龍達の鳴き声
Rios様作
第一章、命の最後
広大なる大地。
広大なる海。
静かなる大河。
静かなる森。
生きる命は生きる命を吸い、生き延びる。
命の為に命を捨てる。
この世界に生きる唯一の方法。
草の様になびく髪。空の様に澄んだ瞳。
この世に生きる人間の一人。
名をロベルトと人は呼ぶ。
ドントルマ。人は街と呼び多くの命が引かれる。
大きく開かれた地を踏みしめる。
「ドントルマか…」
ロベルトも命を引かれた一人。
開かれた地を踏みしめた。
彼は全身チェーンメイルという防具に包まれ、
手にはハンターナイフと呼ばれる武器を持つ。
姿からはまだまだ初級のハンター。
無名の存在である。
ロベルトは酒場へ向かった。賑わいを見せていたからである。
ギィ…という音と同時にどっと歓声が耳に入る。
見るからに初級装備では心細い面が見えた。
「あんた…見ない顔だね…」
ロベルトは声に振り向く。
「こんにちは。私ルディアって言うの。あんた名前は?」
ロベルトは戸惑った。無名の存在に誰が振り向くだろうか。
空と大地に挟まれた一つの空間で、
名が知られて何になるだろう。
人は滅び忘れられる存在だというのに。
「人は名を上げる為生きるのよ。」
それは、まるで心の中を見透かされているような発言だった。
「ロベルト…ロベルト・クシャルだ」
「ロベルト・クシャル?クシャルってクシャルダオラ?」
ルディアが傾げた。
「らしい…因縁だ。」
「なにそれ。あんたいいわ。じゃあ改めて、ルディア・マーカーよ。」
ルディアが手を出す。
「………。」
「よろしく。鋼龍さん。」
二人は握手を交わす。
鋼龍、伝説と呼ばれた姿を見ることさえ叶わない、
本当の「龍」だ。
ロベルトの名には、大きな意味があったのだろう。
因縁という鎖。
「じゃあ私と狩りに行きましょう。」
親切なのか、馬鹿なのか、知り合ってすぐの人間に、
狩りに行こうなどと言えるだろうか。
人は温かいものなのか。
「フルフルってヤツよ。聞いた事ぐらいあるわよね?」
返答はしなかった。
彼女は手続きを始めた。
ロベルトは、いきなり狩りだと?、など思っていただろう。
しかし、彼女の無防備な攻撃に心を崩してしまった。
彼女の澄んだ心に入り込んだしまったのか。
「さぁ!狩りのに行くわよ!」
無防備な攻撃にロベルトはうなずいてしまった。
扉は開かれし。生を捨て、生を奪え。
第二章、命と名
問われたことがあるだろうか。
お前には、命と体、どちらが大切なのか。
狩人達なら迷わず答えるだろう。
体、と。
では命と名と言ったらどちらと言うだろう。
彼らはきっとこう答える。
名、と。
ロベルト達は馬車に揺られていた。
ガタッゴトッと揺れる度にルディアが笑みを浮かべる。
ルディアから威厳が強く感じられる。
ルディアは体にリオレイアの装備を身に付けている。
リオレイア…名前しか聞いたことの無い巨大な雌の飛竜だ。
口から出される炎は、目の前にある物、全てをなぎ払うらしい。
道理でルディアの装備は威厳を感じられるわけだ。
背中にある装備は見えないが、戦力になるだろう。
馬車が揺れていく。
馬車とはおとなしいアプトノスに引っ張られる、案外昔の乗り物だ。
いまや石炭など火薬草の燃料技術が発達し、
巨大龍を突く龍撃槍や砲撃をするガンランス、
さらには「巨大な動く物」までの開発が進んでいた。
しかし、狩人達は馬車を好み、狭い道を行くのであった。
馬車がガタッと止まった。
ロベルト達は外に飛び出した。
雪山、開かれし地には大量の生命と死が溢れている。
先に見える最長の山は雪を深く被り、聳え立っている。
「まず、あんたにちゃんとした装備、作ってやんないとね。」
ルディアがピッケルを手渡した。
「さぁわたしについてきて。」
こんな親切なのはおかしいだろう…と思いつつ、ロベルトは彼女についていった。
第三章、人は暁
カンッ!と岩の割れ目にピッケルを打ち込む。
内側が崩れてくると、ピッケルで掘り出す。
ゴロゴロ、と石が落ちてくる。
「これは…鉄鉱石ね、んでこっちが、大地の結晶。」
ルディアが一つ一つ手にとって見ている。
「鉄鉱石が10個大地の結晶が8個かしら…あ!マカライトよ!マカライト鉱石!」
この場で盛り上がっているのはルディアだけである。
寒々とした環境で幾つもの生命が育ち、死んでいる。
今発掘している鉱石も自然の摂理の一部である。
そんなことを考えつつ、無邪気なルディアを見る。
人間はこんなに暖かいものだっただろうか。
人間はこんなに信じられるものだっただろうか。
答えは自分が握っているというのに。
今回の収穫は、鉄鉱石、大地の結晶、マカライト鉱石、石ころ、だ。
最初にしては上出来、だそうだ。
途端、ルディアが周囲を見る。
「来る」
その一言は体に突き刺さった。
ロベルトにはわかるこれから何が「来る」のか。
雪が舞い上がり影が近づく。
草食獣は逃げ出し、山が唸りを上げる。
帰れ小さき勇者達よ。その小さき体、我が押しつぶしてくれよう。
お前は自然の一部、自然は私だということを忘れるな。
お前がもし自然を害するなら
私はお前を一瞬で命を消してやろう。
だがお前が私を信じるならば
私はお前に力を与えてやる。
戦え、小さき勇者よ。
山と雪はそんな言葉を発していた。
戦いが始まった。
第四章、錦の長堤
自然達の声は深く、狩人達を怯えさせるという。
木々は目をくらませ、砂や雪は地上の槍となる。
自ら凶器の中に飛び込んでいく者たちを人はこう呼ぶ。
モンスターハンター、と。
風が吹く。
ドン!と重いものが地面にぶつかった。
雪埃で姿が確認できないが、ルディアは弓を引き絞っている。
フッと風が吹く。
雪が去り白い体が確認できた。
フルフル。
異型飛竜と言われ、人間達に忌み嫌われていた飛竜。
だが決して弱いわけではない。
彼が真の姿を見せれば薄い鉄などすぐに折れ曲がるだろう。
途端ヒュッとルディアが矢を放った。
見事フルフルの背中に刺さった。
が、奴は全く動じていない。
肉の厚さで内部まで到達しなかったのだ。
だがそれだけではないことをルディアは気づいていた。
幾つもの傷、幾つもの矢の放たれた痕。
コイツは何人も殺したフルフルの親玉…。
最近フルフル狩りに行って帰ってこない狩人の原因はこれだったか。
ルディアはまた矢を引き絞る。
ルディアの使う弓、クイーンブラスター。
雌火竜の甲殻で補強され、弦を強く引ける中級の弓矢だ。
使い手の力と比例し、重い矢ときつい弦は威力を倍にする。
またルディアは弦を引き絞った。
ロベルトはそれを見ているわけにはいかない。
走り出し、フルフルの頭に斬撃をあたえた。
が脳まで到達しない。皮膚の抵抗で威力が減少したからだ。
瞬時にフルフルは尻尾を地面につけた。
その瞬間
フルフルの体内から電流が流れた。
ロベルトは反射的に回避行動するが、電流は鉄に誘導されロベルトに直撃した。
「ロベルト!」
ルディアが叫ぶが、応答は無い。
矢を放ち、フルフルを威嚇すると飛ばされたロベルトに近づいた。
「しっかりして!ロベルト!」
「大丈夫だ…。」
「ロベルト…、物陰まで走って。そこで携帯食料というものがあったはず。
それを無理やり食べて。ホットドリンクっていうのもあるから。剣も研いで。
ここは私がやる。」
ロベルトは言われた通り走り出した。
隠れると同時に携帯食料を頬張った。ホットドリンクを飲み、剣を研ぎ始める。
フルフルの悲鳴と、ルディアの声が聞こえる。
ロベルトは彼女を助けるためか、多少手が早くなっていた。
一息つくと、物影から飛び出した。
彼が見たのは、なんとも無残な光景だった。
第五章、自らの望み
ロベルトの目に入った光景はルディアが血まみれになっていた、無情な景色。
口から鮮血を流し、鎧は折れ曲がっている。
体には数多の傷があった。
ロベルトは近づいていった。
「はは…ドジったよ…一発でこうなっちまった。」
「ルディア…」
「ごめんね…あたしを恨んでいいよ…連れて来たの…あたし…だもんね…」
「しゃべるな…死ぬぞ…」
「そぉ…かい?はぁ…フルフルも狩れなくなったか…」
ゴホッとルディアが咳き込むと、さらに吐血した。
「ルディア…」
「早く…逃げて…。」
「………。」
「早く!」
またルディアが吐血した。
「すまん…逃げらない…。」
「え…?」
「奴を…倒す…」
ロベルトの目は怒りの炎に燃えていた。
濛々とする怒りは今、空の覇者であれ、
大地であれ、海であってもそれを止めることはできないだろう。
ロベルトがゆらり、と立ち上がった。
体に矢を受けていたフルフルは、足を引きずっていた。
「自然よ…我に呼応しろ…」
ロベルトはそう言うとフルフルに走っていった。
フルフルが気配に気付き、後ろを振り向く。
ロベルトのハンターナイフが振り下ろされた。
フルフルの頭が真っ二つになった。
ブシュゥゥゥゥと血が噴出し、フルフルが倒れこむ。
ヒクヒクと痙攣を起こしていたが、動かなくなった。
ロベルトはルディアへ駆け寄った。
「すごぉい…一撃でやったの…」
「ルディア…」
「もうだめみたい…目が見えなくなってきた。」
「………。」
「ロベルト…フルフルから…電気袋っていう臓器を剥ぎ取って…。
それから鉄刀を作るの…太刀ってやつよ…あなたは…太刀に向いてそう…」
「なぜそこまで…」
「鉄刀を作ったら、斬破刀を、作る…の…。」
ルディアから力が抜けていく。
「しゃべるな…。」
「これ…あたしだと思って持っててね…。………あぁ…一度でいいから…空を飛びたかった…な…。」
「ルディア!」
「じゃ…ね…」
ルディアが息絶えた。
目は閉じられ、少し微笑んでいる。
ルディアから貰ったペンダントを握り締めた。
今頃になってギルドの捜索隊が来た。
ジジが呼んだのだろう。気球が空に浮かんでいた。
ロベルトはルディアの言うとおりフルフルを剥ぎ取り始めた。
ズブッ、グ、ググッ…奥のほうに、多少電気を帯びた、臓器があった。
ロベルトはルディアにお礼を言い、ルディア…と呟く。
「なぜ、そこまで俺に…」
ロベルトは24年間程流さなかった涙を一つ落とした。
涙は重く、雪を貫いた。
ギルドに連れられ、ロベルトは馬車に乗る。
命は小さいものだった。