エーベルランド記【空の王】
ビヨンド様作
エーベルランド記【空の王】1章
エーベルランド記【空の王】2章
エーベルランド記【空の王】3章
エーベルランド記【空の王】4章
エーベルランド記【空の王】5章
エーベルランド記【空の王】6章
エーベルランド記【空の王】7章
エーベルランド記【空の王】1章
無限に広がるような草原、天にまで届くかのようにそびえる断崖絶壁、透き通るような清水のせせらぎ…そのような自然の中で一人の男が無骨な大剣を振るう。燃えるような赤髪に赤い瞳、見るからに猪突猛進で少し危うい雰囲気の男だ。
<ギャアアアァァ!>
哀れな声を上げランボスの体が真っ二つに裂ける。周りにはランボスの死骸が数匹転がっている。
「お…終わりか?」
ランボスの死骸に囲まれながら男は最後の応急薬を使う。身体はボロボロで毒にまで侵されている。
「あと少し…もう少しだ…」
朦朧(もうろう)とした意識の中、崩れ落ちそうな身体を大剣で支え男は足を一歩踏み出す、いや、正しくは踏み出そうとした。その瞬間、凄まじい風を起こし、巨大な影が頭上を通り過ぎる!男の傷の大半はその影の主によるものだ。
「ここまできて、なんて格好悪りい…」
男はぼそりと、抑揚のない声でつぶやいた。
眼前に降り立つ真紅の影。空の王【リオレウス】その眼は明らかに男に対する敵意に満ち満ちている。ただ、脅威と思っている訳ではない、空の王たる自分に対し歯向かってきた羽虫に対し嫌悪感を覚えているのだ。そう、この王にとっては、人間が自分の周りを飛び回る蚊や蝿うっとうしがるのと同じなのだ…
≪グオオオォォォォォ!!≫
凄まじい咆哮とともに周りの空気が一変する!弱った男の身体に恐怖が染み渡る!
「助けてくれ、俺が悪かった…」
誰もいない空間に向けつぶやきながら、突進してくる飛竜を視界の中に捉え、男は昨晩のことを思い出す。まだ仲間と呼べる者たちがいた、今は失われた時間を…
エーベルランド記【空の王】2章
夜も更けた酒場で、いろいろな人々が酒を酌み交わす。日常会話から自分の自慢話、仲間たちとの成功の杯、他愛もない会話が飛び交う。そんな中、
「ヴァルカン、最近一人で突っ込みすぎだ。もっと慎重に行かないと、いつか足をすくわれるぞ?」
白っぽく脱色した髪に、きりっとした白い眉、海のような青い眼、透き通るような肌。それでいて引き締まった肢体…まさに美丈夫と形容するに相応しい男が横で酒を飲んでいる男に向かってたしなめるように言った。
「うるせぇ!慎重慎重って、びびってるだけだろが!」
ヴァルカンと呼ばれた男が頬を高潮させながら、美丈夫に向かって怒鳴る。
「ま、イーニアスの言うとおり、今回のは、どうかと思うよヴァルカンちゃん?」
短く切った金色の髪に、日に焼けた褐色の肌、人なつっこそうな茶色の眼、口元にはうっすらといたずらっぽい笑みを浮かべている。身長はあまり高くないが、隙のない野生の猫のような男だ。
「なんだとフェイトン!?」
「落ち着け…ヴァルカン。」
2mを越す巨体の男がヴァルカンをたしなめようとする。髪は剃りこんでいて、初めて会う者なら、昔話に登場する鬼(オーガ)を連想するだろう。だが、よく見るとその黒い瞳にはどこか安らぎを与えてくれる優しい光がともっているのに気が付くはずだ。
「トール!離せ!」
トールと呼んだ男に向かってヴァルカンが殴りかかる。他の二人への怒りの代償行動だろう。彼の性格と度が過ぎたアルコールの所為ともいえないが
“バキィ!”
人を殴ったときの嫌な音が酒場に響く。酒場はいつの間にか静まり返っていた…
「あ…」
ヴァルカンがハッと我に返る。辺りを見回すと大半が好奇心からヴァルカンに眼を向けていた。フェイトンの顔からは笑みが消え、イーニアスにいたっては、その冷静そうな顔に微かな怒りをちらつかせていた…
「なんだよ、テメェら!ふざけんな!!見てろ?テメェらの力なんか借りねえでも俺の戦いが正しいってのを見せてやる!?」
そう叫ぶとヴァルカンは酒場を飛び出し、夜の闇に消えていった。そのときかすかに彼を呼ぶトールの声に振り返っていれば、トールの眼に怒りではなく、仲間を愛し、思いやる優しさを読み取れていたかもしれない…
エーベルランド記【空の王】3章
ヴァルカンは自分の置かれている危機的状況に意識を戻す。リオレウスの巨体が彼の眼前に凄まじい勢いで迫りくる!
20…15…10…m
ヴァルカンは必死に足を動かそうとするが足に力が入らない。
9…7…m
大剣を持ち上げようとするが、まるで地面に根が生えているかのように重い。
5…3…m
やっとのことで大剣で防御姿勢をとる。
2…1…“ガギィィィン!”“グシャ!”
持ち主の手から離れた大剣とその持ち主が吹き飛ぶ!もはやヴァルカンの身体には、リオレウスの突進に耐えうるだけの力さえ残ってはいなかった……
勢いよく壁にたたきつけられ、口からドロッとした液体が本人の意思とは関係なく溢れ出す一瞬意識が飛んだが、激痛に意識を取り戻す。アバラが折れているらしい…
「助けて…」
弱々しい声をヴァルカンが上げる。飛竜はどうやら岩陰に隠れたヴァルカンを見失ったらしい。だが、血のにおいが、飛竜の本能に呼びかける
獲物は近い!
ヴァルカンはもう動くことすらできなかった。毒で体力を奪われ、飛竜の突進をモロに受けた彼の身体は、脳から伝わってくる指令にまったく従わない…
“ドスン…”“ドスン…”
絶望が近づいてくる。
“ドスン…”“ドスン…”“ドス…”
止まった。ヴァルカンが顔を上げてみると、そこには炎の様な眼が彼を見つめていた。
<グルル…>
飛竜がゆっくりと口を開ける。勝利を確信しているのだろう…
「イーニアス、いけ好かないけどお前が正しかったよ…、フェイトン…からかわ…ないでくれよ……」
仲間の幻覚だろうか?飛竜の牙が近づいてくる。
「トール、御免よ………馬鹿だった……。」
聞き取れないような、か細い言葉を必死につむぐ
「ミナ…帰れそうにないや…」
死が彼を包み込む……
エーベルランド記【空の王】4章
「まったく馬鹿は死ななきゃ直らないて言うが、ほんとに死なれたらけったくそわりぃもんなぁ」
おどけた口調だが息を弾ませながら、ヘヴィボウガンを構えた男が言った。【メテオキャノン】希少金属で作られたこの武器は、シンプルな構造ながら、威力は中の上には入るだろう。
≪ギャオォォォ!!≫
途端に飛竜が苦しみだした!ヴァルカンがはっと顔を上げると、片目を射抜かれたリオレウスが怒りに任せ叫んでいる。ピンポイントで飛竜の眼を射抜く技術…かなり腕のいいハンターだ。そして、ヴァルカンはこのハンターを知っていた。
「フェ…フェイトン?」
ヴァルカンは30mくらい離れた場所に居る人影に眼を向けた。
「泣きそうなつらしてんじゃないよボーヤ…」
おどけながらもフェイトンの顔には仲間を危機一髪で救えたという安堵感が広がっている。よっぽど心配していたのだろう、全身を汗がつたっている…
「待ってろよ?今オシメ換えてやるよ…」
軽口をたたきながらも狙い澄まされたボウガンからは次々と弾が発射される。
“バサ!”という羽音を立て飛竜が体制を整えるため後方に飛びすさる!
「フェイトン…俺…俺…」
「話は後で…さて、この羽トカゲ…よくもこいつをこんなにしてくれたな?ドタマきたぞ!!コラァ?」
軽口に怒張を含ませ名がら、フェイトンは貫通弾を放つ!!しかし、それを受けながらも、リオレウスは口に炎を溜め、反撃に転じようとする!その時、横から凄まじい風きり音と共に、巨大な鉄槌が飛竜の頭に振り下ろされる!
“グシャ!”“バゴォォン”
【工房試作品ガンハンマ】試作という名は付いているものの、匠の手によって作り出されたそれのその威力は申し分ない!
≪ギャウアァァ!!!≫
さすがに効いたのであろう、リオレウスが身をよじってのた打ち回る!そこへ容赦のない第二撃が振り下ろされる!
「トール?トールまで?」
驚くヴァルカンに巨人がつぶやく
「お前が無茶をする前に止めようと思ったんだが、探すのに時間がかかった…すまん…」
ヴァルカンの眼に涙がたまる…すると横から、
「トールさんに謝りもせず死ぬ気だったのか?」
ヴァルカンがビックリして顔を上げると、ヴァルカンの大剣【センチネル】を持ったイーニアスがいつの間にか立っていた。
「イーニ…ゲブゥ!?」
喋ろうとしたヴァルカンの顔に鋭い蹴りが入る。瀕死の相手に対し、回復より先に蹴りを入れるあたり顔に似合わず恐ろしい若者だ…
「フン…」
そういって、イーニアスは袋から回復薬を取り出し、ヴァルカンに飲ませた。
「ず…ずまない」
鼻から血をダラダラと垂らしながら、顔を蹴られたことへの怒りより、助けてくれたことへの感謝が上回ったのだろう…ヴァルカンは素直に謝った…
「フン…」
興味なさそうにイーニアスが、飛流の方へ向かっていく。少し離れた場所から、フェイトンが貫通弾と通常弾を使い分けながら、リオレウスをけ牽制する!リオレウスの意識がフェイトンに向かったところをトールのハンマーが襲う!絶妙のコンビネーションが炸裂する!さらに
「むん!」
気合と共にトールが閃光弾を投げる!だが、この凄腕ハンターにも欠点があった…それは…
「お…おい…バキャ者!」
閃光弾は飛竜の目の前ではなくあさっての方向、つまり…
フェイトンのほうへ向かっていき…
“カッ!”
凄まじい閃光と共に閃光弾が炸裂する。
「ノーコォォォォォン!!!」
フェイトンの怒声が飛ぶ。
「む…しまった…」
トールがつぶやく。
目を、開けてみるとそこには飛竜の姿はなかった…一瞬の隙を突き逃げ出したのだ。
「まったく…」
「すまん…」
「…いつものことだ…」
トールとフェイトンがいつもどおりの会話を交わす。イーニアスは黙って飛竜の後を追いすでに歩き出している。
「……なにしてんの?ほら、オシメ換えてやるからこっちゃおいでボーヤ…」
ヴァルカンにいつもの軽口を叩きながらにかぁっと、悪戯っぽい笑みを口元いっぱいに広げる…トールは何も言わず優しい瞳を向けている…
「あ…うん…」
そう返事するのがやっとだった。頬をつたう涙をぬぐい、仲間が拾ってくれた大剣を握り締め、ヴァルカンは歩き出した。彼は今、十分に理解している。仲間という光が、死という絶望的な闇の中に閉じ込められそうになった自分を照らし、この世界に再び導いてくれたことを…彼らに報いたい…そう思い、ヴァルカンは空を見上げた。今はこの晴れ空がよく見える…
「待ってろ…」
そうつぶやき、ヴァルカンは決戦の地へと向かう…空の王の聖域…【竜の巣】へ…
エーベルランド記【空の王】5章
【竜の巣】飛竜の帰るべき場所…そこへ、四人の男達が今、足を踏み入れる…。薄暗いこの洞窟は、トンネルのようになっているので比較的に涼しく、動植物の腐った臭いが鼻を刺す。モンスターとも人骨ともわからない骨が転がっている。だが、洞窟内は張り詰めた空気で窒息しそうだった。その中に…
「いた。」
イーニアスが一言、みなに声をかける。空の王、【リオレウス】今、その王がたった四人の人間に片目を潰され、その身を痛めつけられていたのだ。だが、王の眼は未だ死んではいない…
「おかしいねぇ…すっごい変な感じだ…」
フェイトンが呟く。
「確かにな…」
トールもフェイトンの何気ない一言に同意する…。熟練されたハンターの勘というやつか。いつもと雰囲気が違う。
「今ならいけるって!みんな!」
ヴァルカンがそういって大剣を握りなおす。アバラのアドレナリンの分泌により麻痺しているようだ…
「あぁ、今やるべきです、トールさん」
イーニアスが、背中から二対の剣を抜く…【ガノカットラス】水竜のひれを思わせる刀身には、当然のごとく水属性が付加されている。
「待ちなさい!コリャ!」
フェイトンの静止も聞かず、二人は走り出した!しかし、リオレウスが火炎弾で迎え撃つ!
“ゴアァァァァァ”
凄まじい音をたてて、火炎弾が二人に襲い掛かる!
「おらぁ!」
気合と共に、ヴァルカンがイーニアスの前に躍り出て、センチネルで火炎弾をいなす!
「ぐぅ!」
一瞬、折れたアバラがきしむ!
「礼は言っとく。避けるのなど容易かったけど…」
イーニアスが礼と皮肉を混ぜ合わせた言葉をヴァルカンに掛け、同時にヴァルカンの背中を蹴って、さらにスピードを上げ突進する!
「いくぞ!」
今度は凄まじいスピードでイーニアスがリオレウスの死角に潜り込み、斬撃の嵐を浴びせる!
“バシュ!”“バシュッ!”“ズシュ!”
≪グオォォォ!!≫
的確な斬撃に飛竜が苦悶の声をあげる!だが、同時に身体を勢いよく回転させ、尾でイーニアスを薙ぎ払おうとする!その攻撃を見切っていたイーニアスは、リオレウスの身体に片方の剣を思いっきり刺し込み、それを足がかりにして空中に飛び上がる!
“ビュウゥゥン!”
飛竜の必殺の一撃は、虚しく空を切る!急いでイーニアスを探そうと、体勢を戻そうとする!だが、眼前にはすでにセンチネルが飛竜めがけて迫っていた!
「おっしゃぁぁ!」
だが、この飛竜は大剣が彼を切り裂こうとする瞬間、火球を吐き出し大剣を無理やり弾いた!
「うおぉ!」
大剣を弾かれ、ヴァルカンがよろめく!それを見逃さずリオレウスがその巨体から突進を繰り出す!
“ガギィィン!”
間一髪でヴァルカンはそれを大剣で防御し、飛竜の突進をいなす!アバラが折れているとはいえ、彼の体力はしっかりと戻っている!
“バシュ!”“バシュ!”
フェイトンのボウガンから放たれた一発目の弾が、イーニアスの剣が刺さっている場所の肉をえぐり、二発目が剣を弾く!
≪ギャオオオ≫
「おわっ!」
飛竜の突進を難なく回避し、距離をとる!弾かれた剣は弧を描き、持ち主の元へと戻っていく。竜飛の突進と弾の軌道、角度を完璧に計算して、この達人は弾を放ったのだ。
“パシ!”
飛んできた剣を受け取り、イーニアスが再び構える。ヴァルカンもリオレウスを囲むように移動する…
≪グルゥゥ…≫
リオレウスが低く唸り、最後の抵抗を見せる!しかし、好戦的な若者二人と違い、トールとフェイトンは違和感の根源を探している…何か…リオレウスを見つけた時に、何か違和感があったのだ…
エーベルランド記【空の王】6章
ヴァルカンの首筋を汗がつたう…確実に飛竜を追い詰めているはずなのに、その飛竜からは凄まじい気迫が放たれている!
「はあぁぁ!」
「うらぁぁぁ!」
張り詰めた空気を二人の若者の気合が引き裂く!ヴァルカンが大剣を勢いよく飛竜に投げる!その上にイーニアスが飛び乗る!このような芸当ができるのはそういない、まさに天部の才だろう。
“ボゴォン!”
リオレウスの火球が、大剣を止めた!しかし、爆炎の中から鷹のような影が飛び出す!その影が、火球発射直後のリオレウスの隙を突き、交差しながら斬りつける!
≪グォォ!!≫
リオレウスが怯む!そこへ轟音を上げ鉄槌が襲う!
“バゴォォン!”
≪ギャオォォォォォォォ!≫
凄まじい悲鳴を上げリオレウスがよろめく!だがハンマーを振ったばかりのトールに、リオレウスの尾が凄まじい勢いで迫る!
“ザシュゥ!”
いつの間にか大剣を持ったヴァルカンが間に割り込み、トールに迫っていた尾を一刀両断する!
≪ギャァァァ!≫
飛竜が地面に倒れこむ!もう虫の息だろう…イーニアスも、ヴァルカンも確信した。
『勝った!』
そして、ヴァルカンがセンチネルを握りなおし、飛竜に向け…
「待った」
イーニアスとヴァルカンが声の主、フェイトンのほうを驚いて見る…
「俺が華麗にとどめさしたいんだけど…いいだろ、トール?」
フェイトンそう言ってトールを見つめる…おどけた口調だが、口元は笑ってはいない…
「…先に行ってる……」
トールがハンマーをしまい、他の二人を見る…
「え…だけど…」
ヴァルカンが戸惑っていると、イーニアスが剣をしまう。この男は、トールに対し絶対的な信頼を置いているらしい。そして、トールの後を追い洞窟を出て行く。
「仇は討っといてやるから…ちゃんとな…ボーヤ?」
そう言って、フェイトンがバルカンを見つめる…
「……わ…かった…」
納得がいかないような顔をしながらも、ヴァルカンはしぶしぶ剣を収める…そして、洞窟をあとにする。
「そうそう、ボーヤに残酷シーンはきちゅいもんね?」
フェイトンの軽口に洞窟の外から「うるさい!」と、返事が返ってきた。
誰も…いや、一人のハンターと、瀕死の竜…そして…
「ピィィィ…」
弱々しい鳴き声…見ると巣の中には新しい命が、産声を上げていた…
「親ってのは辛いねぇ…子供を守るためならなんでもするんだよな?」
ボソッとハンターが呟く。
≪グゥゥゥ…≫
反抗する力もないのだろう、だが、リオレウスの眼は我が子を守るため、力を失ってはいない。この人間が、もし我が子に手を出そうものなら、その身を滅ぼそうとも立ち向かうだろう。
「赤ん坊を失うってのは、親にとっちゃ何よりも辛いもんなぁ?」
そう言いながらハンターが袋をさぐる…
「人間だって、『悲しい』と思うんだ。あんたはモンスターだけど頭の良いあんたらのことだ…なんでかなぁ?悲しい思い…させたくないんだよ」
目当てのものを、探し当てたのだろう。袋から取り出す。
「見逃すのは今回限りだ…俺にだって守るもんがある。次に人間様を片目のリオレウスが襲った…なんて事を聞いたら……」
フェイトンがリオレウスの眼を見つめる
「…俺が…殺してやるよ?ガキごと…」
伝わるはずのない言葉を飛竜にむかって次々と掛ける。他の者が見たら、頭がおかしい大笑いするか、殺してしまえと怒り出すような光景だ。だが、本人はいたって真面目のようだ。
「わかるわけないと思うがわかったな…」
そう言って、リオレウスの傷に薬草を使う。
≪グルゥ……≫
フェイトンの問いに対する返事だろうか?飛竜は最後に低くうなった…フェイトンを襲う気はもうないようだ。
「…元気で…なんていったら、ハンターとして終わりだな…」
そう言い残し、フェイトンは飛竜の赤子を見た。そして、手にしたボウガンの引き金を引いた。
“パシュ!”
弾が当たったのを確認すると、彼は竜の巣を後にした。
≪キャウォォォ…≫
小さな命が鳴いている…親を探しているのだろう。その横には空の王がピクリとも動かず横たわっていた………大きないびきをあげて。
外に出るとまぶしい日差しが一気にフェイトンを襲う。そして、三人の人影が彼を待っていた。
エーベルランド記【空の王】7章
「へへへ…てこずっちゃった!俺ってまだまだだなぁ。ほぉら、これお土産!今夜はシュテーキだぁ!」
そう言いながら、フェイトンが飛竜の尻尾をみんなに見せる。
「それって、俺が切り取ったやつじゃねぇか!あんなに時間をかけてそれだけかよ!?」
ヴァルカンが声を張り上げる!
「うるさいよ!ボーヤは黙ってろい!」
「なにぃ!?よし!おれが剥ぎ取ってきてやる!」
そう言って、竜の巣に向かおうとしたヴァルカンの襟を巨大な手がつかむ。
「ト、トール!何を!?」
「…けが人なんだから…安静にしろ…」
そう言って、巨人はヴァルカンを放り投げる。軽く投げたつもりが…力の加減を間違えたのと、彼のコントロールの悪さ…
「あ…すまん…」
“ドスン!”
「ぎゃ!!」
ヴァルカンが岩に思いっきり頭をぶつけ、悶絶する。
「ふぅ…」
ため息をつきながら、イーニアスがつめよる。
「それより、言うことがあるだろう?ヴァルカン」
「わ…わかってるよ…」
頭をさすりながら、ヴァルカンが立ち上がり三人の方に顔を向ける…
「みんな、昨晩はごめん…俺、どうかしてた…本当に許してほしい…その…」
謝ることに慣れてないのだろう、ボソボソと言葉を選んでこの若者なりに丁寧に喋ろうとしているらしい。
「いいからトールさんに……」
そう言ってずいっと前に出ようとしたイーニアスの肩に大きな手がそっと置かれてその言葉を止めた。
「俺が…お前のことを…息子の様に思ってることを、忘れないでくれ…ヴァルカン…」
優しすぎる巨人はゆっくりと若者に言った。
「トール……うぅ…ごめん…ごめ……」
「……む…」
優しい瞳をヴァルカンにむけ、大きな手で頭をなでながら、トールは若者にうなずいた。
「はぁ…」
諦めたようにため息をつくイーニアス。
「……お前も…同じだぞ…イーニアス…」
トールはそう言ってイーニアスにもその優しい瞳を向け、ちょっと照れたように微笑んだ…この巨人に笑みが似合うとは言いがたいが…がんばった方だろう。
「…うん」
不意をつかれたのか、少し驚いて、イーニアスも照れながらうなずく。
「そういや…」
思い出したようにヴァルカンが頭を上げた。そして、
「顔に蹴りくれたおかえしだぁ!」
そう言い放ち、イーニアス顔に蹴りを入れようとしたが、難なく避けられ、後ろにあった木に思いっきりすねをぶつけた。
「みぎゃぁ!」
「ふん、馬鹿な声を上げるな」
捨て台詞を残し、帰ろうとするイーニアスを追い、ヴァルカンがわめきながら走り出す。イーニアスもそれにあわせ小走りになっている。ヴァルカン負担をあまりかけないようにするため、わざとスピードを落としているのだろう。だが、この光景を見ると、まるで兄弟の追いかけっこを見ている気分になる。
「砂浜の恋人か…あいつらは…」
フェイトンが、うまくリオレウスについて追及を逃れたことに胸をなでおろしながら呟く。
「…仕留めてないんだろう?」
トールがたずねると、
「自分の子供を必死で守ろうとしてるやつを殺すなんて……できなかったんだよ…ボーヤには悪いけど」
まじめな顔をしてフェイトンがつぶやく。
「…相手が…モンスターでも…か…?」
「でも…だ。それに忠告はした!もしお前が、人間を襲ったら子供もろとも頭に輪っかつけて、お空に一直線だ…ってな?」
フェイトンがいつもの軽口を叩くと
「そうか…なら安心だな…」
トルはそれ以上何も言わずに歩き出した。
「ありがとうよ…パパ…なんちゃって。さて、睡眠弾が切れる間に行くか、万一の保険だがね」
フェイトンは竜の巣をほうを振り向き、手を振った。そして三人の後を追った…夕焼けが辺りを包もうとしていた。すべてが、赤く…ただ赤く染まろうとしている。
数週間後、四人が酒場で飲んでいると、おかしな噂を耳にする。聞くところによると、行商人がリオレウスに襲われそうになったところを、それよりもさらに大きなリオレウスが戦って撃退したらしい…その時運んでいた食料はすこし持って行かれたが、商人は無傷だったということだ。
「どんなリオレウスだよ!」
そうヴァルカンが言うと横から酔ったハンターが
「なんでも、片目が潰れてたらしいが…人間にやられたんなら人間を恨むはずなんだよなぁ…あいつら頭いいし…」
そう言って不思議そうに首をかしげる。
「頭がいい…か、確かにな…」
フェイトンがつぶやきながらウェイトレスのお尻をなでる。
“バシィ”
ウェイトレスが持っていたお盆でおもいっきり顔を殴られ、鼻血を流しながら倒れるフェイトン。それを見て大笑いするヴァルカンや酒場のハンター、やれやれ…と首を振るイーニアス、ウェイトレスに「すまない…」と、謝り酒を飲むトール。酒場は、今日も明るい空気に包まれている。