貴方に捧ぐ唄 ―symphony―
ラルク様作
―復讐への序曲―
「おい!そこの音はもっと高いぞ!」
指揮者から音の注意がされる。
「そこ!何ボーっとしてる!明日の舞台に間に合わないぞ!」
「す、すいません・・・」
俺は聞こえるか聞こえない程度の声で返事をする。
俺はアルカリス=アスダルノ
明日は俺にとって始めての晴れ舞台。
初めての舞台を失敗で終わらせる訳にはいかない。
俺の担当は横笛。最近入ったばかりの新人。
昔からの夢は音楽家だった。
今、夢への一歩に踏み出しているところだ。
そんな事を言っている内に指揮者が構え始める。
それと同時に皆楽器を構える。
タクトを指揮者が動かす。
心地よい音楽が奏でられる。
俺はふと横を見る。
綺麗な女の子が唄を歌っている。
彼女は唄担当の子だ。
最近、彼女に好意を抱いている。だが彼女は俺には興味は示していない。ただ家が隣なだけ。
会ったら挨拶を交わす程度だ。
それから数時間するとリハーサルは終わった。指揮者も手を止め、後ろを振り返りお辞儀をす。
「今日のリハーサルは終わりだ。だが何かが足りない!明日も本番直前にリハーサルを行う!」
皆がお辞儀する。
俺は舞台から降りる前に彼女を見る。
綺麗だが、何処か悲しい目にも見える。明日が舞台だから緊張しているのか。
そう思いながら、俺は村に帰っていった。
数十分歩くと村が見えてくる。だがいいつもの村とは違っていた・・・。
村は焼け野原になっていた。
俺は驚きのあまり、声も出ない。最近この付近にリオレイアという飛竜がいると聞かされていたが、まさか本当に来るとは・・・・・・。
だがそんな事よりも家にいた両親や妹が心配だった。家族はいつもこの時間帯だと家にいる。
家族は死んでないだろうか・・・。そんな不安が頭を過ぎる。
そんな事を思いながらも俺は自分の家に向かう。
途中、無残にも死んでしまった人の死体が目に嫌な程入ってくる。
家に着いたが、そこには家と呼べる物はなく瓦礫の山があるだけだ。
俺は家族が生きているか。死んで・・・いるかを確かめるために家族の名前を呼ぶ。
「父さん!母さん!ティアラ!」
必死に呼び掛けるが、返事は返ってこない。
俺は瓦礫を手でどけていく。
「父さん!母さん!ティアラ!」
もう一度大きな声で呼び掛ける。
「・・・・・・ぉ兄ちゃん・・・」
「ティアラ!」
それは一人の妹。ティアラの声だった。
俺は瓦礫を必死にどける。人の手が見える。その手を掴み持ち上げる。
瓦礫の中から、妹が出てくる。
「ティアラ!何があったんだ!」
妹の頬を叩き呼び掛ける。
「リオレイアが・・・村を襲って・・・それで・・・」
そこで声は途絶えてしまった。掴んでいた手は、見る見るうちに冷たくなっていく。
「ティアラ!ティアラ!ティアラ・・・・・・」
そこで崩れ落ちてしまった。泣き叫んだ。
「父さんも・・・母さんも・・・もうきっと・・・」
両親共にただの商人。あんなでかい飛竜に抵抗する術はなかっただろう。
「っくそ・・・くっそ!くそ!くそ!」
地面を叩く。手からは血が出てくる。自分の頭が無念。後悔の文字に染まる。
もっと早く帰っていれば・・・。だが今悔やんでもしょうがない。
「アル君!何が起こったの・・・?」
後ろから女性の声がする。
そこには俺が好意を寄せている彼女の姿があった。彼女の名前はアスカ=カリス
俺は涙を拭う。
「アスカ・・・。リオレイアに遣られたらしい・・・。多分お前の両親も・・・」
「そ・・・そんな・・・!」
アスカは膝をつき、その場に崩れ落ちてしまった。泣きながら。
俺も今は表には出していないが、俺も泣きたい。でも泣いたら格好悪いところを見せてしまう。
「悲しくないの・・・?憎くないの・・・?」
彼女の問いに答えられなかった。答える程の気持ちの余裕がなかった。
「悲しいさ・・・憎いさ・・・妹や両親の敵を討ちたい。狩れるものなら狩りたいよ・・・」
心の辛さを耐えて、苦しくも返事をする。
「じゃぁ狩ればいいじゃない・・・」
彼女の呆気ない答え方に俺は反論する。
「そうは言っても、音楽しか縁のない俺たちに突然武器を渡されたって、何年も修行しないと武器は扱えないだろう・・・」
「扱えるよ」
彼女の思いもよらない答えに少し戸惑う。
「武器なんて、ハンマーや剣位だろ?俺たちに扱える武器なんて・・・」
それに対しても鋭く彼女は言った。
「知らないの?まぁ聞いたことだけだけど、最近新しい『狩猟笛』っていうのができたらしいのよ」
「『狩猟笛』・・・笛なのか?んでそれでそいつ等を倒せと?」
「そうよ。貴方横笛担当でしょ?笛何だから同じよ。多分笛は武具屋にあるはずよ」
彼女は知っているか知らずか、そんな事を言った。
アルは彼女の言うがままに付いていく。
しばらくすると工房が見えてくる。
「ここよ」
工房は頑丈のためか奇跡的無傷だった。
彼女は迷いもせず工房の中に入っていった。
アスかは工房の奥に入っていく。入ってみると見たこともない武器がある。そこには刀やハンマーなどが見られる。
武器にはシールが貼ってありその武器の種類と名前が書いてある。
「狩猟笛はと・・・あった!」
それには『ソニックビードロー』と書かれてある。
それは笛と呼べるのに相応しいのか。
今まで見てきた笛とは異なりとても大きく重そうな物だった。
「こんなの持てるかって・・・って!」
彼女は重そうな笛を何とか持ち上げ、俺の手に乗せる。
手には20s程の重量が加わり手を落としてしまいそうだ。
「こんなので戦えるかよ・・・」
彼女はそれに対し涼しく言った。
「だから特訓するのよ。筋力鍛えないとね!まぁ明日ね。今日は此処で泊るわよ」
彼女の思わぬような言葉に一瞬動揺してしまう。
「一緒に泊る・・・」
それに対して彼女はこう言った。
「違うわよ。私は此処で寝るけど、貴方は外で野宿。ちゃんと見張っててね」
「ちょっと待ってよ。俺野宿!?」
ちょっと待ってと言わんばかりに俺は大きな声で言った。
「そうよ。ちゃんと見張っててね。今日はもう寝るわよ。お休み〜」
彼女は眠そうに言うとタンスの様な中から毛布を取り出す。俺の分もあるようだ。
彼女は奥の部屋に入っていってしまった。
「しょうがねぇか。俺も寝ないとな・・・」
あんなことがあったため俺は元気がなかったが、彼女は裏腹にあそこまで悲しんでいたのによくあそこまで元気になれるなと、アルも少し驚いていた。
そんなことを思いながら、アルは毛布を体に包み、目を瞑った。
第一楽章 ―迷いの森―
「起きて〜もう朝よ」
アスカの声で目が覚める。
朝になると照りつける太陽と肌寒い空気がある。いつも通りの朝だ。
「ふわ〜。もう朝か」
俺は大きく欠伸するとその場から立ち上がり毛布をアスカに預ける。
「じゃぁ旅の準備をして。私も奥の部屋でやっているから」
アスかはそう言うと工房の中に入っていった。
「よ〜し俺も準備するか〜」
俺は大きく体を伸ばした。だがある事を、大事な事を思い出した。
「そういや!ぶ、舞台は!?」
工房の中にいるアスかに大きく叫ぶ。
もう今頃皆集まって、俺たちを待っているのだろう。
「あ〜ぁそれの事ならアル君が起きる前に私が先生に言っておいたから。私達は脱退しますって」
彼女は言い終えると忙しそうな声を出しながらまた準備を始めたようだ。
俺も工房の中にある狩猟笛を取りにいくため工房の中に入る。
工房の中に入ると大きなバックの中に毛布やら何かを詰めているのが分かる。
「まぁ頑張ってよ」
俺はそう一声掛けて狩猟笛を手に取る。当然の事ながら重さは変わらず、とても思い。
「じゃぁ行きましょうか」
彼女も準備が終わったようで、バックも肩にかけている。中からペンらしき物がはみ出ている。
「おい。何か出ているぞ」
俺はそう言うと一回狩猟笛を床に置く。
「あぁ別にこんなのいいわよ。特に気にしないでしょ」
意外と大雑把なのだと思っているとアスカはいつの間にか歩き出していた。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
俺は少し笑みを浮べ彼女に付いていく。
少し歩くと、村人達の中で言われている『迷いの森』が見えてきた。
迷いの森はココット村に行くには絶対に通らなきゃいけない道だ。ここでは何人も帰ってこない者が居る。
「ちゃんと方位磁石があるから大丈夫よ」
アスカは独り言のように言った。
「まぁそれなら大丈夫だろう」
俺はそう言うとアスカに歩幅を合わせ歩き出す。
遂に森の中に入る。
朝なのにとても薄暗い。此処だけ夜のようだ。
「えっと。こっちが南よ」
アスカは南の方を指差し、歩き出す。
「おいおい、本当に大丈夫か?ここは何人も迷ったって言うぜ」
「けど無事に通過できた人も居るわ。希望は捨てないように。そんなに焦ると逆に迷うからね」
アスカはそう言うと早足で歩き始める。
「お前が焦ってるじゃねぇか・・・」
俺は単直な感想を述べる。
アスカの耳には入っていないようだ。
歩いてから30分程経ったが、同じような景色が見えるだけで、進んだ感じはしなかった
「迷ったっていうの?方位磁石さえあれば・・・って?」
「どうした?」
俺はアスカの方を見る。方位磁石を見て苦笑いを浮かべている。
俺はアスカが見る方位磁石を見た。
「おい!これ壊れてるじゃんか!もう迷ったも同然じゃねえか」
暗い森の中に俺の大声が響き渡る。
「ご、ごめん・・・。お前に言ってもしょうがないよな」
「いいんだけど、どうするの?こんな時間帯に人なんてよほどの事がないと通らないわよ」
「ま、まぁ歩くしかないだろ。その内絶対抜け出せるって」
俺は何とかこの状況に気持ちの余裕を齎すために、無責任な事を言う。
「まぁそういうなら。アル君が言うなら行こ」
アスカは元気のないまま歩き出す。
「もう、二時間は歩いたよな・・・?」
俺は息を切らしながらアスカに言う。
「そ、そうね・・・」
アスカも疲れながら言う。
「もう、迷ったかもな・・・って!」
俺がアスカの方を向くと彼女が苦しそうに倒れている姿があった。
「大丈夫か!」
俺はアスカを膝の上に置くと、まず最初に額を触る。
「あち!凄い熱だ・・・」
それは軽く38度は超える位の暑さだ。
「だ、誰かいませんかー!」
アルの叫び声が虚しく迷いの森に響き渡った。