英雄への道
ディン様作





第一話【序章】
第二話【資格】
第三話【ミナガルデ】
第四話【ギルド】
第五話【新たな力】
第六話【俺が行く】
第七話【十人十色】 第八話【ピアス】





熱気と湿気が漂うフィールド、ジャングル。
大小様々な樹木と枝葉がハンターの視界と行動を遮る。
「・・ここだね、うん。土が掘り返された後がある。」
細身で色白の少年は、うずくまって地面に掘り起こされた跡を確認すると、大タル爆弾を茂みの中に隠れるように置いた。
そしてそのすぐ近くに緑色の筒状の物を置くと火花が散り、土が吹き上がった。落とし穴という対飛竜用の道具である。材料のネットとここの土が反応し、地盤を脆くする効果がある。これに一定の重量が加わると、飛竜が落ちていくという寸法だ。
この少年の防具は頭に剣聖のピアス、胴にチェーンメイル、腕にハイメタアーム、腰にランポスフォールド、そして脚にハイメタグリーヴだ。
剣聖のピアスは優秀だったといわれる父親から譲り受けた物だ。といってもその父親はもういない。5年前、クエストにいってそれっきりだ。
だけど、別に父親がどうなったかを捜すつもりは満更無い。今は自分のために依頼をこなしている。

・・・弱10分が経過した
大きな羽音が聞こえてくると、直に奇妙な鳴き声も聞こえてきた。・・イャンクックだ。
赤みがかった鱗と顔の大部分を占める大きなくちばし。そしてそのくちばしを覆うようなエリマキ状の耳が特徴のワイバーン、つまり飛竜だ。
今回の任務ではコイツを討伐すること。飛竜種としては最弱だけど、仮にも飛竜なのだから油断は出来ない。
頃合いを見計らい、一気にイャンクックへと駆け寄った。
その気配にイャンクックも気付き、それほど大きくない声とエリマキで威嚇した。自らの耳が良すぎるために、バウンドボイスという鳴き声は放てない。
少年は武器である双剣・ハリケーンの柄を握りしめた。黒色の、鎌のような形をしたこの双剣は鉱石をベースに作り出された武器である。
少年は双剣を前に突き出すようにして出し、腕を開いてイャンクックの腹を剔り斬った。血が滴り、イャンクックの口から火が漏れた。怒っている。
しかしそんなことは構わずに、少年は第二の攻撃に移っていた。若干左に傾くように飛び上がっての回転切りをすると、イャンクックの首元に当たり、血が吹き出た。首を切り取ることは出来なかったが、それでも深手を与えられた。
今度はイャンクックの反撃。尻尾を右回りに振ってきた。少年はイャンクックの股下に入り込み、尻尾の攻撃を避けると双剣を頭上に掲げた。そして双剣の擦れるような音が音がして、ハリケーンに赤色のオーラの様なものが纏い付いた。
鬼人化という双剣使い秘伝の奥義である。一時的だが戦闘能力を上げられ、それにより通常では不可能だった技も使用可能になる。しかし使用中には常にスタミナを消費するため、まだ成人していない少年にとっては負担が大きかった。
再び少年は股下に潜り込み、双剣の奥義とも言える剣技・乱舞を放った。
脅威の連続剣技がイャンクックの足を引き裂いてゆく。イャンクックは耐えきれずに横ばいに倒れた。少年は鬼人化状態のまま、今度は頭へと乱舞を放った。そして乱舞が終わると同時に鬼人化状態を解除した。相当なスタミナを消費するのが、少年の息の切れ具合で分かる。
しばらく少年がその場にうずくまっていると、イャンクックは足を引きずりながら逃げようと計った。少年は双剣を背中に背負い、石ころを手に少しだけイャンクックに近づいた。
途端にイャンクックの悲鳴が上がった。先ほど仕掛けた落とし穴に引っかかったのである。なぜイャンクックがそこに移動したかというと、飛ぶときに障害物のない場所に移動しようとしたためである。さすがに手負いのまま、枝葉を薙ぎ払って飛ぶのは苦痛なのだろう。
そして石ころを投げると大タル爆弾に命中し、衝撃で破裂した。
周りには大タル爆弾の影響で樹木が燃えたり吹き飛んだりしていた。このまま山火事になるのは御免だった。が、迂闊に近寄って生きていたイャンクックに食われるのはもっと御免だった。
しばらく待っていると煙がはれ、ぐったりとしているイャンクックが目に付いた。それを確認すると、木々に燃え移った火を消し、素材の剥ぎ取りにかかった。

第一話【序章】・・・終了


第二話【資格】


無惨に素材を剥ぎ取られたイャンクックが密林の中に置き去りにされた。
まだ剥ぎ取れるようだが剥ぎ取れない。爆発や攻撃の衝撃で剥ぎ取っても使用できそうにない。それに、この死骸が朽ちて肥料となり、自然を育て、それを補食する者も増え、結果的に飛竜が増えるからだ。
・・それに正直、成熟した飛竜の肉は硬くて不味い・・。
重い荷物を肩から提げ、ベースキャンプへとかけだした。ここはエリア2、古い遺跡の後がある場所だ。
ここからベースキャンプは近い。少年は鱗や甲殻が擦れる音を立てながら、小走りに駆けだした。

少年は村に帰ってきた。
村はジャングルの中にあったが、細く長い木々が日差しを遮ってくれたので、うす暗かったが涼しい環境だった。
面積は小さいが、全員揃って明るい顔をしている。一部くらい顔をしている人も勿論いるけど、ごく僅かだ。
帰ってすぐにアプケノスを降り、乗り手に礼とお金を渡すと、村長の家を目指した。
「今終わりました!」
外で煙草を吹かしながら悠々としているおじさんに勢いよく言った。
「お、おお。ウィルか・・うむ。所有時間は22分27秒!」
まだまだハンターとしては未熟だが、少年にとって22分は上出来だった。
「やった!ダルフは?まだ帰ってきてない?」
喜び勇んで尋ねたが、そんなことを聞く必要もなかったようだ。
「な、何でウィルが先に着いてるんだよ!」
後ろから大声がしたのでくるりと振り返ると、ウィルよりも二回りくらい大きく、日焼けした少年が立っていた。
「残念無念、僕の勝ち〜。」
白い歯を見せながらにっこりと少年が、まるで少女のような笑顔を作った。その顔にダルフも苛立ちを覚えたのか、反論してきた。
「お、お前ちゃんと討伐してきたんだろうな?何でそんなに速いんだよ!」
納得できない様子だったが、ウィルは勝因は既に理解していた。
ダルフの体からは硝煙の臭いがしなかったのだ。大タル爆弾はお互い持参していなかったから、支給品に大タルはあるとして、火薬草とニトロダケ、もしくは爆薬を持ってきていなかったのだ。おそらく調合技術は持ち合わせていないのだろう。
だからこそ彼の装備は立派なのかもしれないが、こちらももうすぐ越えられる。
武器はリュウノアギトというなかなか立派な剣で、防具は脚を除き全てボーンで埋め、その脚にはブルージャージーを装備していた。
ウィルが鉱石採取をしていたのに対して、ダルフは骨の採取をメインにやってきたのだ。
「ウィル君、君の成長速度には感心しますよ。」
満面の笑みを浮かべて村長が太った顔で笑顔を作った。
「しかし、君はまだまだ未熟。ダルフ君に比べて君はハンター経験が・・」
途中まで言ったところでウィルが口を挟んで話を遮った。
「たった3,4ヶ月の差なんて関係ないですよ。現に僕の方が実力上だったもんね!」
得意げに言ったのに対し、余計ダルフが腹を立てている仕草をしたが、それはただの冗談だと良く分かった。
「うむうむ。しかし、世の中には上がいる。この世界は広い。そして・・」
ここまで来たところで、やはりウィルに遮られてしまった。
「街に行っても良いんですか?」
直感だけでそう言った。村長は回りくどい言い方をするので、その後の話が読みやすいときがあるのだ。勿論、読んだのはウィルだけだったが。
「そ、そうですね。そろそろ行っても良いんじゃないかと・・・。」
「マジっすか!?」
「やったー!」
一気に歓声が上がると、村長も幾分すっきりしない顔を浮かべていた村長も、やがて笑顔を取り戻した。
「出発は明日でも十分に間に合うでしょう。今日は、まだ昼ですが、十分に休んでおきなさい。それと準備は怠らないように。」
注意事項が聞こえたのか聞こえていないのか、取り敢えず元気な返事をして自分たちの家へと向かった。ウィルはその前に防具屋へより、新しい防具の注文をしておいた。

第二話【資格】・・・終了


第三話【ミナガルテ】


或る者は、腕に自信があり
或る者は、乏しく
或る者は、名声を得る為
或る者は、知識を求め
或る者は、罪を犯し流れ着き
様々な想いのもと
集まりし者達が作った街

バカ者たちの祭りの街
ならずもの街
はざまの街
猛者街
狩り場に近き街

人々はそう呼ぶ
街の名はミナガルテ

古く、黒ずんだ木の看板に書かれている文字を見て、自然とその看板に手を触れた。他の人もこうやっての看板に触れてきたのだろうと、何だか大きな力に圧倒された。
「うっひょー!スゲー!」
人が感傷に浸っているとき、こういう言葉をかけられると台無しだ。
大きくため息をついてボーン装備にブルージャージーという風変わりな少年を振り返った。
「あんまりはしゃがない方が良いかもよ?初心者の目で見られるかも。」
台無しになった気持ちを元に戻すと、ウィルが忠告した。周りの目線、会話、反応、そして機転の利く頭で、ウィルは常に周りのことを考えている。
「分かってるよ。ただ、少し・・凄いなってさ。」
ダルフは嘘をつくのが、というか感情や思ってることを制御することが出来ない。フリとかじゃなくて本当に隠しきれないのだ。怒るときには怒り、嬉しいときには笑う。ポーカーフェイスなんて全く出来ないだろう。
「その前に、その装備を何とかした方がよかったんじゃないの?」
クック装備に身を包んだ少年がまたため息をついた。自分は出発前にクック装備の胴・腕・腰を全財産を叩いて制作しており、脚にはハイメタグリーヴをはいていた。それなりに一人前のハンターに見えるし、格好も良かったが、もう一人のボーン装備にブルージャージーというのは本当に似合わなかった。
「うるさいなぁ、分かってるよ。後でな。」
そう言ってずんずんと進んでいった。のは良いが、そっちは市場だ。
「市場に用でもあんの?」
人混みをかき分けながら小走りでウィルが追いついた。その言葉にダルフも反応したが、
「ちょ、ちょっと買い出しだよ!」
と言って更に足早になって進み始めた。何とも素直な奴だ。
市場は様々な声が行き違い、その表情は皆一様に明るかった。
野菜や薬などがそれぞれ競りの様な形で売られている。調合書が欲しかったが、預金はもう契約金を払うことも難しかったので諦めた。ダルフといえば怪しそうな商人に腕組みしながら買うか迷っている。
「どうする?何だったらこの角笛、更に値下げで一個1500Gで売ってやろうか?」
「う〜ん・・1500Gか・・。」
角笛と言えば標準値段は480G。更に値下げということは元手は大分高かったと見える。
「ダルフ、行こう。」
そう言って無理に腕を引っ張った。ダルフはあまり反抗しなかったが、それでも重かった。
「何すんだよ!無礼にも程があるだろ恥知らず!」
「いや、明らかに高いから。角笛の標準値段は480だし、大剣で敵を引き付けても守りきれないでしょ。」
驚きの表情なのか、恥をかいたという表情なのか、どちらとも言えない微妙な表情を浮かべた。困惑、というのが一番正しいだろうか。
「あ、あぁ、悪い・・。」
そして照れたときの表情になると頭をかいた。反省したときはこういう仕草をするので、許してやれる。
「ギルドに行こう。ハンター登録をしなくちゃね。」
そう言って今度はウィルが先頭になって歩き始めた。その足は、迷い無くギルドへと向けられていた。


第三話【ミナガルテ】・・・終了

第四話【ギルド】


一人の少年が受付嬢に向かって何やら話している。
「すいません、ハンター登録をしたいのですが。」
少年が言うと、受付嬢はにっこりと微笑んで、カウンターの引き出しから少し黄ばんだ用紙を取り出した。
「後ろの方もハンター登録しますね?」
ウィルに向けたのと同じ笑顔で後ろの少年にも問いかけた。
「あ、はい。お願いします。」
緊張というか照れているのかは分からないが、頭をかき、少しうつむいた。
「それでは、ここに書かれている通りのことを記入してください。履歴書もあれば提出してくださいね。あ、年齢は無記入でも構いませんよ。」
履歴書とは、そのハンターについて様々な事が記入されており、採集・討伐・捕獲など、このような事が細かく記入されており、これを見るだけでこの飛竜を最後に狩ったのはいつか、どの飛竜討伐が得意か、はたまた採集や捕獲のクエストの方が得意か、失敗回数はどうか。等といったことが分かるのだ。
「武器を変更するときなどはどうすればいいのですか?」
唇に軽く指を当ててウィルが質問した。これはウィルが考えるときにする仕草である。
「うーん、その時はまた記入してもらえればいいですけど、別の武器を使うのは上級ハンターがやることだから、今はまだ気にしなくても良いと思うわ。」
親切にそう言うと、少年も「分かりました。」と返事をして用紙に名前などを書き始めた。それを見習い、ダルフも覚束無い手で書き始めた。
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名前 ウィルド・ルレイアル      ダルフ・ルーロポウル
年齢 14歳              14歳
武器 片手剣(双剣)         大剣

履歴書                 履歴書
討伐状況                討伐状況
・イャンクック 12回         ・イャンクック 5回
討伐クエスト 19回          ・ゲリョス   2回
採集クエスト 2回           討伐クエスト 13回
捕獲クエスト 0回           採集クエスト 11回
                   捕獲クエスト 0回
失敗回数   0回           失敗回数  0回
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なるほど、これは対照的な二人だと受付嬢は分かった。
片方は討伐クエスト専門で、しかもイャンクックの討伐回数だけはやたらと多い。装備をイャンクックの装備で包んでいる事からも良く分かった。
対するもう片方の少年は、体格の割に、と言うと失礼かも知れないが、討伐と採集クエストの差が全くない。そしてクエストの回数の割に装備をボーンで固めていることから、節約に努めていて、預金も大分あるだろうという事も分かった。
「・・はい、かしこまりました。それと私の名前はベッキーといいます。これからもお世話になると思うので宜しくお願いしますね。」
そう言って先ほどよりもにっこりと微笑むと、ウィルはどうだか知らないがダルフは少なくとも動じた。
「はい、こちらこそ。それで、早速クエストを受けたいのですがいいでしょうか?」
軽く首をかしげて少年が尋ねた。少年というよりは、少女がとる仕草である。
「了解しました。ウィルド君ダルフ君もハンターランクは3のレンジャーとなります。レベル1のクエなら挑戦できますので、そこにある木彫りのクエストボードからクエストの用紙を持ってきてくださいね。」
腕を伸ばして空気を手で持つようにクエストボードの場所を教えた。
「分かりました。」
と言ったのはダルフだった。ウィルは軽くお辞儀するとクエストボートへと向かった。
「どれにしようか・・・。」
様々なクエスト用紙が縦横無尽に貼られていて、正直どれにしようか凄い迷う。
イャンクックは今更になって討伐する必要はなかったが、その報酬金に目が眩んだ。
2600Gである。通常、このクエストでは900G〜950Gの報酬が村では基本。この違いに思わず目を見開いて驚いた。しかし、それだけ危険なのだろうと判断し、それを諦めた。ダルフと言えば、同行募集のクエストに書かれている他人のハンターランクを見て驚いていた。取り敢えず、採集クエストで様子を見たいところだ。
・・・・あった。クリスタルハンティングだ。報酬金は3000G!そして何より鉱石が手に入るというのであればこれ程おいしいクエストはない。のり付けされたその用紙を、慎重に剥がすとダルフに見せた。
「これでいいかな?クリスタルハンティング、報酬一人頭1500Gね。」
「ほ、報酬金1500G!?」
その驚きに、お前はクエストボードの何を見てた?と言いたくなったが抑え、ダルフが激しく賛成したのでそのクエストを注文した。
「参加人数はどうしますか?」
「二人だけで良いですよ。」
細く綺麗な指を二つ出すと、ベッキーは先程とは違う用紙を取り出した。
「えっと・・このクエストは残り時間が20時間、ここから沼地Dのエリアの往復時間をとっても15時間はあると思いますよ。では、こちらに名前を記入して下さい。」
そして、用紙に参加人数と名前を記入して、ベッキーに渡した。
「はい、それでは二人での出発になります。出発はあちらで。」
クエストボードの時と同じように酒場の奥へと続く道を紹介した。あそこからクエストに出発できるらしい。
「頑張ってきてくださいね。」
再び笑顔を見せると軽く手を振った。三度目でダルフも大分慣れたようだ。
「ええ、ありがとうございました。」
ウィルとダルフが礼を言うと、酒場の奥へと向かった。
すっと木の扉に手を触れて、また何とも言えない力を感じた気がした。少年は軽く微笑を浮かべると、木の扉を開けて、外の世界へ出て行った。
「さぁ、狩りの時間だぜ!」
ダルフが満面の笑みを浮かべて誇らしげに言った。
「でもこれ採集クエだし。」
第四話【ギルド】・・・終了


第五話【新たな力】


「よし、こっちは準備オッケー。そっちは?」
大きな灰水晶を両手で抱え、鉱石でパンパンに膨らんだ袋を腰に下げながらウィルが聞いた。
「こっちも準備オッケー。いつでも行けるぜ!」
その返事にこくりと頷くと、寒い洞窟内から一気に抜け出した。
ここはエリア7、ここからエリア6、3、2、そしてベースキャンプへと帰還する手筈になっている。
「転けるなよウィル。」
気を使っているのか、もしくは冗談で言っているのかは声色が微妙だったので分からなかったが、取り敢えず曖昧な返事をしておいた。
実際、湿地帯にハイメタグリーヴは相性が悪い。じめついた地帯に金属系の脚装備は滑りやすいし、終了後に手入れもしておかないと錆びてしまうからだ。
しかし、何とか転ばずにエリア3についた。ここは腰の高さまである草が辺りを覆い尽くしている。更に、常に濃い霧に包まれているので見通しも悪いという戦場には決して適しているとはいえない場所だ。落とし穴もここでは使えない。
ゲネポス達をかいくぐり、何とかエリア2に着いた。ここはケルビ達しかいなく、安心して通過できそうだった。この地域に確認されているゲリョスの姿もない。
そしてベースキャンプへ。ちなみに沼地にも当たり前だが様々な場所があり、A〜Dまでは殆ど同じ地形で、E〜Lはまた大分変わってくるそうだ。取り敢えず、初心者はA〜Dの間しか許されていない。
「先に納品するよ〜。」
慎重に、赤いボックスの中に灰水晶の原石を入れた。続いて少し乱暴にダルフも灰水晶を納品した。後1つでクエスト終了である。
「こんなんで3000Gも貰えるのか?」
ウキウキした声でダルフが尋ねた。報酬金も捨てがたいが、報酬の鉱石も捨てがたい。目標のためには鉱石がいる。
今は取り敢えず鉱石を集めておくしかなかったが、ほど遠いように思われるその夢も直やってくるだろうと思ってはいた。
ガチャリと個人的に採集してきた鉱石を袋ごとその場において、別の新しい袋を腰に付けた。ここに置いておけば、もぐりのハンターでも現れない限り盗まれることはない。その点では初心者というのはラッキーだった。
そして再びエリア7へと走り出した。今度はダルフが先頭になって走っていた。ウィルは体力がないので、軽く息を切らしながらついていった。
「寒・・ホットドリンクなんてもう効果無しじゃん・・。」
洞窟内に着いて、ダルフが身を縮ませた。ウィルもホットドリンクの効果など疾うに切れており、寒さに身を縮ませた。
「は、速いとこすまそう。こりゃ体力無くなるわ。」
前の時は気にならなかった白い吐息も今はやけに目に付いた。そしてそれを振り払うかのようにピッケルを水晶に叩き付ける。ごろん、とやけに大きな灰水晶が出てきたが、これではどうしようもない。諦めてまたピッケルを振り下ろすと、今度は二つ分の大きさもある大地の結晶が出てきた。それを腰袋にしまうと、三度ピッケルを振り下ろした。岩、というか水晶に亀裂が走り、灰色の水晶が姿を現した。その周りを崩すと、思いのほか綺麗に、灰水晶の原石が転がりだした。
「ダルフ、そっちは出た?」
自分の灰水晶を抱えると、少し離れていたダルフに向かって呼びかけた。
「いや、こっちはまだだ。・・あ、そっちが出てきたのか。」
ウィルの灰水晶を見て納得すると、ボロボロになったピッケルを腰に差して洞窟内を出た。
「ダルフ、これ持ってくれない?重くて仕方ないや・・・。」
湿地帯に足が食い込んでいく様を見て、ウィルが言った。
「分かった。しっかしお前、本当に体力ねぇな。」
灰水晶を受け取りながらも、呆れてダルフが言った。体力ならダルフの方が圧倒的に上なのだ。
エリア3もウィルがゲネポスを必要最低限の数だけ倒してくれたので楽々先に進めた。その間、ダルフが剥ぎ取りしたがったのは置いておく。
エリア2に近付いてきたとき、何やら嫌な予感がし始めてきた。
「何か嫌な予感がするんだけど・・ダルフは?何か、感じない?」
背に双剣はしまっているものの、警戒心だけは保ちながらウィルが聞いた。
「あ、ああ・・何となく・・な。」
何事も起きて欲しくないと、思ってはいたが、嫌な予感ほど当たるものだ
そこには濃い灰色の皮膚に覆われた毒怪鳥・ゲリョスがいた。本来ギルドの依頼では無い限り討伐することは犯罪なのだが、今回は討伐してくれると助かる。とのことだった。
「どうする?」
まだこちらに気が付いていないゲリョスを見ながら、ダルフが灰水晶の原石をその場に置いた。
「その行動で、決定打だし。」
灰水晶を置いたのを確認して、一気にウィルが、それに続いてダルフも走り出した。無論、その気配に気付かないわけは無く、ゲリョスは軽く飛び跳ねて羽根をばたつかせた。
「おっしゃあ!結局、狩りの始まりだぜ!」
掛け声と共にダルフが大剣・リュウノアギトを振りかざした。ゲリョスのゴム質の皮を切り裂き、血を噴き出させた。
「まずは厄介なトサカからね。」
ゲリョスがよろけ、頭が垂れた一瞬の隙を見てウィルが空を舞い、右回転に斬りつけた。トサカは破壊できなかったが、それでも血が吹き出て、ゲリョスが後ろに飛び退く様が見えた。
軽く地響きを立たせてゲリョスが着地すると、そこに走り込んでいたダルフに向かって毒液を吐いた。
「防御しろ!ダルフ!」
間一髪というべきか、地面を剔ってまで踏みとどまり、大剣で毒液を防ぐことに成功した。ダルフの装備はボーンである。食らえば一溜まりもなかっただろう。
「んの野郎!」
吐き終わった後の隙を見て、ダルフがその頭を目掛けて大剣を振り下ろした。大剣は見事にトサカに当たった。当たった、が。
突如として視野が白一色に塗りつぶされた。やられた!これが閃光か!こちらの衝撃でトサカが光ったのである。ウィルも、そしてダルフも目が眩み、うつむいた。二人とも恐怖のあまり体が強張った。このまま狩られるしか無いのか?
―何も見えない。
 ゲリョスが近づいてきた。
―何も、見えてはいない
 ゲリョスが毒液を吐き出した。
―何も、見えてはいない、はずだ。
 しかしそこには何もない。
―何かが、見えていた。
 少年が、ゲリョスの背後で双剣を構えた。
視野が回復し始めてきたダルフに、背筋が凍るほどの光景が見えた。ウィルが、今までにない動きでゲリョスを圧倒している。
ゲリョスが尻尾を振り回す前に、既に避けて斬りつけている。ゲリョスが狙っているところに、既にウィルは消えていた。
「鬼人化・乱舞!」
凛とした声が響くと、シャランという双剣が擦れる音がして、風が流れた。
途端に吹き上がるゲリョスの血に、臆することもなくウィルは斬りつけていく。その姿は、まさに「鬼人」そのものであった。
そして、ゲリョスがその攻撃に耐えかね、一気に走り出した。少し離れた場所まで行くと、翼をはためかせ飛び立った。
そしてウィルに視線を戻すと、一瞬だが、いつものウィルとは違った物が見えた。
―ウィルの両眼は、蒼色に輝いていた―
第五話【新たな力】・・・終了



第六話【俺が行く】


ウィルが、力を使い果たしたのか、その場にうつ伏せに倒れ込んだ。ダルフはすぐさま駆け寄り、ウィルを見た。体が痙攣している上に、顔が青白い。蒼色の眼は消えていた。
「おい、ウィル、大丈夫か!?」
ウィルの体に触ろうとしたとき、突如としてウィルが叫んだ。
「ヨせ、触ルな!」
しわがれた声で叫ばれ、ダルフははたと手を止めた。鮮烈な赤い血に・・紫色?
「まさか・・・毒液か!待ってろ、今解毒薬を作ってきてやる!」
直ぐさま立ち上がると、ダルフはすぐ側にあった解毒草を摘んだ。この地域にアオキノコが存在していればいいが、無かったらマズイことになる。
「ポシェットに・・あル・・。」
掠れた声を聞き取って、ダルフがウィルに駆け寄り、ポシェットを慎重に開けた。様々な瓶の中に、一つだけアオキノコが2個入った瓶があった。すぐさまそれを取り出すと、自分も携帯していた擂り鉢状の調合の専門道具を取り出し、それで解毒草を擂り潰した。次にアオキノコも入れて、再び擂り潰す。最後に回復薬も多少混ぜ、液体状になった物を瓶の中に入れた。
「飲めるな?」
ウィルが手を伸ばしたので解毒薬を渡すと、ウィルは仰向けの状態でそれを飲み、安心したのか、楽になったのか眠ってしまった。
ダルフも安堵のため息をつくと、残ったアオキノコを元に戻し、ポシェットを再びウィルに付けた。そう言えば、どうやってウィルをベースキャンプまで持って行こうか?
ふと閃いて、持ってきてあったタオルでウィルの顔や鎧の部分の血や毒液を拭き取り、肩を抱えて歩き出した。
「な・・ダルフ、毒にやられるぞ・・・。」
弱々しい声が聞こえ、半開きに開いた目を見返した。
「大丈夫だ。毒も拭き取ったし、いざとなったらまた解毒薬を作ればいいしな。」
そう言えば、とウィルは思った。
ダルフは調合が行えるのか?薬の調合ぐらいなら誰でも出来るかも知れないが、それでもあの迅速な判断は意外だった。いつものダルフなら「許せねぇ」とか言ってゲリョスを倒しに行くかと思っていたが・・。
「ああ、もう大丈夫だ。一人で歩ける。」
そう言ってウィルはよろよろとテントの中に入っていった。そして、鎧を外す姿を見て、取り敢えずは安心できた。これで帰れると・・・帰れる?
「あー!灰水晶忘れて来ちまった!取り入ってくる!」
そう言って素早く踵を返すと、再びエリア2に駆けだした。ウィルは装備を全て外し、ほぼ普段着の状態でいた。上には青色の半袖の服を、ズボンには黒色の薄いジーンズのような物を着ていた。
「お気を付けて・・。」
静かに少年が呟くと、武器と鎧の手入れを始めた。

ダルフがエリア2に差し掛かった辺りで、さっき聞いた毒怪鳥の鳴き声が聞こえた。戻ってきているのだ!
手頃な木に身を潜めると、ゲリョスはある一点を見つめているのが分かった。灰水晶の原石だ!
「盗らせるかよ!」
ゲリョスは金属類を好み、自分のねぐらに持ち帰るという習性がある。今からまたエリア7まで行くのはさすがに億劫だった。
ゲリョスはその声に気がついたのか、一瞬こちらを見て、急いで灰水晶を銜えた!
「ぉりゃあ!」
すぐさまダルフは駆け寄り、強引に灰水晶をゲリョスのクチバシから奪い取った。そしてそこから飛び退き、灰水晶を壊れないようにそっと後ろに転がした。
「戦闘準備、完了だぜ。」
パチン、と勢いよくホルダーを外して大剣を片手で持って構えた。恐るべきは剛力である。
それに対し、ゲリョスはまるで空気を食べるような仕草をとった。閃光を放つ前兆である。槌のようなクチバシでトサカに衝撃を与え、トサカの中にある鉱物質器官を壊すことによって強烈な閃光を放つのである。
大剣でガードの構えを取り、目を守った。強烈な光が放たれたのが分かり、すぐさま大剣を持ったまま走り出した。ゲリョスは全身の至る部分が傷ついており、先程ダルフが攻撃したトサカは今の衝撃も加えて、今にも壊れてしまいそうだった。 「そのトサカ、頂くぜ!」
本来届かない箇所にある頭を、飛び上がって大剣を振り下ろし、トサカを攻撃した。今度は閃光が出ずに、トサカの部分が四散した。
続けて着地したと同時に振り回されてきた尻尾に向かって斬りつけ、その尻尾を弾き返した。ゲリョスが悲鳴を上げ、足をバタつかせる。そして口から僅かに毒霧が漏れだしたのが分かった。怒りの状態だ。
ゲリョスは毒液を吐き出したが、横に受け身を取って避けた。
しかしダルフは先程壊したトカサの一部に足を取られてしまった!隙有りとばかりにゲリョスが頭を後ろにそらす。毒液だ!
「しま・・・。」
目を大きく見開いて、毒液が来ると観念した。この毒液を直接食らったら、いくら毒性は弱いとしても量が量だ。死の危険もある。
途端、白い網のような物がゲリョスの顔を覆った。そこへゲリョスは毒液を吐いてしまい、毒液はその網と一緒に地面に落ちた。これは・・・・ネットだ!
「ゲホ・・やっぱ、任せきれないねェ・・。」
後ろを振り返ると、鎧を着ずに普段着のままのウィルの姿があった。帰りが遅かったので、わざわざ来てくれたのだろうか?ともかく助かった。
「ふふ・・支給品に小タルがあったもんで・・作ってみました。」
ウィルは小タル爆弾を取りだし、それを二つ飛ばした。導火線は見事ゲリョスに当たる直前に火薬に達し、一気に起爆した。そして、その爆発が更に爆発し、また更に爆発した。
「コイツは・・拡散弾?」
既に起きあがり、大剣を構えてウィルを振り返った。ウィルはまだ青白い顔で、軽く笑ってみせた。何という機転の利く奴だ。
「前。」
短くそう言われ、ゲリョスと再び向き合った。そして、ゲリョスがまた閃光を出そうと槌でトサカを叩く仕草をしている事に気が付いた。だが今じゃ全く意味がない。
「バーカ!お前のトサカは、
ダルフが一気に駆け寄る!
「とっくに
リュウノアギトを振りかぶる!
「壊れてんだよ!」
閃光を発するときの体を目一杯広げる動作をしたゲリョスに対し、強烈な大剣の一振りを腹に食らわせた!血が勢いよく吹き出し、ダルフはその血に当たらないように横に避けた。そして大剣を再び背に背負い込むと、ホルダーを締め、ゆっくりと倒れるゲリョスに一言言い放った。
「これが俺の実力だぜ!」
それを見て、ウィルが短くため息をついた。
「やれやれ・・だね。」
第六話【俺が行く】・・・終了


第七話【十人十色】


『ギン!後ろだ!』
突如として向けられた仲間の声に反応したが、意味はなかった。強烈な尻尾の一撃を食らい、竜騎槍ゲイボルグの盾と、暁丸の鎧ごとその身を破壊させられた。
『ギン・・・・ち、畜生ォォォ!』
仲間の死に、我を忘れて飛び出すレウスG装備のハンター、武器は封龍剣【絶一門】だ。
『ば、馬鹿野郎!冷静になれ!』
インジェクションガンを装備し、タロスGで固めたハンターが他の仲間の行動に叫びかけ、それだけでは無駄と判断し、そのハンターまでもが飛び出した。
『無理だ!間に合わない!』
レイアG装備と封龍剣【滅一門】の男が叫んだが、それは意味がなかった。
二人のハンターに向かい、黒の影が地を這った。
―ディレイ!!ヴィントーー!!―

・・・・い・・おい
「おい、起きろウィル。」
誰かが自分の体を揺さぶっていた。ここがどこだか状況の判断に苦労したが、そう言えばクエストを終了してギルドに帰還するアプケノスの背中の上だったことを思い出した。
「あ、ああ・・。」
まだ鮮明に覚えている夢をもう一度見直した。あれは、一体何だったんだ?
明らかにウィルの記憶には入っていなかった。かといって、只の夢、というわけでも無さそうだった。・・・こんな悪夢は最近は見なかったが・・・それがまた不安だった。
ギルドに入り、ベッキーの元へと歩み寄った。かなりフラついていたのか、他のハンター達から心配そうな視線やら、馬鹿にした視線が送られてきた。
「ちょ、どうしたの?大丈夫だった?」
顔色も悪いのだろうとウィルは思った。解毒薬を飲んでいるとはいえ、ゲリョスの毒液を全身に食らい、眼や口にまで入ったのだ。
「大丈夫ですよ。ただ・・ちょっとゲリョスの毒液にやられて・・あ、クエストは成功しましたし、そのゲリョスも討伐しましたよ。」
そこまで言うと、その言葉に反応したのか、鎧の擦れる音がして、その音が徐々に近づいてきた。振り向くのもどうかと思い、振り向かずにいたが腕を取られ、強引にテーブルに連れられていった。
「あの・・何なんでしょうか・・?」
自分の額に手を当てられ、熱がないかどうか確かめられていながら、自分をここまで連れてきた少女に尋ねた。
少女はランポス装備で、明るそうな茶色の瞳に長く三つ編みにしてある茶色の髪をしていた。今の少女の顔は真剣だ。
「何って、ゲリョスの毒液にやられたんでしょう?」
少女は腰の袋から口の小さな瓶を取り出した。
「目薬。解毒薬も含んでるから、・・・・上向いて。」
言われるままに上を向き、目薬を差してもらった。かなりスーッとしたが、直にそれも直っていった。
「お〜い・・・ウィル〜?」
力なく聞こえてきたダルフの声に、聞こえてはいたがどう対処すべきか自分でも良く分からなかったので、無視をした。
「これで取り敢えず大丈夫だと思うわ。」
にっこりと微笑むと、次のウィルの不定各要素へと目をやった。
「腕、痛むの?」
この少女には心を読む力を持っているのではないかと疑った。実際に2日連続で鬼人化を行い、結果、両腕だけでなく様々な筋肉が張っていた。
「ああ、只の筋肉痛だよ。気にすることないよ。」
迷惑をかけてはいけないと思い、手の平を向けて遮った。装備を外していて、乱舞によりボロボロになった手の平を向けてしまった。
「凄い怪我・・。」
今度は直ぐさま包帯と薬草が出てきて、自分の手の平を見ると、確かに血豆が至る部分に出来ていた。が、ちょっと待ってと言わんばかりに今度は両手を出して遮った。
「いや、只の血豆だから、気にすることな・・・」
言葉を無視すると少女は薬草で手の平を覆い、その上に包帯を被せた。それを両手にすると、
「他は、大丈夫ですか?」
と、かなり真剣な目つきで見られた。視線を逸らしたくなったが、逸らしたら嘘だとばれてしまうと思い、その瞳を見返した。もうこれ以上は迷惑をかけられない。
「・・・ああ、うん。他は大丈夫だよ。」
穏やかな口調を保ちながらそう言うと、テーブルに多分ゼニーが入っているだろうと思われる袋が置かれた。
「ウィルの取り分な。料理のメニューでも持ってきたけど何か食べるか?」
そう言ってダルフが堅い木の表紙で出来たメニュー表を渡した、が、今こっちに目線を逸らすわけにはいかない。
「・・本当に、大丈夫?」
嘘をつくのは我ながら下手かと思ったが、ここまで言い寄られては誰でも少しは動揺するだろう。ダルフなら、一発だ。
「うん。あ、ありがとうね、手当てしてくれて。」
この話題を終了させる上手い手を考えてウィルが言った。この手は確かに有効だったらしい。 「いいえ、どういたしまして。」
再び微笑むと、今度は別のテーブルへと歩いていった。
ホッ、とため息をつくと、メニュー表へ目をやった。肉類は食べる気はなかった。メニュー表を見る限りではハンターランクで食べれる物が違ってくるらしい。
「ダルフは何食べ・・・・どったの?」
ダルフの意見も参考にしようと思ったのだが、どうやら別の方に視線が行ってるらしかった。目線は、多分さっきの少女だ。
「・・・・ダルフ?」
もう一度言うと今度は気付き、かなりビクついた。
「あ、ああ、何だ?ウィル?決まったか?」
単純で、ポーカーフェイスは全く出来ない。それがダルフなのだ。
「ふふん、成る程成る程。」
肩ひじをついて、取り敢えずドテカボチャでも注文しようかと決めた。ダルフのこういう様子を見るのも楽しい。
「な、何だよその分かり切った口調は・・・。」
ダルフの顔がだんだん赤らんでいった。その様子を見て、ウィルは余計面白くなってきた。
「まぁ、良いんじゃない?ちょっとお節介かも知れないけど。まっすぐで優しいしねェ。」
誰のことを言っているのかはダルフにも良く分かったらしく、余計顔を赤らめた。ダルフも、まだまだ子供である。
「な、な、なんの事だよ!俺にはさっぱり・・・。」
もうコイツはどうしようもないほど嘘が下手だ。声も震えている。これ程純粋なハンターはこの世界中を探してももごく僅かだろう。
「何だ?おめえもあいつに惚れたか?」
ダルフの後ろからバトル装備の30代前後のハンターが話しかけてきた。
「い、いえ、違いますって!」
それじゃ否定の意味はないよ。と、心で呟くウィル。向こうのハンターさんも良く分かったらしい。
「ワハハハ!変わった坊主だなぁ!良いぜ、教えてやる。あいつの名前はイヴってんだ。イヴ・クウォーター。ここじゃ傷ついたハンター達を見て回ってんだ。理由は分からねえけどな。」
その話を聞いていたのか、今度はウィルの後ろにいた白髪のハンターが、振り向いた。白髪と言っても振り向いたその顔は若く、女の人だった。左目が髪の毛に覆われて見えない。服は全体的に白色っぽく、防具は着ていない。
「クックック、なんなら、今からリオレウスにでも連れてってやろうかぁ?骨ボッキボキで、筋肉ブッチブチに切ってくりゃ確実に振り向いてくれるぜぇ?クックック!」
相手を睨み付けるようなその視線でダルフをたじろかせた。このハンターはかなり危ない。
「またそんなこと言って。」
コン、と手帳の様な物をイヴが白髪のハンターの頭に当てた。白髪のハンターは特に怒る様子もなくその手帳を受け取った。
「今度は、どっからだぁ?」
その手帳を見ながら、楽しんでいるような口調で言った。
「何でもシュレイド王国かららしいですよ。カイさんも人気ありますね〜。」
うらやましいなぁ。という口調でイヴが言った。王国直々の依頼である。このハンターは相当な腕前のようだ。
「ふ〜ん、ウチ一人じゃキッツイねぇ。」
そう言って目を細め、顎に指を当てた。すると、隣に座っていた黒服のハンターに声をかけられた。
「一人で行くつもりなのか?俺も一緒に行ってやって良いぜ?」
きっとこのハンターも相当な腕前なのだろうと予想がつく。ただし顔はまだ若く、青年だった。
「クックック!何だアンタ、今度は飛竜にでもプロポーズする気かぁ?そんな事はフルフルにでもやってきたらどうだ?多分首を伸ばしてOKのチュウをしてくれるぜぇ?」
そしてまた楽しそうに喉の奥で笑うと、テーブルの反対側にいたもう一人ハンターも笑った。そしてその隣にいるハンターは身動ぎもしていない。この4人組は明らかに腕が立ちそうだ。何か・・・格好良い。
「それで、内容はどうなんだ?」
テーブルの反対側にいた笑わなかった男が、いつもこの顔なのかも知れないが、真剣な顔つきで言った。頭以外レウス装備に、髪の毛は一本に束め、それを何故か上に突き出させている。
カイがニヤリと笑うと、勢いよくそのハンターの前に突き出した。
「闘技場にて、G級の蒼と桜。」
第七話【十人十色】・・・終了


第八話【ピアス】


「ヒュゥ!クールだぜ。」
狭い闘技場にて、G級の蒼と桜、つまりリオソウルとリオハートの討伐を行う?まだ初心者のウィルにとっては信じがたい依頼だった。
「なぁ〜にがクールだこのイカレポンチ。火球吐いてくんだから熱ぃだろうが。」
カイが再びこの青年を馬鹿にした。まだ、仮にもカイは少女である。
「ま、俺は賛成だぜ?フキョウは?ザンは行くよな?」
金髪でツンツン頭の少年が賛成した。会話から、先程の青年はフキョウという名らしい。そして無表情の男の名前はザン。どれも新鮮な感じの名前だった。
「無論。」
とザンが頷いた。その声と態度からは余裕が感じられる。そしてフキョウを見据えた。
「ああ、じゃ、俺も行かせてもらいますかね。閃光玉は使用禁止だよな?」
当たり前だ。とカイが再び馬鹿にすると、ペン先を額にコンコンと叩いて何かを考え始めた。
「そーだな・・ガイセンを囮にしてソウルとハートを切り離す。んでもってザンとフキョウ、そして戻ってきたガイセンでソウル集中狙いのズッチャズチャの肉塊にして、ウチ一人でハートを足止め。こんなんでいんじゃねぇか?」
どうやらカイは頭も結構切れるらしい。しかも仲間の実力と武器の性能もしっかりと見ている。カイがこのパーティの司令塔のようだ。
「そーだな、カイのピアスはレッドピアスだろ?ソウルの流れ火球が来ても一発なら耐えられるわな。」
フキョウが自分で言った意見に自分で納得したが、そこでダルフが口を挟んだ。
「ピ、ピアスをしているだけでそんなに変わるんですか?」
ダルフがそう思うのは無理はなかった。工房にて量産化されたピアスと『本物のピアス』とでは効果が桁違いなのだ。
本物は並のレウスの火球も防ぐといわれている。本物というのは、魂がこもった物のことだ。ピアスには人の魂が宿るといわれ、ハンターだけでなく市民も付けている事が多い。そんな中、量産化を目的に作られただけのピアスが作られ、本物は全くと言っていいほど消え失せてしまった。
「ぷ、ワハハハ!ピ、ピアスをしているだけでそんなに変わるんですか?だと?!!」
ダルフの後ろのハンターが笑い出し、途端に酒場中にその話が広まった。ダルフは顔を真っ赤にしてこの屈辱に耐えている。ベッキーはこの様子を心配そうに見守っていたが、たった一人のハンターのために、この賑わいを台無しにしてはいけないのだ。
チッ、と舌打ちすると、ウィルが周りの群生に向けて、『蒼色の眼』で睨み付けた。
―ごちゃごちゃうるせェ―
はは・・・と一気に笑い声が静まっていった。全員、その眼の色と、心に響くような不思議な声に圧倒された。ウィル自身、今どうやって話しかけたのかは分からなかった。
「初心者笑い飛ばして、楽しいか?」
さっきまで暖かかった体も、今では鳥肌が立つほどに寒気を帯びていた。恐怖に体が竦み上がる。これは飛竜に睨まれたときと全く同じか、それ以上であった。
「あ、アンタ・・その眼・・。」
ウィルがゆっくりと目を閉じ、通常の眼に戻した。発動中、少し体力を消費するのだろう。ウィルの顔にまた青白さが少し混じった。
「心眼か?」
他のハンターから声が上がったが、カイが訂正した。
「いや、違うな。心眼は眼が赤に染まるはずだ・・・それなのに、コイツの眼は・・・」
その時、何かに気付いたのかカイが突然立ち上がった。そして、ウィルのピアスに手を触れた。
「こ、コイツのピアス。間違いない。岩山龍の爪を使ってやがる!!」
その声に反応し、一気に酒場中から声が上がった。何やらイヴが手で口を押さえてウィルを避け始めた。
「ば、馬鹿野郎!とっととピアスを外しやがれ!」
カイが再び手を伸ばすと、先程は何ともなかったピアスが、バチン!と指を弾いた。カイが指を押さえ、顔には恐怖の色を浮かべていた。
「無駄だよ・・外そうと試みたが、耳を切り離すことさえもコイツは拒む。」
白状したのか、ウィルがうつむき、首を振った。ダルフは何が起こっているのか分からず、ただ恐怖している。
「取ろうと、または壊そうとした者を拒むピアスだ・・・呪われてる。」
「そ、そのピアスはなぁ・・・」
カイがギリギリと眼に殺気を込め始めた。その睨みだけで、並の人間なら耐えきれなく立ち竦んでしまうだろうと思われるほど、強力だった。
「持ち主を呪い!最終的には『龍』に引き合わせて魂を奪うピアスだ!ピアスには人の魂がこもる!そのピアスには龍に殺されて死んだ、ハンターの怨念が取り憑いてんだよぉ!!」
ウィルの胸ぐらを掴み、睨み付けた。『他人にまで影響が及ぶ』とその目は雄弁に語っていた。その言葉は、強烈にウィルに届いた。
しばらくの沈黙が流れ、カイが自分を抑えようとしているのが良く分かった。そして、ようやく落ち着くと、視線を逸らしてため息をついた。
「・・・はぁ、アンタ、名は?」
急激に緩んでゆく視線に少し安心した。カイは胸ぐらも離し、椅子にどっかりと座り込んだ。ウィルは座るのもどうかと思い、立ったままでいた。
「・・・ウィルド・ルレイアル。」
その返答にやはり、と感じたハンター達のため息が聞こえた。ベッキーは隣にいるドリスとひそひそ話をしている。
「やっぱな、デレス・ルレイアルの子供かぁ・・・・。」
デレス?ルレイアル?!
その言葉を聞いたとき、消えていた記憶の一部が甦ったような気がした。そう、夢のことも。
「それは・・僕の父親の名前?」
意外な返事に、カイもフキョウも、他のハンターもウィルを見た。何か、マズイ事を言ったらしい。
「覚えていねぇのか・・そのピアスの伝説は只の噂だと思っていたが・・・やはり本物だな・・・。」
このピアスを装備すると、記憶が消えるというのだろうか?だとしたら、他の質問にも適切に答えなければ只のピアスだった。と言えるかも知れない。
「何か、悪夢か何かを見たりはしねぇか?」
悪夢なら、見た。ついさっきの夢の事だろう。どう答えるべきか?いいえ?はい?明らかにいいえだ。そして見てない。と言おうとしたが・・・
「悪夢?さっきの、あれか?」
ダルフの口から、ウィルの意志とは反対の言葉が投げ出された。決定打である。
「さっきの?何だ、さっきのっつうのは。」
ここで、何の話だ?と答えても良かったが、無理だと判断した。なぜならダルフが寝言を聞いている可能性が高いし、無理に否定しようとすると余計他のハンターから避けられるかもしれなかったからだ。
「・・・さっき、黒色の龍に立ち向かってゆく四人のハンターの姿を、夢で見た。」
興味深い話なのか、他のハンターは身を乗り出して聞き入り、酒場に入ってきた新たなハンターに今までの状況を伝えている奴もいた。
「やられたハンターはギンとディレイとヴィント。その中で、レイア装備の男だけが生き残っていた。」
その言葉を言い終えたとき、ドアが軋む音と鉄製の足音が聞こえてきた。入り口に我も我もとハンターが押しかけているのだろう。他のハンターが呼び集めたのかも知れない。
「・・アンタが見たのは、多分黒龍と戦ったと言われる12ナイツ中の4ナイツだなぁ。今では彼らは英雄だ。一人生き残ったその男はウチらがこれから依頼を受けに行くシュレイド王国の国王だ。国王であり、ギルドナイツの団長だ。本来ミナガルテには12ナイツいたが、今は9ナイツしかいない・・・。」
ギルドナイツとはギルドを守るハンターズギルドの組織の事。彼らはハンターの統括やモンスター絡みの事件が起きた時の対応を主な活動としている。前回は黒龍のことについて動いたようだ。
団長はギルドマスターが認めた超一流のハンターのみが務める職。それに団員も心技体に何かしら特筆すべきすべき能力を持つ者が就任する。並般化のハンターどころか、只のG級のハンターでは就任できない職だ。
「今まで、その3人を越える人が出てこなかったから・・?」
中断されたカイの会話を続けた。カイはゆっくりと頷くと、また語り始めた。
「ああ、彼らは最高のギルドナイトだった。それ故に、彼らの席は埋めて良いか、はたまた開けておくべきか、国王会議でも何回か問題にされるぐらいだ。今は候補がいても、入団は絶対不可。と言っても、今のままで不備はねぇみたいだがなぁ。」
再び話が一時中断され、しばらく沈黙が流れたが、今まで黙って聞いていたザンが口を開いた。
「ふむ、私らがシュレイド王国に向かった時に、主も着いてきたらどうだ?さすれば何か鍵が見つかるかもしれん。」
なかなか良い提案だったのだが、国王がこのピアスを奪おうとしたらどうなるだろう?呪いを与えると同時に力も与えてくれる。それに少なくともこの世界に二つとして存在しないピアスだ。欲しがらないわけがない。
「いや、得策じゃない・・・と思う。」
首を横に振り、深く考えた。頭がズキズキと痛む。
「このピアスは、危険すぎるよ。今はまだ秘密にしたいんだ。」
その眼で、全てのハンター達をぐるりと見回した。ハンター達は目が合うたびに頷いていった。初心者でクック装備といっても、その目線だけは一流のハンターのものだった。
「・・・分かった。」
カイが起きあがると、いきなり大声を出した。
「おいアンタら!このことを他のハンター及びに国王軍にでも言ってみろ!そん時は四肢ズッタボロで、二度とハンターは出来ない体なると思え!!」
先程ウィルに向けたのと同じ殺気でハンターを睨み付けた。確かに殺気だったが、何か暖かみが感じられた。様な気がするのは、ウィルだけだっただろう。
「・・後は、アンタに任せる。」
肩を叩き、ウィルにだけ聞こえるように呟くと、カイが野次馬を押しのけてゲストハウスへと向かった。それに続いて、3人のハンター達もゲストハウスへと向かい始めた。
「・・・ウィル・・大丈夫、なのか?」
震える声でダルフがぼそりと言った。短く大丈夫と答えて、もう一度椅子に座った。安堵感が体を満たしていくと同時に、他のハンター達も動き始めた。
ウィルは激しく疲労を覚え、何も食べずに酒場を出て、風呂も入らずにそのまま埃まみれのベッドの上で眠り込んでしまった。

第八話【ピアス】・・・終了


『何故・・黒龍は・・・。』
レイア装備の男はその独特な形状のヘルムの外装を開けてその光景を見ていた。黒龍が男二人を鎧ごとかみ砕き、その場を去ろうとしていた。
『何故、私を殺さない・・?』
黒龍が翼をはためかせ、その場を飛び去った。その場に残ったのは、ハンター達の残骸と、蒼色のピアスだけだった。

朝日が差し込んでいることに気が付いて、ウィルはベットから身を起こした。
一体どれくらいの時間眠っていたかは分からないが、朝日が差していることから、あのとき、昼から寝てそのまま寝込んでしまったようだ。
髪を撫でると、ベットの埃と汗や、想像したくないゲリョスの血などで固まってしまっていた。肌もかなりベタベタしている。
取り敢えずポーン専用の風呂に入り―狭くて少し汚かったが―酒場へと向かった。何となく、ダルフもそこにいるような気がしたから。
洞窟のように岩を刳り抜いて造られた入り口から酒場に入ると、やはり周りのハンターが視線を向けてきた。睨み返すのもどうかと思い、そのままの視線でダルフを探した。
「ウィル!」
見つけると同時に声をかけられた。普段は雑音などでうるさい酒場なのだが、ウィルが入ってきたことにより、今では少し静まっていた。
「御免・・あのまま寝てたみたい。」
まだ若干濡れている髪の毛を軽く掻いて謝り、ダルフの隣に座ると、メニュー表が配られた。そう言えば、昨日ドテカボチャを食べ損なったっけ。
ドテカボチャを注文しようと顔を上げると、ダルフが何かを言おうとしていた。
「なぁ、ウィル、ちょっと、その、話が、あるんだが・・・。」
と、途切れ途切れに言ってきた。その言葉の後に続く言葉を、しっかりと判断できているのだが、その言葉を聞きたいというちょっと意地悪な心が動いた。
「ん?どうしたのダルフ。」
必死に笑いをこらえつつ、ちょっと心配そうな顔を作ろうと努力した。ポーカーフェイスは得意である。こう言うときは周りの事に気を使っていれば、自然と時が経つ。
酒の臭い、ハンター達から出る酸っぱい汗の臭い、そして、楽しそうな笑い声。そういえば酒場は元の賑わいを取り戻している。
「あの・・・イヴっていう・・女の子、いたじゃん?」
普通に話していても聞こえないはずなのに、凄い慎重になってコソコソ話している。笑いをこらえつつ、多少微笑を浮かべたが、他は特に動かなかった。
「ふんふん。」
肩ひじをつき、彼女がどうしたのでしょうか?と言った様子でダルフを見た。ダルフは続けた。
「・・その・・パーティに誘わないかってさ・・。」
後半のダルフは顔を明らかに赤く染め、言うのも耐えられない、といった状況だった。手で必死に顔を押さえ、笑いをこらえていたが、吹き出してしまった。
「あはは!分かったよ!分かったって。あー、面白い。」
思わず溢れたその笑みに、ダルフもちょっとムッとした表情になった。
「な、お前、俺はなぁ・・・!」
その後に続く言葉が、仮に「本気だった」としても、それはそれはでとても面白い。鈍感なダルフもそこら辺はしっかりと判断できたらしく、踏みとどまった。
「分かったって。でも、それは僕からは言えないよ。」
あの時の、イヴが自分を避けたことを思い出した。岩山龍の爪を削って作り出された呪いのピアス。さすがに、近寄りがたいのだろう。
「な、なら、どうしろって言うんだよ・・・?」
カタカタと震える手でグラスを取って水を飲んだ。自分では出来ないらしい。そもそも、ただ単に「一緒にパーティを組みませんか?」と言うだけなら良いのかもしれないが、ダルフが言うと愛の告白になってしまう。
「僕が言っても、断られるのがオチだよ。だって、呪われてるんだよ?イヴだって僕を避けて・・・・」
そこまで言ったところで、横から凛とした声が、ウィルの言葉を遮った。
「私が、どうかしましたか?」
きょとんと小首を傾げてウィルの前に立った。この間は避けていたイヴだったが、今ではもう最初に会ったイヴに戻っていた。
「手、大丈夫?」
何を言われるのかと思ったが、どうやら手の話のようだ。昨日のピアスの事はどうなったのだろうか?
「あ、うん。もう大丈夫だよ。薬草も要らないくらい回復してる。」
適当に言ったつもりだったが、確かにもう大丈夫のようだった。昨日の回復薬がここまで効果を表すとは意外だった。
そんな風に感心しながら自分の手を見ていたが、イヴが何の反応もしないことに気が付いた。目線を上にやると、イヴが何だか恥ずかしそうに頬を赤らめていることに気が付いた。
「あの・・昨日はすいませんでした。・・君が選んでそのピアスを付けたっていうんじゃなかったんだよね・・それなのに、私、避けちゃって・・。」
そう言って、申し訳なさそうにお辞儀した。逆にウィルが気まずい。
「大丈夫だよ。気にしてないって。」
笑みを浮かべてイヴに気軽に答えた。イヴも、弱々しくながらも微笑み返した。
「・・うん、ありがとう。」
予想外の言葉だったのか、ウィルの発現が優しかったせいか、イヴの表情もかなり軽くなった。もしかしたらダルフと分かれることなくイヴをパーティに加えられるかもしれないと思ったが、どう切り出そう?ダルフは・・・硬直状態だ。
「どういたしまして。それでね・・うん。ちょっと、頼みたいことあるんだけど、いいかな?」
その言葉の終わりで、ウィルが目でダルフに合図を送った。ダルフの硬直状態が直り、ビクリと動く。こういう事は自分で言った方がいいと、何となく通じた。
「俺たちのパーティに入ってくれませんか?」
その言葉はウィルでも感心した。なぜなら、とてもスムーズにその言葉が発されたからだ。
「え・・?私が、ですか?」
戸惑いの表情を浮かべた。そしてちらり、とウィルを見て、直ぐに視線を戻すと、理想の返答を返した。
「私で・・よければ。」
その言葉にダルフは、一瞬反応できていなかったが、その言葉を十分に理解すると、ウィルの方を見た。今度は、目でガッツポーズを送ってやった。
「うん、それじゃ、よろしくねイヴ。あ、僕の名前はウィルド・ルレイアル。ウィルでいいよ。」
手を差し出すと、籠手をしたままの手を差し出した。それを握ると、にっこりと微笑んだ。
「こちらこそ。よろしくね、ウィル。」
そして今度はダルフが立ち上がり、少し戸惑いながらも手を差し出した。ダルフが立ち上がって初めて気が付いたのだが、腕がバトルアームに、脚の装備がゲリョスグリーヴに変わっていた。
「俺の名前はダルフ・ルーロポウルっていうんだ・・・えっと、ダルフ、で。」
やはり少し緊張しながらダルフが答えた。だが、それが一番ダルフらしい。
「それじゃ、ちょっと朝食すませるから、そしたらクエスト行ってみる?」
本当は鬼人化の反動により、しばらくは動けそうになかったのだが、少々無理をしてウィルドが言った。飛竜種の討伐は難しいと判断した。かといって、運搬クエストでも危ない。やるとするなら―どの道あまり得意ではないけれど―採取クエストだ。
ドテカボチャを注文しながらそんなことを考えていた。どうも採取クエストというのは性に合わない。運搬クエストなら、もっと性に合わない。
「う〜ん・・くず肉にポポ肉・・どっちが美味いかな・・。」
「両方頼んじゃえば?」
考え途中に来た、あまりにも素っ気ない質問に、こちらも素っ気なく返した。ウィルはよく知っているが、ダルフは大食漢である。
結局ダルフはくず肉とポポ肉を両方注文し、イヴはホタテチップを注文した。
「少なくねえ?」「全部食べ切れる?」
くず肉にポポ肉が注文されたとき、ほぼ同時にダルフとイヴが逆な意見を言った。そしてお互いに顔を見合わせて、吹き出した。
「あー、平気だよ。ダルフはかなりの大食漢だから。」
自分の半分に切られたドテカボチャにスプーンで掬って口に運んだ。明らかにこれだけでは満腹になれないと思うのだが、ウィルは飲み物の方をよく飲む。
「大食漢・・・ですね。」
とは言うものの、ダルフが頼んでいるのが普通のハンターの食事だった。イヴのホタテチップも、単品だけでは少なすぎる。
「んで、何のクエスト行くんだ?」
くず肉を飲み込み、喋りやすくなった状態でダルフが質問した。
「そうだね・・イヴは?何か行きたいのでもある?」
ドテカボチャを食べながらウィルが言った。そして、コップの水を一気に飲み干す。
「私は新しい防具を作成したいので虫系の討伐を行いたいのですが・・。」
虫系、といえばランゴスタやカンタロスなどがそれに当たるが、カンタロスは比較的珍しく、討伐クエストなどは滅多に出てこない。つまりイヴが言っているのは、ランゴスタのことだろう。
「ランゴスタか・・いいんじゃない?毒属性武器はないけど。」
それに、沼地には昨日、初めて一回行っただけで、毒テングダケもない。つまり毒けむり玉が作れないから、素材の剥ぎ取りは難しいだろう。
そういえば昔、ウィル達がいた村に、三人のカンタロス装備の男達が、毒属性武器なしでもカンタロスの素材を残して討伐できる。と言っていたのを思い出した。確かブラック・インセクトという、センスのない、と言っては失礼だが、そういう団体がいた。今思えば、あの人達は熟練のハンターだったのだろう。よく片手剣使いのウィルに団体の話を持ち込んできたりしていた。ウィルが双剣に切り替えたのは、今から2ヶ月前の話であった。
「虫か・・あまり好きじゃねえんだよな・・うるさいし・・。」
「怖いし?」
語尾を濁したダルフの言葉に、ウィルが一言付け足した。
「な、何で虫如きに怖がらなくちゃいけないんだよ!ただ・・ちょっと・・うるさいだけだっ!」
ウィルとイヴがテーブル越しに目を合わせて、同時に吹き出した。
「あはは!分かった分かった・・分かったよ。」
笑いを静めて少し落ち着いてからウィルが言った。笑いすぎた。
「それで・・どうします?ランゴスタ討伐の件は?」
イヴも笑いが収まって、ようやく喋れるようになった。
「僕は別に構わないよ。」
そう言って、またダルフの方を見た。
「俺も構わねえ。」
ダルフが断らないのは百も承知だった。ただし、実戦で竦み上がってしまうのだが・・。
「それじゃ、適当にクエスト探してきますか。」
そう言って肩を大きく回してウィルがクエストボードに向かった。ダルフは、一気に食欲が無くなっていっていた。
・・・それでも完食していたが。















By Mind of Hunting