伝説の彼方へ
SKY様作
本当の意味での始まり
此処はどこだろう・・・人やその他の生き物が暮らす世界だろうか・・・・・?
形は人がよく知る世界と同じだ・・・しかし、違うのだ・・・・・・青いはずの空と海、大地は白く・・・白いはずの雲が赤い・・・そして、木の葉は桃色に染まり・・・赤いはずの夕陽は蒼く世界を照らしている・・・生き物は見当たらず、聞こえてもいいはずの音が聞こえない・・・ただ・・・声がする・・・聞こえるのではなく心に響いてくるのだ・・・・
(聞け・・・選ばれし者よ・・・)
この壮大で言葉では言い表せない声に私はこう答えた
「なに? あんたは誰?」
(私は・・・世界の意思・・・お前が踏みしめる大地の念・・・)
「聞けって何を!?」
(邪悪は産み落とされた・・・まもなく私は滅びるだろう・・・急げ・・・)
「その邪悪ってなんなのさ!?」
(倒せ・・・・)
「何を!? どうやって!?」
(倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・)
この木霊する声に付いてくるが如く、黒く大きな影が脳裏をよぎる、しばらくすると声が治まりまた別の声が聞こえてきた
「・・・きて・・・起きて・・・起きて!ドーン!」
「うわ!」
耳元で放たれる大きな声に飛び起きる
ベッドでうなされていたドーンを起こしたのは仲間のノアだった
「ドーン・・・だいじょうぶ? かなりうなされていたけど・・・」
「うん ちょっと変な夢を見てただけ ふぁふぁ〜ん」
寝起きで乱れた髪を直しながら大あくびをするドーンを見てノアは呆れた顔をして言った
「ドーン! バーダたちとの約束の時間、もうとっくに過ぎてるよ!」
「えっ! あ!」
「もう! わたし先に行ってるよ!」
そう言うとノアは部屋のドアをバタン!と開けて飛び出ていった
「あ〜たく! ノアもせっかちだね〜」
ドーンはベッドから腰をあげて身支度を整える
身支度が整うとドーンは部屋の鍵を閉め足早に仲間との待ち合わせ場所へと走り出していった。
「此処も変わったね〜」
走りながら街の様子を見渡すドーン、そう、あのリオソウル討伐から二年の月日が流れていた、街並みは変わり街はいっそう賑わいを増している
(この世界が滅ぶ? そんな馬鹿な)
先ほどまで見ていた夢を否定しふくやかな笑みを浮かべ街を走る
「お〜い!こっちだこっち!」
賑やかな街をかき分けるが如くバーダの大声が耳に入った、声の方向に顔を向けるとそこにはノア、バーダ、カロンの三人が待ちくたびれたと言わんばかりの顔でドーンを待っていた
「ごめ〜ん!待った?」
「待ったも待った、だいぶ待った」
今にも怒らんとばかりにカロンが答えた
「今日は何処に行くんだっけ?」
ドーンの問いにバーダが答える
「ドーン・・・それくらい覚えておけよ・・・今日はな、ギルドから俺たちに調査の依頼だ」
「調査? 何の?」
「さあ、わからんが結構大事らしいぞ」
「ねえ、立ったままじゃあなくて歩きながら話そうよ」
ノアがそう言うと四人はギルドに向けて歩き出した
「ドーン、お前どうしてこんなにも遅れたんだ?」
カロンが不思議そうに問うとドーンは、
「あれ? ノアから聞いてない? 寝坊したのよ、」
「そ、寝坊も寝坊! 大寝坊!」
そうノアが笑っていると空かさずバーダが横槍を入れる
「だぁはははははは! 寝坊たぁな!で? どんな風に寝てたんだ?」
「う〜んとね、あんた誰っとか言ってうなされてたね」
「だぁははははははははははは!」
誰が見ても笑いすぎなバーダにドーンが突っ込む
「バーダ! 笑いすぎだぁ〜〜〜!」
ドーンはバーダのほっぺをつねった
「いでっ、いででででででぇ〜!」
「おい! ギルドに着いたぞ! もうやめろ! 他のハンターたちの笑いものにされるだろうが!」
カロンが呆れた顔で怒鳴った、あれやこれやでやりとりをしているうちにギルドの入り口に到着していたようだ、中に入るとギルドは他のハンターたちの熱気でむせ返りそうになるほど賑わっている
「さあ、依頼の話を聞きに行こう」
カウンターに近づくと一人のウエイトレスがそれに気づきドーンたちを呼んだ
「お〜い! こっちこっち!」
声がしたのは反対側のカウンターからだった
「やっと来てくれたわね、依頼の説明をするから席に座って!」
ウエイトレスの言うがままにドーンたちは、カウンター席に座った
「ねえ、ギルドから直々の依頼なんて初めてだよね?」
頭を掻きながらドーンが不思議そうな顔をしている
「ああ、何でも俺たちにしか頼めない依頼らしいぞ」
「へぇ〜、やっと私達もギルドに認められたってわけね」
「オッホン、違いますよ! さて、説明をしますからよく聞いていてくださいね、依頼は隣街のラグナコッタからのものです、ラグナコッタは昔から行商の要所として賑わっている重要な街です、その街に最近、変な噂が流れているんですよ」
「噂?」
「そうなんですよ、なんでもジャングルの川を渡ろうとすると人が消えるらしいんです」
「でっ、その調査を俺たちにと? しかしなんで俺たちなんだ? ラグナコッタにもハンターはいるだろうに・・・」
カロンが真剣な眼差しで言った
「そうなんですよ、でもハンターには何度か依頼したらしいんですがみんな帰ってこなかったらしいんです、そこでこのギルドに依頼が来たんで、手の空いている皆さんに依頼を頼むことにしたんです」
ドーンは目を輝かせて言う
「よぉし! この依頼! 受けて立つ! なあ! ノア、バーダ、カロンいいだろ?」
三人も胸を躍らせていた
「おう!」
「うん!」
「ああ!」
三人同時に答えた
「ああ、そうだ、出発する前に準備を済ませないと!」
そうドーンが言うとみんなバラバラになってギルドから出て行く
「お〜い! いつもの所で待ち合わせだからね〜!」
そう言うとドーンも足早にギルドを後にした
一時帰宅し部屋に戻ると先に帰っていたノアが準備を済ませて待っていた
「ノア、もう準備は済んだの?」
「うん! ドーンも早く準備して!」
ノアが言うままに急いで支度をするドーン
「これとこれ、後これ! よし これでいい!」
支度を整えると部屋をでていく二人
「どーん、この記事みた?」
徐にノアが記事が書かれている紙を取り出しドーンに見せる
「なになに、あ!」
記事の内容に驚愕した
「戦争! 戦争だって!?」
「そうなの、私達の国が隣のミッドランドって言う国と戦争を始めたらしいの」
「でも何で戦争なんか・・・何が原因なの?」
「それが分からないらしいの、記事には貿易摩擦が原因だとか書いてあるけど多分ちがうと思う、本当に貿易摩擦が原因なら話し合いで片付く問題でしょ?」
ドーンはノアの話を真剣に聞き入っている
そんな話をしていうちにバーダたちとの約束の場所が見えてきた
すでにバーダたちは到着しているようだ
「ゴメン! また待たせちゃった?」
「いや俺たちも今着いたところだ、さあ、これで全員そろったな、出発だ」
カロンは街の門を指差す、それに合わせ歩き出す四人
「ねえ、バーダたちはこの記事見た?」
ノアは手に持っていた記事の紙をバーダに手渡す
「これは戦争が始まったて言う、あれだろ? まあ、一介のハンターの俺たちにゃあ、関係の無い話だろう」
「関係なくなんかないよ!」
バーダの言葉にノアが反論した
「昔の話なんだけど、こういう戦争は昔にも何度かあってその度にハンターたちが戦争に駆り出されたって話、本で何度も読んだもの」
「心配し過ぎだよ、ノア、さ、門に着いたラグナコッタへ出発進行〜〜〜〜〜〜!」
ドーンはノアをなだめ、門を出ていくノア、バーダ、カロンそれを追うように門を出て行った
〜足跡は街を越えて〜
2年前、ココットの村で細々とハンター生活を送っていた少女ドーンに、こらからの
自分自身の運命を左右するであろう出来事があったことを覚えているだろうか?
その出来事・・・そう、この世界の歪みの部分から生まれ出た凶悪な火龍「ソウル」
との死闘。彼女が生まれて初めて経験した敗北、そして仲間との出会い。
そして、わずか二日の間に、リオソウル、バサルモスの討伐、生まれて始めて心を許せる友の悲しい姿。彼女にとっては、世界が変わってしまったような出来事の数々。
しかし全ては、これから彼女に圧し掛かってくるであろう伝説への伏線にすぎなかった。
そして、そんなドーン達の噂は、遥か離れた街までも届いていたのであった。
2年前の昼下がり。
街の噴水広場には、行商で賑わう人達でその日も熱気に溢れていた。
この日は何かの特売日らしく、いつもにも増して活気があるようだ。
そんな人ごみの中、噴水の傍で青い髪の毛の青年を囲んで談笑する5人の姿があった。
「サマート!本当に行ってしまうのかよ!?」
大柄な、バーダと呼ばれる男が残念そうに言った。
「・・・はい・・・僕にとってアームズで働くことは小さい頃からの夢でした・・・。
みなさんとお別れするのは、残念です・・・。でも・・・僕は自分自身を試してみたいん
です。」
サマートと呼ばれる青年は、そう言うと目の前の若者4人に頭をさげた。
そんなサマートの手をしっかり握り締め、微笑む緑色の髪をした青年カロン。
バサルモスの不意打ちで重症を負った双剣使いも元気にその姿を見せていた。
「サマート!君にはすっかりお世話になってしまったな。これから君との仕事を楽しみ
にしてたんだが・・・アームズでの活躍期待してるぜ!」
「はい!カロンさん、ありがとうございます。一生懸命がんばります!バーダさん、
ドーンさん、・・・ノア・・・。行ってきます!」
そう言うともう1度深く頭を下げ、足元の大きなバッグを手に取ると、微笑みながら
左手で大きく手を振り4人の若者に背を向ける青い疾風サマート。
「サ、サマート!!行っちゃヤダーーーーーッ!!」
小柄な少女がいきなり駆け出すと、歩き出したサマートの腕を掴んだ。
その少女を追いかけるように駆け出すドーン。
「ノア!あんたらしくないよっ!サマートがアームズに行くってわかった時から
笑顔で見送るって約束だった筈だよっ!」
ドーンは両手でノアの肩を掴むと、言い聞かせるように強い口調で言うが、
そんなドーンの目にも一筋の涙が流れるのを隠しきれない。
巨漢のバーダも後ろを向いたまま、かすかにその大きな肩を震わせている。
「ノア・・・僕も君と別れるのは悲しいよ・・・でも、二度と会えない訳じゃないんだ
いつかきっと、この街に帰ってくる!ノア!君を守ると言った約束は忘れてないよ!
それに、君にはドーンさん達という素晴らしい仲間がいる。」
そう言ってノアの小さな体をそっと優しく抱きしめノアをドーンにあずけると、人ごみの中へと歩きだすサマート。
「うん!サマート!!わたし待ってる!!いつまでも待ってるから!!」
ノアのその声に振り返りニコッと微笑むサマート。
晴れ渡る大空の下、ひとつの別れが・・・・・。
やがてその青い髪の毛が、ひとごみの中へとかき消されて行くのを4人はいつまでも
見送っていた。
そして話は現代に戻る
行商の要所ラグナコッタ、ここは古くからドーンたちの国ロングストリートと下の国、ヘレンシア共和国を繋ぐ貿易の拠点としても有名な街である
街はこの辺では見ることのできない果実やアイテムなどがところかしこに並べられ行商人たちの呼び込みの声が途切れることなく続いている
「ふう〜やっと着いた〜」
今までの長旅に疲れた顔をしてドーンが言ったがノアはただただ街の様子を見て驚いている
「うわぁ〜すごいすごい!」
「なあ〜すごいだろ〜ノア! しかし此処は変わんねな〜」
ノアの後ろで唖然とした顔でバーダが街の様子を見渡している
「おい、ボケッとしてないでさっさと依頼主に会いに行くぞ!」
驚いているノアとバーダを尻目にカロンが言った
「ねえ! そんなに急がなくてもいいんじゃない? もっとゆっくりしょうよ!」
ドーンは相当この長旅が応えたようだ
「だめだ、俺たちは調査に着たんだぞ、早くことの発端を見つけないとまた犠牲者が増えるだろうが!」
「え〜・・・カロン・・・お・ね・が・い!」
妙にくねくねした物言いでドーンがカロンに迫る
「なっ、何するんだドーン! 離せ!分かったから離せ〜!」
どうやらカロンは色仕掛けには弱いようだ
「ねえ!あそこに宿屋があるよ!」
ノアが指をさす、その方向を見ると宿屋ピスキーという看板がみえた
「よし!今日はあそこで休むとするか」
バーダがそう言うと四人は宿屋ピスキーに向かって歩き出した
到着すると中から大きな怒鳴り声が聞こえてきた
「おい!どうして金を払って泊めれねえんだ、ちゃんと金払ったんだぜ? あ〜ん?」
「ですからお金が全然足らないんです、だからお泊めできません!」
「俺は泣く子も黙る大剣使いボルト様だぞ! あ〜ん?」
ボルトと名乗る男は宿屋の従業員の胸倉をつかみ、殴りつけた
「ひぃぃぃぃぃ〜」
見かねたドーンが止めに入る
「もうやめろよ! 痛がってるじゃない!」
ボルトと名乗る男はドーンを睨みつける
「なんだと女〜あ〜ん?」
「もうやめろと言ってるのよ!」
「女〜いい度胸だ! 表へ出ろ! あ〜ん?」
ボルトと名乗る男は表へ出て行く
「ドーン・・・ねえ! 大丈夫?」
ノアが心配そうに言った
「大丈夫! 待っててコテンパンにしてくるから!」
そう言うとドーンは表へ出て行く
バーダとカロンは黙って見送った、そんな二人を見てノアが、
「二人ともひどいよ! なんでドーンを助けてあげないの?」
ノアの問いにバーダが答える
「あいつは助けて喜ぶたまじゃあねえだろ」
続けてカロンが言う
「それにあの男・・・大して強くないと思うぞ」
「どうしてそんなことがわかるのよ! もう!」
ノアは二人の言葉に呆れて表へ出て行く、するともう戦いが始まっていた
「おうら!」
ボルトと名乗る男はドーンにめがけて大剣を振る、それをひらりとかわし相手の頬にスパっと切り傷を与えるドーン、それに続き二撃、三撃と切り傷を与える
「こんのアマ〜くらえ〜!」
もう一度、ボルトと名乗る男はドーンにめがけて大剣を振る
「ガキィィィィン」
今度は避けずに大剣を弾き返すドーン、その衝撃で後ろに倒れこむボルトと名乗る男
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
と悲鳴をあげて後ろ向きに這いずるボルトと名乗る男にドーンが近づく
「あんた、弱いね〜もうこんなことするんじゃあないよ!」
「は、はい、わかりました!あ〜ん?」
そう言うとボルトと名乗る男は走り去って行った
「ふ〜片付いた」
今の戦いと旅の疲れも合わさりため息をするドーン
そこに心配そうに戦いを見つめていたノアが近づいてきた
「ドーン・・・大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫! それより早く宿に入ろ、疲れてくたくただよ・・・」
「うん!バーダたちはもうチェックインしたって私達の部屋も取ってあるって!」
そうノアが言うと二人は宿に入って行った
そこは、宿屋にしては大きなロビーがあり、所々に置かれた観葉植物が気品のよさを思わす造りの建物だった。
「わ〜〜!ドーン、ステキな宿屋さんだね〜〜♪」
ノアが両手を広げて、クルリと一回転するとロビー中に響くような大きな声で言う。
「ああ、わたしもこんなに大きな宿屋は、初めてだよ!」
ドーンもあたりをキョロキョロ見渡しながら、しきりに感心している。
広いロビーには、たくさんの人の話し声がざわめき合い、ドーン達の右手にはカウンター
があり、前方奥には、おしゃれな感じの小さなカフェがあるのが見える。
そしてそのカフェには、先に入ったバーダとカロンの姿が見えた。
「お〜〜い!ドーン!こっちだ、こっち!」
見るとバーダとカロンがビールのジョッキ片手にニコニコしながら、ドーンとノアに手を振っている。
「あちゃ〜〜〜!あのふたり、もうビールなんか飲んでるよ!」
「はは!あのふたりには、どこに行っても酒は欠かせないようだな!」
ドーンとノアは、顔を見合わせ少しあきれたような顔で頷くと、ふたりのテーブルへと向かって歩きだした。
そしてドーンがバーダ達のテーブルへ後少しというときだった。
「ア!アイリーンッ!!」
バーダ達のテーブルの斜め後ろに座っていた、上品そうな男がそう叫ぶと、ドーンのもとへと、走りよってきた。
突然のことに、驚く4人をよそにその男は、ドーンの前まで来るといきなりドーンを抱きしめた。
「なっ!なにをっ!!」
ノアもなにが起こったのかわからず、その場でキョトンとしている。
そしてとまどい、驚くドーンに
「アイリーン!どこに行ってたんだっ!もう離さないぞっ!!」
男はそう言いながら、ドーンを抱きしめたまま放そうとはしない!
「このやろう〜!ドーンに何しやがんだっ!」
様子を見ていたバーダが立ち上がると、ドーンに抱きついた男の襟を掴みおもいっきり
引っ張りはがした!
「うわっ!な、なにをする!?」
次の瞬間、ガッシャ〜〜ン!と音をたてテーブルに激突して倒れる男。
その音にロビー中の人が「何事だ!」と言わんばかりにドーン達に注目した。
すかさず、カロンが胸倉を掴み上げ、その男を立たせると
「てめぇ!ドーンになにしやがるっ!白昼堂々といい度胸してるじゃねえか!」
そう言うとコブシを振り上げ、今にも殴りかかろうとするカロン!
「待って!カロン!」
ドーンの言葉に男の顔面スレスレのところでカロンのコブシは止まった。
ドーンは男に近づくと、胸倉を掴んでいるカロンの手をほどきながら
怯えているその男に話かけた。
「どうやら、あんたは人違いをしているようだ!
わたしはココットの村のドーンと
いう者だ。あんたの言うアイリーンではない。」
バーダは椅子にドッカと座り、ノアは椅子に座ってテーブルに頬づえをつき、
カロンは、納得いかねえ!といった様子で腕組みをしてドーンと謎の男の様子を
じっと見ている。
そんな中、男はこりもせずドーンの手をしっかりと掴むと迫るように話だす。
「なにを言ってるんだ、アイリーン!僕だよ!君の婚約者のポールだよ!
・・・探したよ・・半年前・・・僕との結婚式の前日に・・川に花を摘みに行ってくる
って言たまま・・・
一体どこに行ってたんだよアイリーン!?」
そこまで言うと男はドーンの手を握り締めたまま、涙を流しながらしゃがみ込んだ。
そして、その話を聞いたノアが、いきなり立ち上がると呟いた。
「半年前、川に・・・。」
そうノアが呟くとカロンとバーダも立ち上がった
「川だって・・・・・?」
「おい・・・まさか・・・」
ノア、バーダ、カロンの三人は互いの目を見合わせた
「なあ、その川ってゆうのはどこのことだ?」
ドーンの前でしゃがみこんでいる男にカロンが聞いた
「どこって・・・ここから南のジャングルの川だよ・・・たく・・何処行っていたんだよ・・・アイリーン!」
ポールはまだドーンを行方不明の婚約者だと思っているようだ
「ちょっと待って、私はドーン、アイリーンじゃあないのよ」
困った顔でドーンがいうとポールはそれに反発する
「うそだ! 君はアイリーン! 僕の婚約者だ! 」
「だから違うて言ってるだろ! しつけぇな!」
いいかげんにしろ!とゆう顔でバーダが怒鳴った
「うそだ! 証拠にアイリーンの腕には傷跡がある!」
ポールはそう言うとドーンの腕を捲り上げた
「!!!、ない・・・傷跡がない・・・それじゃあ君は・・・アイリーンじゃあない?」
やっと気づいたか!といわんばかりの顔でいる四人、そして自分が今まで勘違いをしていたことに気づき再びしゃがみ込むポール
「そんな・・・それじゃあアイリーン・・・君は一体何処にいるんだよ・・・うう・・」
肩を落とすポールにドーンがやさしく肩を叩く
「だいじょうぶ! きっと何処かで生きているさ」
「ねえ、ちょっといい?」
ポールとドーンのやりとりにノアが口を挟む
「さっき川がどうたらって言ってたけどそれって今、人が消えるって噂になっている川だよね?違う?」
ノアの言葉に驚くポール
「そうです! あなたたちはなぜその事を?」
「わたしたちはその噂の川を調査しにきたの!」
「そ、そうなんですか!? あなたたちが!?」
「なんでそんなに驚くの?」
「その依頼!私がギルドに出したものなんです!」
「ええっ!」
あまりの偶然に驚くドーン、その声がロビー中に響き渡った
ひとりの男が宿屋に入ってくると、その声に気づき急いでドーン達のテーブルへと、走りよってきた。
そしてその男は、ドーン達の所まで来るとポールに向かい大声を出した。
「ポールっ!!アイリーンが帰ってきたのかっ!?よかったなあ〜!」
ポールはしゃがみこんだまま、ゆっくりとその声のする方に顔をあげた。
それはポールの友人でアイリーンの友人でもある、ゴンザレスという男だった。
「いやあ〜、ポール!俺もハンター仲間に頼んでアイリーンの捜索をしてもらって
たんだが、もうあきらめてたとこだったんだ・・・。よかった、よかった!!
これで、病気のアイリーンの母親も安心するこったろうよ!ガハハハ。」
ゴンザレスは息つく間もなくそこまでしゃべると、今度はドーンの方へと顔を向けた。
そして、ドーンの両肩をつかむと満面の笑顔を浮かべている。
「アイリーン!どこに行ってたなんてことは、今は言わねえ!すぐにおめえのお母さん
に会いにいってくれ!病状がよくねえんだ!!」
「ちょ、ちょっと待って!わたしは・・・」
ドーンがそこまで言うとポールが立ち上がり、ドーンの肩をつかんでいるゴンザレスの
腕をつかむと、力なく言った。
「ゴンザレス・・・。その人はアイリーンじゃないんだ・・・。わたしもてっきり
アイリーンが戻ってきてくれたと思ったよ・・・。」
ゴンザレスはそれを聞くと信じられないといった表情でドーンの顔をじっと見つめて
いる。
「な、なんだって!?アイリーンじゃないってのか!!?」
その言葉に、全員が黙って頷いた。
そしてバーダが立ち上がるといいかげんにしてくれといった表情で話だした。
「おい!わかっただろ!ドーンはアイリーンじゃねえんだよっ!しかしそのアイリーン
って娘はそんなにドーンに似てるのか!?」
様子を黙って見ていたノアとカロンも立ち上がるとほとんど同時に言った。
「アイリーンて人見てみたいね!」
「一度見てみたいもんだぜ!はは。」
困っているドーンを囲んで全員がドーンに注目している。そんな中ポールが懐から
1枚の写真を出してくると、ドーン達の前へと差し出した。
「これが、アイリーンです。」
それを覗きこんだドーン達は、飛び上がるほど驚いた!!
写真に写っているアイリーンは姿形、髪の毛の色までドーンと瓜二つなのだ
「うお〜・・・・こいつはすげぇ」
そうバーダが呟くと続けてノアとカロンが呟く
「すごい・・・これなら間違えても無理は無いね」
「ああ・・・ここまで似ているとな」
三人と一緒に見ているドーンも、
「すごい・・・なんて美しいの・・・私にそっくり・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「さて本題に入ろう、ポールさん、アイリーンさんがいなくなった噂の場所のことをもう少し詳しく教えてくれないか?」
カロンがそう言うとポールは徐に話し出した
「はい、アイリーンがいなくなった場所はここから南部に位置するジャングルの川です、そのジャングルは普段はモンスターが現れることのない静かなところなんですが・・・」
「が?」
「その川を行商の通路にしている行商人達が何人も忽然と姿を消してしまったんです」
「なぜ?」
「それがわからないんです、なんせ捜索のため派遣した騎士団やハンター達もただ一人として帰ってこなかったんですから・・・」
「原因がモンスターだとゆう可能性は?」
モンスターと言う言葉を聞いた瞬間、ポールの顔が凍りついた
「もしモンスターだったら・・・アイリーンは・・・うう・・・」
青ざめた顔をしてまたその場にしゃがみ込んだ、それを見てゴンザレスが言う
「モンスターの可能性は低いと思うぜ、前に俺もその場所に行ったんだがモンスターなんて一匹も見なかったぜ!運がよかっただけかもしれないが・・・」
「そうですか・・・ありがとうございました、明日俺たちはその場所に向かいたいと思います」
「そうか・・・きをつけろよ」
ゴンザレスはそう言うとしゃがみ込んでいたポールを連れて宿屋を出て行った
「よぉし、依頼主とも接触できたし明日に備えて今日は寝るか!」
「そうだな! 寝るか!」
そうバーダとカロンが言うと二人は余っていたビールを飲み干し宿屋の二階に上っていく
「おい!ドーン、ノア! お前らも早く寝ろよ!」
「ああ!わかった! おやすみ〜!」
「ドーン!私達も寝よっか!」
「そうだな! え〜と私達の部屋は・・・202号室だな」
ドーンとノアは二階にあがり、202号室にはいる
「うわぁ〜いいお部屋だね!ドーン!」
「そんなこといいから、早く寝よ・・・くたくただよ」
「うん! お休み!ドーン!」
「おやすみ・・・・」
ドーンとノアは明日の冒険を夢見ながら床についた
その夜、ドーンはノアの呼ぶ声に目を開けた。
そこには、上着をはおったノアがドーンを覗きこんでいた。
「ん、ん、あ〜・・・なに?ノア・・・もう朝なの?」
見ると窓の外は、まだ真っ暗で、あたりもシ〜ンと静まり返っている。
そんな静けさの中、ドーン達の部屋をノックする音だけが部屋に響いていた。
「ドーン!誰かがノックしてるよ〜。」
「ああ、そうみたいだな。しかし誰だ?こんな時間に・・・。」
そう言うとドーンは起き上がりながら上着をはおると部屋の照明のスイッチを押した。
部屋の中がパッと明るくなる。
見るとノアが、かわいいパジャマに上着をはおって、心配そうにドーンを見ている。
しばらくすると、部屋に灯かりが点いたことに気ずいた謎の訪問者がドアの向こうから
ドーンを呼びかけてきた。
「ドーンさん!ドーンさん!夜分すみません、ポールです。お願いです!
僕と一緒に来てください!お願いです!!」
「えっ?ポールさん!?どうしたの?ちょっと待って、今ドアをあけるから!」
ドーンとノアは、不思議そうに顔を見合わせるとドーンがゆっくりとドアを開けた。
そこには、今にも泣きだしそうなポールが力なく立っていた。
「どうしたんですか?ポールさん、こんな時間に??」
ノアが肩をブルブル震わせながら、尋ねる。
深夜の宿屋の廊下は、かなり冷え込んでいるようで、肌寒さが少し身に染みる。
ポールはいきなり、ドーンの手を握ると、助けを求めるように話しだした。
「ア、アイリーンの母親が、危篤なんですっ!元々、病弱だった上にアイリーンが
いなくなってから、更に病状が悪化して・・・。今にも・・・。お願いです!!
ドーンさん!アイリーンの母親に一目会ってあげてください!お願いです!!
もう、時間がないんです!!ド、ドーンさん!!」
ポールは、掴んだドーンの手に力を入れると何度もその手を振り続ける。
ポールのあまりの熱意に困惑するドーンとノア。
「ちょ、ちょっと待って!それってもしかして・・・わたしがアイリーンさんの
代わりにお母さんに会えってこと??」
ドーンがびっくりしたように、目を丸くして尋ねる。
「あ〜、ドーン!きっとそうだよ!この街じゃ、ドーンは誰が見てもアイリーンだと
思うよ!」
ノアが人差し指を唇にあてながら、驚くドーンに囁いた。
「し、しかし・・・。」
腕組みをして、悩むドーンにポールが急き立てるように迫ると、同じ言葉を繰り返した
「じ、時間がないんですっ!お願いです!ドーンさん!!」
「ドーン、行ってあげようよ!ここでアイリーンさんのことを知ったのも何かの縁だし
ドーンがいけば、元気づけられるなら・・・行ってあげようよ!わたしも行くから」
ノアはそう言うと、悩んでいるドーンの顔を覗きこんだ。
しばらく考えていたドーンだったが、意を決したように「うん!」と頷くと
「わかった、ポール!すぐにお母さんに会いに行こう!着替えてくるから少し待ってくれ!」
ドーンはそう言ってノアに目で合図をすると、急いで部屋の中へと駆け出した。
「あ・・・ありがとうございます、ドーンさん!アイリーンの母親もきっと喜ぶに
違いありません!では、わたしについてきてください!」
いつもとは違う、少し女らしい格好に着替えたドーンとノアに頭を深く下げると、
ポールは、廊下を一階への階段へと向かい走り出す。
そのポールを追ってドーンとノアも静まり返った廊下を階段へと駆け出した。
思わぬ事件?に巻き込まれることになってしまったドーンとノア!
数分後、底冷えのする、ひとけのない夜の街を駆け抜けていくドーン達の姿があった。
街をひた走るドーンたち
「ねえ! まだなんですか? ポールさん!」
息切れしながらノアがポールに問う
「後もう少しです!」
ポールはそういうとドスっと何かにぶつかった
「痛! なんだ?」
「あ! お、お前は!」
ポールのぶつかった何かを見てドーンは驚いた、そこに立っていたのは昨夜にドーンが戦った男、ボルトが立っていた
「おんな〜見つけたぞ、何処へ行く気なんだ?あ〜ん?」
「私達が何処へ行こうとおまえには関係ない!」
ドーンたちが邪魔だと言わんばかりに通り過ぎようとするとボルトは大剣で道をふさいだ
「くっ、お前! なんで邪魔をするのよ!」
「お前との決着がまだついていないからだ!あ〜ん?」
「決着は昨日ついたはずよ! もうこんなことしないんじゃあなかったのか!」
「くっくっく! ところがどっこい! 決着はまだついていないんだな〜これが! あ〜ん?」
「なぜ?」
「なぜかって? そりゃあ女にやられて黙っているボルト様じゃあないってことよ! わかったか! あ〜ん?」
そう言うとボルトは戦う構えをとった
「くっ!離れてて! ノア!ポールさん!」
そんなドーンを見て心配そうにノアが、
「ドーン! 無茶だよ! 武器も持ってないのに!」
「大丈夫よ! いいから離れてて!」
ドーンの言葉を最後にボルトがドーンめがけて剣を振る
「おうら!」
ドーンはそれをかわしボルトに蹴りを入れた、しかしボルトの体格はバーダと比較しても大して変わらない、そのボルトに細身のドーンの蹴りが効くはずもなかった
「おらおらおら!」
ボルトは何度も何度もドーンめがけて剣を振るがドーンも負けじとそれをかわす、しかし等々かわすのにも限界が来た、Vの字の壁に追い詰められたのだ
「へっへっへ、もう逃げ場はねえぞ! 女! あ〜ん?」
「くっ!」
「おうら!」
逃げ場を失ったドーンにボルトが剣を振った、その時! ボルトは後ろにあった木に剣があたりバランスを崩した! それをドーンは見逃さなかった!
「ハッ!」
ドーンはバランスを崩したボルトの股間に蹴りを入れる
「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ボルトは股間を痛そうに押さえながら気を失った
「ふう、片付いた〜、さあ、行きましょう! ポールさん!」
「はい!」
ポールはそう言うと走って行くドーンとノアもそれに続いて行った
メイン通りを抜け、人気のない市場の間を通り過ぎると、ドーン達は大きな門構えの
屋敷へとたどり着いた。頑丈そうな鉄格子の門の向こうには見たこともないような、
大きな建物がドーン達を見下ろしている。
「はあ、はあ・・・ドーンさん、着きました。ここがアイリーンの家です。」
ポールは息切れしそうな声でドーンとノアにそう言うと、両手を膝に当てて肩で息を
していた。
ドーンとノアも走り通しだったため、しゃがみ込んで額の汗を拭っている。
門の左右に取り付けられた灯りの中、ドーン達は息が整うのをしばらく待った。
「ふう・・・もう、わたし汗だく!・・・それにしても大きなお屋敷だね〜!!」
「ああ、しかし感心している場合じゃないんだろ!?ポール!!?」
「はい!急いでアイリーンのお母さんの部屋へ向かいましょう!!」
ポールはそう言うと、ポケットから鍵を取り出し、門の右側にある小さな扉をへ行くと
扉を開け、ドーン達に手招きをして中へと入って行った。
ドーンとノアもそれに続いて門の中へと入って行く。
「さあ!ドーンさん、こっちです!」
ドーン達は広い庭を通り抜け、大きな正面玄関の右側を通り過ぎると本宅と離れを繋ぐ
屋根の付いたトンネルのような廊下へ出た。
左には大きな屋敷があり、右には小さいながらも上品な建物があった。
その建物には、5つほどの部屋が並び、その一室からは灯りが見えていた。
ポールは廊下伝いに小さな建物の方へ向かって歩いていき、ドアを開けるとドーン達
を小さな声で呼んだ。
「ドーンさん、ノアさん、中へ入ってください。」
ドーンとノアは頷くとポールの後を建物の中へと入っていく。
廊下は照明で昼のような明るさだった。外からは小さいように思えた建物だったが
その廊下の広さから言って、かなり大きな建物のようだった。
なによりもドーン達が驚いたのは、廊下を歩いている何人かの女性の姿だった。
その女性達はみんな白衣を身に着けていた。
「えっ!?病院なの?ここって!?」
「み、みたいだな・・・しかし、屋敷内に病院があるなんて・・・。」
ドーンとノアは初めて経験する出来事に辺りを見回すばかりだった。
そんな驚くドーン達に先に部屋のドアまで行ったポールが手を振っている。
「あ!ノア!あの部屋のようだ!行こう!」
「うん!」
そう言ってノアが頷いたときだった。ポールのいるドアからひとりの背の高い初老の
男性が出てくるのが見えた。その男性はポールと一言、二言なにか話すと、ドーン達
の方へと振り向いた。
次の瞬間、暗かった男性の顔が一気に笑顔に変わった。
「ア!ア!アイリーン!!?」
初老の男性はそう叫ぶと、ドーン目指して一目散に走り寄ってきた!。
「アイリーン!!! 生きていたんだね! よかった!よかった!」
「いっ、いや わたしは・・・・」
ドーンが何かを言いかけるとノアがドーンの口を塞ぎ、小声で語りかけた
(ドーン! 私達がここに何しにきたか、わかってる? ドーンは今、アイリーンさんなんだよ! ちゃんと芝居して!)
(でも、私、アイリーンさんがどういう人か知らないし、どうやればアイリーンさんらしくなるの?)
(とにかく! 女らしくしていればいいのよ! さ、早く!)
ノアとドーンのコソコソ話を見ていて疑問に思ったのか初老の男性が、
「アイリーン?どうかしたのかね?」
ノアの忠告を聞いたドーンは芝居に入る
「いいえ! おじさま、なんでもないですよ!」
「ふむ・・・しかし今まで何処にいたんだい?アイリーン?」
「い、いやその・・・ちょっとね、なんでもないんですよ・・はは・・・」
「まあいい、そんなことよりアイリーン! お前のお母さん・・・エレナさんが危険な状態なんだ! 顔を見せに行ってやってくれ!」
初老の男性はそう言うとドーンの手を牽き部屋の前までつれて行った
「ね、ねえ、ノア!大丈夫かなあ〜?」
すまし顔のノアにドーンがこっそりと囁いた。
ノアはうんうんと頷くと、ドーンの袖を引っ張って耳元で囁く。
「がんばって!ドーン!アイリーンさんになりきるんだよ!!」
ノアはそう言うとドーンと手を繋ぎ、引っ張り込むようにして病室へと入っていった。
そこには、月灯りに照らしだされるように、ひとりの女性がベッドに横たわり、
その様子を心配そうに3人の男性が覗きこんでいた。
ひとりは、ポール、もうひとりは、初老の男性、そしてもうひとりは医者のようだった。
ベッドでは整った顔に長い黒髪が神秘的な女性が、胸を大きく波打たせ、苦しそうにうなっていた。
「エレナ!しっかりしろっ、アイリーンだ!アイリーンが帰ってきたぞ!・・・。」
「エレナさん!アイリーンが帰ってきてくれましたよっ!!」
ポールはエレナに大きな声でそう言うと、ドーンの方へと顔をむけた。
「ドー・・・!ア、アイリーン早くお母さんに顔を見せてあげてっ!」
「う、うん」
ドーンは頷くと、髪を手で整えベッドへ向かった。
そして、苦しそうなエレナを覗き込むと一呼吸おいてエレナに話かけた。
「お、おかあさんっ!わたしですっ!アイリーンです。心配かけてごめんなさい!
お、おかあさん・・・。」
そう呼びかけながら、ドーンの目に一筋の涙が流れ落ちた。
それはドーン自身に母親がいないこともあったのだろう、生きていればちょうど目の前
のエレナと同じくらいの歳に違いない・・・。ドーンには今は亡き母親とエレナが
一瞬重なり、胸をしめつけられるような思いだった。
ノアもそんなドーンの横で、涙を手で拭っている。
ドーンは実の母親のように、何度も何度もエレナに呼びかけた・・・。
すると、そのドーンの芝居抜きの思いが通じたかのように、苦しむエレナがうっすらと
目をあけると、唇を震わせながら声を出したのだった。
「ア、ア、アイリー・・・ン・・・。わたしの・・・アイ・・リーン・・・。」
その目には、いっぱい涙が溜まっている。
いつの間にか苦しそうな状態も治まっているようだった。そしてエレナはそう一言しゃべると安心したように目を閉じたのだった。
「おおっ!エレナがしゃべった!?おお!エレナ!!・・・。」
「アルベルトおじさんっ!エレナさんが、意識を取り戻しましたよっ!」
「ラ、ランドルフ先生!!」
そう言うと、ポールとアルベルト(初老の男性)は、顔を見合わせ手をとりあった。
その横では、ランドルフと呼ばれる医者が、慎重にエレナの様子を診ている。
月灯りの入る病室で、全員が期待と不安でエレナを見つめランドルフの言葉を待った。
「せ、先生っ!!?」
ドーンとノアが同時に叫んだ。
その声にランドルフは振り向くと、ニコッと微笑んだのだった。
「みなさん!峠は、越えたようです。もう心配はありませんよ!」
その言葉に、ドーンとノアは思わず歓喜した!
「きゃ〜!やった〜〜っ!!よかったね!ドーン!!」
「うん!ノア!わたし、うれしいっ!」
すでに芝居のことなど頭にないふたりは、抱き合って喜んだ。
ポールとアルベルトも手を握り合って、喜んでいる。
そんなドーンにランドルフが微笑みながら傍までくると
「もう、大丈夫ですよ、お嬢さん。これで日ごとによくなっていくと思いますよ。
では、お大事に。」
そう言ってドーン達にお辞儀をすると、ランドルフは病室から出ていった。
「先生、ありがとうございました。」
ポールと手を握り合ったままアルベルトは、そう言うと今度はドーンの手を取り、
微笑みながら、話だした。
「ありがとう、お嬢さん。お名前はドーンさんでいいのかな?お嬢さんのおかげで、
エレナは命を取り留めることができました。ほんとにありがとう・・・。」
「い、いえ、わたしは・・・。」
「え?アルベルトおじさん、わかっていたんですか・・・?」
「はじめは、本当にアイリーンが帰ってきたのかと思ったが、すぐアイリーンじゃ
ないと気づいたよ。でも、わたしもこのお嬢さんに懸けてみようと思ってね。
ところでポール、命の恩人のお嬢さん方だが、どういう知り合いなのかね?」
ポールは眠っているエレナにそっとキスをすると、椅子に座り今までの経緯を
アルベルトに話した。
ドーンとノアも病室にあるソファに座り今までのことを話した。
「そうだったのですか・・・。ドーンさん達はあの河の調査に来られたのでしたか。」
「はい!わたし達はポールさんの依頼で人が消えると言われている河の調査に来た
ものなんです。」
ノアが答えるとドーンが続けてアルベルトに尋ねた。
「アルベルトさん、その河のことについて何か知ってることは、ないでしょうか?」
アルベルトは、しばらくの間考え込んだのち、顔をあげると少し唇をかみしめて
どうしたものかと悩んでいるいるようだった。
そして、アルベルトは意を決したように立ち上がった。
「少し待っててください・・・。」
アルベルトはそう言うと、病室から出て行ったのだった。
しばらくするとアルベルトは1冊の本を片手に病室へと戻ってきた。
そしてアルベルトは、ソファにゆっくりと座りながら手にした本をテーブルの上に
置いたのだった。
見るとその本は、この街の歴史を記した本のようだった。
ドーンは、その本を手にとるとアルベルトに尋ねたのだった。
「アルベルトさん、これは?」
「その本は、この辺りの歴史について書かれたものなのですが・・・。
ドーンさん、ノアさん、ポール、詩織の挟んであるページを見てください・・・。
あの河のことが書かれています・・・。」
ドーンは言われるままに詩織の挟んであるページを開いてみた。
次の瞬間、そこに描かれているものを見てドーン達は驚愕したのだった。
「こっ!これはっ!!??」
そこには、巨大な魚竜がアプトノスに襲い掛かる絵が描かれていた。
「アルベルトさん・・・これは一体・・・」
アルベルトはソファーに腰掛け右側にある窓の外を見ながらドーンの問いに答えた
「それは300年前にプランテスと言う画家が伝説を絵にしたものなのです・・・」
「伝説?」
「そう・・・あの川・・・アイリーンが失踪したあの川には古代から水竜ガノトトスが住んでいるとゆう伝説があるのです」
それを聞いたドーンとノアはびっくりして目を見合わせた
「ガノトトス!? あの古代竜の!?」
「そうです・・・」
「けど、どうしてですか!? その伝説を知っていながらどうしてアイリーンさんをその川に行かせたりしたんですか!?」
ドーンはソファーの前にある机を叩き怒鳴った
「伝説だからですよ・・・」
アルベルトの横にいるポールが口を挟んだ
「そりゃあ、あの川にガノトトスが居るという証拠があり事実なら絶対行かせませんよ・・・それに居るんならあそこを通る行商人たちが見てもおかしくない! なのにこの300年間一人として見たものはいないんです・・・」
「でも最近は行商人が消えたり調査に出したハンターが帰ってこなかったりしているんだよね?」
「そうです・・・ですから一つの可能性としてドーンさんたちにこの絵をお見せしたんです・・・」
ドーンとノアは二人とも腕くみをして絵を見つめている
そうしているうちに朝日が窓から降りそそいできた
「うわ! もうこんな時間だ! ノア! 早く戻らないと!」
「そうだね! ポールさん! アルベルトさん! 私たち帰りますね! エレナさんも大丈夫みたいだし! 調査の準備もありますから!」
そう言うとドーンとノアは部屋から出て行った
それを見てポールは走ってゆくドーンとノアに叫んだ
「ドーンさん! ノアさん! 気をつけてくださいね〜!」
ポールの声を聞いたドーンとノアは後ろを向き手を振った
「はい! わかりました〜!」
来た道を走るドーンとノア
「ねえ、ノア、原因はガノトトスなのかな?」
「さあ? 行けばきっと分かるよ!」
「そうだね! あ! もうすぐピスキーだ!」
走るドーンとノアの前に宿屋ピスキーが見えてきた
部屋に戻ると、ドーンとノアはベッドへとダイブした。
「ふ〜っ、疲れた〜。でもエレナさんが良くなって、よかったね、ドーン。」
「ああ、一瞬、母を思い出したよ・・・。」
フワフワのベッドにうつ伏せになったまま、その心地よさに顔を見合わせるふたり。
「でも、ドーンがアイリーンさんじゃないって判ったらエレナさん、また悲しむね。」
「いや、あの人には判っていたと思う。実の娘を見まちがう筈はない・・・。
ノア、わたしはあのエレナさんのためにも、今回の原因をつきとめたいと思う。」
ドーンはそう言うとベッドから起き上がり、壁に掛かった時計を見た。
時計は7時を指しており、ドーン達が宿を出てから4時間が過ぎていた。
ドーンは着ていた服を、脱ぎながらノアの方へと顔を向ける。
「ノア、出発の8時にはまだ1時間ある、少し寝てはどうだ?」
「うん、でもポールさんが来るまで5時間も寝てるし、大丈夫だよ!それより着替えて
早く朝ご飯食べにいきましょうよ!わたし、お腹がすいちゃって・・・。」
ノアが、上着を脱ぎながらそのカワイイお腹を撫でている。
ドーンもノアと同じ考えだったのだろう、ほとんど裸状態になったお腹を撫でながら
うんうんと頷き、今度は、ノアのお腹を撫でてはしゃぎだすドーン。
その時だった、ドーン達のドアがいきなり開くと、聞きなれた声が聞こえてきた。
ノックのひとつもしないで、部屋に入ってきたバーダとカロン。
そう!早く横になりたかった二人は、ドアに鍵をするのを忘れていたのだ。
「おっはよう!ドーン、ノア!朝飯食いに・・・あっ!あ〜〜っ!」
部屋に入ったバーダとカロンがそこで目にしたのは、下着1枚で驚いているドーンと
ノアの姿だった。
「ぎゃ、ぎゃ〜〜〜〜っ!」
ドーンは思わず悲鳴をあげると、急いで上着をはおってしゃがみ込んでしまった。
「ば、ばか〜〜〜〜っ!早く出ていきなさいよ〜〜っ!!」
そう叫び、上着で体を隠すと、テーブルの上の灰皿を掴みバーダとカロンに投げるノア。
灰皿は、半開きになったドアに音をたててぶつかるとバーダの足元へと落ちた。
「あわわわっ、す、すまねえっ!い、行こうぜ、カロン!」
「あ、ああ、バ、バーダ・・・。」
そう言って、逃げるように部屋から飛び出したバーダとカロン。
そして、ドアをバタンと閉めると、廊下で怪しい笑いを浮かべながら顔を見合わせるふたり。
「よう、カロン!ドーンて以外に大きかったりするんだな・・・あ、あはは・・。」
「そそっ!これって新発見だよなあ〜!あは、ははは。」
バーダとカロンは、お互いの肩を叩きあい喜びを分かち会っているようだった。
「じゃあ、ドーン、ノア先に行って朝飯食ってるぜ〜〜!」
ふたりは、そう言うとまたニヤニヤしながら一階への階段を降りて行った。
「まったくぅ、あの二人はレディの部屋に勝手に入ってきて〜、不謹慎だよ」
ノアは服を着ながらぷりぷりと怒っている、ドーンも防具を装備しながら恥ずかしさの反面怒りを露にしている
「ふぅ〜、ノア、準備できた? 私はもう出来たよ」
数分たち怒りも治まるとドーンとノアは準備を終えていた
「うん、私も準備できたよ、ドーン、ご飯食べに行こうか!」
ノアがそう言うとドーンもうんと頷き部屋のドアを開け一階へと降りていく
一階に下りるとすぐそばのテーブルでカロンとバーダがコーヒーを飲みながらサンドイッチを食べていた
「お! お二人さん! 準備はできたか?」
陽気にバーダがそう言うとドーンとノアは椅子にドカッと座りカロンとバーダを睨みつけた
「なんだよ、まだ怒ってるのか? 減るもんじゃないからいいじゃないか」
「そうだそうだ! いい目の保養をさせてもらったぜ! いいじゃあねえか! お二人さん!」
そう笑いながら肩を叩き合うカロンとバーダ、そんな二人を呆れた顔で見ているドーンとノア
「まったくぅ〜 まっ、いっか!」
ノアは急に立ち上がり朝食を作っているカウンターへ歩いていく
「ドーン、朝食持ってきてあげるね! 何がいい?」
「ええっとね、私もコーヒーとサンドイッチでいい」
ドーンの答えを聞くとノアは足早にカウンターへ向かい注文しにいった
「そうだ! カロン!バーダ! 二人に話しておきたいことがあるのよ」
ドーンの言葉にコーヒーを飲みながら笑っていたカロンとバーダがドーンの方向へ顔を向けた
「なんだよ、急に!」
「調べに行く噂の原因が水竜ガノトトスかもしれないの!」
カロンとバーダはそれを聞き目を丸くした
「なんだって!ガノトトスってあの古代水竜のガノトトスのことなのか!?」
バーダはそう言うと、手に持ったサンドウィッチを口の中へねじこみ、コーヒーで
いっきに流し込んだ。
カロンもまさかな、という顔でコーヒーを一口飲むと、スプーンでコーヒーを混ぜて
いるドーンとノアに尋ねた。
「しかしドーン、ノア、その情報一体どこで手に入れたんだ?」
「あ〜、おいしい!え?ああ、実はね・・・」
ノアは手に持ったコーヒーカップをお皿に置くと、深夜に起こった出来事をふたりに
話し、アルベルトから借りててきた本をテーブルの上へと置いた。
そして詩織の挟んであるページを開くと人差し指でトントンとページを示した。
「これよ!」
バーダとカロンはそのページに描かれた古代竜を見ると驚きの表情に変わったが、
すぐに「う〜〜ん」とうなると二人同時に椅子にもたれ腕組みをした。
そして信じられないといった表情をしているバーダ。
「う〜ん、信じられねえなぁ。俺もよくは知らないんだが、ガノトトスと呼ばれる水竜は、
もう何百年も前に絶滅した筈だぜ。それにいたとしても誰も見た奴がいないってのも
変じゃ、ねえか?なあカロン!」
バーダはそう言ってドーンのお皿からサンドウィッチをひとつ取ると、口の中へ放りこんだ。
「ああ、でもよ、バーダ。この世の中俺達のわからねえことが多いんだ。
絶滅したと言われる水竜の中にも、生き残った奴もいるかもしれないぜ。
誰も見た者がいないってのはもしかしたら、そいつはいつも河にいるんじゃないかもしれないぜ。」
カロンはそう言うと、ドーンのお皿からサンドウィッチをひとつ取った。
「もうっ!わたしまだ全然食べてないのにっ!」
「ごちそうさま〜!ドーン、あんまり食べるとプロポーション崩れるよ。はは。」
バーダとカロンは何かを思い出したように、ニヤニヤしながらドーンを見ている。
その様子を見ながらノアがクスッと笑うとカロンの方へ顔を向けた。
「あなた達がエッチなのは、わかったわ。でもカロン、水竜はいつも河にいないかも
しれないってどういうことなの?」
カロンは「うん」と頷くと自分の考えを話しだした。
「これは、俺の推測なんだが、あの河のどこか、たぶん橋の近くと思うんだが海か湖に
繋がる洞窟みたいなのがあるんじゃないかな。そして奴はそこからエサを食いに河に
やってくる・・・ってとこだ。まあ、まだ奴の仕業って決め付けるわけにはいかないが
その可能性はあると思うぜ。今日からの調査で何か手ががりが掴めればいいんだがな。
しかし、もし原因の正体がガノトトスとすれば、大変なことだぜ!
俺達の手にはおえないかもしれない・・・。」
そこまで言うとメガネを拭き、真剣な目つきで本に目を通し始めるカロン。
そんなカロンを見ながらドーンが呟いた。
「・・・古代水竜ガノトトス・・・そんなに凄い奴なのか・・・。」
ドーンはカロンの言葉を聞き体を身震いさせると手に持っているサンドウィッチを一口二口食べ皿に置いた
「そんな凄い奴ならポールさんが捜索に出した騎士団やハンターたちがやられちゃうのもわかるような気がする・・・」
体を身震いさせているドーンの緊張をほぐすようにバーダがドーンの肩をぽんぽんと叩いた
「ドーン、心配いらねえよ 俺たちいつも危険な橋渡ってきたじゃあねえか、いつもと同じだよ」
いっぱいになったお腹を叩きながらバーダが言うとカロンもそれに続く
「そうだ、古代竜だか水竜だかしらないが俺たちの敵じゃあないよ」
ノアもカロンとバーダの二人と同じ気持ちでいるようだ
「そうよ! こんなことでしょげてるなんてドーンらしくないよ!」
三人の心強い言葉を聞き勇気づけられたドーンは皿に置いてあるサンドウィッチを一気にたいらげるとコーヒーを飲み立ち上がった
「よし! みんな! ぜんは急げよ! 早く支度しなくっちゃ!」
そう言うと二階へ走ってあがって行くドーン、それを見て三人は、
「ははは! 大丈夫かな?」
「あいつはやる気を出すと止められねえからな! だはははは!」
「わたしも支度があるからいくね!」
ノアも二階へとあがって行く、バーダとカロンの二人もコーヒーを飲み干すと二階へとあがって行った
三人より先に二階へとあがったドーンは急ぎで支度を整えている
「ドーン! 早いよ!もう少しゆっくりでもいいんじゃない?」
そう言ったのは後ろから追ってきたノアだった
「何言ってんのノア! わたしたちがゆっくりとしている間にも誰かが犠牲になっているかもしれないんだよ!」
ドーンはありとあらゆるものをバックに詰め込んでいる
「もう! ほんとに止めがきかないね」
必死になっているドーンを見てクスッと笑い支度を始めるノア
一方、バーダとカロンは、
「バカかカロン、水竜に閃光玉は効かねえんだぜ!」
バーダはカロンの手から閃光玉を取ろうとするがカロンはそれをかわす
「違うよバーダ! 閃光玉は他のモンスターを足止めするためのものだ! それにまだ水竜と決まったわけじゃあない」
「そうか・・・でもポールとかいう奴の話だと噂の川は滅多にモンスターが出ねえっていう話だぜ?」
「う〜ん・・・まっ! 念のためだ! よし! 準備完了!」
カロンは準備を済ますと部屋を出て行った、バーダも大雑把に物をバックに詰めると部屋を後にした
階段を降りると宿屋の出入り口で先に準備を済ませたドーンとノアが待っていた
〜古代の河へ〜
「ウイィィィーーーーーーンッ!」
大きな滝の見える遺跡に金属音が響き渡っていた。
澄み渡る大空の下、滝から飛んでくる霧のような水が遺跡を覆っている。
「おい、おい!カロン!おまえが新しく持ってきた武器ってのはそのことかよっ!
わかったから、止めてくれ!うるせえんだよ。」
そう言うとバーダは、顔をしかめて両手で耳をおさえた。
ドーンとノアも何か言ってるようだったが、カロンの手にした武器が放つ高音で
ただ、口がパクパクしているだけのように見える。
そんな、ドーン達にカロンはスイッチを切ると自慢そうに手にした武器を見せた。
「どうだい?みんなこの双剣は!手に入れるのに苦労したんだぜ!へへっ、攻撃と同時に
電気が流れるのだ!その名も正式採用機械鋸!150000zもしたんだぜ!
早く、試し斬りしてみてえ!そりゃっ!」
そう言うと、辺りにある木を切り刻み始めるカロン。
「ウイッ!ウイィィーンッ!ウイィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンッ!」
「もうっ!カロン!私達はここにお掃除に来たんじゃ、ないんだからねっ!」
「しかし、クールなのかと思えば、やっぱ子供だね、カロンは!はははっ」
「まったくだ!おいっ!カロン、いい加減にしろ!ここからは、問題の河も橋も見えてるんだ!
さっさとおまえ自慢の双眼鏡で、その辺調べてみろってんだ!」
こぶしを握り締め大声で叫ぶドーン達に「あ!すまねえ、すまねえ。」と言うと
やっと草刈りを中止して、機械鋸を背中に背負うカロン。
「あっ、あっ、熱っ!!・・・・や、焼けてるよ〜・・・。」
「あほか・・・」
同時にそう言うと、がっくりうつむくドーン、バーダ、ノア。
「あは・・・あははは・・・。そ、双眼鏡ねっ!そうそう、そうだった!じゃあ早速
軽く覗いてみるから・・・はは・・・。」
カロンは恥ずかしそうに笑ってごまかすと、持ってきたバッグの中から双眼鏡を取り出して問題の河の方へと向けた。
焦点を合わすにしたがって、カロンの目に河の様子が細かく見えてくる。
スコープの中には、生い茂る樹木の真中をかなりの速さで流れる河が写ってきた。
そしてその河にまたがる、かなり古そうな木でできた橋も見えていた。
橋のたもとでは、モスが1匹キノコを食べている様子が写っている。
しばらく覗いてカロンは双眼鏡から目を離すと、ドーン達の方に顔を向けた。
「別にどうってことないように見えるぜ!今はなっ!」
というとまた、双眼鏡を覗き込むカロンだったが、突然
「・・・あれ?へんだぞ・・・?」
そうひとこと言うと、カロンは必死に何かを探しているようだった。
「なんだ?カロン?」
「どうした?カロン?」
「どうしたの?カロン?」
3人が同時にカロンに尋ねた。
「い、いや・・・モスがいねえんだよ・・・モスが。」
「どれどれ、見せてみて」
ドーンはカロンの手から双眼鏡をとると覗き込んだ
「・・・・・モスも居ないし・・・他に怪しいとこもないね、カロン、本当にモスが居たの?」
ドーンは双眼鏡を覗きながらカロンに聞いた
「いや確かにさっきまでは橋のたもとにモスが居たんだけどな・・・」
そう言うカロンを呆れた顔で見ているバーダ
「お前が目を離した時にどっかへ行っちまったんだろ、まったく・・・モスごときなんかに疑問を持つなよな」
「ねえ、遠くからの状況把握も済んだし、もうちょっと近くに行ってみようよ!」
ノアの言葉に他の三人はうんっと頷き川の橋へと歩きだした四人
やがて橋に到着すると周りの様子を見渡すドーンたち
川の橋の周りは霧のせいなのか不気味な雰囲気をかもし出している
「よし! 一旦ここで様子を見よう」
ドーンはそう言うと昼食の用意を始めた
「おっ! もう昼か、じゃあ昼を食べながら様子を見るとするか」
待ってました!っといわんばかりに喜んでいるバーダ、ノアはそんなバーダを見ながらクスクスっと笑いドーンと一緒に昼食準備を始めた、カロンはこの辺り一帯の地図を見ながら何やら考え込んでいるようだ
「うんしょっと! よっこらしょっと!」
生肉をバックから取り出し肉焼きセットで焼くドーン
「上手に焼けてる?ドーン?」
「うん、うまく焼けてるよ」
ドーンとノアはピクニック気分でニコニコしながら料理を作っている
「あ! 分かったぞ!」
カロンがいきなり大声を出した、ニコニコしながら料理を作っていたドーンとノアもカロンの大声にびっくりして顔を向ける
「どうした? カロン、何がわかったんだ?」
「バーダ! これを見てくれ!」
カロンは自分の持っている地図をバーダに見せた
「ああ、だからこれが何だ?」
「見ろ! ここから2、3キロ行った所に大きな湖があるんだ!」
カロンは地図に描かれている湖を指差した
「ああ、あるな、だから?」
「だから! この川に水中洞窟があるとしたら、この湖につながってるんだ!」
「ほほ〜う、だが確証は無い・・・だろ?」
「ああ! そこでだ! バーダ!お前に頼みがある!」
「なんだよ・・・まさか・・・」
「そう! そのまさかだ! バーダ! お前、川に潜って見てきてくれないか?」
カロンは上機嫌でバーダに頼むとバックからゴーグルを取り出しバーダに預けた
「なんで俺なんだよ! お前が行け!」
「頼むよ! バーダ! 俺、泳ぐの苦手なんだよ!」
カロンの頼みをいやだと一点張りのバーダ、しかし結局、じゃんけんでどちらがいくか決めることになったようだ
「最初はグー、じゃんけんポイ」
勝ったのはカロンだった、負けたバーダは嫌そうに潜る準備を始めた
「負けちまったか・・・仕方ねえ、行くとするか」
防具を脱いで潜る準備を済ませるとザブンと川の中へ潜っていくバーダ
バーダが川に潜っていく光景を見て不思議に思ったノアが駆け寄ってきた
「ねえ、カロン、バーダは何しに行ったの?」
「うん、川の中の調査さ」
「え! 危ないよ! 原因がガノトトスだったらどうするの!?」
「だいじょうぶだ! 俺たちこうゆうことには慣れてるから」
「ふ〜ん・・・大丈夫かな・・・ほんとに・・・」
心配そうにしているノアを元気づけるようにカロンはノアの肩をポンッと叩いた
「心配しなくていい! ノア! 数分したら戻ってくるさ」
「そうだね! バーダのことだから大丈夫だよね! 」
そう笑っている二人の耳にドーンの声が聞こえてきた
「お〜い! 昼食できたよ〜!」
「昼食できたって! バーダには悪いけど先に食べてよっか」
「ああ! そうだな」
二人はそう言うとドーンが焼いていた肉の周りに集まった
ドーン、ノア、カロンが昼食を食べ初めて数分たった頃、バーダが川から上がって来た
「お〜い! カロン! あったぞ!」
その声を聞いたカロンは急いでバーダに駆け寄った
「なに!? 何があったんだ?」
「お前の言っていた通り川の中に洞窟があった! ちょっと中まで行って来たんだがよ、どうやらお前の読みどうり、湖まで通じてるぞ!」
「そうか! 立ち話じゃあなんだ、飯を食いながら話そうぜ」
そうカロンが言うとバーダとカロンの二人はドーンとノアが囲んでいるこんがり肉の周りに集まった
「なんだよ! お前ら先に食ってたのかよ!」
「まあまあ、それで? バーダは今まで川の中に潜っていたんだよね?何かあったの?」
ドーンの問いにバーダが答える
「おお! なんと洞窟があったんだ! 原因がガノトトスである可能性が上がったぞ!」
「ほんと!? 」
ドーンとノアはほとんど同時に驚いた、驚いているドーンとノアを尻目にカロンが地図を取り出し自分の考えた作戦を語り始めた
「ドーン、ノア、バーダ、聞いてくれガノトトスが現れるかもしれないポイントはここから2、3キロ離れた湖とこの川だ」
「だから?」
「だから! 二手に分かれるのさ、俺とバーダで湖! ドーンとノアでここを見張ってくれ」
「え! でもそれじゃあ戦力不足でやられちゃうよ! どちらか一方に現れたらどうするの?」
「その時はノア、お前の閃光弾で知らせてくれ! 俺たちも閃光玉で知らせるから」
「わかった」
ドーンとノアは大丈夫かなっという顔で頷いた
「よし! 決まったらぜんは急げだ!」
バーダはこんがり肉を一気にたいらげると川に潜るために脱いであった防具を着て立ち上がった
「おら! カロンいくぞ!」
「ああ!わかった!」
バーダとカロンはそう言うと湖の方向へ地図を見ながら走っていった
「行っちゃった・・・どうする?ドーン。」
「ああ、湖の方はあのふたりに任せて、とりあえず私達はこの辺りを調べてみよう。
なにか、手がかりになるものが、見つかればいいんだがな。」
ドーンはそう言いいながら、カロンが見たという1匹のモスのことが気になっていた。
モスという動物は、キノコが大好物でキノコを見つけるとまずエリア移動はしない。
だから、カロンが一瞬目を放したスキにいなくなるなんてことは、考えられなかった。
「ドーン!どうしたの?」
橋のたもとで、腕組みをしたまま考えこんでいるドーンにノアが声をかけた。
「い、いや・・・なんでもない・・・。」
ドーンは微笑みながら、ノアに軽く手を振って答えると、少し離れた所にポツンと
咲いているピンクのカワイイ花を指差した。
「ノア、見て!すっごくかわいい花が咲いてるよ!・・・ん?」
ドーンはそい言ったとたんに何かを感じとった。
「あっ!ほんとだあ〜〜!かわいいぃ〜!」
ノアはそう言うと、雑草の中にポツンと咲いている小さな花まで行くとその場に
しゃがみこんで、花びらを優しく撫ではじめた。そして、少し悲しそうな顔をすると
ドーンの方へと顔をあげるノア。
「ドーン・・・アイリーンさんもこのかわいい花を、摘みにきたのかな・・・。」
「・・・・・」
しかし、ドーンはなにも言わずにノアとその小さな花をじっと見つめていた。
そのときドーンの頭の中には、なにかひっかかるものがあったのだ。
それは、花の咲いている辺りに対しての違和感だった・・・。
「ノア、なにか変だとは思わないか?」
ノアが顔をあげる。
そしてノアはしゃがんだまま、あたりをキョロキョロ見回した。
「な、なにが変なの?ドーン・・・」
ノアが不思議そうにドーンを見つめる。
ドーンはそんなノアに、地面を指差し、花の咲いている辺りをグルっと指で大きく円を
書いて見せた。
「ノア!見ろ!この辺りだけ、どうして草が倒れているんだ?」
その言葉にノアもすぐにピーンときたみたいだった。
「うん!たしかに変だね。ちょっと、調べてみるね!」
すかさずノアは立ち上がると、草の倒れている部分を細かく調べ始めた。
しばらく調べていたふたりは、同じものがもうひとつあることに気づいた。
そしてドーンとノアの頭に「ある物のある形」が浮かんできたのだった。
それと同時に動きが止まり、顔を見合せるドーンとノア。
「こ、これって・・・」
「まさか・・・。」
二人の動揺は激しいものだった、草は何か巨大なモンスターが押し倒したものだったからだ
「ドーン・・・これってまさかのまさかだよね・・・」
ノアは草を調べるのをやめてドーンに聞いた
「ああ、これでほぼ間違いない、これは水竜ガノトトスの仕業だ!」
ドーンは辺りを見渡し恐る恐る川に近づいた
ノアも同じようにして川に近づく、その時だった! ドーンが川の中を泳ぐ不気味で巨大な影に気づいた!
「うわ! 何だあれ!?」
影に気づいたドーンは思わず後ずさりした
「何?どうかしたの?」
ノアはまだ気づいていないようで川の中を覗き込む
「ノア! 危ない!」
ドーンは影がだんだん上に上がって来るのを見てノアの手をとり地に伏せさせた!
その時! 地に伏せているドーンとノアの頭上をザブンッと水とともに巨大な何かが通り過ぎた!
「な、なに?」
ドーンとノアは二人同時に顔を上げた!
「こ、こいつは!」
ドーンとノアの前に現れたのは間違いなく本に描かれている水竜ガノトトスだった!
「ノア! バーダとカロンに知らせて!」
ドーンの言葉を聞いたノアはボウガンに閃光弾を装鎮し上に向かって打ち上げる!
閃光弾は遥か上空で光を放った!
「ドーン! OKよ! これでバーダたちも駆けつける!」
「よし! ノア! バーダたちが来るまでこいつを足止めするよ!」
ドーンとノアは武器を構えガノトトスの出方を見た
ガノトトスは地上で魚のようにビチビチと跳ねている
ドーンはその光景を見てチャンスだと思いガノトトスに斬りかかった
「ハッ!」
ドーンの攻撃はガノトトスの足に炸裂した、しかし効いた様子はまったく無い、それどころかバランスを取り戻しガノトトスは立ち上がった
「ノア! 麻痺弾だ!」
ドーンはノアに指示を出す
「分かったわ!」
ノアはドーンの指示どうり麻痺弾を発射した
しかしガノトトスはあのリオレウスを大きく凌ぐ巨体、一発の麻痺弾で効くはずも無かった
「うそ〜、全然効かない〜!」
「ノア! あきらめずに何発も撃ち込むんだ!」
ノアは麻痺弾を一発二発とガノトトスに打ち込む
「よし! 次で効くはず!」
そう言って三発目を撃とうとした時だった!
ガノトトスが首を大きく仰け反らせる!
「何か来るぞ! ノア!」
そうドーンが言葉を発した瞬間!
ものすごい水圧の水をガノトトスが吹きかけてきた
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
とっさに回避した、ふたりの間を物凄い勢いの水が突き抜ける。
ドドーーーンッ!
そして、幾つかの大木をへし折ると、水のブレスは壁に当たって大きな穴を空けた。
なんという凄まじい威力、あんなものをまともに喰らっては、ひとたまりもない。
それに、なんという大きさだろう、ドーンとノアは始めて遭遇する古代竜のその巨大さと
攻撃力に呆然としてしまっていた。
よく見るとその翼は巨大なヒレという感じで、もはや竜というよりは超巨大な魚という
べきモンスターだった。
ドーン達の目の前に、何百年も生き続けてきた古代竜がそのベールを脱ぐ。
「な、なんて大きさなんだ!それにこいつの体は緑!?どうするっ!?ノアッ!?」
ボウガンを構えたまま、呆然としているノアに大声で叫ぶドーン。
ビュンッ!!
そんなドーンの目の前を古代竜の大きな尻尾が、物凄い音をたてて通り過ぎた。
「きゃっ!」
その計り知れないような、風圧を受け簡単に吹っ飛ばされるドーン。
「ドーーーーンッ!!大丈夫!?」
思わずノアが叫んだ。
「ああ!ノア!大丈夫だ!」
そして、ガノトトスを挟んで反対側にいるドーンが立ち上がるのを確認すると麻痺弾を
撃ち出すノア。
「まず、このすごい奴の動きをとめなきゃ!」
ババーンッ!ババーンッ!
目の前でその巨大な体を回転させている古代竜から、黄色い噴煙があがる。
ガウッ!ガウッ!
不気味な叫び声を上げながら、回転している古代竜。
しかし、次の瞬間だった。回転を止めると同時に目にも止まらないスピードの体当たり
が、リロード中のノアを襲ったのだ。
「きゃあぁーっ!!」
その圧倒的な大きさからは想像もつかないスピードの体当たりに華奢なノアは、ひとたまりもなかった。大きく転がり山肌に叩き付けられたノア。
「う、うーん・・・ドーン・・・。」
そう言うと、ノアは意識を失ってしまった。
「ノ、ノアァァーーーーーーッ!!」
絶叫すると、急いでノアのもとへと駆け出すドーン。
そんなドーンを無視して、簡単にエサを手に入れた古代竜はノッシノッシと気を失って
倒れているノアへと近づいていく。
「くっ! 間に合わない!」
そう思ったドーンは、なんとかガノトトスの気を引こうと石を投げつける
「おーい! こっちだこっち! こっちへ来い!」
しかし効果はなくガノトトスはノアへと一歩一歩近づいていく
もうだめかっと思ったその時! ドスっという音とともにガノトトスが後ろへしりもちをつくような形で倒れこんだ
「え!? なぜ!?」
疑問を持ちノアの前を見るとそこにはカロンとバーダがノアを守るっという形でガノトトスの前に立ち塞がっていた
「お〜い! ドーン! お前は大丈夫か?」
愛刀の鬼斬破を構えながら聞くバーダ
「ああ! 大丈夫だ!」
そうバーダの問いに答えたドーンは急いでノアのところへ駆け寄った
「おい! ノア! 大丈夫?」
ドーンの大声にノアが目を覚ます
「う・・・うん・・・」
ノアが目を覚ますのを見て肩の荷を降ろすドーン
「おい! まだ終わってないんだ! 構えろ!」
カロンの言葉に武器を構えるドーンとノア、それと同時にガノトトスが起き上がる
「よし! いくぞ!」
バーダはガノトトスへと突進していく、ドーンとカロンもそれに続いた
「せやーーー!」
先に突進したバーダがガノトトスに一撃を加える
その攻撃にガノトトスはよろめいたがすぐに回転し尻尾で反撃してきた、それをガードし構え直すバーダ
「さすがに古代竜、歯ごたえがありすぎだぜ」
そうバーダが言ったのもつかの間、バーダの後から突進していったドーンとカロンが攻撃を仕掛ける
その攻撃の凄まじさに堪らず川へと走り出すガノトトス
「逃がさないわよ! 喰らえーーー!」
ノアがガノトトスを逃がすまいと撃ち放ったのは麻痺弾
ガノトトスは麻痺弾が効き痺れてズドーンッと倒れこんだ!
「よしっ、今だ!」
ドーンはここぞとばかりに、ありったけの剣撃をガノトトスの腹へ叩き込む。
斬り上げ、斬り下ろし、斬り払いと目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出す様子は、
ドーンのハンターとしての腕前の成長を物語っていた。
彼女が持っていたのは「雷神剣インドラ」
刀身が物体に当たると電撃を発する特殊な剣である。
ゲリョスのゴム質の皮で柄を被い、持ち手をガードしなければならない程の強力な電気が流れており、
さらには、剣としても他に並ぶものもない程の鋭い切れ味を持っている。
剣撃の速さと彼女の周りで起きる激しいスパークで剣の名の示す通り、その姿は本物の雷神であるかの様に見えた。
バーダ、カロンもドーンに負けじとガノトトスを攻撃する。
「そおぉりゃぁぁー―!これでもくらえぇー―ぃ!」
ギャリィィィィー―――ン!びちびちびちぃっー―!
カロンの双剣がガノトトスの翠色をした鱗をガリガリと剥がす。
そして、鱗が剥げ無防備になった身を、高速回転する鋸が切り裂いて行く。
彼の周りには血の海にするかとばかりに大量の鮮血が飛び散っていた。
「でえぇい!どぅりゃあぁ!」
バーダが一撃、一撃と大声で気合を出しながら巨大な刀を振るっている。
一見、出たら目に攻撃しているように見えるが、彼は一撃目と二撃目を1セットで同じ場所に叩き込んでいた。
一撃目で鱗を剥ぎ飛ばし、二撃目で鱗が剥げた同じ場所を正確に斬り付ける。
それは、バーダが並の剣の腕前ではない事を示していた。
が、それだけではなく、彼の持っていた巨大な刀。「鬼斬破」
それは、彼が以前持っていた斬破刀とは似ているが製造過程が全く違い、切れ味も段違いの威力を誇っていた。
切れ味もさる事ながら、刀身に宿った電撃は堅い鱗をも通して内部に直接ダメージを与える事ができ、
その恐ろしいまでの攻撃能力とは裏腹に、時折弾ける電光が太刀特有の刀身の美しさをも引き立たせていた。
ドーン、バーダ、カロンの攻撃がヒットする度に電撃が弾ける。
図らずも3人の武器はいずれも電気を帯びた特殊な武器であり、
その電撃は水棲生物のガノトトスには効果覿面(てきめん)のようだった。
ふと、ドーンがボウガンの発射音が全く聞こえていない事に気が付いた。
「ノアー―!?どうしたの?攻撃し……」
ドーンは攻撃しながら彼女が居ると思われる方へ視界を向ける。
「!?」
その目の先にはうつ伏せに倒れて動かないノアの姿があった。
「ノアぁー――!」
ドーンはすぐさま攻撃を中断しノアの元へ駆け寄る。
「ノア!ノアぁ!」
ノアの体を起こし、自分の膝の上に頭を乗せ、彼女を抱き抱えるようにしながら名前を呼び続ける。
ドーンの叫び声で気付いたバーダとカロンも何事かと攻撃を中断しドーンとノアの元へ走ってきた。
半分泣きそうになりながら、何度もノアの名前を呼び続けるドーンを見てカロンが突然叫んだ。
「待てドーン!あまり揺するんじゃない!」
「ぅうぇ?」
「さっきノアが倒れていたのはこいつの攻撃を喰らったせいだな?」
と、カロンが顎でガノトトスを指す。
「…うん」
「俺は医者じゃねぇから確かな事は言えないが。おそらくノアは、その攻撃で脳震とうを起こしていたんだろう。
でその後、完全に回復する前に無理に動いちまったから、意識が飛んじまったんだろうな」
「どうしよう…」
どうしたものか悩んでいるドーンを後目に、
「あんまり動かしたくないんだが…そうも言ってられねぇな…」
カロンは辺りを見回しながら呟いた。
「よし、バーダぁ!」
「おうっ!分かってるよ!」
今まで黙って聞いていたバーダが即座に答えた。
カロンと付き合いの長い彼にはその一言だけで理解できたようだ。
バーダは背中にノアを乗せるようにドーンに指示をすると、彼女に背中を向けてしゃがみ込む。
「いいか…そっとだぞ…」
そして、ノアを完全に背負い立ち上がったバーダ。
彼の鬼斬破はカロンが自分の双剣と一緒に背負い、ノアのボウガンはドーンが背負っていた。
と、ここでバーダが
「うほぉ、ノアの奴、結構成長してやがるじゃねぇか」
一瞬の沈黙の後、
「バカ!スケベ!」
「不謹慎だぞバカバーダ!略してバカーダ!」
「そうよ!このバカーダ!」
「うぅ…非道ぇ言われようだな…」
ちょっとした冗談で場を和ますつもりがカロンからも激しく注意されて泣きそうになるバーダ。
「うぉ!やべぇ麻痺が切れそうだぜぇ」
バーダの声にガノトトスを見ると、確かに今にも麻痺が解けそうになって、身体の揺れが大きく緩やかになっていた。
「よし、あそこだ!あそこなら側に崖があってガノのデカい身体じゃ追って来れないはずだ!」
カロンは急いで周りを見渡して逃げ道を探し、見つけた方向へ指を指す。
ドーンも彼が指を指した方向を見る。
確かにあの狭さじゃガノトトスの巨体ではまず通り抜けるの無理だ。
「うん!行こう!」
「よっしゃぁー!急げぇー―!」
バーダの掛け声と共に一斉に走り出す3人。
グォヒョオォォォー――ン!
走り出すと同時に後ろから麻痺の解けたガノトトスの鳴き声が聞こえる。
と、その数秒後に水中に飛び込む音が聞こえた。
その音を聞いた3人は走るのを止め、後ろを振り返る。
「逃げた?」
ドーンが言った。
「みてぇだな…おいカロン、どう思う?」
「ドーンの言う通りだろ、逃げたんだろうな…」
「ふぅー―助かったぁ。これで安全にノアを運んで行けるわね」
「あぁ、そうだな」
とバーダが言った瞬間、カロンが叫んだ。
「待て!水面の様子を見ろ!」
カロンの言う通り見てみると水面が激しく波打っていた。
そしてその波は段々と大きくなって行く、それも巨大な水柱が立つ程に。
水辺に生えている小さな木が(とは言ってもドーンの背丈くらいはあるが)波によって次々と倒れていた。
カロンは水面に時折見えるガノトトスのヒレを見つけると
「野郎が暴れていやがるんだ…理由は分からんが…」
「ねぇ、今のうちに逃げましょうよ」
「あぁ、そうだな。こりゃ逃げるチャンスだぜ」
ドーンとバーダが言った。
皆が一斉に逃げようと後ろを振り返った瞬間。
一瞬にして周りが真っ暗になった。
ドーン達には何が起こったか判らなかったが恐る恐る後ろを振り返ると一目で理解できた。
そこには、先程まで戦っていたガノトトスとは比べ物にならない程に巨大なもう一匹のガノトトスがいたのだ。
水面に出した上体だけでもさっきのガノトトスと同じくらいの長さがあり、胴回りも何倍もの大きさがある。
そして、その口には無残に喰いちぎられたガノトトスの一部がぶら下がり、その下の水面は真っ赤に染まっていた。
周りが真っ暗になったのはそのガノトトスが太陽を遮りドーン達の周りに影を作ったからだった。
「で…でけぇ…なん…じゃこりゃ…?」
思わずバーダが呟いた。
「そうか…さっきのガノの血の匂いを嗅ぎ付けて出てきやがったんだな…」
カロンが言った。
だが、すぐさま襲って来る気配は無かった。
「襲って来ない?…わね」
「あぁ、多分腹がいっぱいになったせいだろ。いいか、刺激しない様にゆっくり逃げるぞ…」
「っぶえっくっしょぉー―ぃ!ちきしょうめ!」
「!?」
「!?」
「バカーダ!うるさい!」
「アホか!静かにしろ!」
小声でバーダを注意するドーンとカロン。
「ぐす、ぐす…悪ぃ…」
…グォロロォォ…
バーダのくしゃみに反応したかどうかは分からないがガノトトス腹から唸り声の様な音が聞こえた。
「こ…こわぁ…!」
「急げって!バーダ!」
「お…おぅ!」
ノアを揺らさない様に慎重に走るバーダ。
ドーン達はなんとか無事に逃げる事ができたのだった。
「呼吸もしっかりしているし、心拍も正常だな。とりあえずは一安心ってとこか…」
カロンはノアの容体を確認し言った。
ここは、安全の為にガノトトス遭遇地点の川からかなりの距離をとって
ジャングルの入り口付近に張った簡易キャンプだ。
「しっかし、あのガノトトスの大きさはどうなってんだ…異常だぜ…」
「あぁ、確かに異常としか思えんな…」
バーダの言葉にカロンが答える。
そんな2人を他所にドーンは夢の事を思い出していた。
「これが…邪悪?まさか……」
夢を一部始終はっきりと覚えている事はめずらしく、ここ数日の忙しさで一時忘れかけてはいたが何故か今思い出していた。
ドーンの只ならぬ様子に気付いたバーダは声を掛けた。
「おい、どうしたんだドーン?」
「いや、何でもない。ただ…」
「ただ?」
「蒼く変色したレウス、その後に続く連続した飛竜との戦い、
そして今回の翠色の異常なまでに巨大なガノトトス、これらは全て繋がっているんじゃないかと思って…」
「んな事あるかよぉ、それじゃぁこれから俺達が出逢う飛竜は、 皆非常識な色やガタイで群れをなして襲って来るってのかぁ?」
「そんな事…私に分かるわけ…」
「ドーンの言う事はあながち間違いって分けでも無さそうだぜ」
ドーンが話している途中でカロンが割って話した。
「はぁ?おいおいカロンまで何言ってんだよ…って…お前マジかぁ?」
「アホ!こんな時に冗談が言えるかっ!レウスの色が目の前で変わったのはお前も見ただろうがっ!」
「あ〜確かに見たけどそれの一体どこがいけないんだ?」
「かぁ〜お前はアホの上にバカかぁ?バカなのかぁ?」
「あんだとぉ〜上等だこらぁ!」
2人は立ち上がりお互いの胸倉を掴み、鼻息も荒く睨み合う。
「はいはい落ち着け、2人共。喧嘩ならガノトトスを狩った後に好きなだけやりなさいな。その時は絶対止めませんから」
ドーンがピシャリと言い放つ。
「ちっ」「ふんっ」
お互い背中合わせでその場にどっかとあぐらをかいて座り込む。
ドーンはやれやれといった表情で2人の様子をしばらく眺めたあと、話を切り出した。
「バーダ、私が以前ノアから聞いた話をするわ。それを聞けば事の異常さが良く解ると思うから、最後まで聞いてね」
「あぁ」
「ノアが小さい頃に彼女の村が襲われて彼女以外全滅してしまったの。
そして、村が襲われる直前に長老からノアが聞いた話があって、その話によると…
一つはこの世を破壊する何かが生まれたことを知らせるための「警告」
人間にとって最大の敵飛竜。その強大な力に立ち向かう人間達の中から選ばれた者に神は警告する。
もう一つは神が与える「試練」
神は一匹の飛竜に力を与える、その力を身に受けた飛竜は色を変え本来持っている力以上の力を得る、
それは警告であり同時にその飛竜に対峙した者たちへの試練でもある。
どう?2年前のレウスといい、今回のガノトトスといい、当てはまっていると思わない?」
「選ばれた者って俺達の事か?」
ドーンの問いにバーダが質問で返す。
「蒼いレウスを倒しちまったんだ、そういう事になるんじゃねぇか?」
そう答えたのはカロンだった。
「うーん、翠色のガノトトスは2匹だったぜ?」
「ったく、ガラにもなく細かい事気にすんじゃねぇよ!そりゃ事は急を要するって事じゃないのか?」
「あ、なるほどな!」
「納得すんのかよ…」
「その話には続きがあります」
突然のノアの声が暗くなりかけた一同に活気を取り戻す。
そこには真剣な顔をしたノアが横になりながら片肘をつき上半身を起こした状態で話していた。
「ノア!気が付いたのね!良かった〜」
ドーンはノアの側により体を起こそうとする彼女に手を貸してあげている。
「皆、心配かけてごめんなさい」
「気にするな、それより具合はどうだ?」
カロンがノアの容体を心配して話しかけた。
「うん、もう何ともないみたい」
「そうか、だがあまり無茶はするなよ」
「分かった、これからは気をつけて無茶をするわ」
「おいおい」
ノアが落ち着いた所で話を再開する。
まずはノアが倒れてしまった後の事をカロンが簡単に説明した。
そして、ノアが話しを始める。
「それじゃぁ、ドーンの話の続きをするわね。
何故そんな事があるのか、長老の話では、力を与えられた飛竜を倒せなければ、
到底この世を破壊する何かを倒すことはできないと神が判断したのだろう。という事だったわ。
そして、その飛竜を倒し警告に気づいた者の運命は大きく方向を変える…、
この世を破壊する何かを倒す道へと…。
ちなみにそのこの世を破壊する何かとは、言い伝えでは体の大きさが山に匹敵するほどの巨大な龍とか
飛竜のさらに上を行く力を持つ漆黒の龍とかだとされている…らしいわ」
ノアの話を黙って聞いていた3人だがバーダが最初に言った。
「俺達の運命はすでに変わっているってぇのか?」
「さらに巨大なガノトトスが出たというのは言い伝え以上の事だけど、言い伝え通りの事は起きてしまっているしね…」
ノアがそれに答える。
「おとぎ話みてぇな話なんだが現実に起こってるんだよなぁ…ドーンが疑問に思うのも無理はねぇか…」
カロンが言った。
「だがやっぱ、一番気になるのは…」
『この世を破壊する何か!』
お互いに指を指し合い、バーダとカロンが同時に答える。
『ってやつだな!』
「なんぼでもかかってこんかー――い!」
「おー―よ!全部狩ったらぁ!」
大声で笑いあうバーダとカロン、さっきの喧嘩なんて何処かへ行ってしまったらしい。
ノアは一緒になってケラケラと笑っている。
ドーンはそんな3人を優しい表情で見つめていた。
「まぁいいさ!んな難しい事考えないで俺達はただ目の前の飛竜を狩る!それが俺達ハンター唯一の決まり事だからな!」
「そういう事、早いとこ片付けちまって街で一杯やろうぜ!」
バーダの言葉にカロンが待ってましたと答える。
「やれやれ、あの2人には警告や試練なんて全然関係無い事なんだろうね…」
早くも街での一杯で頭がいっぱいの2人に向かって呆れた表情で呟くドーン。
「私もそうよ!運命なんて信じないわ!私はただのハンターなんだから!」
「ちょっとぉ、ノアまでそんな事言ってぇ!」
「ドーンはちょっと真面目すぎるわ。そんな事じゃ男の子にモテないぞぉ」
「ノ〜アぁ〜…お姉さんに向かってなんて事言うの!」
「きゃははっ!なんぼでもかかってこんかー――い!」
「ったく、待ちなさいこらぁ!3人共!何か作戦はあるんでしょうね!」
『ドーン!任せた!』
ノア、バーダ、カロンの3人が声を揃えて同時に答える。
「こらぁ!任せるんじゃなー―い!」
ドーンの表情は呆れた顔を通り越して、晴れやかに笑っていた。
私達4人には運命なんて関係ない。
そう、私達はただのハンターなのだから…。
そんなドーンの頭の中で、2年間の出来事が走馬灯のように蘇る。
父の真似をしながら、女でありながら生活していく為に森丘を駆け巡り
日々少ない日当で、暮らしていた2年前。怖いものなしでランポスの群れを相手にひとり
でハンター生活に明け暮れていたあの頃。
姉ロレッサと女ふたりで恋もせずに懸命にその日をその日を暮らしてきたドーンにとって
火竜リオレウスとの出会いは、やはり運命だったのかもしれない。
あの日あの出来事がなければ、苦節をともにする仲間との出会いもなかったに違いない
大酒飲みで、ボルカン(噴火)と呼ばれる大剣使いのバーダ。
変幻自在の攻撃でシェギート(幻)の異名をもつ双剣使いのカロン。
その華奢でかわいい顔からは、想像もつかないガンの使い手ノア。
桁違いの強さとスピードを誇った、青い疾風サマート。
初めて目の前にした古代竜の姿に、ドーンの頭の中に仲間との今までのいろんな出来事が駆け巡った。
「おい!ドーン!・・・ドーン!!」
突然のカロンの言葉にハッと我にかえるドーン
「どうした?ドーン!なにかいい考えでもうかんだのか?」
「い、いや。なんでもない。ちょっと水竜のこと考えていただけだよ。」
ドーンは小さく手を振ると不思議そうにしている3人に笑顔で答えた。
そんなドーンにカロンが立ち上がると、少し心配そうな顔で話しだした。
「よし、じゃあ俺の考えを言うから、みんな聞いてくれ。いいか!奴を相手にするには4人がそれぞれ離れた位置から攻撃しなければ到底勝ち目はない。
あのブレスと体当たりを4人が同時に受けては、たまんねぇからな。
まずノア、おまえはできるだけ離れた場所から麻痺弾を撃ち続けるんだ。絶対奴に近ずくんじゃないぞ!」
そこまで言うと「たのんだぜ!」というようにノアに目で合図をするカロン
カロンを見上げ「うん!」と頷くと早速麻痺弾のチェックをしはじめるノア。
ドーンとバーダも真剣にカロンの話に耳をかたむけている。
「でだ!奴に勝つためのポイントは、ノアの麻痺弾と言っても過言じゃないと俺は思う
んだ。奴の動きが止まった時に集中攻撃ってわけだ。ドーン達が借りてきた本によると
古代水竜の弱点は、どうやら首の下あたりってことになってるんだが、
まあ、信じるしかねぇよな!そこはバーダ!おまえの仕事だ。俺とドーンじゃ、到底奴の首に攻撃は
届かなねぇからな!いいか?バーダ、首の下だぜ!」
そう言うとカロンは自分の首を斬る真似をしながら、ドッカと腰を降ろしているバーダ
の肩を叩いた。
「おう!任せとけってんだ!首だろうがケツだろうが、どこでも俺の鬼斬破が切り刻んでやるぜ!だっはっはっはっ!」
得意の大声でそう言うと笑いながらカロンのお尻をバシッと一発叩くバーダ!
「いてっ!おお!さすがバーダちゃん!頼もしいお言葉!!・・・とまあ冗談は置いといてと。ドーン、おまえは持ち前のスピードを生かして俺と一緒に奴の足元を攻撃だ。
奴の動きは、単調だから、おまえのスピードとその天才的な勘があれば、まず奴の攻撃を
まともに喰らうことはないはずだぜ!いいか?ドーン!」
正面に座っているドーンに向かって、少し微笑みながら人差し指をたてるカロン。
「ああ、わかったカロン!お互い吹っ飛ばされないように気をつけましょう。」
ドーンはカロンにニコっと笑いかけると、意を決したように「うん!」と頷いた。
調査の初日から人間消失の原因である古代水竜に出会ったことにドーンは、
なにかしら
ただならぬものを感じていた。
奴と戦うこと・・・奴を倒すことによって自分が更にとてつもなく大きなものに近ずいていくことになる・・・。そんな思いがドーンにはあったのかもしれない。
「よしっ!じゃあ、そういうことでいくからなっ!いいか、みんな絶対に気を抜くな!
それと、奴の正面には絶対行くんじゃねぇぞっ!」
「うん!」
「おうよっ!」
「ああ!」
カロンのその言葉に一斉に立ち上がると、お互い顔を居合わせ目で頷くドーン達。
そんなドーン達をあざ笑うかのように河では古代水竜が叫び声をあげ続けていた。
「よし! 着いたぞ!」
そう言い草陰からガノトトスの様子を窺うカロン
走ってきたので息を切らしている他三人
「はあ、はあ、 奴は居るか? カロン?」
「どうやらいな・・・いや! いるぞ! 水面に奴のヒレが見える!」
ガノトトスが居ることを確認し一気に緊張感が高まるドーンたち
「ねえ、どうやって川から奴を引きずり出すの?」
ドーンがカロンに聞くとカロンは自分のバックから何やらアイテムを取り出した
「これは?」
「なんだ?」
「なに?」
カロンの他の三人は口をそろえて言った
「これはな、音爆弾だ、ほら! 一年ぐらい前にガレオスを狩りに行った時使っただろ!」
「そうだっけ? 使ったけ?」
そうだったけっといかにも忘れた顔でいるドーンとバーダ
「そっか! 思い出した、たしかすごい音がするやつだよね」
ノアは覚えていたようだ
「で? どういうふうに使うんだ?」
「う〜ん、口で説明すると長くなるから見せてやるよ」
そう言うとガノトトスが泳いでいる方へ勢いよく投げつけた
投げつけた音爆弾はうまい具合にガノトトスの真上で破裂した
「ギャオォォォォォォォン」
音爆弾が効いたのか、ガノトトスは水面へ飛び上がり地上へと落下した
「よし!みんな! いくぞ!」
カロンの言葉に武器を構えるドーンたち
「ノア! 麻痺の方は頼んだぞ!」
「うん! わかった! 任せて!」
今まで隠れていた草陰を飛び出しガノトトスへと突進するドーン、カロン、バーダ
「てやぁぁぁぁぁぁ」
「おらぁぁぁぁ」
ガノトトスに一撃二撃食らわせすかさず距離をとるドーン、カロン、バーダ
その攻撃に気づいたガノトトスは大きく体を仰け反らせ強力なブレスをドーンたちに放ってきた
それを左方にかわすドーンたち
「ノア!今だ!」
「分かったわ!」
「ドキューン、ドキューン、ドキューン、ドキューン」
ノアが放ったのは麻痺弾レベル1
「効いた!?」
「いや! まだだ! ノア! もっと撃ち続けろ!」
「うっそ〜! 前はこれで効いたのに〜!」
ノアは愚痴りながらも次々と麻痺弾を放つ。
遠くからボウガンを撃つノアに気付いたガノトトスが、彼女に向かって水流のブレスを噴き付けてきた。
「ノアー――!そっち行ったよ!」
ドーンがすかさず叫ぶ。
「大丈夫!余裕ぅ!」
ドオオオォォォンン!
激しい爆音とブレスが当った衝撃で土埃が舞い、辺りが真っ白になった。
その土埃の中からケホッケホッとカワイイ咳をしながら姿を現すノア。
ガノトトスのブレスが当った岩盤はえぐれ、そこには大きな空洞が出来ていた。
「すっごぉー―い。これ当ったら死んじゃうねぇ」
破壊的な攻撃力を目の当たりにしたノアだったが、彼女には軽口を叩く余裕があった。
巨体ゆえに攻撃力は凄まじいものがあるのだが、
レウス、レイアなどの中型の飛竜と比べて動きは遥かに遅く、隙も大きかった。
ましてや、今目の前にいるガノトトスはあまりにも巨大すぎて地上での行動に無理がある様だった。
一つ一つの行動が大きく動くので、四方に散ったドーン達に攻撃目標を1人に定められないガノトトスは、
攻撃動作に移る度にその巨体を動かし、自ら隙を作ってしまうはめになるのだ。
だがその巨体は弱点ばかりではなかった。
麻痺や毒などの状態異常を引き起こす効果が極めて薄かったのだ。
「長期戦になったら不利ね…」
ノアは麻痺弾の残弾を確認しながら呟いた。
ドーンは上を見上げる。
『やはり狙うのはあそこしかないか…』
彼女の目にはガノトトスの腹が映っていた。
しかし彼女の片手剣、カロンの双剣では到底届かない高さである。
『どうする…ノアの麻痺を待つ…か?』
しかしノアはガノトトスの巨体に苦戦しているようだ。
『ノアばかりを頼っているのも…』
ガノトトスの左足側のカロンはその足をひたすらに斬り付けている。
「ちぃ!鉄の大木を斬ってるみてぇだ!」
彼の必死の攻撃にも拘わらず効果は今一つのようだ。
水竜の首の付近で大刀を振り回すバーダ。
「うらうらぁ!どうだ!くのやろぉ!」
バーダの斬撃が当る度にガノトトスの動きが一瞬怯み、僅かだが動きが止まる。
首はいくらか電撃の効果が高いようだった。
と、
「やべぇ!しまった!」
調子に乗って斬り付けていたバーダの鬼斬破が、ガノトトスの首に突き刺ささり食い込んでいた。
そのままガノトトスに持ち上げ振り回されるバーダ。その勢いに堪らず刀から手を離す。
「いだだだだ…」
どしーんっと尻餅を突き、尻を擦りながら立ち上がるバーダ。
間髪を入れず、着地した彼に向かってガノトトスの大きな口が猛烈な勢いで迫ってきた。
「よけてぇバーダぁ!」
バーダに気付いたドーンが叫ぶ。
「ずぉあぁ!」
間一髪、さっきまでバーダが居た地面が大きくえぐられて巨大な穴が出来ていた。
「あぁ…俺の刀がぁ…」
先のピンチなど何のその、バーダは自身の愛刀の方が心配のようだ。
『首は全身に広がる神経に繋がっている…それにあの刀には電気が宿っている…一か八か、やってみようかな…』
ノアはガノトトスの首に突き刺さったバーダの刀を見て、何か策を思いついた様だった。
『うまく、刀身に当てる事が出来れば…』
「皆ぁ!どうなるか分からないけど、今から首の刀に電撃弾を撃ち込むわ!」
「ノア!何か良いアイデアを思いついたんだね!」
ドーンがノアに返す。
「ノ…ノアぁ!ちょっと待ってくれぇ!」
「なるほどな…良い作戦かもしれねぇ。ま!男らしく諦めろよ、バーダぁ」
情けない声を出すバーダに半笑いでカロンが言う。
スコープの先には鬼斬破が見えている。
絶えず動いている目標に当てるのは至難の技だが…
「私だってこの2年間、遊んでいた分けじゃないんだからねぇ!」
数々の飛竜との修羅場がノアの射撃の腕前を格段に鍛え上げていた。
「当たれぇ!」
「ひえぇ!俺の刀ぁ!」
ッドゥ!
バーダの叫びも空しく非情にも弾丸は放たれた。
ヒュゥ…
刹那の風斬音の後、
ノアの放った弾丸は見事、鬼斬破の刀身に命中する。
ギャリイィィー――ン!バリバリバリィ!
その瞬間、電撃がさらに弾け輝きを強く増した。
強く弾けた電撃によってガノトトスの動きが一瞬止まる。
その一瞬をノアは見逃さなかった。
「まだまだぁ!」
さらに弾丸を発射する。
動きの止まった目標ならば当てる事はさほど難しい事ではなかった。
ノアは連続で弾を当て続ける。
ガノトトスは体内に流れる強烈な電撃によって痺れ、完全に動きを止めていた。
「効いてる!効いてるぞ!」
カロンはここぞとばかりに電気双剣のスイッチを入れ、
ぎりぎり届く位置にまで下がって来たガノトトスの腹に、高速回転する鋸(のこぎり)をねじり込む
「ぃいー―ぃゃっほぉー―――!」
鋸が皮膚を切り裂き、肉をえぐる。大量の鮮血がカロンに降り注ぐ。
ドーンも負けじと下がって来た腹を連続で斬り付ける。
「行ける!これなら行ける!」
水竜の腹は足に比べて遥かに斬り易く、武器の性能を100%発揮出来る様だった。
好機とばかりに嬉々として斬り付ける2人だったが、その巨体に似合う肉の厚さに阻まれ致命傷を全く与えられないでいた。
何とか致命傷を与えようとして下手をすると刃が食い込み、バーダの二の舞になってしまう恐れもある。
「くぅ!このまま斬り続けるしかないのか!?」
ドーンの叫びが響く。
弾丸が刀に当る衝撃と、電撃の熱により肉が焼け、元々切れ味の鋭い刀であった為か
首に刺さっていた刀が抜けそうになっていた。
と、次の瞬間、音も無くスルリと首から抜け落ちると、ドスッという音と共に半回転して刀身が地面に突き刺さる。
落ちた刀を慌てて拾いに行くバーダ。
「ふうぅ、お帰り、鬼斬破ちゃん。しっかしこれで良かったのか、悪かったのか…」
無事に帰ってきた愛刀を手にすると、今まで手持ちぶたさになっていたバーダが思わず呟いた。
「バーダ!こっちに来てお前も手伝え!」
刀を手にしたバーダを見つけるとカロンが叫ぶ。
「わぁってるよ!今行くぜ!」
「どぅりゃああぁぁ!」
ひゅんっ…と風を切り裂く音がすると、バーダの頭上の肉がばっくりと裂け、一瞬遅れてどばっと血が噴出す。
「よっしゃ!この低さなら内臓まで刀が届きそうだぜぇ!そおらぁ!もういっちょぉ!」
掛け声と共に反す刀でさらに斬り付ける。
「バーダの刀なら致命傷を与える事が出来るかも知れない!」
ドーンはその斬り口を見て言った。
「あぁ!頼むぜぇバーダぁ!」
「任せとけって!」
カロンの言葉にバーダが答える。
「皆がんばってるんだ!何とか麻痺の時間を稼がなくちゃ!」
ドウン!ッウンッ!ドウンンッ!
ノアは残っていた麻痺弾を全弾ガノトトスに撃ち込む。
電撃による痺れが解け掛かっていたガノトトスをさらに麻痺弾による麻痺が襲う。
「よぉー―し!狙う場所は…そのでっかく開いたお口の中よ!」
麻痺をしたガノトトスに追撃を与えるべく、ノアが貫通弾をボウガンに装填し発射する。
水竜の巨体に針のような弾丸の攻撃。
いかに貫通弾でも正確に弱点を狙えなければ効果は薄い。
鱗や骨に当れば弾道は反れ、弾は弱点を狙う所か見当違いの方向へ飛んで行く事となる。
「突き抜けてる様子は無いみたいだけど…途中で止まってるのかしら?」
ノアの予想通り、貫通弾はガノトトスの体内で止まっていた。
強靭な筋肉と分厚い肉。鉄のように堅い骨格が弾丸の進入を阻んでいたのだ。
「うぐぅ…弾は十分にあるわ。蜂の巣にしてやるんだから!」
ノアは諦めずにボウガンを撃ち続ける。
愛銃の改良か…それとも新しい銃に…
長く使い続けてきた父の形見とも言えるボウガンだったが、流石にその非力さに嫌な考えが頭に浮かぶ。
皆の足手まといにはなりたくない。けど…この銃は…
『ガンナーはそのスタイルの特性上、常に周りの状況を把握し仲間の安全を確保しながら戦う。それが基本なんだよ。
いくら強力なボウガンを持っていても、それが出来なければ仲間の危険が増し、しいては自分の命の危険も増してしまう。
だから父さんはこのボウガンをずー―っと使い続けているんだ。』
『お前や母さんよりもこいつとは付き合い長いんだぞ』
『ピンチの時こそ何でも知っている自分の愛銃の真価が発揮される時だ』
『信じるんだ自分の銃を』
彼女の頭の中に父との思い出が一瞬だけ思い浮かぶ。
その思い出を噛み締めるようにコクンと一度だけ頷くと、思い出の中の父に向かって言う。
「分かったよ、お父さん!私の頼れる相棒なんだ!私が信じてあげなきゃね!」
彼女がそう思った時、弾道が僅かに右に反れている事に気が付いた。
「あ、ごめんね。今日はちょっと機嫌が悪かったんだね」
ノアはそう自分の銃に話し掛けると、再度貫通弾を撃ち始める。
弾は一直線に水竜の体内に突入すると、一瞬後に背中の後ろの方から飛び出した。
ノアの放った弾丸は、見事に体組織を突き破り、そして貫通し、弾の効果を最大限に発揮しているのだった。
ドドオォォー――ン…
足も痺れているガノトトスは、バランスを取れなくなって大きな音と共に地面に倒れこむ。
「うっほぉ!あぶねぇあぶねぇ!」
巨体に潰されそうになったバーダが転がりながらドーンの方へ来た。
「大丈夫かバーダ!」
「何とかな、だがこいつはまだくたばっちゃいねぇようだ。ガンガン行くぜぇ!」
「あぁ!」
『このまま攻撃を続けていればこいつは狩れる!』
ドーンの頭に楽観的とも言える考えが浮かぶ。
それ程にこの状況は、彼女達にとって有利に思える状況だった。
「兎に角腹だ!鱗のない腹を斬って、斬って、斬りまくれぇ!」
「っしゃあぁぁ!」
「たああぁぁ!」
カロンの指示と共に一斉に腹を斬り始めるドーン達。
何度斬り付けただろうか…並の飛竜ならばとっくに絶命していてもおかしくはないくらい斬っているはずだ…
ドーンがそう思った瞬間、麻痺の切れたガノトトスが突然暴れ出した。
「くそぉ!」
「くぅ!」
暴れる水竜の巨大な足が3人の居る場所へ振り落とされる。
ガッキイィー――ン!
ドーンは盾をバーダは刀を防御に構え、振り落とされてきた足を受け止める。
その一撃は、防御をしても数メートルも吹き飛ばされてしまう程に強烈なものだった。
「お前ぇら!大丈夫かぁ!?」
何とか体勢を整えながらバーダが叫ぶ。
「カ、カロン!」
ドーンがカロンの名を叫んだ。
その叫んだ先には、カロンがうずくまっていた。
防御の出来ない双剣使いの彼は、
突然の攻撃に避けきれずにドーンとバーダの3倍以上も離れた場所まで吹き飛ばされていた。
「カロー――ン!元気かぁ!?」
バーダの声が聞こえたのかカロンがうずくまりながら小さく手を上げて答える。
「何とか生きてるみてぇだな…」
『ちぃ…なんてこった…俺とした事がドジっちまったぜ…』
彼の心に麻痺による攻撃の簡単さに慢心があった。
『調子に乗るなって、バーダの野郎にいつも言ってる俺がやっちまうとはな…』
自分に言い聞かせるように頭で愚痴る。
『息がし難いな…肋骨が何本か持っていかれたか…ちきしょうめ…』
激しい動きで体力を使う双剣使いにとって呼吸法はもっとも大事な要素だった。
その呼吸法が上手く出来ない状況は戦闘力の大幅なダウンに他ならない。
さらに、満足に動けない事は防御の出来ない双剣使いにとって、命の危険もさらに増大するのだ。
「だが、ここで死ぬわけにはいかねぇんだ…皆で無事に帰ってアイツの手料理を食ってやらなきゃな…」
カロンが残り少ない体力を振り絞って立ち上がる。
「いくぜ、おらぁ!」
両手を高く掲げ気合を入れると全身に赤いオーラが現れる。
鬼人化。
それは双剣技の奥義であり、最も体力を消費する技。
全身の筋力を呼吸法と気のコントロールで極限まで高め、相手を粉砕する。
万全の状態ならば何の問題もなかっただろうが、今のカロンの状態での鬼人化はそれだけで命の危険を伴うものだった。
一瞬にして体力が枯渇しその場で気を失ってしまってもおかしくはない。
だがカロンはそれをやってのける。
それは彼の精神力の強大さ。
そして仲間を思う気持ちの強さ。
カロンゆえに出来る芸当なのだ。
「お帰り!カロン!」
「ずいぶんと寝坊だなぁ!カロンよぉ!」
ドーンとバーダの下へ走ってきたカロンに声を掛ける2人。
「あぁ、待たせたなぁ!」
カロンはバーダの相変わらずの軽口に励まされながらも、いつもの様子で答える。
ガノトトスは完全に麻痺が解けその巨体を起こし立ち上がっていた。
「いっくぜぇー――!」
「おうよぉ!」
「あぁ!」
ノアは再度麻痺を狙う為に、新たに強力な麻痺弾をポーチから取り出すと装填する。
ドウッ!
「きゃぁ!」
彼女の想像以上の反動があり、勢い余って尻餅を突いてしまった。
「あぶないあぶない…気を付けないと、私の方が的にされかねないわね…」
ノアは麻痺弾による反動の強さもさる事ながら、装填作業にも手間取っているようだ。
弾丸の装填中や反動による仰け反りは無防備になってしまう為、特に注意しなければならない。
一瞬の判断ミスが死に繋がってしまうのだ。
はぁはぁ…はぁ…
『くう、意識が飛んじまいそうだ…』
カロンが水竜の巨木の様な足を攻撃しながら、気合で何とか意識を繋ぎ止めていた。
「しっかし、こんだけやられてるってぇのにまだ動けるんかよぉ」
滅多に言わないのだが、水竜の驚異的な体力に半ば諦めに近い愚痴を漏らしてしまうカロン。
それだけこの戦いが熾烈を極め、彼らの体力にも限界が近い事を表していた。
「ここで仕留めなければさらに犠牲者が増えてしまうんだ!何としても倒さなければ!」
その言葉を聞いたドーンが励ますようにカロンに言った。
「あぁ、そうだぜカロンちゃんよ!何ならあっちで休んでいてもいいんだぜぇ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!冗談も程々にコキやがれ!今すぐにでも止めを差してやるぜ!」
「頼もしいねぇ!」
バーダがひゅぅ〜っと口笛を吹く。
水竜の体当たりをかわしながら何とか巧みに斬り付けて行くドーン、バーダ、カロンの3人。
『バーダは見るからに元気いっぱいだ。まだまだいけそうね』
『カロンの動きにいつものキレが無い…まさかさっきの攻撃で?』
『ノアは新たに麻痺弾を撃ち始めているみたいだ…』
ドーンは周りを一瞬だけ見回すと仲間の様子を確認する。
『そして、問題は…』
ドーンが見る先には太古の水竜ガノトトス。その異常なまでの巨大な姿があった。
ギルドからの依頼で人が消えてしまうという事件の調査から始まり
自分に瓜二つの女性、アイリーンの存在。そして、アイリーンの優しい家族達との出会い。
忘れかけていた母との思い出…
事件の原因かもしれない古代の水竜を探してジャングルへ、
初めて目の当たりにする巨大な魚竜の姿。
こいつを倒せば全てが終わる。
『私がやらなければ……いや…私達…が…』
「私達が…ここで!終わりにするんだぁ!」
「っしゃぁ!」
「おうっ!」
「うん!」
ドーンの叫びに皆が一斉に答える。
グギュウウエエェェェ…
ガノトトスが気味の悪い鳴き声を上げながら体を硬直させ動きを止める。
ノアが撃ち続けていた麻痺弾の効果がやっと表れたのだ。
「やったぁ!どうだ!」
「うっしゃぁ!これでカタぁつけちゃるぜ!」
バーダが吼える。
「もう麻痺弾がほとんど残ってないわ!これが最後の麻痺だからねぇ!」
「分かった!よし、今度は私達の番だよ!」
「おー―よ!」
「いくぜぇ」
ドーンの掛け声と共に麻痺をして身動き出来ない水竜へ一斉に斬りかかる。
「たぁ!そら!やぁっ!」
短い掛け声と共に雷神剣インドラを走らせ素早い連撃を繰り出すドーン。
「うらうらうらぁ!」
カロンは最後の気力を振り絞り正式採用機械鋸を振り回し鬼人双剣奥義の乱舞攻撃をする。
「どぅりゃぁぁ!っせいやぁぁ!」
バーダは全身の力を籠めて一撃一撃大刀鬼斬破を掲げ振り下ろす。
ドーン、バーダ、カロンの全力で最後の攻撃が続く。
3人の攻撃も空しく麻痺が解けた魚竜は上体を大きく持ち上げ、戻る勢いからそのまま体全体を回転させる。
「うおぉ!速えぇ!」
バーダが想像以上の回転の速さに堪らず身を下げる。
「しまっ…!」
ガキンッ!
迂闊にも堅い足の鱗に攻撃を当ててしまい、ドーンの剣が弾かれてしまう。
その瞬間、後ろに仰け反り大きな隙が出来てしまった。
ギュンッ!
今だガノトトスの巨大な尻尾が振り回されていた。
「!」
ドウッ
無防備になっていたドーンにまともに尻尾の回転が当たる。
当った瞬間にドーンは気を失い、彼女の体は宙を飛び数メートル後方へ吹き飛ばされた。
「ドォー――ンッ!」
ノアの悲鳴にも似た声が響く。
「うおぉ!ありゃやべえかもな」
「くそぉ!このクソ野郎が暴れてて手が離せねぇ」
尻尾の回転を止めない魚竜に、バーダとカロンはその場を動けないでいた。
「ドーン!今助けに行くわ!」
ノアは回復弾を装填するとドーンの下へ駆け寄る。
「待てノア!こっちに来るんじゃねぇ!奴が狙ってやがる!」
バーダが叫んだ。
ノアがバーダの声に気付いてガノトトスの方へ目を向けると、
水竜は彼女目掛け、上体を仰け反らせて水流のブレスを吐かんとする寸前だった。
「くっそおぉぉ!」
バーダがノアの方へ駆ける。
ドキュウゥゥー―――ン!
銃声にも似た音を発しながら水流が放たれた。
ドオオオォォォンン!
一瞬にして数十メートル先の岩肌に激突すると、当った壁を粉々に破壊して大穴を空ける。
「ぐあああぁぁ!」
叫び声を上げたのはバーダだった。
見ると彼の右腕は不自然に曲がっている。
バーダはギリギリで間に合い、右手でノアを水流の射線上から突き飛ばしたのだ。
だがそれによって彼の右腕は水流に呑まれ、その勢いによって完全に折れてしまっていた。
「バーダぁ!」
「俺の事は構うな!それよりドーンだ!」
「分かった!死なないでね!」
彼に促されドーンの下へと走り出すノア。
「バーダさんよ、ボロボロだなぁ」
「カロンさん、お前も人の事は言えねぇよ」
「はっ!違えねぇ」
カロンがバーダの側へ来ると、早速軽口を叩き合う2人。
お互いこれでも、十分以上に心配しているのだ。
「奴の注意をこっちに向けるぜぇ…行けるかカロン?」
「当たり前だ、つかお前は行けるのかよ?」
「全然余裕だぜ」
「上等ぉ、なら先に行かせてもらうぜぇ」
カロンはギッとガノトトスの方向を睨むと、
辺りを窺う(うかがう)様に巨体をゆっくりと動かしている水竜に向かって走り出す。
「うらぁ!こっちだこっちだ!」
カロンは手を大きく振りながら大声で叫ぶ。
「くっそぉ、全然反応しやがらねぇ…」
「おい、カロンあれだ、あれ!でっかい音が出るやつ!」
よろよろとカロンの側まで歩いて来ていたバーダが言った。
「そうか!音爆弾だな!」
「そうそう、それそれ!」
カロンはポーチから音爆弾を素早く取り出すと、その動作から投げる動作へと間髪入れずに繋げ、そして投げる。
ッドキィィー――――ン!
金属がぶつかり合うような強烈な爆音が辺りに響く。
「ん?もぅいっちょぉ!」
ドキィィー――ンッキィィー――――ン!
ありったけの音爆弾を連続で投げるカロン。
「あ、あれ?ダメぇ?」
バーダがいかにも当てが外れたといった表情で言った。
「もしかして、水の中じゃねぇとダメなんじゃねぇのか?」
「だぁー――!マジかよぉ!」
カロンの言葉にがっくりと肩を落とし落ち込むバーダ。
「くそったれぇ!こうなりゃドつくっきゃねぇ!」
「っしゃぁ!行くぞぉー――!走れぇ!」
最後の手段とばかりに急いで走り出す2人。
そんなカロンやバーダには目もくれず、ノアに向かってゆっくりと歩くガノトトス。
歩く、と言ってもその巨体での一歩は数メートルもあり数歩でノアの下へ辿り着いてしまいそうだ。
ドシン…ドシン…ドシン…
びしゃぁ!ぶしゅ…
ガノトトスが歩く度にその体から大量の血液が噴き出ている。
さすがの水竜もその身に受けているダメージは相当なものだった。
この、ただの食料だと思っていた小さな生物が、これ程までに自分を傷付けるとは想像も出来なかった事であろう。
恐らく魚竜には、今自分の命が残り少ない事がはっきりと理解出来ていないのであろうか、
いや、およそ全ての生物の本能は自らの命が最優先になるように出来ているはずである…
しかし、この水竜は違っていた…
目の前の食料が自分を攻撃し敵に変わった時、その意識はただ一点の怒りに包まれ、
我々の敵を殲滅せよ…とのイメージが彼の全てを支配していた。
それは、黒い、黒い、黒い、果てし無く黒く、真っ黒な闇だった…
「ノアぁ!気をつけろぉ!」
ガノトトスの後ろから必死で駆けて来ているバーダの声が響く。
ッドゥ!
ノアがドーンに向かって回復弾を放つ。
「う…ん…」
回復弾の効果によってドーンの体力が僅かながら回復し意識を取り戻す。
「ドーン、大丈夫?」
「あ…ノア?何とか大丈夫…みたい…」
次の瞬間。
ドーンの視界がガノトトスの巨体で埋め尽くされ、ノアの姿が消える。
「な…に!?」
横になっていたドーンに対して、立っていたノアはガノトトスの体当たりを食らってしまっていたのだ。
気付かないのかそのままドーンの上を歩いて行くガノトトス。
視界から消えたノアの姿を急いで捜すドーン。
「ノアァァー―――!」
ノアを見つけると彼女の名を叫びながら走り出した。
ガノトトスもノアを見つけるとその巨大な顔を彼女に向ける。
「はぁ…はぁ…はぁ…このぉ…」
ドーンは偶然に側まで飛ばされて来ていた鬼斬破を手に取ると、ノアの前に立ちガノトトスに向かって立ち塞がる。
だが、そんな事はお構いなしにドーンとノアに水竜の牙が襲い掛かる。
「くそったれぇー――!逃げろおぉぉ!」
バーダの悲痛な叫びが辺りに響いた。
ッガァウゥ!
気色の悪い鳴き声と共にガノトトスの口が2人を覆い隠す。
ズガッ!
そして、水竜の顎が地面に当り動きが止まった。
ドーンとノアの体は水竜の巨大な口の中に完全に隠れてしまっていた…
静かで、長い、長い一瞬の時間が流れた。
ゆっ…くりとスローモーションの様に水竜の巨体が横へと傾く。
体が地面に着くと同時に、
ッズ……ドドオォォォー――ンン…
大きな音と地面に溜まった水溜りが水飛沫を上げて巨大な体が倒れ込む。
「殺った…のか?」
カロンが倒れる水竜を見ながら呟く。
「くそぉ…ドーンの野郎、無茶しやがって…ガノトトスを狩っても死んじまったら何にもならねぇじゃねぇかよ…。
お前の事、ロレッサに何て報告すりゃぁいいんだ…」
下を向き、何も出来なかった悔しさのあまり、大粒の涙を流しながら嘆くバーダ。
「おい!」
「ぐすっぐすっ…」
「おい!バーダ!」
「何だよカロン!うるせぇな…俺は今なぁ悲しみと悔しさで…」
「バーダぁ!一体誰が死んだってぇ!勝手に殺すんじゃないよ!」
バーダの耳に聞き覚えのある声が飛び込んだ。
これは、紛れも無い、
「ドー――ン!?」
の声だった。
「ふえぇ…死ぬかと思ったぁ…」
「ノ…ノアぁ!お前ぇら!生きていやがったかぁ!」
ドーンの後ろからひょっこりと顔を出したノアを見つけるとバーダの歓喜の声が木霊する。
ノアのボウガンはバレルが曲がり、大きく丈夫なはずのグリップにはヒビが入りボロボロになっていた。
ボウガンを背中に背負った瞬間に体当たりを喰らったので、
衝撃の殆どを銃が吸収しノアのダメージは最小で済んだのだ。
これは、奇跡と呼ぶに相応しいくらいの出来事だったが、ノアにはそんな風にはとても思えなかった。
『ありがとう…お父さん…』
「マジかよ!奇跡だぜぇ!すげぇすげぇ!」
ドーン達の下に走り寄るバーダ。
「一体どうやって助かったんだぁ!?」
「さぁ…私も無我夢中で…この刀を…ってあれ?」
ドーンの手に鬼斬破は無かった。
カロンがガノトトスの生死を確認する為に頭部の方へ近づく。
「こいつか…」
そこには、水竜の喉の奥に、根元まで深々と突き刺さった鬼斬破の姿があった。
彼が引き抜くとバリッという音と共に小さな電気が弾け、刀身が姿を現す。
「おそらく刀身が脳まで達し、刀の電撃が脳髄を破壊したんだろう」
カロンが鬼斬破を持ち、ドーン達の方へ歩きながら話した。
彼の言葉に一斉にその方向を向く3人。
「しかし、無茶しやがるぜ。真っ直ぐに刀を突き刺さなければとても脳までは届かねぇし、
奴の絶命が一瞬でも遅れていたら、あのまま食われてもおかしくなかったんだぜ。
それに、脳を破壊してもすぐに顎の動きは止まらねぇ。地面に食い込んで、それ以上顎が閉じなかったのも救われたな」
やや呆れた表情でカロンが言う。
「ごめん…でもあの時、何とかしなければノアがあぶないって、自然と体が動いていたんだ」
「まぁ何にせよ生きてて何よりだぜ!
お前らに死なれたらバーダの野郎が涙の流しすぎでカラカラに干乾びちまう所だからな!」
バーダを親指で指し、笑いながらカロンが言った。
「なっ!カロンてめぇ!冗談にも程があるぞ!」
「本当の事じゃねぇか!本当の事言って何が悪りぃんだよ!」
バーダとカロンは水竜との戦いで疲労困憊(こんぱい)のはずなのだが…追いかけっこを始めていた。
「きゃはは!2人共元気だねぇ。ね!ドーン」
ノアが追いかけっこをするバーダとカロンを見て大声で笑いながら言った。
「2人共ありがとう…心から心配してくれて…」
「ん?何か言った?」
ドーンの小さな声を聞き取れなかったのか聞き返すノア。
「いや、あの2人はいつでも元気だねって!」
「そうでしょぉ、呆れちゃうわよぉ」
「こらぁ!喧嘩は帰ってからにしろぉ!」
ドーンがいつまでも止めないバーダとカロンに向かって言った。
しかしその声は全く怒っておらず、いつのまにやらドーンとノアも雑ざって、大声で笑いながら追いかけっこを始めるのだった。
そんな彼らを戦いの終わりを告げるかのように赤く大きな夕日が、
水竜の巨大な屍と走り回る4人の姿を照らしていた…
〜本当の意味での始まり〜
街はずれ
広大な草原を見渡す街はずれの一本道。
振り返れば遠くにラグナコッタの町並みが見えている。そしてその後方には4人の勇敢
なハンター達が死闘を演じたジャングルがかすかに見え、高台にある遺跡後が勇敢な
4人のハンターを見送るかのように日の光に照らし出されていた。
大きなバッグを手にした4人は誰とはなしに立ち止まると、街の方を振り返った。
時々吹いてくる優しい風が、草原と4人の髪の毛をなびかせている。
「ふうっ、しかしホテルのあの人の多さには参ったな!」
「ああ、あれだけの人達に見送られるとはな・・・はは・・・。」
ドーンとバーダは、顔を見合わせると少し苦笑いを浮かべながら同時に髪を掻きあげた
「もしかして俺達は、とんでもない事をやっちまったのかもな!」
「かもね〜!わたし達って有名人??」
カロンとノアも遠くに見える街を見渡しながら、伝説の中の伝説と言われる古代水竜を
打ち倒したことに、感慨深そうにしていた。
そんな4人を名残惜しそうに見つめるポールとアルベルト。
「みなさん、この度は本当にお世話になりました。原因の伝説の水竜を倒したという
ことで、街では凄い騒ぎでしたね。もう少しゆっくりしていって欲しかったのですが」
アルベルトに続いてポールがドーンの手を握ると満面の笑顔を見せている。
「ドーンさん、そしてみなさん!本当にありがとうございました。エレナさんも元気に
なり、なにもかも、みなさんのおかげです!ただ・・・」
ポールはそこまで言うと急に悲しそうな顔に変わり、アルベルトの方をチラっと見ると
ひとつ頷いて話を続けた。
「ドーンさん達が倒した古代水竜ですが・・・お腹を切り開いたところ・・・・・・
アイリーンの指輪が・・・」
そこまで言うとガックリうなだれるポール。
その言葉にドーン達も思わず下を向いてしまう。
そして、その瞬間ドーンの脳裏に蘇える古代水竜を倒したときのふたつの幻影・・・。
そのひとつは、自分に瓜二つのアイリーンの姿・・・。
そしてもうひとつは、アイリーンが消えた後に現われた大きな黒い影・・・。
大きな不安を胸に抱きながらもアルベルトとポールに別れを告げる
「此処まで見送りに着てくれて、どうもありがとう! ポールさんアルベルトさん! では私たちはもう行きますね!」
そこまで言うとポールとアルベルトに軽くお辞儀をし、ドーン達は自分達の街ミナガルデへの帰路に発っていった
〜一週間後〜
「ふぅ〜やっと帰ってきた〜」
懐かしいミナガルデの夜風がドーンや他の三人の体を包み込む
「うお〜やっぱミナガルデが一番だぜ、な! みんな!」
「ああ! そんなことより、バーダ! 早くギルドへ行って一杯やろうぜ!」
カロンの言葉にバーダはうんと頷きドーンとノアの肩をぽんっと叩いた
「お前らもどうだ? ビールで一杯? ん?」
目をキラキラに輝かせてバーダはドーンとノアを誘うがドーンとノアは旅の疲れでクタクタのようだ
「私たちは、ごめんだけどやめとくよ」
「バーダとカロンだけで楽しんできて!」
ドーンとノアの答えを聞いたカロンとバーダはギルドへと一目散に走っていった
「あの二人は、ほんとにお酒好きだね」
「ねえ、ノア、早く家へ帰ろう、多分姉さんも帰りを待っていると思うし」
自分達の家へと歩き出した二人、数分後、家に着くと上機嫌で家の中に入る
「ただいま〜」
「あ! お帰りなさい! ずいぶん長くかかったのね」
そう答えたのはドーンの姉ロレッサだった
「ロレッサさん!ただいまです!」
「おかえり!ノアちゃん!」
その場での談笑を済ませると家の奥にあるキッチンに向かいテーブルの椅子にドカッと座りお腹を撫でるドーンとノア
「姉さん〜! お腹すいたぁ〜」
「はいはい! 今、作ってあげるからね」
ロレッサはそう言うと夕食の準備を始めた
「ノア、暑いからそこの窓開けてくれない?」
「うん、いいよ!」
ドーンの頼みに答え窓を開けたノア、しかし窓を開け外を見渡すと妙な事に気づいた
「なにあれ・・・山が動いてる・・・」
「なに? どうしたの? ノア?」
外をボーッと見ているノアを不思議に思ったのかドーンも窓の所まで行き外を見渡した
「なに!? あれ!? 」
ドーンとノアが見たものは誰もが驚くであろう光景だった
山を流れる川のように何かがこの街に向かってくるのだ
二人が妙な光景に目を奪われている時だった、街の警笛が何かを知らせるように街全体に鳴り響いた
「え! なになに!? 何が起こったの!?」
家の中にいたドーンとノアは勢いで家の外に飛び出した
「おーい! ドーン! 早くこの街から離れるんだ!」
大声でドーンを呼び、向かってくるのは警笛鳴らしのボードックだった
「ボードック!? 何があったの!?」
「ミ、ミッドランド軍が攻めて来たんだ!」
「何だって!?」
街の東側では火の手が上がっている、それと同時に民衆の悲鳴が聞こえてきた
「クッ!」
ドーンは火の手が上がっている方向へ走り出す
「ノア! 姉さんを連れて隣街のラッククリアに向かって!」
「わかった! でもドーンはどうするの? 」
「わたしもバーダとカロンを連れて後から向かうから!」
そう言って走り出そうとするドーンをボードックが止める
「行くなドーン! どうせ戦うつもりだろ! 言っておくが軍を指揮して先陣きっているのはミッドランドお抱えのハンター、ナインブレイカーだ! やつらに勝てるのは、この国じゃあアームズだけだ!止めておけ!」
そんなボードックの注意には耳をかさず、ドーンは火の手が上がっている方向へ走り去っていった
「はぁ…はぁ…」
鎧は身に着けず、咄嗟に掴んだ片手剣のみを持ち、逃げ惑う人々に逆らい掻き分けながらドーンは全力で走っていた。
『あんな大軍が攻めて来ているってのに、街の様子はいつもと変わらなかったってのはどういう事なんだ…』
あれ程の行軍に誰も気付かない分けが無い。
ミナガルデの街はいつもと変わらず、戦争の準備が行われている気配は全くなかった。
『王は街を捨てる気なのか…?』
だが、今はそんな事に気を掛けている暇は無い。
すでに街中にまでミッドランドの軍隊が迫って来ているのだ。
火の手が上がっていた場所に警備兵の姿は無く、ドーンが一番最初に来た様だった。
門はすでに破られ炎と煙の中にミッドランドの兵士の姿が見えている。
ドーンはその場に立つと、ありったけの大声で叫んだ。
「私はミナガルデのハンター!ドーンだ!ナインブレイカーに会いに来た!」
暫らくの沈黙。
炎の燃える音と、遠くからは未だに悲鳴が聞こえていた。
「お前1人か」
「…!」
ドーンの後ろから不意に声を掛けてくる者がいた。
彼女が驚いて振り向くと、
通常よりも倍近い大きさの黒いドスランポスに跨り、全身を黒い不気味な甲冑に身を包んだ人間がそこに居た。
人間?
一瞬、飛竜に睨まれた時の様な感覚がドーンを襲っていた。
「どうした?お望みの者が目の前の居るのだぞ。何か言ったらどうだ?」
顔は兜によって半分以上隠れていて窺い見る事は出来なかったが、その声は女性のそれに思えた。
そして、彼女が身に着けていた鎧は黒く不気味に輝き、
まるで鎧自体が生きているかの様な得体の知れない威圧感を放っていた。
「ナ、ナインブレイカー?」
驚きで体が硬直しそうになりながら、声を振り絞る。
「わ…私はミナガルデのハンター、ドーン。今すぐ軍を引いて欲しい」
一瞬の沈黙…
「ふ、ふははははは!貴様、面白い事を言う」
「冗談で言っている訳じゃない。私は本気だ」
「本気であっても、お前の様な一介の狩人風情の言葉一つで軍が止まると思ったか?」
「く…!」
確かにその通りだ、だがここで引く分けにはいかない。
何としても侵攻を止めなければ大切な街や人々が戦乱に巻き込まれてしまうのだ。
「ならば、力ずくででも止める!」
決意を込めて言い放ち、剣を抜く。
「ほう、お前1人で我が軍と殺り合おうというのか?」
「私だけじゃない、この街には沢山のハンター達がいる。皆立ち上がってくれるはずだ」
「命を賭けて時間稼ぎでもするつもりか?」
「……」
ドーンは黙ってナインブレイカーを睨み付ける。
視界の中にはミッドランドの兵士の姿が映っているが街中に侵入する気配は無い。
ナインブレイカーの指示を待っているのだろうか…。
「私はお前が気に入ったぞ、ここで死なすには惜しい存在だ。どうだ、私と一つ手合わせをしてみんか?」
「…!?」
「私に勝てたら一時、軍を止めてやろう。その隙に逃げるなり戦う準備なりすればいい」
「もし、負けたら…?」
「軍は止まらん、ただちに侵攻を開始する。ただそれだけだ」
ドーンにはナインブレイカーという人物の考えがよく理解出来なかったが、これはチャンスだった。
約束を守るという保障はないが、もし負けてしまってもこの戦いで時間を稼ぐ事が出来る。
元より選択の余地の無かった彼女には、この申し出を断る理由は無かった。
「……分かった、あんたと勝負するよ」
兜の隙間から覗く口元が僅かに歪んだ様に見えた。
「よし、ラズ!」
10m程離れた場所から1人の男が走って来た。
「はぁ…はぁ…はい、ここに!」
ラズと呼ばれた男は、ナインブレイカーの元に到着すると胸に腕を横に当てながら敬礼の姿勢をとった後、
直立不動の形をとって命令を待った。
「ここで一旦休憩だ。先発隊は街門の外まで下がらせろ」
「えーこんな所でですか!?ま、また怒られますよ…」
ラズは突然の言葉に驚きながら、どうしたものか目の前の黒い鎧の主をちらちら見ながら悩んでいる様だった。
「さっさと後方に伝令を回せ!
それと、これから起こる事には一切の手出し口出しは無用だぞ。
もし、この約束を違えた時には貴様の首と胴が離れ離れになるから覚悟しておけ!」
中々行動しない男に向かって一喝すると、腰の刀を抜き放ち首の側に切っ先を突き付ける。
「りょ、了解しましたぁ!」
剣を突き付けられて一瞬で観念したのかごくりと大唾を呑み込むと、
ラズは再び敬礼をして全速力で街門へ向かって走って行った。
カシャン…
その黒い甲冑は見た目よりも遥かに軽い音を奏でながら、ナインブレイカーは黒いドスランポスから飛び降りた。
ドスランポスは尻尾の付け根をバシッと叩かれると、破壊された街門の方へ走って行く。
「ふぅ…待たせてしまったな、軍を指揮するのは意外と大変なのでね」
ドーンとナインブレイカーは、お互いに向き合い、2m程の距離を空けて立っていた。
黒衣の女は腰に戻していた剣を再び抜くと、一振りして感触を確かめる。
その剣は彼女の姿と同様に黒い輝きを放ち、それは形容し難い不気味な形と威圧感を放っていた。
「まずは、好きに撃ち込んで来るがいい」
黒衣の女は無防備に立ちながら言った。
底知れぬ威圧感がドーンを襲っていた…見た目には隙だらけなのだが何かが彼女の攻撃を躊躇させていた。
「……行くぞ!…ってやあぁぁ!」
ドーンは気を振り絞り剣を振り上げた。
だが、その一撃は宙を斬る。
「!」
そのまま体を捻りながら二撃目の薙ぎ払いを繰り出す。
しかし、それも宙を斬ってしまう。
「良い太刀筋だ。剣の流れに迷いも無く、体捌きも良い」
「このぉ!」
ッガキイィィン!
今度のドーンの剣は黒い甲冑の肩当てに当り止まった。
避けもせず、剣も構えず黒衣の女はただ立ったままドーンを睨み付ける。
「お前は人間同士で殺し合いはした事あるか?」
「いや…」
「そうか、ならば注意する事だ。私は飛竜とは違うぞ」
ドーンは盾で体を押し退けられ後ろへと下がる。
「奴らの動きは単調だ…だが人間は…違う!」
ドーンは一瞬のその動きから正面の突きだと判断し、盾を構え攻撃に備えた。
「!」
「あまく考えているとこうなる」
構えた盾の隙間、黒い剣の切っ先がドーンの右肩に突き刺さっていた。
剣を抜かれるとその傷口から血が滲み出て彼女の服を赤く染める。
「…っくぅ…途中で止めた…?」
「簡単に終わってしまっては、折角の余興が詰まらないものになってしまうからな」
「それにこれは、剣の軌道を変えたのか…」
ナインブレイカーから目を離さない様、ドーンはよろよろと傷口を押さえながら立ち、
血の滲み具合や触った感触から傷の度合いを確かめる。
傷は致命傷にはならずに済み、何とかまだ戦える状態ではあった。
「御名答。盾は正面に構えるのでは無く、攻撃を裁く為にもう一本の剣の様に扱う様にしろ。
そして良く覚えておくのだな…人と飛竜との違いをな」
「あぁ〜あぶな〜いぃ…見てらん無いよぉ」
「くっそぉ、全くだ。いつまでこうして見てなきゃならんのだ…」
「お前ら、静かにしろ」
その声はノア、バーダ、カロンの3人。彼らは10m程離れた物陰からドーンの戦いを見ていたのだった。
「ドーンのおかげで先発らしき部隊が街門の外まで後退してる。そいつを今確認中だ。
俺達が動いてそいつらを刺激しちまって、また軍が動き出したらドーンの行動が水の泡になっちまう。
それにまだ、街じゅうのハンターが集まりきってねぇんだ。もう少しの辛抱だ…って」
銃を構えるノアと刀に手を掛けるバーダをカロンは慌ててガッシと押さえ付けると
「ドーンならきっと大丈夫だ。辛抱しろっての!」
小声でたしなめる様に言う。
「んな事言ったってよぅ…。カロン、お前だってもう…」
バーダの視線の先、
そのカロンのこぶしは石畳に何度も撃ち付けたのか、皮膚が破れ血だらけになっていた。
「次は途中で止めんぞ」
「あぁ…」
ドーンの心は今迄に感じた事の無い高揚感でいっぱいになっていた。
目の前の強敵をこの手で倒してみたい…そう純粋に感じていた。
ナインブレイカーの剣撃は一撃一撃どれも強烈なものだったが
ドーンは、その攻撃を思い付く限りの技と極限まで高めた集中力で何とか凌いでいた。
「どうした!このままでは私に一撃も与えず終わってしまうぞ!?」
「うあぁぁ!」
ガギィ!
ドーンの盾が黒い剣の一撃を弾き飛ばす。
「!」
「っあぁぁ!」
ッドギィィン!
盾の重さを使いながら体を回転させ、斜め上に剣を振り上げる。
それはまるで双剣技の一つの様な技であった。
外れれば大きな隙が出来、危険な動きではあったが…見事に兜の中の顔面を捉えていた。
その一撃で黒い兜は宙を舞い、ドーンの腕には僅かに斬り付けた感触があった。
兜が脱げた事で腰まではあろうか深黒の美しい長い髪が姿を現す。
そして、顔を押さえた指の隙間から血が滴っていた。
「今の攻撃は良かったぞ…」
そう言いながら上げた顔には、右頬に鼻を掠って斜め上に伸びる刀傷が出来ていた。
長い髪で隠れてしまって良くは見えなかったが、彼女の素顔は思った以上に幼く、
恐らく顔立ちだけを見るとノアよりも幼く思えた。
『子供!?』
だがドーンが考える間も無く、ナインブレイカーは一層激しく剣撃を繰り出してくる。
「…く!くぅ!」
「今ので終わりか!?」
遊ばれているのか、ドーンの体は少しずつ切り刻まれていく。
そのうちの一撃が大きく振り被る攻撃に変わった瞬間、ドーンはその隙を見逃さなかった。
「っつあぁぁ!」
ドウッ!
ッズザアァァー―!
だが次の瞬間、ドーンは吹き飛んでいた。
剣を横に払おうと体を開いた所へ蹴りを喰らったのだ。
「剣を振り被ったからって、剣撃が来るとは限らんよ」
倒れたドーンに黒い剣が目の前に突き付けられる…
「あぁん!あいつ汚いよぉ!」
「もう我慢できねぇ!俺は行くぜ!」
「私もぉ!」
「あ!お前ぇらもうちっと待て!」
カロンの言葉を無視しバーダは飛び出し、ノアはボウガンを構え既に装填済みだった弾丸を放つ。
ドウッ!
…
ッキイィィィン!
ノアの放った弾丸はナインブレイカーが上げた左腕の手甲に当り弾け飛ぶ。
「うそぉ!?貫通弾だったのにぃ…」
「ノア…人間相手になんちゅうもん撃ってんだよ」
カロンは呆れた表情で言うが、同時に今目の前で起きた事に考えを巡らせていた。
『弾丸を弾き飛ばした事にも驚きだが、奴は全く動揺してねぇ…俺達が居た事に気付いていたってのか?』
「うおおおぉぉぉ!ミナガルデのハンター、バーダ!助太刀に来たぜぇ!」
「バ、バーダぁ!?」
突然のバーダの登場に目を丸くして驚くドーン。
「ドーン、待たせちまったな。すまねぇ…お前ばっかりに苦労させちまって…」
「いや、私が勝手にやった事だ。気にしないで」
「ナインブレイカーさんよ!周りは街じゅうのハンターで囲まれちまってるぜぇ!どうするよ!」
そんな気合十分のバーダを無視するかの様に黒衣の少女は兜を拾い再び被ると、ゆっくりと周りを見渡す。
「思ったよりも早かったな。中々どうして、ここのハンター共は優秀じゃないか。
もう少し楽しみたかったが…勝負は預けておこう」
「あ、あぁ…」
「明朝6時に侵攻を開始する。それまで今以上に戦争の準備を整えておくんだな。
それとドーン、戦場で会えるのを楽しみにしているぞ」
「時間を私達に教えてしまって良かったのか?」
「気にするな、それに嘘かもしれんぞ?飛竜と違って、人間は嘘をつく生き物だからな」
「ふ…」
「何だ?何だ?どうしちまったんだよ!敵同士なんだぜぇ!?」
「「気にするな」」
バーダの問いに2人が同時に答える。
「ちぃ〜…」
「ではな」
「あぁ」
ナインブレイカーは去って行った。
いや、しばらくすれば今度は戦場となったこの街でまた会えるのだろうが…。
こんな出逢い方をしなければ友達になれたかもしれない…そんな考えがドーンに浮かんでいた。
戦争は避けられない運命なのか?
ドーン達ハンターは戦火に否応無く呑まれていってしまうのか?
そんな思いを浄化するかの様に、眩しい程の月明かりが炎を上げる街と彼女達を煌々と照らしていた。
【完結】