モンスターハンター-世界の意思-
悪雷様作
この世界はどこまでも広く、澄みいき、そして美しい。
人は知恵を出し合い、力を貸し合い、そして助け合う。
彼らは大地を踏みしめ、生きる為に戦い、そして「此処」に在り続ける。
人と彼らは時に助け合い、時に恐れられ、時に傷つけ合う。
それがこの世界に生きるものたちの『約束』であり、『秩序』でもあり、『法則』でもある。
人はそれを知らずのうちに知り、知らずのうちに忘れ、知らずのうちに思い出す。
そんな繰り返しを人は続け、あることを認知する。
『自分はこの世界で生きている』
彼らはそれを身を守る時、餌を食べる時、自分が生きている時に実感し認知する。
だからこそ彼らは自分が死ぬその時まで精一杯生き、子を残し、こう実感する。
『自分はこの世界に生きている』
だが、この世界のバランスが崩れ、人か彼らのどちらか一方が上回り、
一方を再生が不可能なほどの大打撃を与えると何故か一方の方も再生不可能なほどの大打撃をうける。
これが「世界の意思」、これがバランスを戻す最後の最後の手段。
そして、それが行われた世界、それがこの世界――――――
序章
ある建物の中の大広間であろうと思われる場所の壁一面に日本語でも英語でもない文字が書かれた白い紙が壁の約半分をうめていた。
その前に五十を超える人がそれぞれ手に同じような小さな紙を持っていた。
よく見ると全員の年齢に統一感は無く若いのなら十歳の少年もいたし、
その逆に額に深い皺を刻んだ高齢の人もいた。
ほとんどの人がその紙と壁に貼られた紙とをせわしなく交互に見比べていて、
ある者 は歓声を上げ、ある者は肩を落とし広間から出て行く。
そんなことの繰り返しで人の数は減り続けあとは六人程度になっていた。
その中に一人まだ食い入るように壁の紙を見ている十五、六歳の少年がいた。
隣に 同じように壁の紙を見ている十三、四の少女もいた。
二人ともしばらく見続けていたが後ろから突然大きな声がして二人同時に振り向く。
「あった! 私の番号『30457』があったわ!」
そこには二十代前半だろうと思われる女性がいた。
その女性は手のひらを合わせ嬉しそうに飛び跳ねたあと小走りで広間を出て行った。
これで残り五人になった。 二人はさっきよりもいっそう壁の紙を睨みつける。
そしてかなりの時間が経ち、さらに経ち、二人を除く残りの全員が広間を出て行っていた。二人はまだ壁と睨み合っていた。
それぞれの手の中にある小さな紙には持ち主の名前と大きく『09609』と『09610』と書いてあった。
(092・・違う。08・・・これも違う。09611・・・くそ! 二つ違いか)
少年はもう一度壁に目をやろうとしたときに隣から声を掛けられた。
「ねえ、もうこれだけ探しても無いんだから帰ろうよ・・・」
「嫌だ! 俺は父さんの後を継ぐんだ! だからこんな所で諦められるか!」
「でも、手続きをする時間も過ぎちゃっるし・・・」
「それでもだ!」
「もう帰ろうよ・・・・」
その時、話しているうちによく見かける掃除員の格好をした老年の男性が二人の横を通り過ぎ壁に何かを貼り付けていた。
足元には紙を貼るための糊の入ったバケツと残りまだ貼るであろう紙が丸めて転がっていた。
しばらくすると全て貼り終えたらしく老人はバケツを持ちそそくさと広間から出て行った。
「何かな?」
「一応見るか」
そこに書かれていたものとは―――――――――――
本年度『モンスターハンター養成学院ドス』の入学試験に参加して頂き誠に有難う御座います。
実は今回の合格発表に不都合が発覚しました。
それは今回合格者は合計二十八人なのですが合格手続きをしたのが二十六人しかいませんでした。
そして、その二名に関しては特別合格手続きをできる処置をすることを審議の結果決まりました。
そしてその二名の番号は『09609』『09610』であります。
こちらの手違いを誠に申し訳なく思っております。
学院長 ガリア・クロス
「・・・・え?」
「きゃー! やった!」
一瞬、少年は我が目を疑った。突然自分の願いが叶ったのだから。
―――――その後のことはよく覚えていないのだけど、あいつに手を引っ張られ受付に来たときのことは微かに覚えている。
受付の人に番号を聞かれ夢心地のまま答え、最後に名前を聞かれこう答えた。
「俺の名前はライゼン・バルド!」
第一話
ここはこの惑星の唯一大陸であり生命の拠り所である地を人々はこう呼ぶ『アース』と。
そしてこの星を『マザーアース』と人は呼ぶ。
『アース』の上には計九つの街が存在し、他に小さな村がいくつかある程度だ。
地形は様々で森や沼、火山地帯に熱帯地などの他に砂漠、雪山、沿岸地帯などもある。
九つの街は一つの最も大きい街を中心に八方向にあるようにたてられている。
その大きい街の名は王立城下街「キングダム」。
そこは八方に分かれた街の通信パイプでもあり、貿易のパイプでもある。
しかし、それだけがこの街「キングダム」を盛んにさせている訳では無い。
ここが盛んになっている訳とはある機関のお陰なのだ。その機関とは―――――――――――
「ここがハンター学院か・・・」
そう呟き少年――ライゼンは目の前の柵を見上げていた。
彼の格好は麻のシャツに麻の長ズボンという服装で、両手には大きい鞄と皮袋を持っていた。
顔立ちは凛々しく髪の毛の色は茶が混じった金だった。
彼の前にはこれでもかと磨かれ、太陽の光を受け光輝いている銀色の門開きの柵があった。
その柵は五メートル近くあり、上にいくにつれ緩やかなアーチをつくっている。
そしてその上に《ハンター養成学院ドス》と銀色で書かれた文字が煌びやかに光り輝く金色の板に呼応して、また一層光輝いていた。
その板は両側に取り付けられていたこれまた銀色の棒に支えられていて、その棒は下の柵の枠にもなっていた。
その柵の両側には柵よりもさらに大きい塀があり、それは十メートルはありそうにも見えた。
その塀は柵とは違い、真っ白に、本当に真っ白に塗られていた。
そしてその柵の向こう側を見ようとしたがここはあえて見ないことにした。
なぜならそれも楽しみの一つなのだから。
(ここの校長、絶対に派手好きだ)
ライゼンはかなりどうでもいいこと考えながら柵に手をかけ、力いっぱいに押し開けた。
柵はほとんど音もせず開いた。そしてライゼンはそこにあった景色を見た。
夢にまで見た景色を。そこは街の中とは到底思えない景色だった。
まず、その広さに驚かせられた。ここは街の外側で城壁をはみ出すように造られていると
風の噂で聞いたことはあるが、まさかここまで広いとは夢にも思わなかった。
しかもそれだけではない。ライゼンは地面がドロドロした砂を固め長方形の形にしたもの、
確か《レンガ》という城によく用いられるものを敷き詰めてあると思っていたがそれは間違いだった。
なぜならばそこには膝ぐらいの高さの草が鬱蒼に生い茂っている草原だったのだから。
次に驚かせられたのがその草原にここに来る前、読んだ本に書かれていた草食モンスター《アプトノス》が悠々と歩いていたのだ。
そしてその数にも驚かせられた。まだまだ広そうなこの草原に今見ただけで軽く三十頭は超えていたのだから。
しかし、なぜたかが《アプトノス》程度でこの程まで驚いてるのかと疑問の方もいるだろう。
それは彼、ライゼンが「キングダム」出身の「キングダム」育ちで「キングダム」の外に一度も出たことが無いからなのである。
え?何々・・・、それだと説明になっていない?
いやいや、実はこれが尤もな答えなのだ。確かに他の街では荷物運びや力仕事などに
《アプトノス》が使われているがそれはこの街以外での街の話である。
そもそも彼の街「キングダム」は通信のパイプでもあり貿易のパイプでもあるが、
それは全て人だけで行われているものであり《アプトノス》をはじめとする気性の
大人しいモンスターでさえ街の中には入れてはくれない。
つまり、ライゼンが《アプトノス》を見ていないのも理由がつく。
分かって頂けたかな?よし。なら話を続けよう。
ライゼンはその光景にしばらく見惚れていた。よく見ると足元には草は無く、
踏み固められた地面が剥き出しになっており、それが道となっていた。
それを目で追うとかなり遠くにだが塀と同じ白い建物が見える。
(あれが「院」か・・・・)
ライゼンは景色を見るのやめ足を前に運び歩き始めた。最初こそゆっくりと歩いていたが
逸る気持ちを抑えながらなどは無理に等しくどんどん足運びが速くなり、最後に全力で走っていた。
そして院に着くころには息も切れ切れでしばらく肩で息をついていた。
大分息も整い、ふー、と息をつくと「院」を見上げる。そこには遠くから見えなかった院の細部があった。
敷地も大きければ建物も大きい、そんな「院」はどうやら三階建てらしく窓が三つ縦に並べ据え付けられていた。
出入り口は今、目の前にあるこの大きな正面玄関しかないようだ。
でも、他にも裏口などがあるかもしれない。後で調べてみよう。
他に特徴と言えば、この正面玄関の両脇にある四つの像である。
その像はそれぞれ違う武器を構えた姿で大理石のような台形の土台に立っていた。
この像はまだこの「ハンター養成院ドス」が設立する前この街に起こった天災を止め、
街を救ったと謳われた四英雄を祀ったものである。
そして、その天災とはラオシェンロン、またの名を老山龍とも呼ばれ、体長、全長、
全高などはもはや計測することもできぬほど巨大で遠くから見たら山が動いているようにも見える。
そして、なぜラオシェンロンが天災と言われている訳は、ラオシェンロンは古代の生き物と言われ、
決して立ち止まることもせず、永遠にこの大陸のどこかを徘徊し続けているといわれてる。
もし、ラオシェンロンの通路とされた街や村は為す術もなく踏み潰されていくのである。
だから、人々はラオシェンロンを天災としているのである。
そして、四英雄は知恵と力と勇気でラオシェンロンの経路を変え、この街「キングダム」を危機から救ったのである。
具体的にどのようにしたのかは不明だが伝説上では《大タル爆弾》などの道具は使用せず普通のハンター装備のみで成し遂げたらしい。
今から五十年前 アースに眠る最強の飛竜ラウ・シェンロンが目覚め移動をし始めた。
ラウ・シェンロンの生体は解っていない、だが、その予測進路にキングダムが入っていた。
もし、ラウ・シェンロンがキングダムを通過すれば多大な被害は免れない、
それを恐れた前国王は軍隊を動かしラウ・シェンロン討伐を図った。
だが、キングダムの軍は敗北した。ラウ・シェンロンは向かってくる軍隊を見るなり
灼熱の業火をキングダム軍に浴びせた。兵達が断末魔の叫びを上げる中、ラウ・シェンロンは更に炎を強めた。
遂にキングダム軍はひとり残らず灰になってしまった。人々はラウ・シェンロンの強大さに恐怖した。
家族や恋人の死に悲しむ者もいた。しかし悲しみに暮れてもいられない国王はラウ・シェンロンの討伐を街や村に要請した。
だが、誰も現れなかった。
ラウ・シェンロンに挑んだ軍は一人も帰ってこなかった。
無理もなかった。国王は諦めていた。
その中、四人のハンターが立ち上がった。
四人はハンター界の中ではかなり名を知られた、凄腕だった。その四人は連携を得意とし、どんな飛竜でも倒して来た。
四人は国王に会わずにラウ・シェンロン討伐に向かった。あくまで自己的にただ民を守るために。
ラウ・シェンロンと四人は激闘を相した。
ガンナーがラウ・シェンロンの気を引き、剣士達が三方から攻撃する。
だが、それをものともせずにラウ・シェンロンは灼熱の業火を吐き、巨体を振るい大地を薙ぎ払う。
四人は最後まで戦った。骨が折れても気にせずに奮戦した。
そして、ガンナーが特製弾の鉄甲榴弾・破をラウ・シェンロンに撃ち込む。
弾がラウ・シェンロンの体内に食い込み爆発し大量の破片が肉を抉る、ガンナーはそれを三発撃ち込んだ。
ラウ・シェンロンは悲鳴を上げ暴れ狂う、尻尾が四人を打ち上げた。
地面にたたき付けられた四人は薄れていく意識の中でラウ・シェンロンが方向を変えて消えていく姿が見えた。
倒したとまではいかないが四人はラウ・シェンロンからキングダムを守った。
その命と引き替えに・・・
四人の遺体は、確認に来た将軍隊よって持ち帰られ、手厚く埋葬された。
国王は四人の勇姿を称え四体の銅像と彼等のようなハンターを生み出せるようにハンターの学校を作った。
四人は四英雄と呼ばれ、歴史に名を残した。
彼等の名は大剣剛士、アイク・F・ドール
友を守る巨壁、ブラスト・クロス
疾風のライトガンナー、サリサ・グラウリー
大地の鉄槌、レンス・J・スペクタルズ
彼等の銅像は、今もハンター養成学院ドスに四人の心(武器)と、共に佇んでいる・・・
これがキングダムを救った四英雄の伝承である。
『ブラスト・クロス』
ライゼンはランスを持った四英雄の像の前に立っていた。
その名は土台に取り付けられている金の板に大きく刻まれていた。
ライゼンはこの名を知っていた。
それもそのはず、ここ「モンスターハンター養成学院ドス」の校長の名も同じだったのだから。
でも、ライゼンはさでもないかのように院の玄関口のほうに身体を向けた。
(ここの校長と同じ名字か・・・・・・。もしやここの「院」は家族代々が校長をやるのか!)
などと、見当違いな推測を考え、腕を組み納得したように頷いた。
そして、腕をほどき「院」を見上げると先ほどの様子とはまったく違う雰囲気を漂わせ、決意を秘めて呟く。
「絶対に父さんを殺した奴をぶっ殺してやる・・・」
自然と拳に力が入り体がわなわなと震え、目に殺気が満ちていく。
そう、ライゼンがハンターになろうと思ったのは復讐の為であり、父親の跡を継ぐというのはただの口実にしかすぎない。
彼の父親はハンターで、一部の地方では名の知れたハンターだったらしい。
そして、父親はある依頼を請け家を出たきり二度と帰っては来なかった。
それはライゼンが六歳の時だった。
こうして彼は一人ぼっちになってしまった。
それは、元々彼は捨て子で母親がいないからである。
父親が赤子の彼を森で見つけ、それ以来自分の子のように育て、名を与え、養ってきたらしい。
だからこそ、父親への愛情が強く復讐心も強いのだ。
彼はそのためだけにハンターになり、父親を殺したものの正体を探るためにここ「モンスターハンター養成学院ドス」に来た。
少し・・・というよりか大分時間をかけ、気持ちを落ち着かせた。前に足を運び前に進む出そうとしたとき―――
ゴッ、
「ぎゃあ!」
ライゼンの後頭部に何か重く硬いものが当たり、ライゼンの頭を前に押す。そし
て、その衝撃によりライゼンは前のめりになり顔から地面に倒れた。手に持っていた
荷物は宙を舞う。
そして彼の頭に当たったものがぼとっ、と音を立てて地面に転がった。
それは、大人、しかも大男の拳の三つ分にも勝る大きさの石(?)だった。
少し遅れてライゼンの荷物も地に落ちる。
ライゼンは遠のく意識の中である光景を見ていた。それは、一面お花畑の場所で近くに川が流れていた。
(あははは・・・。ここは何処だろう・・・? もう、どうでも―――)
「こら! いつまでもレディを待たせるものではありません!」
その声にライゼンの逝きそうな魂は呼び戻された。
次の瞬間怒りの声と声の主に指を指しつつライゼンは起き上がった。
「痛ってぇなぁ! 殺す気か! この馬鹿ミナミ!」
「うるさいです。レディを待たす輩がいけないのです」
そう冷ややかに返したのはライゼンの幼馴染の少女――ミナミ・ウィンバリーだった。
彼女は麻の胸巻きに迷彩柄の麻の短ズボンを着ていた。彼女は腰に手を当てさらにこう付け加えた。
「それにライ、レディに指を指すものではありませんよ?」
「何だよお前! レディレディって! そんな間柄じゃないだろ! しかも――」
ライゼンは自分の足元に転がっている石(?)を指し、
「こんなどでかい石を人に――というか、頭に当てるのがレディのすることか!?」
怒りをあらわにしながら言い放った。しかし、ミナミはちっとも悪びれた様子も無く、腰に当てた手をライゼンの手に繋ぎ
「まあまあ、そんなことよりも、早く行きませんと始業式が始まりますよ?」
と言った。
忘れてた。
さっきの怒りを忘れたようにライゼンは足元に転がっている荷物をひったくるようにして掴み、
ミナミの手を引っ張りながら走り出した。
「やべぇ! 俺、まだ荷物部屋に置いてきてねぇ!」
向かった先には、部屋振りが記されているであろう掲示板がある。距離は大分ある。
ライゼンは荷物のうちの鞄を、
「わりぃ! 持ってて!」
ミナミに持たせると、もう一方の皮袋の紐を口でくわえ、中から折り畳まれた紙を取り出した。
「すいません、ライ! 普通――、女の子に――、荷物――、持たせます!?」
息が切れ、言葉が途切れ途切れになりながらもミナミはライゼンに問いかける。
だがライゼンは我聞く耳持たず、完全に無視をした。と同時にライゼンは足を止めた。
ミナミもそれにつられ止まり、ライゼンに渡された荷物を足元に置く。
二人の前には彼らよりも少し背の高い掲示板があり、そこには新入生の部屋の割り当てが載せてあった。
ライゼンは先ほど出した紙に書かれている部屋番号と掲示板の割り当てを見始めた。
「はあ、はあ・・・ふぅ。ライ! あんた、女の子への配慮、っていうものを知らないのですか!?」
息が整うと同時にライゼンへ物凄い勢いで問いかけた。
いや、怒鳴りかけたというのが一番正しい表現だ。
しかしライゼンはあからさまにどうでもよさ気な態度でミナミに返した。
「はいはい、俺が悪かったって――――お!」
最後にライゼンが声を上げたのを聞き、ミナミはさっきの不満を押さえ込んで訊ねた。
「部屋は見つかりました? 私は、五〇五号室です。ライは?」
「何ー!? お前、今何号室と言った!」
かなり驚いた様子でライゼンが聞いてくるのでミナミは少し考え、ははーん、と言うとにやにやしながら答えた。
「もしかしてライも同じ部屋ですか?」
ライゼンは頭を抱え嘆き始めた。
「ぬぉぉぉ! 終わりだ! 俺の人生は今! たった今終わった! 父さんごめんなさい!
父さんの敵を討つ前に俺は死ぬことになりました! どうかこの俺を許してくれ!」
流石に――、というかやはりミナミの逆鱗に触れた。
ミナミはまず、近くに偶然落ちていた手ごろな長さの棒を拾った。
次に先ほどのとはいかないがそれなりに大きい石−大男の拳に匹敵するほどの−を手に持つと宙に高く放り投げた。
ミナミはその場を動かないように足を肩幅に開き、棒を縦に構え、脇を締め、
きっ、と頭を抱えているライゼンの方を見た。
「そんなに死にたいのですなら・・・」
「え?」
ミナミが放つ殺気がライゼンに伝わり思わず振り返る。
そこには手に棒を持ち、何かのフォームだと思わせるような構えでこっちを睨みつけているミナミがいた。
ライゼンは体ごとミナミに向け両手を前におもいっきし突き出しあわてて言う。
「ま、まあ待て。そう人の言葉を鵜呑みにするものじゃあないぞ。そう! 何でもお
前のことで言っている訳でもないし・・・。それにほら! レディがそんな棒を持つものじゃ―――――」
「問答無用です!」
石がミナミの思惑道理に体の前に落ちてきた。ミナミの持つ棒に力が入り、振りかぶる。
「あ、あのミナミさん?顔がちょっと怖いなぁ? も、もう少し穏やかにね? って、あぁ! あぁぁぁぁ!」
「死なせて差し上げます!」
落ちてきた石に渾身の一打を叩き込む。
石はミナミとライゼンの間を一瞬に移動し、ライゼンの突き出す両手の間をすり抜け
ミナミの狙い道理にライゼンの顔面に当たり、余りにも凄い衝撃により粉々になって辺りに散った。
その衝撃によって強制的にライゼンの顔は大空に向けられた。
しばらくライゼンは両手を前に突き出し、上を向いている格好で静止していた。
が、力が抜けたように膝が地面に着き、そのまま体ごと前に倒れこむ。
そして、石が当たった部分から血がだらだらと流れ出て、地面を濡らす。目は白目を向いていた。
そんなこと知ってか知らずかミナミはとてつもなく晴れ晴れとした顔でまるで憑き物が落ちたようだった。
「ふー・・・。あー! すっきり!」
ミナミは辺りを見渡しうまい具合に教員らしき人物を見つけるやいなや、
「すいません! あの! 私の連れが大変なことに!」
「お連れの方は・・・我が院の生徒ですね。まあ、医務室に連れておいておきますか
ら彼の荷物をよろしく頼みますよ」
「はい、分かりました」
ライゼンは長い棒と丈夫な布を組み合わした担架の上に横たわっていた。
顔には包帯が巻かれ、口以外はミイラみたくなっていた。
「では、我々はこれで・・・」
そう言うと教員二人は担架の前後に立つと持ち手を持ち、せーの、という掛け声で一気に担架を持ち上げた。
そして、ゆったりとした動きで院内に消えていった。
ミナミは教員を見送ることもせずそそくさとライゼンの荷物を持つと院の横に回り、院の裏へと行った。
そこには「院」と同じぐらい木製の大きな「寮」があった。
それは、縦に五つ並び、全ての「寮」は院と同じ三階建てにされており、
上に行くための階段が「寮」の手前と奥に取り付けられており、屋根は三角の型だった。
その「寮」は歴史の長さを感じさせる古さだった。至る所木が剥がれており、今にも壊れそうな様子を醸し出していた。
ミナミは迷うことなく一番右側の「寮」に向かった。「寮」の下にはそれぞれ看板が立たされており、
ミナミが向かった「寮」の看板には『五』と大きく書かれていた。
その看板の脇を通り、階段も通り過ぎた。そして、一番奥の部屋に行った。
部屋の前には上へ行くための階段があった。
ミナミは両手の荷物を置くと迷う事無くその部屋の扉を開けた。
中は外装と同じく木造だが、広さは大きさを利用した広さだった。しかし、問題はかなりあった。
まず、リビングとキッチンは広く使いやすく、更衣室も二つあり、荷物を置く部屋も
一人ずつあったが、寝室は一つしかなくベッドも二つしかなかった。
え?表現方法間違えているだと?「しかなかった」ではなく「だった」のほうだと?
いやこれで合っている。何故なら、同じ部屋なのはライゼンとミナミだけではないからだ。まあ、それは後々説明しよう。
次に風呂場とトイレが部屋には無く、一の「寮」には一の「寮」の風呂場とトイレが
あり五の「寮」には五の「寮」の風呂場とトイレがあることだ。
最後はここの「院」と「寮」はこの通り自然の中に創られたものだから、
朝昼晩問わず野生のモンスターや飛龍が現れることがある。
なのでそれぞれの「寮」から順番に見張りを出さなければならない。
そして、その見張りは一日中ずっと自分の「寮」の番をしていなければいけない、ということなのだ。
ミナミは足で扉を押さえながら荷物を持ち部屋の中へと入って行った。
入るとすぐ下に泥落としの絨毯があり、そこは広いリビングとキッチンの部屋で右の手前と奥に通路があった。
絨毯に何回か靴底を擦らせるとミナミはリビングを横切り右奥の通路に足を運ばせた。
そこには四つの扉が横に並んでいた。それぞれに金のプレートが張られており、
ライゼン・バルドと書かれたプレートが張られた扉は一番手前にあった。
ミナミは扉を開け、雑然に荷物を置いた。そして、部屋を出て他の扉も見てみる。
二番目にある扉はミナミ・ウィンバリーと書かれ、次がエリス・ハルバート、一番奥がヒエイ・クロスと書かれていた。
その後、ミナミは部屋を出て「院」に向かった。
「――――そして、皆さんは私が長年勤めてきたこの学院の十二回目の入学生です。
この学院は六年制度ですが、一年ごとに実力テストを行い次の学年にいける実力があるなら進級し、
無かったらもう一年その学年でやり直してもらいます。
故に皆さんは進級できるように日々精進してください。これで、私からの話は終わりです」
院内の大広間に二十強はいるであろう新入生と何人かの先生、そして校長がいた。
大広間は大聖堂の中を思わせる造りだった。
天井を支える石柱や繋ぎ目の無い床、そしてそれら全てが白だったのがそう思わせていた。
ここには扉みたいな出入り口は無く、廊下から伸びた通路しか無かった。
窓は通路以外の壁全部に付けてあり、それは開け閉めのできないタイプで大分大きいサイズだった。
その大きい窓からこぼれる光はかなり明るくまだ昼前ということを教えてくれた。
そして生徒の中に何とか立ち直ったライゼンとミナミが最前列の真ん中辺りに二人並び、その生徒の列は左側を通路に見せるような形だった。
ライゼンはきょろきょろと周りの入学生を見ていた。
(うわぁー、色んな人がいるなぁ。うぉ!あれは確実に五十超えてるじいさんまでいるし・・・。えぇ!どう見ても七歳児までいるよ!)
そんな様子を気にしたか、隣にいたミナミが肘で小突き、小さな声で注意をする。
(ライ!もう・・・。きょろきょろしないで下さい!恥ずかしいじゃないですか、そんな人と同じ部屋だと)
そんなことを言われたのでライゼンも大声を出さないように小声で返した。
(何だと!お前もこんな時に喋りかけてくるなよ・・・。話し掛けられている俺が恥ずかしい・・・)
(・・・・・・・・・・・・)
しかし、ミナミは何も返さず黙っていた。これはミナミの作戦であり、ライゼンを黙らせる為のものだった。
その様子にライゼンは癇に障ったが、このままだと相手の思う壺だと勝手に察したのか
胸のもやもやをぐっ、と押し殺した。何とも単純な男である。
その刹那、司会の教師が話し始める。
「さて、皆さんに先生方を紹介します」
そう言うと七人の教師が新入生の前に並んだ。色が違うが全員が同じ種類の服を着ていた。
それは修道院で着るようなローブで、全員ローブについていたフードを深く被っていた。そのせいで顔が見えなかった。
「まず、武器に関することを専門とする教師がそちら、右端にいるフーシーダイツ・E・ダイツ先生です。
そして、その隣にいるのが防具を専門とする教師のガンツ・T・グラウシー先生です」
すると、その教師二人が礼をし一歩前へ出て、フードを脱ぎ生徒に呼びかける。
「新入生の諸君!モンスターや飛龍に対抗するにはまず武器が必要だ!
その武器について教えるのが俺の仕事だ!よろしく!」
フーシーダイツ先生はこの白い広間と相反した黒い肌を持っていて、髪の毛は全て剃り落としていた。
だが、その黒い肌の額には高齢を感じさせる深い皺が刻まれていた。
その先生が着ていたローブの色は黒を主としたもので、黄色の線が幾本も不規則に折られまるで雷のようだった。
そして、一歩下がり、もう一人の教師がフードを脱ぎ、続ける。
「私はモンスターの攻撃から身を守る為の防具を皆さんに教えることを専門としています。
私の授業はとても厳しいですので覚悟しておいてくださいね」
ガンツ先生は対照的に肌は白くローブも白かった。
そして、まとめたりもせずただ落としているその長い髪の毛までも白かった。
歳は二十代前半という感じがするので多分、体質的なものだろう。
この先生も同じく言い終えた後、一歩後ろへ下がった。
司会の教師が続ける。
「では、次の先生を紹介します。ガンツ先生の隣にいらっしゃいますのがビリー・スカルティオ先生です。
そして、その隣がロカール・デーモン先生です。」
さっき自己紹介した二人の教師の隣にいた二人の教師が、これまた一歩前へ出た。
先ほどと同じく生徒達から見て右の教師から自己紹介をしていく。
が、フードを脱ぐと思うやいきなりローブごと一気に脱ぎ捨てた。
そして、現れたのは上半身丸裸であらゆる部分の筋肉が盛り上がりボディビルダーのような
ポーズで構えた人物だった。ズボンは長ズボンで色彩柄だった。
髪の毛はメティカットヘアーで鼻と口の間にカイゼル髭が生えており、どちらとも金色だった。
「我輩の名は、ビリー・スカルティオ!」
大地にこだまするほどの大音量で筋骨もりもりの暑苦しそうなビリー先生が言い放った。
その大声に生徒全員が耳を塞いだ、が、教師の人たちは平然としていた。
ライゼンも余りの大声に耳を塞いでいた。
(う、うるせぇぇぇ!)
だが、司会の教師がビリー先生に近寄る。ごそごそと何か耳打ちをし、
ビリー先生が頷くのを見てから司会の教師はもとの位置へ戻った。
(絶対にこの先生戦闘とかそういう部類に入るな・・・)
そう思いライゼンはビリー先生に集中した。
ビリー先生は、おほん、と咳払いをしてさっきよりもかなり小さな声で自己紹介を再開した。
「我輩が専門とするのは調合である」
次の瞬間ライゼン含む新入生のほぼ全員がコケた。そう、皆ライゼンと同じようなことを考えていたらしい。
すると、司会の教師が慣れたように声を掛けてきた。
「皆さん、早く起き上がって整列し直してください」
新入生の皆は呼びかけに答えさっさと起き上がり、整列し直した。
(んな馬鹿な!?あの肉体で調合!?不釣合いにも程がある!)
そんなことは気にせずビリー先生はどんどん話を進める。
「調合とは錬金と同じぐらい美しいものだ!あるものとあるものとで、
新たなものができるこの瞬間に美はあるのだ!それはすなわち――――――――――――――」
二時間後・・・・・・
「――――――――――――ということなのだ!我輩からは以上である!」
そう言うとビリー先生は一歩後ろへ下がった。
(な、長すぎる・・・。どんだけ話せば気が済むんだ・・・?)
次に待機していた教師は普通にフードを脱ぎ自己紹介を始める。
「今日は、先ほどの話で忘れているかもしれないが私の名はロカール・デーモンだ。
お前達には錬金を教えることになっている。それでは、以後宜しく」
そう言って一歩後ろに下がったロカール先生の肌は黄色で髪の毛の色は黒だった。
ローブの色は茶色で眼鏡を掛けていた。
「では、次の先生は前に一歩出てきてください」
まだ、自己紹介をしていない教師三人が司会の教師の言葉で前へ出る。
司会の教師が話を続ける。
「右からミーン・シルク先生、マッシュ・D・カルシオ先生、マブ・ヒルツ・A先生です」
まず、前に出た教師の一番右にいた教師がフードを脱ぎ、話し始める。
「はい〜、こんにちは〜。わたしの〜、なまえは〜、ミーン・シルクちゃんで〜す」
(・・・・・・何だ!? この話し方は! これが教師なのか!?)
などとライゼンが考えている間にも話は進行する。
「わたしは〜、食料〜、補給に〜、必要な〜、釣りを〜、教えるのが〜、仕事で〜す」
(・・・・・・・・語数は少なくてもかなり長くなりそうだ)
「ちなみ―――――」
ミーン先生が話しをやめ、自分の後ろにある窓――つまり生徒の正面にある窓――の外に目をやる。
他の教師も何かあったのに気付き互いに目配せていた。
その、教師達の様子に生徒達に不安の色がよぎり、心配そうに教師達を見る者もいたし、隣同士で囁きあったりしていた。
ライゼンも隣にいるミナミの腕を小突く。
(なあ、どうだと思う?)
その問いにミナミが怪訝そうな顔をした。
(どう、って何がです?)
(先生達の様子だよ。あからさまにおかしいぜ?)
(確かにそうかもしれませんけど・・・)
ミナミの困惑したような顔を見ながらライゼンは続けようとした。が、
(俺が思うに――――――)
続けられなかった。
それは、突如窓を突き破る大音量の音がこの広間に轟いたせいである。
そして窓を突き破り降り立った謎の生物が教師の目の前に地を踏んでいた。
その生物とは、青と黒の班線の肌と鱗を持ち、胸から腹は白く、鳥のような黄色の嘴があり、
嘴の中には白い牙を覗かせ、細い尻尾が付いており、手足には鋭い爪があった。
生物は後ろ足で立っており、首を左右に振っていた。
「な、何だ!? あれは!」
ライゼンが驚きの声を上げ、その声に生徒達の驚きの声が交わる。一見、その異形に生徒のほぼ全員が驚いた――かに見えた。
「おぉぉぉぉぉ! あれは小型肉食モンスター《ランポス》!」
生徒の中から歓声が上がった。それはライゼンの真後ろの少年が上げたものであり、
まるで愛しい人にあったかのような声だった。
その少年が言った《ランポス》は縦に黒い線が入った目をこちらに向けると、
まるで空に向かって吠えるように鳴いた。
だが、唐突に《ランポス》は鳴くのをやめた。
その《ランポス》の首には窓から漏れる太陽の光に反射する一つの鉄の大型ナイフが突き立てられていた。
そのまま《ランポス》は白い床に横倒しに倒れた。
《ランポス》はしばらく揚げられた魚のように跳ねた後、赤黒い血を首から垂れ流し、床を赤く染める。
生徒達はそのようすに唖然としていたが、教師達は違った。校長が各教師に何か指
示を出し、その場を後にする。指示を受け取った教師は広間を後にしたが、
司会の教師が口を開く。
「はい、皆さん。心配しなくてもいいです。
今のは先ほど誰かが言ってくれました小型肉食モンスター《ランポス》です。
ハンターになればあの程度は簡単に倒せるようなモンスターです。でも・・・・」
司会の教師が変な間により辺りが静かになる。その重い空気に耐え切れず、ライゼンが口を開く。
「でも・・・・?」
「今の君達には脅威ですね。しかも、仲間まで呼ばれてしまいました」
一瞬、辺りがまた静かになる。一瞬だけだった。
「はぁ!? じゃあ、さっきの危なかったじゃねぇか!」
「ふざけるんじゃねぇ!」
「どうなっているのよ!」
「ふざけるでない! こっちは命の問題なんじゃ!」
などと生徒達が口々に飛ばす。しかし、司会の教師はそんなことどうでもいいよう
に続ける。
「では、ガンツ先生。武器を」
突然、先ほど《ランポス》が飛び込んできた窓とは反対の窓が全て滝のように割れ落ち、
窓を割った物体が広間へと飛び込んでくる。その物体とは大きい木箱だった。
そして、それはまるで水飴が滴り落ちるようにゆっくりと行われた。
「なっ!!!!」
ライゼンはこの所突然のことに驚きを隠せなかった。というより隠せるほうが凄い。
木箱は窓を割った衝撃により空中でバラバラになり中に収納していたものを曝け出させる。
それは、様々な種類の「武器」だった。
その「武器」は生徒達の後ろに落ち、それぞれ重い金属音を立て床に転がる。
それは片手剣や大剣、ランスやハンマーはもちろんボウガンまであった。
よく見ると片手剣は盾とセットの物ともう一つの剣と一対になっている物があり、
ボウガンはライトボウガンとへヴィボウガンの二つがありそのグリップには大きめの皮の袋が麻の紐に縛ってあった。
「で、これで何をすればいいんですか?」
不愉快極まりない様子のミナミ
「まさかこれで戦え、とかじゃないですよね?」
恐る恐るライゼンが続ける。それを聞き司会の教師は大げさに手を振った。
「まさかぁ!」
司会の教師が微笑む。
その笑みを見て、ライゼンを含む生徒の何人かが安堵の溜め息を漏らす。
「ここ「ハンター養成学院ドス」に来て、戦闘は免れないですよ?」