異界より来し者〜crimson moon〜
カリオン様作







序章


「え?どう始めたらいいか分からないですって?」
「ああ。こういう取材は受けたことがないもんでね・・・・・・どういう出だしがいいと思う?」
「別にそんなこと気にする必要ないですよ。出だしがすべてじゃありませんし」
「それはそうなんだが・・・・・・どうも緊張してな。中々頭に思い浮かばないんだ」
「う〜ん、そうですね。なら、まずはあなたがハンターになるきっかけ、そこから話していただけませんか?原稿の締め切りまではまだ時間がありますし、原稿の掲載箇所も十分確保してあります。多少長くなっても問題ありませんよ?」
「そうか、わかった。じゃあ、一番最初から話すとしよう・・・・・・」


1964年 ベトナム


 赤い月。そういう噂が、兵士たちの間で囁かれていた。
「ああ、第3小隊の奴らも見たらしい」
「夜でもないのに、真っ赤な色をした満月が見えたそうだ」
「その月を二回見た奴は、神隠しにあうって話だ・・・・・・」
「馬鹿馬鹿しい。ただの噂だろ?」
 そう、ただの噂のはずだった。常に緊張の最中にある戦場では、さして珍しくもない話。目に見えない恐怖の前では、ただの偶然も恐るべき必然となってしまう。これも、その一つに過ぎない。・・・・・・そのはずだったのだ。
「じゃあ、この前の事故はどう説明するんだ!?一個小隊が丸々消えるなんて話、おかしいじゃないか!」
「どうせ敵に見つかって全滅したんだろ。死体がないからって、そう簡単に決め付けるのもどうかと思うがな」
「何だと!?」
 そして、お決まりの喧嘩。大規模な作戦を明日に控えた兵士たちの、もしかしたら最後になるかもしれない休息の夜。今夜ばかりは規律に厳しい下士官も多少のことには目を瞑り、兵士たちの好きなようにさせている。
「赤い月、か・・・・・・」
「中尉殿も信じてるクチですか?あの噂」
 思わず口をついて出た呟きを、小隊きってのお喋り士官、マルベック少尉が耳聡く聞きつけた。そのまま俺の座るテーブルに着き、ビールを注文する。
「ん・・・・・・まあさすがに神隠しとかはどうかと思うが、ちょっとな」
「忽然と消息を絶った第6小隊の連中のことですか?」
「ああ。あいつらがパトロールしてた辺りはこっちの基地のすぐ側だ。戦闘があったのなら、本部が気づかないはずがない。しかも俺は・・・・・・」
「そういえば・・・・・一度見てるんでしたっけ、中尉殿は」
「まるで血のような真っ赤な月だった。お前はその時いなかったから分からないだろうが、あれを見た瞬間、何ともいえない嫌な気配がしたんだ」
「ただの悪寒じゃないんですか?」
「だといいんだがな・・・・・・まあ、あと1ヶ月で俺らも後方に異動になる、それまでの辛抱さ」
「あと1ヶ月・・・・・それでようやく国へ帰れるんですよね・・・・・・」
「余りそういうことを言わないほうがいいぞ。悪魔が聞きつけるかもしれないからな」
「や、やめてくださいよ中尉殿・・・・・・」
「本気にするな、ただの冗談だ。さて、俺はもう寝る。明日は忙しくなる、お前もしっかり休んでいたほうがいい」
「了解しました、中尉殿」
 赤い月。いや、あれは赤ではない。血のような紅色の、まさに紅い月。それを一度見た俺さえ、まだあのときの光景が信じられない。
 真昼間、木々が鬱蒼と生い茂る密林での、単純極まりない警戒任務。暑さにダレた俺は、何となく空を見上げた。
 そして、それは出現した。一瞬にして周囲が暗くなり、空が紅く光る。その中央にあるのは燦々と輝く太陽ではなく、気味の悪い紅燐を放つ禍々しい月。まるでこの世の終わりのような光景が、俺の目の前に現れた。
「・・・・・・隊長? 」
 次の瞬間、部下の声で、俺は目を覚ました。気付けば基地の療養所。後で聞いてみたところ、空を見上げた俺は急に倒れてしまったらしい。
 結局、紅い月を見たのは俺だけだった。その場にいた部下の誰一人として、そんなものは見なかったという。
 そして、月は再び現れた。



「隊長!」
 すぐ後ろから、俺を呼ぶ声が聞こえた。
 何だ、と振り向こうとして、体の自由が利かないことに気づく。振り向こうとする俺の意思に反して、体はゆっくりと地面に倒れていく。
 おい、ちょっと待て。どうして倒れるんだ?
 そこで、初めて気づいた。俺の手は血塗れで、自分の腹を押さえている。見れば、俺の腹には大きな風穴が開いていた。
「な・・・・・・」
 何だこれは。
 しかし、その言葉は声にならなかった。持ち上げようとした手には力が入らず、声を出そうとしても口の奥に血が溜まり、ゴボゴボと言う音を立てるだけ。
 ああ、これは駄目だなと、すぐに分かった。腹を大口径の銃で撃たれ、内臓もかなりやられている。仮に止血したとしても、まず助からないだろう。
 なら、いっそこの場で死んだほうが楽だった。苦しむよりは、すぐに楽になったほうがいい。
 でも、それも叶わない。自殺したくても手は銃を持つこともできず、傷は即死するほどではない。この出血量だと、後5分といったところか。
 やれやれ、だ。なんとなく予想していたが、結局こんな最後なのか。兵役を終え、退職金でどこかに小さな家でも買って、適当な企業について生涯安泰に暮らすというささやかな望みすら、叶わなかった。
 残った力を振り絞って何とか仰向けに転がり、空を見上げた。時刻は12:00ジャスト。雲ひとつない快晴の真昼間のはずだ。自分で死ねないのなら、せめて、青空を見上げて死んでいきたい。
 だがしかし。そんなかすかな望みさえ、俺には叶えられなかった。俺はよほど神様から嫌われているのだろうか。こんなときに限って空は漆黒に染まり、紅色の月が辺りを照らしていた。
 紅い月を二度見た者は、神隠しにあう。
 ・・・・・・冗談きついぜ、まったく。
 血の音に混じって、引きつった笑いが漏れる。それが自分の発する声だと気付いたとき、目の前に立つもう一つの存在に気付いた。
 誰だ、お前?
 口には出さず、心の中だけで問いかける。しかし相手はその言葉に答えず、唯一つの問いを発した。
「汝、何ヲ望ムカ?」
 何だって?
「汝、何ヲ望ムカ?」
 こちらが何を問いかけても、相手はただ同じ言葉を繰り返すのみ。
 何を望むか、だと?そうだな・・・・・・
 俺は、何を望んでいるのだろう?このままゆっくりと死んでいくことだろうか?生きて国へ帰ることだろうか?出世して金持ちになることだろうか?
 いや、そんなことは望んではいない。俺の願いは、そんなことではない。
「汝、何ヲ望ムカ?」
 俺は・・・・・・俺が望むのは・・・・・・
「汝ノ願イ、シカト承ッタ」
 そして、月は消えた。同時に光が辺りを包み、俺は意識を失った。


 もしかしたら、俺はすでに死んでいるのかもしれない。紅い月なんてただの妄想。ここはあの世で、俺はそこで永遠にただ夢を見続けているだけなのかもしれない。たまに、そう思うときがある。
 だけど、それでも構わなかった。何故なら今いる世界こそが俺にとっての現実であり、全てなのだから。


 第一章


 瞼の隙間から、暖かな光が差し込んでいる。
 穏やかな風を、身体全体で感じている。
 そして、俺はゆっくりと目を開けた。
 ・・・・・・ここは・・・・・・どこだ?
 空には、見渡す限りの青空が広がっている。見たこともない白い鳥の群れが泳ぐように飛び去り、さらにその上には沢山の白い雲。
 呆けたように、そのままゆっくりと身体を起こす。そして、初めて自分の身体に気づいた。
「え・・・・・・」
 傷がない。血塗れだったはずの手はまるで風呂に入った後のように綺麗だし、服にべったりと張り付いていたはずの血もまったくない。
「どうなってるんだ?」
まったく訳が分からない。確か俺はベトナムにいて、戦争をしていて、それで・・・・・・
「死ん・・・・・・だのか?」
 そうだ、そのはずだ。腹を撃たれて、倒れこんで、血で真っ赤になって・・・・・・
「真っ赤?・・・・・・そういえば」
 紅い月。人の血を吸ったかのような色の、紅の月。
 それは、死にかけの俺の前に現れた。そして、問うたのだ。
――汝、何ヲ望ムか?――
そして・・・・・・そして、俺は・・・・・・
「なんて・・・・・・答えたんだっけ?」
 思い出せない。どう記憶をひっくり返しても、まるで思い浮かばなかった。
「まあいい・・・・・・しかし、ここは一体・・・・・・?」
 まるで見覚えがない。ベトナムのような湿った熱気は欠片もなく、生い茂る密林もない。涼しい風がゆっくりと辺りを薙ぎ、どこまでも続くかのような草原が一面に広がっている。
「やれやれ・・・・・・天国にでも来ちまったのかね?」
 紅い月を二度見た者は、神隠しにあう。今の状況はまさに噂通りだが、本当に神隠しにあうとは。
「ま、取り敢えず・・・・・・」
 呟いて、起き上がる。軽く身体を伸ばしてみるが、特に痛む場所はない。まるでぐっすり眠った後のような清々しい気分だった。
 双眼鏡を取り出し、周囲を見渡す。どこかに民家の一軒位あるだろうと思ったが、周囲を見渡しても何もない。1キロほど先に、鹿に似た生き物の群れが川辺で水を飲んでいるのが見えるだけだ。
 さて、どうするか。
「早速途方に暮れる羽目になるとは・・・・・・」
 あの月め、と心の中で愚痴る。神隠しをするならするで、せめてもうちょっとマシな場所に飛ばしてほしかった。こんなサバンナの真只中みたいな場所に来たって、ちっとも嬉しくない。
 とはいえ、ただここでじっとしているわけにもいかない。小腹が空いてきたし、持っている水もごく僅かだ。
「人を探すか・・・・・・」
 まあ、この場所、あるいは世界に人がいればの話だが。
 双眼鏡を仕舞い、落ちていた銃を手に取る。何かあった時、自分の身を守れるのはこれ一つしかない。壊れていないかどうか簡単なチェックを済ませると、背中に背負って歩き出す。
 こうして、俺はこの世界に来た。自らの願いを叶えるために。
 尤も、その願いすら俺は思い出せていなかったのだが。



 目の前で、赤い火球が弾けた。  次の瞬間、俺の目の前にいた草食動物の半身が吹き飛び、肉の焦げる匂いを発しながら倒れ付す。
「おいおい、冗談じゃねえぞ・・・・・・」
 それは、歩き始めてからおよそ1時間後。  まるで古代に存在していた恐竜のような、見たこともない草食動物を見つけ、ますます異世界じみてきたなと思っていた矢先の事だった。
 竜、または飛竜。ワイバーン、あるいはドラゴン。
 そう呼ばれている生物は、俺の住む世界では空想の産物でしかない生物だった。
 だが、しかし。
 目の前で咆哮を発し、こちらを睨み付けるこの化け物は一体何なのだ?
 全長およそ17メートル。全身を覆う赤黒い鱗に一対の巨大な翼、長い尻尾。それ一本が大人ほどの大きさがある力強い二本の足と、巨大な鍵爪。
 そう、それはまさしく竜だった。この世の何よりも強く、誇り高きドラゴン。子供のころに夢物語として聞かされた生物が、まさに今目の前にいる。それは、ここが異世界であるという紛れもない証明だった。
 本当なら、今すぐ腰を抜かして気絶したい気分だった。誰もが持つ生き物としての本能が、最大級の危険を告げている。その目に睨まれただけで身体が竦み、逃げなければと思っているのに身体が動かない。
「う・・・・・・うおおおおおおぉぉぉ!!!」
 今にも砕けそうになる足を、叫ぶことで地面に縛り付ける。身体の中の恐怖心を打ち消そうとするかのように叫び、震える手つきで銃を構えた。
 逃げたい。今すぐ背中を見せて逃げたい。
 しかし、戦士としての本能が、そうすればまず間違いなく死ぬと告げていた。食物連鎖の関係において、非対等関係にあるもの同士が出合った場合、ひとつの状況が発生する。
 すなわち、狩るか狩られるか。
 そして、俺は間違いなく狩られる側にあるべき存在だ。だが、こんなところであっさりと死ぬつもりは毛頭なかった。
「上等だ・・・・・・来やがれ、化け物!」
叫び、銃床を肩に当てる。こちらの叫び声に反応する竜の喉元、その部位に一瞬で照準を合わせる。
 だが、竜の方が早かった。口の端から、チロチロと炎が漏れている。僅かにいぶかしんだ次の瞬間、首を大きく持ち上げ、先ほどと同じ火炎ブレスを吐き出した。
「くっ!」
 瞬時に右足に力を加え、横っ飛びに避ける。真横を巨大な火の塊が過ぎ去っていくのを感じながら、手にした銃の引き金を引いた。
 連続して鳴り響く銃声。鋼鉄の防弾着すら容易に貫通する威力を持った徹甲弾が次々と竜に吸い込まれていく。
 だが、しかし。人間ならば一撃で死にいたる傷を負わせることのできる銃だが、それは所詮人間相手に使うことを想定されたものでしかない。
 すなわち、この竜に対しては、何の効果も持たなかった。
「冗談きついぜ・・・・・・」
 弾丸は、全てその甲殻にめり込んだまま止まっている。半ばまでは貫けたが、まるでダメージを与えた様子はない。この化け物にとっては、蚊に刺されたのと大して違わないだろう。
 そして、竜が再び首を擡げた。また、あのブレスを吐くつもりだろう。
 万事休す。最早、打つ手がなかった。
「はは・・・・・・」
 恐怖のあまり引きつった笑い声が漏れる。こりゃ駄目だ。どう考えても生き残れそうにない。
「伏せて!」
 だから、そんな声が聞こえてきてもただの幻聴だと思った。
 そして次の瞬間、目の前で強烈な閃光が弾け、俺はそれをまともに食らってしまった。
「うぐっ!」
 思わず、腕で顔を覆って目を瞑る。それでも視界は中々回復せず、ようやく目を開けた俺が見たのは、信じられない光景だった。
 あの竜が、血塗れになって戦っている。それも、相手にしているのは見たこともない鎧を着込んだ女だ。
 さっきの閃光で目を潰された竜に、女が持っている大剣で斬りつける。身体全体を乗せるような勢いで剣を翼に叩きつけ、切り返した勢いで頭部を叩き斬る。一撃食らうごとに竜の翼爪が砕け、頭部の鱗が吹き飛ぶ。
 しかし、竜もただやられているわけではなかった。首を伸ばし、懐に入り込んだ女を噛み砕こうと顎を開く。しかし、その一撃を鈍いとでも言いたげに軽い前転運動で回避すると、返す剣で巨大な尻尾を切り落とした。
 グギャアアアアァァァァ
 尻尾を切り落とされ、竜が苦悶の叫び声を上げた。そのまま止めを刺そうとする女から逃げるようによろめき、巨大な翼で羽ばたいて空へと急上昇していった。
「くっ・・・・・・」
 女が、悔しげなうめきを漏らす。そのまましばらく竜が去った方向を見つめていたが、やがて諦めたようにため息をつき、大剣を背中に収めると、切り取った尻尾に大振りなナイフを突き刺し、器用に解体していった。
 そして、その間の俺といえば。
 ただずっと、呆けたように先ほどの光景を眺めていただけだった。
 ・・・・・・それ以外にどうしろと?



 結局、俺が気づいてもらえたのはそれから10分後のことだった。さっきの尻尾から切り取った、何やら珍しそうな大きな鱗を上機嫌でポーチに収めると、彼女は俺のほうに振り向いた。
「あら、まだいたの?」
「・・・・・・まだいたのはないだろう。あんな化け物に襲われたってのに・・・・・・」
 って、あれ?
 女の問いに答えを返してから、俺はとある疑問に気がついた。
「あんな化け物って・・・・・・たかがリオレウスじゃない。それもまだ成長しきってないし。まあ、逆鱗が取れるとは思わなかったけど。今日の私はついてるわね〜」
 おい、ちょっと待てよ。
「お前・・・・・・俺の言葉が分かるのか?」
 どうして言葉が通じてるんだ?
「え?分かるって・・・・・・どうしてかしら?」
 俺の耳には、女の言葉はまるで異国の言葉にしか聞こえない。
しかし、頭の中ではそれがしっかりと俺の理解できる言語に訳されている。それも、タイムラグなしで。
 何らかの方法を使って一瞬でほかの言語を覚えると、こういう風になるのだろうか。
脳ではその言葉が全て分かっているのに、身体と耳がそれを理解し切れていない。その言語の使用経験が足りないのだ。
「あの月か・・・・・・」
 どうやら、飛ばすついでにここの言語も分かるようにしてくれたらしい。
頭の中を勝手にいじられるのは気持ち悪いが、少なくとも言葉が通じなくてどうしようもない、という事はないようだ。
「まあいいじゃない。取り敢えず言葉は通じるんだし」
 そういう問題じゃない、と言いかけたところで、俺は言葉に詰まった。その顔を改めて近くで見て、息を呑んでしまったからだ。
美人。まさに、その表現が最も似合う女だった。
 肩までの、流れるような黒髪。均整の取れたプロポーション(といっても鎧に覆われているが)。整った顔立ち。白い肌。十人の男に聞けば、十人中十人が口を揃えて美人というであろう、そんな女だ。
「ん?どうかしたの?」
 馬鹿みたいにボケッと見続ける俺を不審がったのか、女が覗き込んでくる。我に返った俺は慌てて後ずさった。
「・・・・・変な男」
 まるで逃げるような態度が気に食わなかったのか、女は眉を顰めた。
「あ、いや、すまない。ただ、ちょっと驚いて・・・・・・」
 そう、驚きの連続だ。死んだと思ったらいきなり異世界に飛ばされるし、あんな化け物に襲われるし、今度は物騒な剣を背負った女が出てくるし・・・・・・
「まあいいけど。で、何してんの、あんた?」
「俺?俺は・・・・・・フォード。フォード・ノックスだ」
「別に名前なんか聞いてないわよ」
 一蹴された。この女、顔はいいが性格は結構きつそうだ。
「こんなところで何してるのか、って聞いてるのよ。防具もつけず、武器も持たずにレウスと戦おうなんて、あんた死ぬ気?」
「死ぬ気って・・・・・・まあ、死ぬだろうなあ」
 確かに、あの火球を浴びれば一瞬でウェルダンに焼けた人間の塊一つの出来上がりだ。まず食いたくないが。
「ていうかあんた、ハンター?もしかしてどこかから迷いこんだ民間人だったりする?」
「迷い込んだ民間人というか・・・・・・飛ばされてきた軍人だ」
「何よそれ?結局あんたハンターじゃないの?」
「ハンター?いや、違うが・・・・・・」
 俺がそういうと、女はハァーと深いため息をついた。
「ああ、ついてないわ私って・・・・・・レウスは逃がすし、こんな変な男に出会うし・・・・・・」
「さっき今日はついてるとか言ってなかったか?」
「うるさい!」
 こうして、俺たちは出会った。
 俺の名は、フォード・ノックス。現・・・・・・いや、元合衆国陸軍中尉。
 彼女の名は、リリア・ヴィト。『黒髪の戦姫』と呼ばれる凄腕ハンター。
 これは、あるいは定められた運命なのかもしれない。運命という名の歯車に対抗するには人の力はあまりに小さく、脆い。
 全ては、紅く輝く月のみが知る・・・・・・



(以下、本編とまったく関係ないおまけ)

  番外編 VSリオレウス もしもあの時閃光玉が当たらなかったらVer(微妙に本編と違います)

「くそっ・・・・・・あんなのに当たったらウェルダンに焼けた人肉ができちまうな・・・・・・」
 竜の火球をかろうじて回避したものの、銃弾は効かない、逃げ場はないじゃどうしようもない。
 そして、奴がもう一度首を擡げる。
 来る。あのブレスが。
「はは・・・・・・」
 駄目だ。もう死ぬ。そう思った瞬間だった。
「伏せて!」
「え?」
 次の瞬間、まばゆい閃光が辺りを包み込み、俺の視覚を完全に奪い去った。
 そう、『俺の視覚』だけを。
「あ、ミスった」
「え・・・・・・」
 ジュワッ 
「だから伏せてっていったのに・・・・・・ああもう、またドスランクエで閃光玉集めて来なきゃ・・・・・・」
 こうして、俺の生涯は幕を閉じた。
 
 今日の一言  ウェルダンはグラビモスじゃないと出来ません



第二章


 西シュレイド王国南方辺境領 ≪ハンターズギルド≫統治地区 ミナガルデ

「で、あんたこれからどうする訳?」
 唐突に隣の女性――リリア・ヴィトが尋ねてきた。
 あの衝撃的出会いから、およそ三日。馬車に揺られて、俺たちは長閑な草原地帯からいかにも交易都市といった活気のある街へと移動していた。
 ハンターの街、≪ミナガルデ≫。ここはそう呼ばれているらしい。
 険しい山の中腹に位置し、ここに来るには半日かけて山を登るか地上とミナガルデを行き来するゴンドラに乗ってくるしかない。交易を主眼に置いた都市としては余りに不便な場所にありながら、ここの居住者は王都に次ぐほどといわれているらしい。ここに着いたとき、何故こんなにも活気があるのかと彼女に尋ねた所、「世界一希少な品が手に入るから」という答えが返ってきた。
「世界一希少な品?」
「そう。一般人にはとても倒せない飛竜・・・・・・それらの素材は私達ハンターが使う武具の他にもさまざまな用途があるの。最も簡単な例は武器や嗜好品。強靭な飛竜の牙や爪などの素材で作られた剣は普通に鉄を打って作られた剣とは比べ物にならない切れ味を持つし、飛竜の硬い鱗を使って作られた鎧は普通の鎧よりも圧倒的に硬い。普通の服や嗜好品などに使うにしても同じことが言える」
「でも、大量生産できないんだろう?」
「その必要すらないわ。それらの品の売り先は主に貴族。確実に高く売れ、顧客増大のために危険を冒す必要もない。放っておいてもあっちから買いに来るほどの品物だもの。商人にしてみれば、楽して大儲け、って所ね」
「ふうん・・・・・・」
 その後は、取り敢えず大通りを通って≪ハンターズギルド≫に行くことになった。馬車の中で説明を受けたんだが、どうやらその≪ハンターズギルド≫とやらが一時的に俺の身元を引き受けてくれるらしい。
 ちなみに、俺は≪記憶喪失≫ということで通している。どうしてあんな場所にいたのか、どこから来たのか等と聞かれても、これで誤魔化すつもりだ。素直に異世界からやってきたなどといっても信じてもらえるわけがない。なので、あの時の飛竜――リオレウスに襲われたショックで記憶喪失になってしまい、自分の名前以外思い出せないとリリアに言った。
 その時彼女は物凄く疑わしげな表情をして・・・・・・結局、何も聞かなかった。
 そして、場所は大通り。ギルドまであと少しというところで、最初の質問に戻る。
「え?どうするって・・・・・・」
「取り敢えずギルドに身を預けるからって、そうそう安心してられないわよ。あなたがいた場所は≪G級モンスター≫が蔓延る危険地帯。危険レベルAに設定されていて、正式な依頼を受けたハンター以外はまず立ち入れない場所よ。そんな所に何故居たのか、どうやって来たのか・・・・・・ギルドはあなたを厳しく取り調べるでしょうね。記憶があるか無いかにかかわらず」
「・・・・・・」
「例えそれを逃れたとしても・・・・・・あんた、その後どうする訳?」
「まあ、傭兵にでもなるよ。・・・・・・それぐらいしかできないしな」
「傭兵、ね。近年大きな戦争なんてないし、暮らしていけるかしらね」
「ないのか?戦争」
「30年ほど前まではこの国と隣の東シュレイド王国との間で戦争が続いてたけど、終戦協定が結ばれてからはお互いに友好関係を保ってる。今のところ他にこの大陸で大きな戦争はないわね」
「マジかよ・・・・・・やれやれ、いきなり路頭に迷う羽目になるとは・・・・・・」
「まあ、仕事がないわけじゃないしね。何はともあれ、ギルドに報告を済ませてからよ。ほら、見えてきた」
 目の前をアプトノスが横切ると、その建物は見えた。
 見た感じは、西部劇にでも出てきそうな酒場といった風情だ。二階建てで、結構広い。別段、特別な場所という雰囲気はないが・・・・・・
「へえ、これが・・・・・・」
「ハンターズギルド。私たちハンターの秩序よ」
 そう言って、彼女はギルドへ足を踏み入れる。その後に続いて、俺も中に入っていった。


「ほう・・・・・・記憶喪失、とな?」
「ああ、そうだ・・・・・・済まないが、自分の名前以外は思い出せない」
 むせ返るような酒の臭いが、鼻腔を刺激する。息をするだけで酔いそうになる臭いに顔をしかめたくなるが、何とか思いとどまっている。
 目の前の受付に座り、パイプを吹かすギルドマスターは一目見ただけでかなりの高齢だと分かった。異様に低い背丈、長い耳等、リリアたちと同じ人間(単に、俺との見た目での違いはないということからそう種類付けているだけだが)とは違う種族のようだ。後でリリアにでも聞こうかと思ったが、彼女は狩りと俺の事を報告するとあっさりと帰ってしまった。
「フム・・・・・・」
 何かを考えるような素振りと共に、マスターが僅かに目を開く。思っていたよりもずっと鋭い視線に思わずたじろぎそうになるが、そのまま真っ直ぐ見返した。
 そして、睨み合いがしばらく続いた頃。唐突に、マスターが口を開いた。
「まあ、よかろう。もしかしたら、通常のエリアから危険な狩場へ行く道があったのかも知れぬ。われわれもそれらの道は見張っているが、まだ全てを見つけたというわけではないからの。どの道、記憶喪失状態では何も分からんが・・・・・・こちらでも色々と調べておこう。出来れば、何か思い出せたら知らせてほしい。あのような危険な場所に、一般人が紛れ込むという事態はあってはならないからの」
 そう言って、マスターは目を伏せた。目に見えない緊張状態からの脱却に、俺は静かに安堵の息をつく。
「しかし、記憶がないままでは生活していくにも不便じゃろう・・・・・・ギルドからも一定の援助はしていく積もりじゃが・・・・・・そうじゃな、お主、ハンターになってはどうじゃ?」
「ハンターに?だが・・・・・・」
 俺の持つ武器は、ここに飛ばされる前に所持していたライフルのみ。弾も、2、300発といったところだ。しかもこれが飛竜に効かないことは証明済みだし、他の武器を使おうにも金がないし、ハンターとしてそれらの専門的な武器を扱う訓練も受けたことがない。
 それに・・・・・・あまり、ギルドと近付き過ぎるのは良くない。何か不測の事態が起こった場合、今回の件をネタに何を言われるか分かったものではない。
「気持ちはうれしいが、俺はやはり・・・・・・」
「それに、ハンターになればギルド内限定とはいえ身分も保証される。たとえばの話じゃが、今回の件で他の者から国外からのスパイではないかという意見が出たとしても、ギルドの者ということならその身分は保証されることになる」
 くっ、このジジイ・・・・・・早速使ってきやがった。
 しかし、何でここまで俺にこだわるんだ?俺が危険地域いた理由を知りたいなら俺を拘束して聞き出したほうが手っ取り早い。それとも俺の後ろに誰か黒幕がいると考え、そいつが出てくるまで泳がせるつもりなのか。だとしたら、とんだ勘違いだが。
 とはいえ、これでは断ることは出来ない。下手をすれば、俺はこの場で即捕まることになる。
「・・・・・・分かった。ハンターも中々よさそうだ」
「そうじゃろうそうじゃろう。何、最初からお主一人に任せようとは言わぬ。凄腕のハンターを指南役につけるから、存分に学ぶといい」
 ふぉっふぉっふぉと笑い、マスターは一枚の用紙を取り出した。これまた見知らぬ文字で書かれたものだったが、やはり読むことが出来る。
「名前、性別、年齢、得意な武器?」
「ハンターとしての登録に必要なものじゃ。武器に関してはその後も変更が効くから、とりあえず気に入った武器の種類でよかろう」
「ふ〜ん」
 フォード・ノックス 男 22歳 武器:大剣
自分としては英語で書いたつもりだったが、実際に紙に書かれた文字はまったく違う文字だった。便利だが、なんとも気味の悪い能力だ。
「これでいいのか?」
 記入した登録用紙を、マスターに渡す。
マスターはそれをチラリと眺めてから、頷いて横の受付嬢に手渡した。
「ええ、これで大丈夫。では、名前はフォード・ノックスで登録します。ハンターランクは≪レンジャー≫。詳しい事は翌日担当官が説明するわ。では、これから頑張って下さいね」
 微笑んで、彼女は俺にギルドの登録証を渡す。美人だな・・・・・・と思いながら、俺は簡素な紙で出来た登録証を受け取り、ポケットの中に収めた。
「私はベッキー。主に、ハンターのクエストの受注を請け負っているわ。何か分からないことがあれば、なんでも質問して下さいね?」
「あ、ああ・・・・・・」
 改めて見たが、こりゃまた随分と美人だ。男所帯の象徴とも言える軍隊で過ごしてきた俺には、随分と久しい刺激だった。
「あ、そうそう。ハンターには専用の宿屋が用意されるから、今夜はそこに止まって頂戴。宿屋は酒場の左奥の広場の先よ。届いてる荷物もあるから、早めに行ったほうがいいかも」
「そうか、有難う。じゃあ、今日はこれで」
 やれやれ、ややこしいことになったもんだ・・・・・・そう思いながら、俺はギルドの扉を開け、日の当たる外へと出て行った。


番外編  ギルドの闇 

「どうやら、始まったようじゃの」
「ええ、そのようですね」
「しかし、またあれが来るとは。前に来たのは・・・・・・はて、何百年前じゃったか・・・・・・」
「既に各ギルドには通達済みです。今回に限り、東シュレイドと共同で監視に当たっています。多少問題も発生していますが、現在までは許容範囲内に収まっています」
「真の問題は、あっちじゃろうな。残された時間はそう多くはない。それまでに使えるようになればいいんじゃが・・・・・・」
「私は存じ上げませんが、以前はそれで成功したのでしょう?ならば、今度もうまくいくはずです」
「あれをそう甘く見るでないぞ。施設の復旧に全力を傾けるよう、各隊に連絡するのじゃ。言っておくが、くれぐれも王国騎士団には見つからないよう。奴ら、前の≪ラオシャンロン≫事件で少しは丸くなったと思ったが、ますます態度を硬化させておる。尻尾を出すな」
「大丈夫です。すでにその件についても手は打ってありますから・・・・・・」
「・・・・・・・すまんの、いつも汚い仕事ばかり押し付けて」
「いえ。これが私の仕事ですから」
 そう言って、彼女は闇に消えた。それからしばらくして、もうひとつの気配も消えていった・・・・・・。


 第3章


 ≪基本的な武器取り扱い方法から飛竜との戦闘までこれ一冊で全てが分かる!≫
 表紙にそう書かれた分厚い本。ベッキーから渡されたこの本には本当にさまざまな情報が載っており、暇つぶしに自分が最初に遭遇した飛竜――雄火竜リオレウスというらしい――などをはじめ、様々なモンスターに眼を通していた。
 が、一向に読み終わる気配がない。まだ半分いったかどうかだ。
「ハンターとして生活していく上での基本情報・・・・・・ね」
 ≪現在、ハンターが主に使う武器は6種類。片手剣、大剣、ハンマー、双剣、ランス、そしてボウガン。違う地方ではこのほかに幾つか派生した武器もあるようだが、ミナガルデ付近ではこれらの武器が一般的である。
 各武器についての詳細な説明は後に行うが、とりあえず簡単な戦い方のスタイルとしては、片手剣はその機動力と武器の豊富な属性効果を利用し、パーティー全体のサポーター役となる。大剣はその重量を生かした強力な攻撃で攻撃の主力を担い、特に飛竜戦において絶大な力を発揮する。ランスはその防御能力と突進を生かし、囮役として前衛に。ハンマーは全武器中最も高い攻撃力を生かし、飛竜の懐で一撃離脱の攻撃を行う。双剣は片手剣の攻撃特化型で、戦い方はハンマーのような一撃離脱戦法。ボウガンは常に相手と距離をとり、時には味方への援護、時には敵への攻撃の主力を担う・・・・・・≫
「・・・・・・眠い」
 ベッドの奥に情報誌を放り投げ、そのまま寝転がる。ここに入った当初、あまりにも汚かった豚小屋は、軍隊生活の賜物の一つ、整理整頓というスキルのおかげで僅か3時間で何とか人の暮らせるくらいにまではなった。とはいえ、まだベッドからは埃が出るし、豚小屋のような内装には変わりなしだ。
「しっかし、何で俺はここにいるんだ・・・・・・?」
 そう、ここに来てから色々な事がありすぎて、頭は混乱を通り越してむしろ冷静になってしまっている。ここで一度、情報を整理しておいたほうがいいのかもしれない。
 そもそも、なぜ俺はここに来たのか。来た手段については、ほぼ確実にあの≪赤い月≫のせいだろう。だが、理由が思い浮かばない。手がかりになりそうなのは・・・・・・
≪神隠し≫
 そう、それだ。だが、何故神隠しを起こすのか。・・・・・・わからん、一時保留。
 次。あの爺・・・・・・マスターの謎の態度だ。何で俺をハンターにしたがるのか。管理下においておきたいなら身柄を保護するなり拘束しておくなりしておけばいいだろうに・・・・・・これも分からん。
「結局何も分からずじまいか・・・・・・」
 何か、大きな掌の上で踊らされているような気分だった。何もかもが自分の与り知らぬところで進行していて、気付いたときにはもうすでに手遅れ。
何とも、嫌な気分だった。そんな鬱屈な気分のまま、俺は眠りについた。
訂正。眠りにつこうとした。
でもま、そう簡単に寝られるほど俺の根性は図太くなかったというだけのことだ。
 ・・・・・・明日が辛そうだ。


 翌日。ギルドにおいて。
「・・・・・・何よ?何か文句でもあるの?」
 見るからに不機嫌そうな(まあ、寝不足なだけだが)俺の表情を見て、リリア・ヴィトはじろりと俺をにらめ付けた。
「いんや、別に」
 ふあぁぁ、眠い・・・・・・とはいえ、寝てもいられない。
「まあまあ、落ち着けリリィ。毎度のことだが、いきなり新人に八当たりはやめておけ」
 そう言って、彼女の右斜め後ろに立つ大男が、ポンポンと肩を叩く。歳は30過ぎ位だろうか?いかつい顔だが、その顔は笑みに満ちている。
 防具は鎧竜から作られるグラビド装備。武器は≪角槍ディアブロス≫だった。
「話は聞いてるぜ。俺はガルガン・ナックル。見ての通り、ランサーだ。よろしくな、坊主」
 陽気に笑い、大男は握手を求めた。見た目と違い、意外にもフレンドリーな人みたいだ。全身にまとったグラビド装備からして、随分おっかなそうだと思ったのだが。
「フォード・ノックスだ。よろしく」
 適当に握手に応じる。相手が重厚な防具を身につけているのに対し、こっちは迷彩服と防弾ジャケットのみ。なんとも不釣合いな気がする。
 続いて、左斜め後ろ。
「リッシ・ウェルドです。よ、よろしく」
 そう言って手を差し出したのは、まだ20歳になったかどうかと思われる青年だった。多分、俺より若い。防具は頭部以外レウス装備でまとめており、頭部には防具の変わりに見慣れないピアスがついていた。装飾品の一種だろうか?
「よろしく」
 これまた適当に握手しながら、俺はリッシを見る。防具こそ立派だが、何だかひ弱で頼りなさそうだ。背中に収められている双剣≪リュウノツガイ≫も、こいつの背中にあるとなんだか棒切れのように見えてしまう。
「私たちのパーティはこれで全員。この前みたいに単独で狩を行うとき以外は、いつもこのメンバーで狩りをしてる。ガルガンは囮。リッシは飛竜の懐に飛び込む攻撃役。私は状況に応じて動く遊撃役。あんたは・・・・・・大剣志望だっけ?」
「一応は。あん時はそれしか知らなかっただけだけど」
「・・・・・・まあいいわ。取り敢えず、こっちで適当な武器は用意してあるから。詳しいことは移動しながら説明するから、取り敢えず出発しましょ」
「りょーかい」


 数時間後、馬車の中で。
「・・・・・・まあ、ギルド側は10万ゼニーもくれるって言うしね。そういう事で、私たちがあなたの指南役になるわ。最初の相手はリオレイア。渡された本は読んだ?」
「取り敢えずは」
 リオレイア。雌火竜と呼ばれ、主に地上で行動する飛竜だ。リオレウスと同様、強力なブレスと高い突進能力を持ち、尾に毒棘を持つらしい。
「初陣でこいつはちと厳しいが、今回は見てるだけでいい。俺たちがどういう戦い方をするか、自分が戦うとしたらどうするか・・・・・・そういうことを学ばせるために、こいつを選んだ。火竜系はこのパーティが最もよく戦う飛竜だからな」
「だ、大丈夫ですよ。皆さんお強いですから・・・・・」
「そゆこと。一応武器は渡しておくけど、多分それを使う機会はないでしょうね。安心しなさい」
 三者三様の励まし。わかった、と俺は言い、いい返事だ、とガルガンが笑った。
「しっかし難儀だな、お前も。リリィがレウスを狩り損ねたのにも驚いたが、代わりに男を狩ってくるとは。色っ気のねえ奴だと思っていたが、意外に・・・・・・いでっ!」
「う・る・さ・い・わ・よ?」
 ニコニコと笑いながら、容赦なく腰につけてある角笛でガルガンの頭を殴るリリィ。
「いでっ!こらリリィ、人を角笛で殴る奴があるか!」
「あんたが悪いのよ」
 そして、ギャアギャアと騒がしい言い合いが始まり、それを止めようとリッシがおろおろしている。
それを見て、俺は思わず噴き出してしまった。 
「何よ。何が面白いの?」
「いや、楽しそうだなと思ってさ」
 本当に楽しそうだ。他愛ないやりとりなのに。それでも、帰ってくるときは誰かが欠けているのかもしれないと思うと、こんな時間すら貴重に思えてくるのだろう。
まるで、戦争みたいだ。さっきまで陽気に笑っていた戦友が、次の瞬間には物言わぬ骸となる。俺にとってはもう見慣れてしまったその光景を、ハンターたちは幾度見てきたのだろうか。
「まったく、柄にもない・・・・・・」
「ん?何か言った?」
「いや、何でもない」
「そう。あと1時間ほどで狩り場よ。ついたら簡単な説明だけして直ぐに出発するから、覚悟だけはしておきなさい。飛竜の前で震えて立ち止まってられたら堪らないから」
「分かった」
 やがて、馬車が止まった。先ほど言ったとおり、リリィは簡単に作戦をまとめると、至急品を受け取って武器の状態をチェックし、そのまま休むことなく狩場へ歩き出した。
「さて、何が出ることやら」
 雄大な森と丘の光景を味わう間も無く、明るい日差しの降り注ぐエリア【1】を抜け、そのままエリア【2】へと向かった。


 今さらだけどさ。もしあの時逃げ出してたらどうなっただろうって、思うんだ。物語は主役がいなければ成立しない。そして、あいつの考えた脚本通りに俺が演じず、途中で舞台を降りたらどうなるんだろうな?
 主役を入れ替えてまた始めるか?脚本そのものを変えてしまうか?なあ、あんたならどうする?
 え?あいつは誰か、だって?
 まあ焦るなよ。一日はまだまだ長い、そして話すことは沢山ある。そいつを一つ一つ話していくから。
 そう、お次は女王様との戦い。俺のハンターとしての【初陣】ってやつさ。















By Mind of Hunting