エーベルランド記【過去の鎖】
ビヨンド様作





エーベルランド記【過去の鎖】1章
エーベルランド記【過去の鎖】2章
エーベルランド記【過去の鎖】3章
エーベルランド記【過去の鎖】4章
エーベルランド記【過去の鎖】5章
エーベルランド記【過去の鎖】6章
エーベルランド記【過去の鎖】7章
エーベルランド記【過去の鎖】8章
エーベルランド記【過去の鎖】9章
エーベルランド記【過去の鎖】10章
エーベルランド記【過去の鎖】11章
エーベルランド記【過去の鎖】エピローグ



エーベルランド記【過去の鎖】1章


―過去を省みよ!そして悩め!さすれば未来がそなたを照らす!過去に目をそむけるな!己が過ちを省みない者に未来への扉は無慈悲である!―
          作者不明

 轟々と燃え広がる炎…今朝までは村人たちがいつも通りに生活していた村は一変し、ただ、炎と…数人の人影…
「ははは!奪え!奪え!」
この惨劇を生み出した張本人たちが下卑た笑い声を上げる。
「お頭、いいんですかい?かりにもあっしらはハンターなんですし…」
「どうせモンスターに襲われていたんだ!俺たちが多少盗みを働いても気づかんだろう!」
お頭と呼ばれた男がなんとも無責任な言葉を吐く。190mに達するかという長身でボサボサの長髪に汚らしい顎鬚、鼻には横一文字に刀の傷跡があり、目はいやらしく光っている。この男は自分の行為を『多少』と評価した…一時間ほど前、リオレイアに村の家畜を襲われ…恐怖から村の人々は避難した。だが、村に火をつけ金品を強奪しているのは他でもないこの人間たちだ。この行いを『多少』と定義するなら、『多少』とはいったい何なのだろう…
「お頭!」
「あぁん?」
子分の一人の慌てた声に面倒くさそうにお頭と呼ばれた男が返事をする…
「そ…それが…家ん中に人が!」
「なに?めんどくせぇ!死んでんのか、そいつ…」
「い…いえ…妊婦のようで、動けないようなんで、助けを求めてます!」
「じゃあ、ほっとけ!俺らのことがばれたらまずい!可哀想だが…二人とも死んでもらうしかねぇな…ふふふ」
わざとらしく二人と、言うあたりこの男の腐った性格が見て取れる。
「で…でも」
罪の意識だろう、男が反論しようとしたとき…
“ドス!”
巨大な大剣が男を貫いた。
「が…はぁ…お頭……」
そう言って絶命した男を見下しながら
「でもじゃねぇ!ほっとけっつたんだよ!!…て、死んでらぁ…へへ、よかったなぁ?お前はこの村をモンスターから守ろうとして勇敢に戦ったハンター様ってことにしといてやるよ!?」
そう言って死体には見向きもせずに部下たちに撤退命令を下す。後には大剣で貫かれた死体と、民家で一人の身重の女性が炎に焼かれるのを待つ身となった…
「貴方…ごめんなさい…この子を守りきれなかった……」
涙を流しながら、必死に炎から身を守ろうとしている女が、かすれた声で喋る。
「名前…二人で決めてたのに……」
その瞬間“ガラガラ!”という音をたて、家の屋根が焼け落ちてきた!そして、必死に逃げようとしている女の上へ降り注ぐ!
“グシャァ!”

 それから約一時間ほど経ってから戻ってきたとき人々は変わり果てた村の姿を愕然とした。だが、『モンスター』と戦うには彼らはあまりにも無力だった、『モンスター』と戦うとしたらの話だが…もし、数少ない村のハンターが残っていれば、結果は変わったかもしれない……だが、過去は変えられない…そして、村がこの惨劇に襲われていた時に出払っていたハンターの一人が村に帰った時、彼は自分の妻とその体内にいる子が村人と一緒に避難できずにいたことを知る……
 数日後、この村から一人のハンターが旅立った…その背中に背負っていたのは愛用のボウガンと………


エーベルランド記【過去の鎖】2章


 「雨が続くなぁ……」
そう呟きながら、男が酒の入ったグラスを口に当てる。身長はこの酒場にいるごつい男達から見れば少し低いが、筋肉は引き締まり、どこか野生の獣のような雰囲気をかもし出している…
「…嫌いじゃないだろう…」
男の向かいにいた2mを超える巨人がぼそっと答える。
「まあな、でも洗濯もんが溜まっちゃうんだよ?俺のジャージコレクションがカビだらけになっちまう」
冗談を言いながらグラスに残っていた酒を一気に飲み干す。
「……そうだな…」
おちゃらけている男の心を見透かすかのように、巨人は一言だけ喋ってそのまま黙って窓の外を見た。その時!
「トール!フェイトン!」
酒場のドアが勢いよく開き、赤毛の若者が勢いよく入ってきた。がっしりとした体つきに、爛々と燃える赤い眼、背中に背負った大剣。見るからに猪突猛進な若手ハンターだ。
「あ、いたいた!連れてきたぞ?」
若者がそういうと、後ろからすっと人影が姿を現した。すらっと伸びた長身に、白い髪と青い瞳。美の女神でさえ自分の懐においておきたくなるような美丈夫だ。
「でかい声を出すな…馬鹿ヴァルカン」
そう言いながらこの若者が席に座ると、横から
「てめ!家でのんびり寝てるてめぇをわざわざ起こしに行ってやったのは俺だぞ!阿呆イーニアス!」
ヴァルカンと呼ばれた若者が言い返す。
「ふぅ、仲がいいことで…やっぱ恋人だなこりゃ…」
酒を飲み終えたフェイトンが二人をからかう。
『なんだと!どこが!』
二人同時に同じ言葉を言い返し、それが気に入らなかったのか、また言い争いを始めようとしている二人の間にトールが割って入る。
「………今回の依頼だが…」
トールの言葉にしぶしぶ二人は争うのを止め、耳を傾ける。
「【ラナケロウ村】は、知っているな?…あそこに今、イァンクックが大量に現れたらしい……そこでミュラーとこのチーム【エルムドア】と組んで、これを撃退する……報酬は…一人当たり2千だったはずだ…」
言い終えると、巨人は皆の顔を見回した。
「おし!久々に腕が鳴るぜ!」
と、ヴァルカンが勇む。それをイーニアスが
「お前のことだ、張り切りすぎて一匹もしとめられませんでした。なんてオチになるんじゃないか」
と、冷めた言葉を掛け二人で喧嘩を始める。
「フェイトン…」
トールが声をかけるとボーっとしていたフェイトンがはっと我に返り
「ラナケロウか…いいんじゃないか…別に…」
そう言ってまた視線を宙に泳がせる…
「……すまん…」
ぽりぽりと頭をかきながら、巨人が誤る。なんとなく奇妙な光景だ…
“ガタ!”
フェイトンが椅子をどけて
「準備して待ってる…」
そう言い残しフェイトンは酒場を出て行った。喧嘩をしていた二人は半ば呆然としながら、いつの間にか喧嘩をやめ…巨人は何も言わずただ黙っていた…外では、あめがしとしとと降り続いていた…誰かが流せない涙を変わりに流すかのように…忘れ去ることのできない過去を洗い流そうとするかのように…ただ、降り続いていた……


エーベルランド記【過去の鎖】3章


 「よし!準備万端だ!」
気合を入れている主人を見てミニブタが首をかしげる。そのミニブタを見て
「大丈夫だ!夕方には帰ってくるよ、ラインハルト=シュナイダー」
と、声をかけ頭を撫でる。自分にまったく似合わない名前をつけられているにもかかわらず、このミニブタ…ラインハルト=シュナイダーは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「うん、じゃあ、待ってるんだぞ」
自分のペットに挨拶を済ませ、ラインハルト=シュナイダーの主人、ヴァルカンは町の出口へと向かった。
 ヴァルカンが集合場所に集まったときには、すでに墓の三人は準備を終え、彼を待っているところだった。 「…遅い、なにやってたんだ?」
イーニアスの苛立たしげな問いに
「いやぁ、俺のことを名残惜しそうに見てくる瞳が…」
と、ヴァルカンが言おうとすると
「あぁ、あの『えりざべす』とかいう豚か…」
「なんだそりゃ!?俺のとこの家族にそんな名前はいねぇ!ラインハルト=シュナイダーだ!何だエリザベスって!?」
イーニアスの天然に本気で怒りながら言葉を返し、今にも取っ組み合いになりそうになっているところに
「……あぁ…そろそろ行くぞ…」
そう言ってトールが前方を指さす。見ると、フェイトンがすでに三人のはるか前方を歩いているところだった。
『ふん!』
納得いかないという顔をしながらも不毛な喧嘩に区切りをつけ、競うように二人が歩いていく…その後ろを、見守るようにゆっくりとトールが追う。
 
 【ラナケロウ地方】ジャングルのような密林が多く、比較的温暖な気候が豊かな実りをもたらす農耕地方である。だが、最近この密林に大量のイァンクックが住み込み、近隣の村に深刻な被害をもたらしているらしい。
 「…この辺りで合流のはずだが…」
トールがそう言いながら、今回一緒に依頼を請け負うことになった【エルムドア】というチームを探す。団長ミュラーを含め団員15名からなる比較的規模の大きいこのチームは、ハンター業界ではなかなか信頼が置かれている。すると、きょろきょろと辺りをうかがっていたヴァルカンが、何かに気づいたのか指をさす。
「おい、あれ…」
見ると、300mほど離れた場所からモクモクと煙が立っている。そして…
「がはは!さあ肉を食え肉を!腹が減っては戦はできん!!がはは!」
口一杯に肉をほおばりながら、見るからに豪快な男が声を張り上げる。身長は180cmくらいだろうか?縦にも大きいが横にも少し膨らんでいる。顔はごわごわの髭に覆われているが、人なつっこそうな眼が好感を与える。頼りになるお父さんといった感じだろう。
「はい、お肉も良いけど、野菜も食べなきゃね。バッカス?」
口一杯に肉を放り込んでる男の横にいた女がそう言って、野菜を差し出す。165cmぐらいの身長に金髪碧眼のいかにも【サストレア地方】の品のいい美人といった感じの女だ。
「おぉ!こりゃいかん、ありがとうミリア!」
バッカスと呼ばれた男がそう言ったかと思うと、口にしていた肉を飲み込み、今度は口一杯に野菜をほおばる。よく見ると、周りに二人くらい食べすぎで動けなくなった感のあるハンターが無残に転がっていた…
「ふん、あんなハンターたちもいるんだな…誰かさんはすぐに馴染めそうだが…」
イーニアスが皮肉ると
「誰かさんって誰だ!?ちくしょう!で、トール!【エルムドア】ってチームはどこにいんだよ!?」
ヴァルカンがイーニアスの皮肉に反論できず、強引に話を変える。
「……なに言っている?あれが【エルムドア】の副団長【豪血のバッカス】だ…」
トールがさらりと答える…。その瞬間、ヴァルカンとイーニアスは同時に硬直し
『…え?あれが?』
と、お互いが同じ台詞を言ったことにも気づかず、もう一度大声を張り上げているハンターたちのほうを見た。そして、またもや同時に
『大丈夫…だよな(だろうか)…』
と言って、低いため息を漏らした…


エーベルランド記【過去の鎖】4章


 「…バッカス…」
「おぉ、トール!久しぶりだなぁ!」
「あら、ごきげんよう?トールさん」
トールたちの存在にやっと気づいたのか、二人が挨拶をする。
「ミュラーは…今日はいないのか?」
辺りをざっと見回したトールが尋ねると
「うむ!団長は別件でな、ほら?例の…」
「…バッカス!」
トールとミリアがバッカスの話を遮る。
「む!すまん…」
はっとしてバッカスが口をつぐむ。悪気はないのだろうが気まずそうにフェイトンの方をチラッと見た。フェイトンは少し離れたところで別の方角を見てボーっとしている。心ここにあらずといった感じだ…
「…話を本題に移そう…」
トールが、すぐに依頼の件に話を戻す。バッカスもミリアもそれにうなずいた。
「えーと、じゃぁ、私が説明するわ…まず、大まかに分けて私たちが攻略するポイントは3つ、ここから3kmほど東に向かったところにある【ガラニアスの滝】そこが、クックたちの水飲み場になっているわ。次に、北北東約5km地点にある【果物畑】と呼ばれている場所があるわ。そこにもクックが集まっているという情報がよせられているの…、最後に……西のほうに10kmほど行けば、やつらの巣があるらしいの。ここに主力部隊を送るわ」
ミリアが目標の場所を言い終わると、続いてバッカスが口を開いた。
「うむ!それで、各方面のリーダーなのだがミリアとうちのチームのやつらが【ガラニアスの滝】へ向かいたいと思う!この時間帯なら奴等がちょうど現れると聞いている!で、【果物畑】にはそちらのフェイトンを頭に、そうだな…そこの赤いのだな、あと俺たちのチームから二人ほど貸そう!で、巣に向かうのは俺と、トール!あんたと残りのもんで向かってくれ!」
そう言い終えて、異論がないかと、トールたち四人の顔を見回す。反論がないのを確認すると、バッカスは他の仲間たちのほうに向き直り
「ブラッド!!JB!!ガット!!フィシア!!シェリー!フレデリック!獅子丸!仕事だ!」
と、モノブロスの咆哮のような声を張り上げる。すると、さっきまで食べすぎで寝ていた若者二人が急いで起き上がり、向こうの方から男女合わせて四人の人影が走ってくるのが見えた。
「ん?もう一人は…?」
ヴァルカンがバッカスに尋ねると、
「………ここにいる…」
という声がヴァルカンの後ろから聞こえた。いつの間にか、全身白装束の仮面の男が背後に立っていたのだ。
「!!いつからいたんだよ…」
ヴァルカンが驚いているとバッカスが、少し笑いながら
「じゃ、フィリアとシェリーはミリアと、ガットとJBはこのフェイトンと、残りは俺と行動する!わかったな?」
そう言って自分のチームのメンバーに指示を出す。
JBとガットと呼ばれた若いハンター二人が「はい!」と勢いよく返事する。フィリアとシェリーは「わかりました!」と言い、ミリアのほうに駆け寄っていく。ブラッドとフレデリックは互いに顔を見合わせて同時に首や肩の骨を鳴らし、「うす!」「おう!」と短い返事をする。獅子丸はいつの間にか消えていた。
「では、各自…出発!」
バッカスの大きな声が元気よく辺りにこだまする。そして、三組のハンターたちは、それぞれの目的地へと向かっていった。

エーベルランド記【過去の鎖】5章


「おれ、フェイトンさんと同行できるなんて夢みたいですよ!」
フェイトンに同行していた【エルムドア】のハンターの一人が、そう言ってフェイトンを尊敬の眼差しで見る。かなり若そうだ、15,6といったところだろう。癖の強い髪の毛と、子犬のような純真そうな黒い目、装備もこれといって強いとはいえない…まさに新米ハンターだ。
「うれしいね、若い子にそう言ってもらえると、おじさんがんばろうって気になるよ…」
フェイトンが、若者に答える。
「JB!がんばろうな!」
JBと呼ばれた若者が、にっこりと笑いながら
「うん、俺達まだ新米だけど、よろしくお願いします」
と言って、フェイトンとヴァルカンに頭を下げる。身長はヴァルカンと同じくらいで、ほっそりとした顔に長い黒髪、体つきもヴァルカンより華奢な感じだ。だが、その背中に背負っているランスは、彼の外見を裏切って威圧感を与える。
「おう!ボウガン使いが2人に、ランスと、大剣…いい感じじゃん!とっとと終わらせて早く飯にしよう!」
ヴァルカンが一同を見て笑いながら進んでいく。それを見て
「…あいつ、将来第二のバッカスになりそうだな」
そう言ってフェイトンがガットとJBの方を向くと、二人は大きな声で笑い出した。すると、“ガサ!”という物音が後ろから聞こえた。ガットがすばやく振り向く!
“ガサァ!”
ボウガンを構えたガットの前に出てきたのは、親子連れの【モス】だった。
「何だ…モスか…」
ほっとして、ガットがボウガンの構えを解こうとすると
「上だ!!避けろ!」
フェイトンが叫ぶと、黒い影が一同の頭上に姿を現す!
“ドスン!”
≪キィエァアアア!!≫
凄まじい叫び声と共にイャンクックが降り立つ!ガットはフェイトンのおかげでかろうじて回避できたようだ。だが、体勢を立て直そうとするガットに向かってイャンクックがくちばしで突こうと構える!
“ビシュ!”“ビシュ!”
何かが空気を切り裂く音がすると同時に、イャンクックの両目にナイフが刺さっていた!
≪キィィィアァァ!≫
悲痛な叫び声を上げ、イャンクックが、首を振ってもがく!そこへすかさずJBの槍がイャンクックの顔を突き刺す!【ロングタスク】ボーンランスから派生する槍で、飾り気はほとんどないが、比較的安価な材料で作ることができ、威力もそこそこだ。
“ザス!”“ザス!”“ザスゥ!”
JBのすばやい連続突きが、イャンクックを苦しめる!
≪クゥエエ!≫
逃げようとするイャンクック、だがその横から
“バン!”“バン!”“バン!”“バン!”“バシュ!”“バシュ!”“バシュ!”“バシュ!”
二つのライトボウガンの発射音が響く!フェイトンのボウガンは【鬼ヶ島】と呼ばれるギルド品とは異なった謎の銃だが、威力はそれほど強くはない。一方ガットが扱っている【デザートストーム】は、リロードの速さが群を抜いて速く、特殊な弾もある程度扱える、中堅的なライトボウガンだ。
“ドォォォン!!”
≪クェェ!≫
飛び去ろうとしていたイャンクックの翼にボウガンの弾が集中的に命中し、たまらずイャンクックが倒れる!だが、苦しみの声を上げる怪鳥に待っていたのは、死神の鎌が自分の命を刈り取るという現実だけであった。
“ザン!”
ヴァルカンによって振り下ろされた大剣が、イャンクックの首を両断する!声を上げる間も無く怪鳥は絶命した。
「よし!どんなもんだ!」
「やった!倒した!」
喜ぶヴァルカン達を尻目にフェイトンが、呟く…
「…まずいねぇ…」
見ると、ヴァルカン達の周りには既に5,6匹のイャンクックが怒りの眼でハンターを睨んでいた…
「う…」
「なんだと…」
「マジかよ…」
敵を倒した喜びを一瞬にして吹き飛ばされたガット、JB、ヴァルカンがぼそっと呟く…
「さぁて、どうするかねぇ…」
≪≪クエェェェェェェェェ!!!!!≫≫
フェイトンが、喋り終わるのとほぼ同時に、怪鳥達が雄叫びを上げ、ハンター達に襲いかかる!
「さて、こっちが4対…あっちの数は分からないか……上等だ…糞鳥野郎共…俺は今日、機嫌がすこぶる悪いんだよ………」
フェイトンが決心したように、顔を上げる。
「……まとめて逝かすぞ!!!」


エーベルランド記【過去の鎖】6章


 “ドドン!”
ジャングルに銃声が響く。鳥達が驚いてバサバサと、逃げ散っていく。だが、鳥達とは逆に銃声がとどろく場所へ走っていく三人の人影がある。
「ミリアさん!」
息を切らせながた、ハンターがミリアに呼びかける。身長は150cmくらいのまだ小女といってもいいだろう。髪はショートカットで顔も童顔なので、おそらく実年齢よりさらに若く見えるだろう。何より印象的なのは左右で色の違うその眼だ。
「だ…大丈夫でしょうか?JBさんと、ガットは……?」
「分からない…一応頼りになるやつが1人いることは分かってるんだけど…」
仲間の質問に、ミリアがそこまで言って口をつぐむ。
「大丈夫だフィリア。まだ間に合う」
心配そうな顔をした少女に横で走っていた女が励ます。
「…シェリー…うん!」
元気を少し取り戻したフィリアの顔を見て、シェリーと呼ばれた女が微笑む。落ち着きのある物腰に、艶のある長い黒髪は腰まで届きそうだ。すらっと長い身体と手足を【クックシリーズ】の防具で包み込んでいる。その二人を見てミリアが
「……そうね」
と、苦笑する
「(でも、この日、この場所…あいつにとってはまさに…)…急ぎましょう!」
自分の中に不安を無理やり押し込めミリアはさらにスピードを上げた!
 
 「す…すげぇ…」
ガットが感嘆の言葉をもらす。それもそのはず、彼の眼前で繰り広げられる光景は、まさに神技としか形容しようがなかった。
“ドスゥゥン!”
土煙を巻き起こしながら、イャンクックが倒れた…既に絶命している。このイャンクックは信じられないが1人のハンターによって、ナイフ一本…いや、正確にはナイフ一本と、銃弾3発で命を奪われたのだ。
≪クェェェェェェェ!!≫
奇声を上げて二匹目のイャンクックが長い首を上げ、火炎弾を吐こうとしたとき、一本のナイフが飛来し、その長い首に刺さる!だが、この程度は、いくら飛竜の中でも弱い部類と言われているイャンクックは倒せない。だが、さらにそのナイフを狙って、銃弾が飛んでくる!
“ガン!”“ガン!”“ガン!”
弾は怪鳥の首に刺さっていたナイフに二発とも命中した!すると、炎を吐こうとしていたイャンクックが苦しみだし、そのまま絶命した…刺さっていたナイフが銃弾によってさらに奥へと進み、怪鳥の頚動脈を引き裂いたのだ!何が起こったかわからないままに二匹目のイャンクックが地にひれ伏す!
≪≪クァァアァァアア!!≫≫
仲間をいとも簡単に殺された怒りか、今度は二匹のイャンクックが、このハンターめがけて突進してくる!だが、それを予期していたかのように、既に音爆弾が二匹の顔の横に投げ込まれていた。
「お前ら、耳ふさいどけ」
“キイイイイイィィィィィン!!”
凄まじい音響があたりに響き、二匹の怪鳥の意識を狩りとる!
ヴァルカン、ガット、JBの三人が凄まじい音に堪らず耳をふさいだ時、凄まじい速さで目の前を通り過ぎる影を見た。次の瞬間…
≪クアァァ!!!≫
何が起こったのかと、声のしたほうを向くと、そこには散弾によって頭を吹き飛ばされた怪鳥が一匹、その命を死神の供物とするところだった。
「な…なんという…」
JBの首筋を汗がつたう。彼はこれまでこのようなことができるのは、団長と、あとはバッカスとミリアのコンビぐらいだと思っていた。だが、ボウガン使いでない若者にも分かるほどに凄まじい神技を、このハンター…フェイトンが見せつける!
“ガチャン!”“ドン!”“ドン!”“ドン!”
なんと、背中からもう一丁の鬼ヶ島を取り出し、右手の指をうまく使って徹甲榴弾を銃に装填して、もう一匹の気絶しているイャンクックに向けて放ったのだ!
“ドドォォ!!”
鳴き声をあげるまもなく声帯と頚動脈を徹甲榴弾の爆発によって破壊され、四匹目の怪鳥の命の火が消える。さらにフェイトンは、後ろから攻撃しようとしてきた残りの怪鳥に向け閃光玉を放ち、仲間の3人に叫ぶ!
「あと、1匹は俺がやる!残り一匹何とかしろ!」
“カッ!”
凄まじい閃光と共にイャンクックの眼がくらむ!そして、敵の居場所が分からない怪鳥に両手に拳銃を持った死神が近づき…
“ドドドドドドドドドン!!!!!”
二丁の鬼ヶ島が火を噴く!凄まじい数の徹甲榴弾を打ち込まれ、5匹目のイャンクックが頭を半分吹き飛ばされ、さらに魂までもすべて吹き飛ばされた…。自分の相手が絶命したことを確認し、フェイトンが振り向きもせず銃弾を放つ
“ドドドドドン!!!”
ヴァルカン達によって追い詰められていた最後の怪鳥が、崩れ落ちる…3分とかからず、6匹の怪鳥の死体があたりに散らばっていた……
「……ウ○トラマンもびっくりだな…」
フェイトンの言葉に、呆然としながらもヴァルカンが訊ねる。
「…ウ○トラマンって?」
「なんか思い浮かんだんだよ。きっと、異世界の英雄で、ある一定時間しか戦えないが、はた目にはどう見ても一定時間以上戦っているような奴だ。んで、危なくなったら乳首が点滅するんだよ…(著作権大丈夫かなぁ…)」
ヴァルカンたちの理解が及ばないようなことを並び立て、フェイトンが3人とは別方向を見る。
「お疲れ…遅かったな…」
すると茂みの中から“ガサガサ”と音を立てて、ミリアたちが現れた
「……凄まじいわね」
辺りを見回したミリアが、一言呟く。そしてさらに
「ここに貴方を縛りつけていた鎖が解かれたのかしら…?」
と、続けた。その瞬間、ヴァルカンの目にフェイトンの感じが一瞬変わったように感じた…だが、次の瞬間にはいつもの雰囲気のフェイトンに戻り、
「さ、酒飲みとまん丸坊主の手伝いに行こうか?」
そう軽口を叩いて、歩き出した。ヴァルカンもわけが分からないまま、ついていくことにした。ミリアはしばらく立ち止まっていたが、フィリアとシェリーそれにJBとガットに出発すると合図し、歩き出した…JBとガットはしばらく黙っていたが、顔を見合し、何も言わず歩き出した…


エーベルランド記【過去の鎖】7章


 『この子が生まれたら、なんて名前にする?』
狩りの仕度をする男に女が話しかける
『そうだなぁ…男だったら、俺の名前に似せてフェイト…女の子なら…』
『女の子なら?』
『俺の妻の名前からちょっと拝借してサリアなんてどうだ、ロザリア?』
『ふふ…貴方らしいわね…』
微笑みながら女が男の頬にキスをする
『へへ…最高のお守りだ!』
少し照れながら男は家を後にする。この仕事が終われば、いつものように家の帰り、いつものように自分の妻と食卓を囲みながら生まれてくる子への期待を膨らませ、いつものように笑顔で一緒の時間をすごそう…そう、いつものように…
『さて、依頼の場所は…【サストレア地方】のジャングルか…ちゃちゃっと済ませて、愛しい家族の元に帰ろうか!!』
 
 「………ン…トン!……フェイトン!」
ヴァルカンの呼びかけにボーっとしていたフェイトンが、はっとして辺りを見回す
「どうしたんだよ、ボーっとして?」
「いや、なに…こっちのことだ…」
ヴァルカンの問いを曖昧な言葉でかわし、フェイトンは歩調を速めた。
それを見ていたミリアが、少し暗い顔をする。
「ミリアさん!」
横から、ガットがいきなりミリアに声をかける。
「な、なに?ガット…」
「俺、今日初めてフェイトンさんの戦い方を見たんです!【三分間の殺劇】その伝説を始めて見たんですけど、やっぱ昔からあんなふうにすごかったんですか!?」
ガットが興奮しながら一気にまくし立てる。
「なに?その【三分間の殺劇】って?」
ガットの興奮している様子を見て、ちょっとおかしそうな顔をしながらフィリアが訊ねる。ガットが、その問いに答えようとしたとき
「【三分間の殺劇】なんて、カッコいいもんじゃないわよ…あれ、ほんとはあいつの作った架空のヒーローがぎりぎり戦える時間…っていう設定で勝手にあいつが制限した時間よ?確かに昔からやってはいたけどね……」
ミリアが笑いながら二人のハンターの問いに答える
「だけど…」
それまで黙っていたJBが口を開く
「だけど…あんな戦い方…いままで…」
「何を見て自信喪失してるか知らないけど、大丈夫よ?あいつなんか貴方くらいのころはモスにお尻に体当たりされて泣いてたような奴だもの」
それを聞いて、同行していた3人が笑い出す。ガットだけは、憧れの人物を笑われたのが気に障ったのか、むすっとしている。
「ん?おや、あちらさんも早めにカタがついたらしいな」
フェイトンがそういったのを聞いて、一同が前方を見ると、トールやバッカスたちがこちらに向ってくるところだった。
「む!ミリア!フェイトン!!ガハハ!無事のようだな!?」
1キロ先からでも届きそうな大声を上げバッカスが手を振る
「ふふ…まあね、でも私達がやっつけたのは3匹よ?意外にこちら側には来てなかったの…」
ミリアがそう言ってバッカスの方に歩いていく。
「む!そうか、こちらは100匹はのしたぞ!!やはり、巣にはそれなりにわらわらと集まっておったわ!!!」
バッカスが大笑いしながら凄まじい数字を平気で言った
「ひゃ…ひゃくぅ!?お…おっさんすげぇんだな!?」
ヴァルカンがおもわず驚いていると、イーニアスが
「実際は20匹程度だよ…」
と呆れながらヴァルカンに耳打ちをする。どうやら、バッカスよりはまだヴァルカンのほうが付き合いやすいと感じたのだろう……
「なんだぁ…びっくりした…」
100という数字をまったく疑うことなく信じ込んでいた青年は、少し安心した。これ以上化け物のようなハンターが出現したらどうしようかと思ったのだろう。
「…近くに【ブランケット村】がある。そこでとりあえず結果報告だ…何か意義のあるものは?」
トールが、会話を中断させみんなをまとめる。誰も異論はないようだ。
「よし!なら行こう!」
大きな声を上げてバッカスが村へ向う。早く酒にありつきたいのだろう…それに続き、【エルムドア】のメンバーとヴァルカン、イーニアスが後に続く。
「…んじゃ、俺は後から……」
「気づかれないように顔を眺め、己が何であるかも言わず…ただ現実から逃げる……。まだ…繰り返す気か?」
「!!…なんだと…」
自分の言葉を途中で遮られ、自分の心に土足で踏み込んできた言葉にフェイトンが顔を引きつらせる…。だが、とーるは言葉を続ける
「…お前は過去から逃げているのだ…いや、逃げようとしているだけだ…生まれてくる前の赤子を失い、自分の最愛の妻…ロザリアの記憶を失わせたのは自分だとな!」
「し…知った風なこといいやがって…」
「知った風なこと!?ふん!ロザリアは、過去に立ち向かおうとしている!お前は何をしている!?二年もの間……お前は何をしていた!二年間…何も変わらず、何も認めようとはしなかったのではないか!?」
「お…俺は…俺は!」
必死に言い返そうとするフェイトンをトールがさらに責めたてる
「お前の妻は、確かにすべての記憶を失っている!だが、お前に貰った首飾りを外したところを…俺はこの二年間、見たことがないぞ?お前も気づいているはずだ!?」
「く……」
「頭を冷やしてよく考えるんだな!?ロザリアが…記憶を失いながらも二年間どれだけ苦しんだか……もっとも、今のお前を見たら幻滅するだろうよ…過去の鎖に縛られているくせに、その過去を省みず…ただ、無駄に時を重ねていくような男を、あの娘は愛したんじゃない!」
「…うぅ…」
「過去を過ちと思うならその手で、できることをやれ!その過ちを未来につなげ!……現実をしっかりみすえろ!…あの事件で、ロザリアは自分の子と、記憶を失った…さらにその上、自分の愛した男まで失わせる気か?」
「…」
「二年…俺は、お前にここまで話すのに二年かかった……ここからは…お前が決めろ…」
言い終えると、トールはいつものように無口になり、フェイトンの元を去っていった。いつのまにかそれを見ていたバッカスとミリアが
「よかったのか?」
と、トールに訊ねる。巨人はただ一言
「二年間待ったんだ…これ以上はロザリアが可哀想だ…」
そう言って、去っていった。
「…いくか?」
「…えぇ」
バッカスもミリアも、それ以上は何も言わずトールの後についていった。
 
 密林に雨が降る。その中に1人の男が首から何かを取り出し、呟く
「首飾りって…あげたの6歳のときだぜ?あんな貝殻がそんな嬉しかったのか…」
自分の首にかかっている薄い桃色の貝殻に穴を開けて糸を通しただけの首飾りを見て呟く…
「あぁ、それは俺も同じか…」
男がどんよりと曇った空を見上げ、呟く
「…何が過去の鎖だ…わかったよ…断ち切ってやる!断ち切ってやるよ!!」
勢いよく立ち上がり、男が走り出す!
「まってろ!?ロザリア!!!」



エーベルランド記【過去の鎖】8章


 先刻から降り出した雨が、徐々に強くなってきた。
「ひどい雨になってきたわね?ロザリア」
「そうですね、とりあえず早めに家に帰ります」
そう言って1人の女が話しかけてきたおあばさんに軽く会釈をし、小走で去っていく
「もう二年も経つのね…」
そう言って自宅に入ろうとしたおばあさんが急に足を止める。
「あ…あんたは?」
「…よお?婆さん…久しぶりだな」
二年もの間この村に姿を見せなかった人物がいきなり目の前に現れて、おばあさんは少し戸惑いをみせる
「も…戻ってきてくれたのは、あたしゃ嬉しいけど…でも、あの娘は…ロザリアは…」
「分かってるよ……でも、決めたんだ」
老婆の言葉の意味を理解しながら、男はうなずく。
「行ってくるよ…二年間を取り戻しに…」
「フェイトン…」
老婆はそれ以上何も言わず、自分の家に入った。フェイトンは少し立ち止まって、また歩き出した。
 降りしきる雨の中、フェイトンは懐かしい我が家へと帰ってきた…二年ぶりの自分の家は、昔の記憶のままだ…
“トントン”
「はーい、ちょっと待ってね」
自分の家の扉を叩く音に家の主が返事をして、扉を開く。そこには、ずぶ濡れの見知らぬ男…いや、遠い昔どこかで顔をあわせたことのある感じの男が、そこに立っていた。
「ど…どちら様で?」
「…」
無言の男に少々戸惑ったものの、ロザリアはこの男を家の中に入れた。彼女の直感で自分はこの男のことを知っている、それにこれ以上雨に打たれるのは可哀想だと思ったのだ。
「とりあえず、タオル持ってくるわね…」
そう言ってパタパタと、走っていくロザリアの背中を見送った後、フェイトンは家の中をざっと見回してみた。ほとんど何も変わらない…変わったのは、ここに住んでいた男の物が無くなっていることくらいだ…そして、もう一つ以前とは違うものを見つけた。
「人形…?」
不思議に思い近づいてみると、後ろから
「あ、それ私が作ったんです…」
振り返ると、ロザリアがタオルを持って後ろに立っていた。
「ちょっと、不恰好になっちゃったけど、この子の名前がロザリア…実は自分の名前をつけちゃっているんですよ…」
ロザリアが照れくさそうに人形の説明を始める。
「で、こっちのちょっと大き目の人形が…」
「フェイトン…」
客人の思いもよらぬ一言に、ロザリアがフェイトンの方を見る。
「で、こっちのちっこい女の子が、サリア…男の方が…フェイト」
見ず知らずの客人が語る人形の名前に驚いて絶句するロザリア…
「こっちの犬が……懐かしいな、ゴッドだ…」
「…なんで?」
おもわずロザリアがタオルを落とす。
外では、雨がさらに勢いを増して降り続いていた…

エーベルランド記【過去の鎖】9章


 “ゴゴゴ…”“ザァァァ!!”
空がさらに暗雲によって黒く染まり、時折雷鳴が轟く…雨はいまや凶器のごとく激しさを増していた。
「二年前…俺達は…子供を失った……モンスターの襲撃によって…」
男が外の天候など意に介さず喋りだす
「…その時、俺は村にいなかった。お前の傍にいてやれなかった…」
男の言葉をただ黙って女が聞いている…
「そして、俺は逃げたんだ…子供を失った現実から…お前が俺を責めているという恐怖から……お前を残して…逃げたんだ…」
“ドガァァァ!!!”
どうやら近くで雷が落ちたらしい…。
「……貴方は…」
「思い出してくれ…ロザリア」
状況を理解しようとしている女に、男が胸元から貝殻の首飾りを取り出す…
「それは…」
そう言って、ロザリアも自分の首から下がっている貝殻の首飾りに手を当てる。
「頼む…俺は…もう、失いたくないんだ…」
すがるような声を男が絞り出す
「…貴方は…わ…私は…」
ロザリアが頭をかかえ、ひざを地面につく。
「私は!」

 『また、村長さんに悪戯したの?』
『………』
(ここは…あれ?あの子達は?)
『子供ねぇ、フェイトンは…』
『うるさい!』
(フェイトン…懐かしい響き…そうか、私の人形の名前だわ…)
『…ねぇ…』
『なんだよ!まだなんかあんのかよ!?』
『今日、誕生日でしょ…これ…』
『!!』
(あれは…貝?貝のネックレス…これも、どこかで…)
『寂しかったんでしょ?寂しいなら言えばよかったんだよ…』
『い…言えるかよ…そんなこと…言える…わけ…う…うぅ…うあぁぁぁ!』
『あたしが首にかけてあげるね?』
『う…う…ちくしょう……嫌いだ…みんな…嫌いだ……』
『これでよし、これからはこのお守りがフェイトンと一緒だよ』
『…うぅ……』
『フェイトン、あたしはフェイトンのこと大好きだからね?』
『………』
『いこ!お母さんがご飯作ってくれてるんだ!フェイトンの誕生日のお祝いだよ!』
『…うん』
『よし!』
『ロザリア……』
『なに?』
『……ありがとう…』
『どういたしまして』

(…ロザリア……あの子は…私?私なの…?)


エーベルランド記【過去の鎖】10章


 『可哀想に…村に帰る途中、ランボスの群れに遭遇したらしい……』
『ほんとに…まだ14歳でしょ?これから大丈夫かしら?』
(…これは、お葬式?)
『ロザリア…泣きたかったら泣いてもいいんだよ?』
『ありがとう、レニー。でも、今は泣かないことにしてるの…』
『ふぅん…まぁ、俺でよければいつでも力になるよ!俺の親父は商人だからお金や生活のことで困ったら何でも相談しなよ?』
『…うん…ありがとう…』
『じゃぁね!』
『…うん』
(……嘘…ホントは泣きたかったの…でも泣けなかった…このとき泣いたら、もう、自分が自分でいられないと思った……この時?私は…この光景を知っているの?)
『お父さん…お母さん…』
『おい…』
『!!…びっくりした…フェイトンも来てくれてたんだ……』
(フェイトン?また、この子…誰?誰なの?)
『おじさんには、よく叱られたけど…俺のことを可愛がってくれた…おばさんには、よくシルヴィラのパイを焼いてもらったし…本も読んでもらった…』
『はは、懐かしいね』
『…ロザリア…』
『ん?なに、どうしたの?』
『寂しいなら…寂しいって言えばいいんだよ……1人でいるのは…辛すぎるよ』
『!…フェイトン…』
『ほら、これ…』
(…あれは…貝の首飾り……私の持っているのと同じ…)
『これは…』
『今度は、俺がお前の傍にいてやるよ…』
『フェイトン…う…ぅ……あぁぁぁぁぁぁ!!お父さん!!!お母さん!!!』
(泣き場所が見つかった…彼が…フェイトンが与えてくれた…フェイトン…私は…私は…くぅ…あ…頭が!!)

 『一緒に暮らそう…ロザリア…』
                『それってプロポーズ?』
『き…聞き返すなよ!』

     『ねぇ…子供ができたみたい!フィアラのおばあさんが診てくれたの』
    『ホントか!?俺の…俺達の子が!?はは!!万歳!万歳!ははは!』
                   『ふふ…まるで子供ね…』

『今日はどこに行くんだっけ?』
     『ラナケロウ地方の密林だ。なに、簡単な依頼だからすぐに終わるさ』
                『わかったわ…気をつけて…』
   『おう!じゃ、安静にしてろよ!?』
               『分かってるわ、がんばってね』
                       『へへ…いっています!』

      『しっかりしろ!』 
                  『大丈夫か!?』
           『私の…私達の子供は……?』
   『………』
                      『そんな!?いやぁぁぁ!!』

『…い…おい!ロザリア!』
           『う……』
  『よかった…気がついた!』
                    『………』
       『ロザリア?どうしたんだ?おい!ロザリア!』
                   『あなた…誰?』
                             『!!』
  『私…どうして…ここに?』
                『嘘だ…嘘だ!嘘だぁぁぁぁぁ!!』
         
 (……思い出した…いえ、ずっと傍にに貴方はいてくれたのに…私は目を背けていたのね…貝のように心を閉ざすことで…自分を守っていた…そんなことしても何も変わりはしなかったのに…私も、現実と戦うことを恐れ、逃げていたのね…)
真っ暗な地平線に朝日が昇るようにロザリアの意識がはっきりとしていく…
(ほんと、お互い…弱いくせに…馬鹿だったわね……)
今まで開くことを拒絶していた扉がすんなり開くように感じられた…
(…ねぇ……フェイトン…)



エーベルランド記【過去の鎖】11章


 「おい!ロザリア!!大丈夫か!?」
フェイトンが目の前でいきなり倒れたロザリアに必死に呼びかけている
「う…フェイトン…」
「良かった…気がつい…!!」
記憶を失っていたはずの女が、確かに自分の名前を呼んだことにフェイトンが目を丸くする。
「お…おまえ…記憶が……」
「全部思い出したわ…」
そう言って、ロザリアがフェイトンの方に顔を向ける。
「お互い、現実から逃げていたのね…」
「いや…俺は…怖かったんだ……あの時、お前が俺を恨んでいるんじゃないかと…俺のことを…」
フェイトンが顔うつむけながら話す…
「どうして?」
「俺は…お前の傍にいてやれなかった……だから…」
「そんなことで貴方を憎むはずがないわ…だって、私も貴方も…息子を失った現実を1人で背負うには弱すぎるもの…」
フェイトンの顔にそっと手を添えられる。
「それに…私も怖かったの…貴方が私を責めないかって……だから、自分自身の中に逃げ込んだのよ。」
ロザリアの目から涙があふれる
「もう少しで、貴方まで失うところだった…」
「はは…言いたいこと全部言われちまったよ……かなわねぇな、昔からお前には…」
既に床が濡れるくらい涙を流しながら、フェイトンが自分の妻の手を握る。二年間、彼はこの手の温もりを捜し求めていた。
「過去は変えられないわ…でも、どんなに苦しい過去でも、目を背けるのは止めにするわ……でも、それには貴方が傍にいてくれなきゃ始まらないわ…寂しいときには寂しいって言える相手が…」
「……二年間…傍にいてやれなくて、悪かったな…」
言葉を言い尽くし、夫婦は抱き合った。二年前…男は愛する者から逃げ、女は現実から逃げた…共に相手のことを本当に想っていたからこそ、相手が自分のことを許さないかと恐れたのだった。
『あ…』
一瞬、二人の前に小さな二人の子供の影が現われたような気がした。だが、次の瞬間にはそこには何もなかった…
「…俺、ハンターを止めようかと思う。」
「………」
「もう、あんなことがないように…」
“ピシャ!”
フェイトンの頬をロザリアの手が思い切りはたく!
「次は仲間を見捨てるの!?二年間を共にしてくれた仲間がいるんでしょう!?貴方を支えてくれた人たちがいるんでしょう?」
呆然とするフェイトンにさらに言葉の雨が襲い掛かる
「貴方は仕事を終えたらここに帰ってくればいい!そして、ご飯を食べる!そうやって来たんだからそうしなさい!」
「お…おい…でも……」
「帰ってくることが分からない人を待つのは辛いけど、帰ってくることがわかってる人を待っているのはそれほど苦でもないわ。それに、もうすぐ家に家族が増えるし…」
ロザリアの意外な言葉にさらに仰天するフェイトン
「ジェスタさんの家で子犬が生まれたらしいの…それを一匹譲ってもらうの」
ほっと、胸をなでおろしながら
「じゃあ、もう…大丈夫なんだな?」
というフェイトンの問いに
「えぇ、でも二日以上家を空けないようにしてちょうだい。二日くらいなら我慢してあげるわ」
とロザリアが返す
「…はは…俺も二日も家を空けるなんて、もう耐えられないかもな…」
照れくさそうに頭をかきながらフェイトンが言う。
外はいつの間にか雨が止み、青い空が暗雲を押しのけるかのように広がっていた…その空を一対の飛竜の影が飛んでいく。フェイトンとロザリアを縛り付けていた過去の鎖は、今は無いだろう…

 数日後、【ラッシュゴールドの町】の酒場に4人の人影があった。
「でさぁ、ロザリアったら、俺に「いってらっしゃい」なんて言ってほっぺにチュウしてくれちゃったんだぜ?羨ましいか?妬ましいか?ひゃはは!」
1人馬鹿みたいに騒ぎ立てながら、男が一気に酒を飲む
「いったい何なんだよ!?帰ってきたと思ったら、いきなり自分の妻の話なんかしやがって!!そもそも結婚してたなんて聞いてねぇぞ!糞フェイトン!?」
ヴァルカンがそう言いながらうっとうしそうにフェイトンに向って言い返す
「…フェイトンさん……」
あきらめたようにイーニアスがため息をつく。そして、諦めたのか依頼を受けに席を立つ。ヴァルカンもこの場にいるよりは仕事をする方がましとでも言うようにカウンターへと向かう。
「なんだよ!お前らもっとちゃんと聞けよ!…ったく」
フェイトンがちょっとふてくされながら、また酒を飲み始める。
「…なぁトール…」
「…ん?」
向かいに座っていたトールにはじめてフェイトンが話しかける。
「……その…ありがとよ…」
「…あぁ…」
言葉少なく返事をしながら、巨人は少し微笑む。そして、酒の入ったグラスを持ち
「…乾杯といくか……」
そう言って、杯をフェイトンの方に向ける。少し間があった後
“チン…”
という音をたて、杯が重なり合う音がした…
「乾杯…」



エーベルランド記【過去の鎖】エピローグ


 薄暗い地下室のような場所で、五人の人影が密談をしている…
「獅子丸…鷲丸…報告を」
『は!』
リーダー格の男に言われ、獅子丸、鷲丸と呼ばれた人影が話し出す
「まず、最近起こった【ルダール村】のモンスター被害…やはり、いくつかか人為的な跡が見られます…」
「さらに、【シェイダール村】【ルマーラ村】【セレンデ村】これもすべて不審な点が…」
「やはりそうか…」
そう言ってリーダー格の男が考え込む。
「それに、二年前…あんたもしっとるだろう?フェイトンの村のこと…」
大柄な男が口を開く。
「そうね、あの時…バッカスと私が村の人から聞かされた【モンスターと戦って勇敢に死んでいったハンター】そのハンターの傷…調べてみたら、明らかに人為的なものだったわ…ねぇ、ミュラー?」
ほっそりとした女…ミリアがそう言って、資料のようなものを取り出す。その資料と獅子丸、鷲丸が提出した資料を見ながらミュラーが呟く
「やはり…奴か…」
遠い思い出…だが決して素晴らしい思い出などではないという風にミュラーが遠くを見つめる…
「テュポン!!」
部屋に灯っていた蝋燭の炎が揺れ、静かに消えていった…



あとがき(みたいなもの)


 あぁ、やっと書き終えた…。書いてる途中、『これ絶対つまんねぇよ!モンスターと全然戦わねぇし、暗いし!』そう思いながらも自己中心的な性格が己の心の中の自己矛盾を一掃し、ボードを打つ手が止まらない…終わってみると、無駄に長いし…なんかモンスターでてこないし…で、自分のアホさかげんが分かる作品となりました…。フェイトンの過去を掘り下げるつもりで書いた作品が、いつの間にかこんなに書き込むことになるなんて……でも、まぁ、いいかなんて思いながら利己的な満足感に作者は勝手に浸っています。
 さて、そんな自己中作者ですから、懲りずにはなしを続けようと思っております。次回は、トールかイーニアスを中心にしたいと思っておりますので、良ければ呼んでくださいな!では、もしここまで読んでくれた方…ありがとうございました
長々と駄文失礼しました!














By Mind of Hunting