす。

けっ、と吐き捨てると、ディアンは青年に顔を向けた。
自分が叱られるのか。と、びくりと体を震わす青年にディアンは、さっきとはうって変わった笑みを浮かべる。

「ま、だからよ。お前もそこまで気にすんな。幸い死傷者は出なかったしな」

青年はその言葉を聞いた途端、体をわなわなと震わせ

「ありがとうございます!」

再び泣いて頭を地面に押し付けてしまった。
その頭をぽん、と一回叩いてからとディアンは顔をこちらに向けてきた。

「んで、どうする?」

話をこっちの振るな。
めんどくさい。

「……どうするもなにも、脱出だろ」

適当に返事をして、胸ポケットから奇跡的に無事だった煙草を取り出し、一本口にくわえる。

「そんなことぁ、わかってる。どうやって、をお前に考えて欲しいんだよ」

「……なんで俺が」

それだけ言うと、ズボンからライターを取り出す。
それから、くわえている煙草に火をつけ―――られなかった。
さっきまで右手の中にあったライターが消えていたのだ。
犯人はわかっている。
こんな一瞬の早業を出来る奴は。

「キール……」

その、犯人の名を呟くと、ジルファは横に視線を向ける。

「ん? 何?」

その犯人であるキールは白々しく、視線を逸らすのだ。
それでも、視線を送り続けていると、さらに嘘を付く。

「何よ。私は別に何もやってないわよ」

じゃぁ、後ろにやっている右手が握っている物は何だ。
そう突っ込む前に、キールは細い人差し指をこちらに真っ直ぐ向けてきて詰め寄ってきた。

「それより、早く作戦たててよね。私だって出られないじゃない」

勝手だ。
我がままという言葉はこいつの為にある言葉じゃないんだろうか。
かなりやる気がなくなったが、ライターを返してもらうためには作戦を考えなければならない。
ジルファは小さく舌打ちすると、ディアンに向かって言う。

「……しょうがねぇ。ディアン、この基地の……デパートの見取り図を見せろ」

いかにもめんどくさそうに言ったのだが、ディアンは気にした風もなく、筒状にしてある紙をズボンから取り出した。

「これが、ここの見取り図だ」

そう言うと、前に紙を広げた。
ねじこんで入れてあったらしく、しわくちゃだったが、それでも一応は見える。
ここのデパートの部屋、通路、そして、設計図まで載ってある。
すぐにざっと見通し、今いるこの場所の設計を見る。

(……意外としっかりした造りなんだな)

デパートのくせになかなかしっかりした設計のことが分かった。
それからもう一つ、ある事に気づいた。

「ふーん……」

少し良い策を思い付いて、つい声が漏れた。
それから、近くにいる青年に視線を向ける。

「? な、何ですか?」

青年は緊張した表情で、不思議そうに訊いてきた。
その青年に、ジルファは少し意地悪く、声のトーンをわざと落として言った。

「お前……。ちょっと、役立ってみないか?」


青年は暗闇の中を走っていた。
とにかく、全力で。滅茶苦茶に。
目からは涙が、鼻からは鼻水が止め処なくさっきから流れている。
きっと、顔が凄いことになっているだろうが、今はそんなこと気にしていられない。
背後から自分に襲い掛かろうとする、ランポスたちの足音が追ってきているからだ。
怖くて止まりそうになるが、操られているように足は勝手に動く。

(死ぬ! 絶対に死ぬ! なんで、僕はこんな役目受けちゃったんだよぉ!)

内心でそんなことを思いながら、さっきまでの出来事を思い出す。
確か自分の隊長であるディアンの仲間らしい黒髪の男が自分に役立ってみるか、と聞いてきた。
それで自分はつい頷いて答えてしまったのだ。
その後、ジルファとかいう男は勝手に一人で話を進めてしまった。
そして、扉の先のランポスを片付けた直後、デパート内を走り回って、ランポスをひきつけろとか言われて。
無我夢中で駆け出した時は分からなかったが、かなり危険な役目じゃないか。
全速力で走りながら後悔していると、背中に何か鋭い物が掠り、ちっと小さな布が浅く切れる音が聞こえた。
飛び掛ってきたランポスの爪先だ。

「う……」

そう理解した途端、我慢していたものが喉から段々込み上がってきて―――

「うわぁああああああ!!」

大きな悲鳴を上げる。
イヤだ。死にたくない。
囮なんてやってられらない。
そんなことを頭の中で思っているが、悲鳴を上げる事態、囮としての効果を高めていることに青年は気づいていない。

ジルファが時々滅茶苦茶な事を言うのは昔から知ってたが……。
それでも今回はもっと滅茶苦茶だと思う。
他の隊員を外まで逃がし、デパートにまだいる青年を迎えに行きながら、ディアンはそんな事を思っていた。
確かにジルファが青年を囮にする策のおかげで隊員は全て無事に脱出させることができた。
けれど、青年の方の安否はどうなるのだろうか。
色々と突っ込むと、『お前が俺に脱出方法考えろって、言ったんだろ? だったら、黙って聞いてろ』と、言われてそれ以上言い返せなかった。
長い付き合いだから信用はしているが、それでも一つ理解できないものがあった。

「つーか、なんであいつを囮役に選んだんだ?」

ディアンは前で腕を組んで立っているキールに声をかける。

「私だって分かんないわよ。ま、ジルフィの事だから意味はちゃんとあると思うけど。多分」

キールはそう答えるのを聞いてから(っていうか、まだ名前間違えてんのか)ディアンはちらりと、暗闇の向こうを見ているジルファを見る。
横顔はいつも通りのやる気なさげな表情だ。
さすがに我慢できなくなってきて、ディアンは真意を聞こうと近づいた、その時。

「うわぁああああ!」

暗闇の奥から青年の悲鳴が聞こえた。
それと共に大量の足音、おそらくは引き連れたランポス。
足跡の多さからすると、三十はいるみたいだ。

「よし」

前からジルファがそう呟くのが聞こえた。

「よっしゃ、迎え撃つんだな」

他のハンターから借りたライフル銃を構えるが、ジルファは急にくるりと後ろを向いて

「逃げるぞ」

そう言うなり、もと来た道へ駆け出してしまった。
キールもすぐ後に続いていく。

「……は?」

突然の二人の行動が理解できなくてライフル銃を構えようとした体勢のまましばらく固まってしまう。
目を瞬いてみても、二人が逃げる後姿しか見えない。

「隊長ぉ! 助けてくださいぃいいいい!!」

数秒の間、呆然と立ち尽くしていると、後ろから涙声が聞こえた。
その声でディアンはやっと我に返り、振り返ると、もう目に見えるほど青年と多数のランポスが近づいて来ていた。
と、青年に一匹のランポスが飛び掛っているのが見えた。

「伏せろ!」

青年に向けて声を飛ばすと、ライフル銃を青年に飛び掛るランポスめがけて撃つ。
喧しい悲鳴を上げて、そいつは後ろにぶっ飛んだ。

「ひぃ!」

頭を抑えながら、青年も悲鳴を上げて、やっとこちらの横に追いついた。
もちろん、ランポスもほんの数歩の所まで来ている。

「とにかく走れ!」

先へ青年を走らせて、自分はランポスの群れめがけてライフル銃を乱射しながら後ろへ下がる。
一匹一匹、銃弾の餌食にされて倒れるが後ろから次々と他の奴が突っ込んでくる。

「ったく、あいつはぁ……」

何考えてんだ。
最後は口に出さず、心中で愚痴る。喋る余裕もない。
ある程度、弾を撃つと後ろへ駆け出す。
さすがにこんな数相手、一人じゃさばけない。

「ディアン!」

前から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ジルファだ。

「ジルファ! なに逃げて」

「耳を塞いで、こっちへ来い!」

「はぁ!?」

自分の言葉を遮って命令するジルファの言っている意味が分からず、そう聞き返した直後、暗闇から三つの球状の物体が飛んできた。
それらは球状というよりも楕円形で、何か銀色のレバーが付いていて―――

「って、手榴弾!?」

そう理解するとすぐに隣の青年の襟を引っつかみ、共に前に飛び込む。
横目で手榴弾の行方を見ると、それぞれ柱に触れるか触れないかのところで炸裂、爆発した。
当然のように柱は轟音と共に吹き飛び、支えが無くなった天井が崩れていく。
爆風に押されるようにして前に転がりこむと、すぐ目の前にジルファの姿が見えた。
立ち上がりながら、すぐにジルファに叫ぶ。

「ジルファ! 何やってんだッ?」

崩れた天井は襲い掛かってくるランポスを下敷きにしていくが、このままでは自分たちまで下敷きにされてしまう。
ところが、ジルファはいたって平然と立っている。
ますます苛立って睨むと、ジルファは疲れたように首を振ってため息をついた。

「うるせぇよ。黙って見てれば分かる」

そうジルファが言っている間にも、もう目と鼻の先まで天井が崩れていく。
下敷きになる。
不吉な様子が頭を巡って身構える。
が……崩壊音が段々と小さくなってる事に気づいた。
同時に崩れる瓦礫の量も減っていっているのが分かった。
そして、完全に崩壊は止まった。
何で突然止まったか分からず青年と一緒に固まっていると、淡々とした説明が後ろから聞こえた。

「造りが別になってるとこがあったから、そこを支える柱だけ壊した。だから、平気」

「そ……」

そういうことは早く言えよ。
そう言い返したかったが、さすがに呆れて言葉にならなかった。
危うく、隣の青年のように抜けそうになった腰に力を入れると何とか立ち上がる。

「ったく、お前って奴ぁ性格悪ぃな……」

やっと出た言葉はつまらない悪態だった。

「もう知ってるかと思ったけど?」

悪びれずにジルファは薄笑いを浮かべて答える。
あぁ、そういう奴だったよ、昔から。
何だかジルファと同じように笑いながら背中を傍の柱に預けて、そして息を吐く。
と―――

ズッ……。

「ズッ?」

急に後ろから重い何かがずれる音がした。
すぐに振り返ってみると何かの衝撃でひびが入っていて脆くなっていたのか柱が倒れかけている。

「なんだこれ?」

首をかしげて、見ていると

「あ……」

後ろでジルファがそう声を漏らした。
咥えようとしていた煙草も取り落としている。
何があ、なのだろうか?
そう思った時、倒れかけていた柱が音を立てて崩れ、

ズズッ……

低い崩壊音が、

ズズズズズッ!

再び響き始めた。
続いて、止まっていた天井の崩壊が再発する。

「おいおいおいおい! どうなってんだよ!?」

声を張り上げながら、片手で振ってくる壁の欠片から頭を守る。

「俺が知るか! とにかく走れ!」

ジルファのその声に扇動されて、全員一目散にその場から駆け出す。
青年だけ動けなかったので、自分が抱え上げて走った。
後ろでズシャッ、という大きな崩れる音がした。
振り向かなくてもどんな事になっているか、耳元から青年の小さな悲鳴で分かる。

「テメェが悪いんだからな! 絶対、手榴弾が原因だぞ、あれ!」

「お前があんなとこに寄り掛かるからだろ!」

「うるせぇ! とにかく上から責任問われたらテメェのせいにしとくからな!」

「お前の基地だろ。お前の責任だ!」

意味の無い悪態を互いにつきながら走り続けていると、やっと外へ出る出口が見えてきた。
とにかく全速力でそこへ向かおうと、足に力を入れるが、後ろから静止の声が聞こえた。

「待て、ディアン!」

ぐい、と背中を引かれて、がくんと首が揺らされる。
首の痛みに顔をしかめつつ怒鳴り返そうと思った、その直後。
出口の真ん前に瓦礫が音を立てて落ち、鉄材や壁が積み重なって出口が塞がれた。
全員、すぐに立ち止まる。

「どうすんのよッ?」

キールがそう言うと、ジルファは腰に手を伸ばすと、掛けてある手榴弾をまた掴む。

「また、テメッ―――」

ディアンが言い切る前に、ジルファは手榴弾の安全ピンを抜くと、入り口を閉じている瓦礫めがけて投げつけた。
「1、2、3……」と、ジルファが呟いているのが聞こえた後、手榴弾は爆発し瓦礫を吹き飛ばす。
バラバラとコンクリート片が落ちているが、構わず全員突っ込む。
一瞬、視界が砂埃で潰されるが、すぐに外に出ると僅かな月光で明るくなった。
そのまま真っ直ぐ廃デパートから離れる。
ある程度距離をとった所で後ろを振りかえると、巨大な廃デパートは轟音を立てて崩れ落ちた。
まるで、上から物凄い圧力をかけられて潰れたような、そんな悲惨な状態だった。

「……平気、って言ってたよなぁ?」

「…………さぁ」

「……馬鹿」

「ジルファ隊長……」

四人で意味の無いやりとりをした後、乾いた夜風が流れて砂埃を飛ばす。
全員一緒に放心状態で改めてデパートがあった場所を見上げる。

しばらく、そんな風でいたらがりがりと地面を引っかくタイヤの音が聞こえた。
視線を変えると、装甲車が数台近づいてきている。
装甲車は自分達の横に止まると、中から自分の隊のハンターや他の隊の者がぞろぞろと降りてきた。

「隊長! 無事でしたか!」

一人の男のハンターのその問いに頷きながら答える。

「なんとかな……」

ディアンは苦笑しながら、抱え上げていた青年を降ろした。
それから、もう一度基地があった場所を振り向いて呟く。

「もう、この基地は使えねぇな……。どっかの馬鹿のせいで」

馬鹿を強調して言うと、その馬鹿が半眼でこちらを睨んでから煙草を吸い始める。
ため息をつくと、視線をハンターの方に戻す。

「ま、とにかく一時撤退。ここにいたってしょうがないしな」

「はい。あ、すいません本部の方から無線が」

途中でそう言うと、そのハンターはボソボソと無線機(携帯のような形状の物)に向かって呟き始める。
長くなりそうなので、空に視線を向ける。

(あー……。にしても、どうすっかね)

顎を擦りながらこの件に関しての始末書は俺が書くのか、いや、やっぱりジルファか。
あいつがやったことだしな。
そんな事をぼーっと考えていると、

「何だって!?」

急にハンターが大声を出したので、驚き顎を擦る手を止めハンターの方を見る。
青ざめた顔で、体を震わしている。

「どうした?」

「り、り……」

口が震えて呂律が回らないのか、何を言っているのか全く分からない。

「どうしたッ? 何を伝えられた?」

今度はさっきよりも強く聞く。
ごくん、と音を立てて唾を飲み込むと、ハンターは一気に震える声で言い切った。

「り、リオレウスがここに戻ってきています!」














By Mind of Hunting