人と竜と
マジン様作
人は歌った。平和の歌を。
竜は歌った。彼らの生活を。
人は竜を恐れ、竜は人のことを考えようとしなかった。
竜は彼らの生活――狩るか、狩られるか――というサイクルを守った。
人は竜を恐れ、そのサイクルから外れ、最低限の殺生しかしなかった。
しかし一部の竜が人を襲ったり、また、一部の人が竜を攻撃することが無いわけではなく、人は竜と戦う道を選んだ。
――狩るか、狩られるか――そのサイクルに入っていった者達を
人は「ハンター」と呼んだのだった。
もしかしたら、彼らは―――
第一章:手慣らし
今日も集会場では、狩人たちがつかの間の安楽を味わっていた。
騒がしい集会場のなかで、ひときわ目立つ二人が、カウンターの前で言い争っていた。
「そんな武器、私は使わないッ!」
「バーカ、最初はみんなこれを使うんだ。ホラ、そんなハンマーなんて置けよ!」
と、背中に槍を背負った男が言った。
彼の名はダグ。全身を「岩竜」バサルモスの素材を使った防具で固めた、一人のハンターだ。
「嫌だ嫌だ、私はハンマー使いになるんだ。そんなナイフ使うか。」
どうやらもう一人――皮の鎧を装備した――のハンターの装備のことでもめているらしい。ダグは、ハンターナイフをもう一人に押し付けて言う。
「わがまま言って、初めての狩りで死ぬきか?」
どうやらもう一人の初めての狩りらしい。
「知ったことかァ!死ななきゃいいんだろ?簡単さ!」
と甲高い声で少女は言った。少女とわかるのはその声と容姿だけで、態度や口調は、ほとんど男性のようだった。
「わかったよ・・・ったく。」とダグは、彼女の強気な態度に折れたようだ。
「よし!」と彼女はうれしそうに言った。
その手には、新しいアイアンハンマーが握られていた。
――森と丘――
「オイオイ、右だ!ああそっちじゃないって!!」とダグは怒りながら言う。
そこではランポス四頭とそのボス、ドスランポスが狩人二名に襲っていた。
「わ、わかってる!」と、さっきまでの強気はどこへ行ったのか、あせって少女は怒鳴った。
少女は必死で真新しいハンマーを振るう。だが、何度振るっても空振りばかりだった。ランポスが彼女に飛び掛り、彼女の脳裏に「やられる」という考えがよぎった。
「ラァァァア!」ダグがランポスに向かい、思い切り槍を突き出した。
飛び散る鮮血。ランポスは倒れ、動かなくなった。
「リン、一旦引け。ここはオレが!」ダグは怒って言う。
リンは動かなくなった獣を見て思う。もしかしたら、自分もあの場で血を流して倒れていたのかもしれないと。そう思うと背筋が凍る。
「だからハンマーなんてやめとけって、言ったんだァアア!」そう叫びながら、ダグは大きく足を踏み出し、思い切り槍を突き出した。
また血が飛び散る。
そのときだった、ランポスが飛び掛った。退きかけたリンに向かって。
その鋭い爪が彼女の腕に深々と傷を負わせた。リンは腕に熱い感覚を覚え、ランポスは執拗に彼女を威嚇した。そして、獣は二度目の飛びかかりを彼女にくらわせようと構えた。
「や、止めろッ!」ダグが叫ぶが、ランポスに阻まれてしまう。
丘一面に三発、いや四発の乾いた銃声が轟いた。リンは目を見開く。彼女の目の前で飛びかかろうとしていたランポスから、突然血が吹き出たのだ。
「だれ?!」と彼女が言うと、それに答えるように鋭い音が狩人たちの戦場に響いたのだった。
彼らに襲い掛かっていたランポス達は皆、地面を転がった。ダグは胸をなでおろし、リンに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫に決まってるだろッ」
「何で怒ってるんだよ…オマエはいつもそうなんだから、疲れるぜ全く。しかし、今の弾は誰が撃ったんだろ?」ダグは首をかしげる。
「貴様らはバカか?ランポスなんぞにてこずって。」
背後から声がしたので、二人は振り返った。すると、そこには男が一人立っていた。見ると、飛竜の素材で作ったらしい装備を身につけ銃を背負っている。
どうやら、リンを助けた弾を撃ったのはこの男のようだ。
「オレが撃たなければ、その女はやられていた。」もっともなことを男は言う。
彼は、リンの腕に負った傷を見た。それからダグのランス「バベル」と彼の装備も見た。
「そっちのランサーも、もう少ししっかり教えてやれ。さっきの動きを見る限り、この駆け出しの女にはハンマーは向かん。」
「オレもそう言ったんだが、こいつは聞かなかったんだ。助けてくれてありがとう。礼を言うよ。」ダグは苦笑混じりに続けた。
「そうだ、アンタの名前は?オレはダグって言うんだ。このドジがリン。」
「フン、貴様らに名乗る名は無い。」と、ガンナーは腰につけたポーチをまさぐりながら答えた。
「剥ぎ取らんと、な。」剥ぎ取りようのナイフを取り出して。彼は誘った。
リンはなんと言ったらいいのかわからない様子だ。
「分かった、手伝うよ。」ダグはそう答えたのだった。
第二章:ギルドで
そのときの狩りからちょうど1年の月日が流れ、あの時、革の鎧と真新しいハンマーを重そうに持っていた少女は今や、立派な一人のハンターになっていた。もちろん彼女はハンターだ。死に掛けた事や骨折したり気絶した事もあった。だが、今日まで生きていることだけでも十分だと彼女は思っていた。
この日は、ギルドでどの依頼に挑もうかと三人で話し合ってるようだ。そう、あのとき彼女を助けてくれたガンナーは今ではすっかり彼女の仲間になっていた。まあ、リンやダグと一緒に狩りに行くこともあれば、一人で行くことも多かった。
ギルドはいつもの喧騒と、グラスの触れ合うおとで溢れている。大勢のハンター達はそこでつかの間の休息を味わっていた。
そこへ、4人のハンターがギルドの門をくぐって来る。外からの日差しは強く、まぶしかった。その足どりは少し疲れた、けれども自信に満ちているようだった。 4人はカウンターに近づいて向かっていき、その中のハンマーを持った、リーダーらしい女性が大きな声で言った。
「ハイ、証拠の甲殻よ。」
「えっと…リオレイアか。早かったわね、お疲れ様。これが報酬よ、どうぞ。」
カウンターのお姉さんがお金のたくさん入った袋を渡しながら言った。
そのパーティーは笑ったりして機嫌のいい様子で、リンたちが座っているテーブルの近くに腰掛けた。
「あら、リンじゃない。打ち合わせ?」と、先ほどの女性がリンに呼びかける。
「そうよ。サァラは依頼は済んだのか?」リンは微笑を浮かべながら、自分の席を立ってサァラたちの座っている席のほうへ歩いていった。
サァラの容姿は整っており、まあまあの美人だ。彼女のパーティーは、全員女性で構成されているため、いつも男だらけのギルドに花を添えていた。当然口説こうとする男もいたが、そのほとんどは跳ね除けられるだけだ。
「うん、今日のレイアは強かったわ〜。」満面の笑みを浮かべながら、サァラは返した。リンは、彼女らと駆け出しハンターの頃から知り合いで、特にサァラとは、同じハンマー使いということもあってか親友と呼べる間柄だった。サァラのハンマーはなかなか手に入りにくい「太古の塊」と言う古代の物質を研磨して作られた「パルセイト・コア」というハンマーを持っており、サァラはそれをとても気に入っていた。
「じゃ、私は話し合いがあるから戻るよ。」数十分話し込んでから、リンは言った。
「そう、新しい依頼もがんばってね。気をつけて。」サァラは少し手を上げて言った。リンも手を上げてから、自分のもといた席に戻っていった。
「ゴメン、待たせたな。」あまり悪びれた様子でもなく、リンは言った。
「全く何分待たせるんだ、ホラ早く話し合い、始めるぞ。」全く女のおしゃべりというやつは長いんだから…とダグは思いつつ言った。
「ん〜イャンクックとか、レウスとかはイヤだな。もっとこう…動きの遅いのがいい。」リンはそう提案した。
「ん〜じゃさ、バサルモスなんてどうだ?アイツのろいぞ。」ダグが答えると、それまで黙って座っていたガンナーが席を立った。まるで、「話は終わりだ。バサルで決定した。」とでも言うように。このガンナー、出会ったあの日からずっと名乗っていないため、ちょっと変わったやつだ、というのはリンとダグ共通の見解だった。それゆえ二人が彼を呼ぶときは、しかたなく「ガンナーさん」とか「お前」とかと呼んでいる。もちろん、前者はダグが、後者はリンが使っている呼び方だ。
「準備してくる。」そうガンナーは言った。というか、つぶやいた。いつも無口で何もしゃべらない彼の声を聞くことは、ごくまれだ。狩りをしているときを除いては、の話だが。
「あーオイオイ、いいのかよ…」ダグは一応3人のリーダーだ。手を組みなおしてかれは言う。
「んじゃ、依頼取っといてくれや。オレは準備してくるからさ。明日の朝7時にここに集合なー」最初の部分はリンに、最後の部分は二人に向かってダグは言った。
「え、あ、うん。分かった。」リンに確認を取ったところで彼は席を立ち、3人分の分の代金を払ってギルドから出た。
(全く、辛いもんだよな…オレ。)とそのたびに彼は思うのだが、それは彼の性なのでどうする事も出来なかった。
空を見上げると、さっきまでの日差しを雨雲が覆い隠していた。
第三章:岩竜
彼らは町から出て馬車にしばらく乗り、「火山地帯」と呼ばれる地域に向かっていた。そこはなんと言おうか、まあすごく熱い。そしてすごく暑いところだ。
「なんかだんだん熱くなってないか、これ」ダグが汗をぬぐって言う。
彼はかなりの暑がりなのだ。
「そりゃそうさ、火山地帯に向かってるんだぜ。私たち」そういうリンも暑そうだ。けれども三人の中で唯一、暑がってない輩がいた。
「………。」出発したときから黙りきりだが。
――火山地帯――
「アツい。アツい。アツい」
「さっきから聞いてれば、アンタはどうしてそんなに暑がりなんだよ。まったく…
こっちまで暑くなってきちゃうわ」
ダグはさっきから暑がってばかりで、リンはそんな彼をなじってばかりだった。
彼らはテントを作った後、「バサルモス」を探すために火山地帯を歩いていた。
バサルモスは通常、いわばで擬態しているのでその場へ向かって。
「バサルモス」とは、ハンターの間では「バサル」といった略称で呼ばれることもある岩に擬態する「岩竜」だ。それは、バサルモスは「グラビモス」という飛竜の幼体だからである。しかし、幼体とはいえ人と比べればかなりの大きさである。
また、動きはどちらかと言うと遅い。表面は岩のように硬質化しており、簡単に切り裂くことはできないだろう。
ふと、周りを見ると、いつもそこに群れているイーオス達がいない。
「お、今日は邪魔者無しでやれそうだな」ダグはそう、うれしそうに言った。
「イーオス」は赤い警戒色をした毒をもつランポス、といったところだろうか。単体ではハンターにとってたいした事は無いが、飛竜と戦っているときに後ろから猛毒を吐きかけられてはたまったものではない。また、群れで挑まれると少し厄介な相手だ。その厄介な相手がいないことは、彼らハンターにとって見れば狩りがいくぶん楽になるはずだった。そう、楽になるはずだったのだ…
「いないなー」とダグはぼやく。さっきからずいぶん探したが擬態したその飛竜はなかなか見つからないようだ。
「でもよ、バサルが出たら俺に任せろ。新人の頃、先輩に連れられて何度もいったから自信あるぜ」彼はまた汗をぬぐった。
「でもやっぱアツいよな…」
「いつもならこの辺にいるんでしょ、ダグ」リンはきょろきょろしながら聞いた。
「ん〜いつもならこの辺に…ほら、お前が立ってる近くとかに擬態してるんだけどな」ダグも周りを見渡しながら答える。
そんな時、今までずっと黙りきりだったガンナーが言った。
「向こうに大きな生物の気配を感じるが、バサルがマグマ地帯にいるか?」
「普通ならいないな。俺の経験では」
「本当に依頼の敵はバサルモスなのか?リン」とガンナーが聞いた。
彼は普段と違い、狩りの時は結構しゃべるのだ。
「そうよ、そのはずだわ」当惑顔のリンはそう答えた。
ガンナーは仕方ない、というようにマグマ地帯へと走っていき、思い出したように立ち止まるとついて来い、とジャスチャーをしてまた走り出した。
「ああ、オイ、待ってくれよ」ダグはそうつぶやいた。
(そっちはここよりアツいんじゃないかな…イヤだなー)
彼は内心そう思いながらも、リンと一緒にガンナーを追いかけていった。
三人の岩場を蹴る音が、カツンカツンと響いていた。