ここはドンドルマの街 之 英雄
アシュー様作
1 男は下衆だった
街ドンドルマ、狩猟から成り立つ商業都市、ギルドの運営する酒場ではハンターたちが集まる。ここで契約し、ここから出発する、そして、ここに戻って報酬をとる。
真紅の角と呼ばれ、そこそこ名を売れている私たちのチームは狩りから戻ってきた。飛龍討伐の失敗はすでに酒場でつまみになっている。ライバルチームや者好きのハンターの何人かがからかって来たがそれをまったく気にした様子もなく、マイーペースで飲んでいる男はルッツである、ハンサムにして寡言、冷静にして沈着、礼儀正しく、腕もかなりの大剣使い。部下をもつならこういう男を持ちたいものだ。
正面に座って、ときどき回りを睨みつける男はロイド、優秀なランス使いであるが、短気で軽浮、その上無類の女好きときている、本来なら席をともにすることすらいないのだが、これも右に座っている可憐な少女のおかけだ。
いまから半年前、自由都市ドンドルマに二人の新米ハンターが訪れた、私、ガレーン=グレードと名門ミュゲルの娘、エレノオル。ともに王都の名門だが、まったく違う目的でここにきた、グレード家当主の資格を得るべく、この街で英雄になる使命をもつ私と、吟遊詩人の嘘に胸を撃たれて、夢をみるエレノオル。
「すごい!ここがドンドルマですね、お姉さま!」
「そうよ、悪人がいっぱいいる町じゃ、用心することだ」
「私、イヤンクックを討伐したいです!」と酒場のメイドに話しするエレオノル。
「三日後市があるわ、これにしよう」キノコ納品の依頼紙を押し付けるわたし。
「む〜〜〜」
「ご注文は?」
「そうね、今日はいっぱい頑張ったから、ポピ酒ください!今日こそのむぞ!」
「ミルクでも飲ませてやれ」
「もう〜〜」
見事なまでの冒険娘と保護者ぶりであった。ついにエレノオルはメモーを残して逃げた。お姉さまと一緒にいるとつまんないですっだそうだ。
暫くして彼女は有名になり始めた、幼少から剣術を習っていて、素質も悪くない、これに頼もしい仲間が加われば、当然といえば当然だ。しかし、ハンターポイントを稼ぐのに、なんであんな危険なことをする必要性があるのか、と私はいまだに感心しない。採集ハンターもモンスターハンターも同じくハンターであり、こなす依頼の内容こそ違うのだが、この街を動かす経済システムの歯車に違いはない。それとも採集ハンターはモンスターハンターに劣るとでもいうのか?相変わらず採集やランボス退治でこつこつとポイントを稼ぐのは私の本意だが、エレノオルに悪い虫がついてしまった。
「俺、ロイドっていうんだ、これから仲良くしようぜ?」
彼女のそばでにやにやしたその顔をみた瞬間、
「貴様!エレノオルに近づくことまかりならん!」
これがロイドとの出会いであった。
「おい!聞いてるのか?なんで逃げる必要があると聞いてるんだよ」
「レウスの出現は想定に入ってなかった。チームの安全を第一に考え、それが最善と判断した。」
あくまでも淡々として口調に、ロイドは激昂した。
「うっせ!いつも司令塔気取りで!俺は飛龍の一匹や二匹、一人でも……なんだその目は」
「大口は叩かないことだ、それと自分の力量をわきまえることだ」
「てめ〜〜俺たちがいなければ、いまだに採集ハンターのくせに!」
「貴様!わたしを侮辱するつもりか!」
「おお!それとだ、その変な気取った言い方もなんとかしろ!」
席を立つ私、その気迫に負けまいと、テーブルを叩くロイド、周りからは「また始まったぞ」と笑いが、私とロイドの仲悪さが結構有名であった。
「ま〜ま〜ま。お姉さま!買い物いきましょう!昨日きれいなお洋服見つけたのですよ。」
エレノオルは腕を掴んで外へと引っ張る。ロイドの怒鳴り声が聞こえた
「ルッツ、おめ〜もなんとかいってやってくれ!おい、酒もってこい、ルッツ!飲みなおすぞ!」
食材屋、生活用品屋、呉服屋、そしてもっとも人訪ねることの多い鍛冶屋、ハンター道具屋。ドンドルマの市は主にハンターを商売相手とした店が多く、なぜならすべてが狩猟から生み出し、そして発展していく経済なのである。多くのモンスターの死体は処理加工され、皮や鱗は服と装飾品に化ける、酔狂の金持ちが生きた飛竜を買い取ることも珍しくない。ここら辺でしかとれない食材などは多くの地方都市に出荷され、特にここの特産キノコは美容の働きもあり、王都でも貴婦人たちの人気商品の一つである。
見よう、売り物をきれいに並べる食材屋の主人、レイアの鱗で作られた服にごみがつかないように注意を払う呉服屋の旦那、元気な声で呼び込みをかける宿の女給仕。夜になれば、それらが遊女や吟遊詩人などにいれ代わり、街角などではちょっと怪しい店も明かりがつけ、昼間と違う賑やかさをみせる。ギルドナイツの巡回などもあり、王都とは違う質の、しかしそれに負けない繁華と安定をこの街は持っていた。
「お姉さまは新しい防具を作る気になれませんの?レイアの防具なんか防御性能が高い上にデザインなどもよく、女性ハンターの間でも人気なんですよ?」
「考えておこう」
淡々と答えるわたしにエレノオルは
「たまにはきれいな服を着て、殿方にみせようとか、好きな人と一緒に食事しようとか……」
「好きな人などもいなければ見せる気もない」
「勿体無いな〜ロイドさん、姉さまのこと好きなのに……」
げ!背中から悪寒が
「この前酒飲んでるときだって、いつかその高いプライドを引き降ろしてひ〜ひ言わせるんだって」
「げ……下衆が!」
「そう?ロイドさんはなかなかハンサムとおもうけど、ルッツさんほどじゃないけど……あ、痛ててて……」
ルッツの名前をした途端、エレノオルは目を爛々と輝きだした、こ、この娘は……いや、そんなことよりも私に黙って殿方と酒を飲んでいたのが問題だ!
「いい?エレノオル、これは好きとは言わないの、言うなれば悪魔の欲望だ?」
「痛い!耳痛いです、耳!」
エレノオルの耳を引っ張り、さらに追及する。
「そんなことより、エレノオル!あなた、私に隠れて殿方とお酒飲んでいたの?」
ぞっとした様な声に、エレノオルは
「ひ〜〜ばれた〜〜」
と悲鳴をあげた。
ここはドンドルマの街、帝国に属しながらもギルドに自治権を認めた都市。すべてがいきいきとして、すべてが欲望に満ちていて、そして、すべてが低俗仕切っている。
ガレーン=グレード、22歳、運命の輪を知る由もなかった。
2 男は最低だった
彼は優しかった、私の名前を呼んではいつも背中に乗せた。
彼の背中は厚かった、守られている安心感を与えてくれた。
彼の手は大きかった、いつも私の頭を撫でては抱きしめてくれた。
そして、彼は私を捨てた。
彼の名はアシュー、百匹の飛竜を倒し、古龍より街を守り保った「黒い翼」の片割れ、しかし私は知っている、この英雄は尊敬に与えしないことを。
高台を選び、物陰の下で愛用のクロスボウガンを取り出す、ただのクロスボウガンではない、改良し、強化したやつだ、ハンターたちはそれをクロスボウガン改とよぶ、簡単につくられる初心者用のボウガンであるのがためにそれをつかうハンターを軽蔑する人もいるが。私は彼たちを理解できない。回復、毒、麻痺、睡眠など補助的な弾から、貫通、拡散、散弾、徹甲など攻撃的な弾まで一通りを撃てる上、属性弾や捕獲弾も扱える、破壊力に欠ける感は否めないが、軽いため素早く移動できる。これほど実用なボウガンなのに、それともハンターの腕は装備のみによって具現化されるのか?
可変倍率スコープから覗く範囲、これは私の索敵範囲、大型モンスターやランボスの群れなどを一早く察知し、仲間に知らせる、さらに弾を使い分けのサポート。もちろん飛竜の巣を遠くから観察するのも使い道のひとつだ、場合によってはそれで撤退命令の伝達もある。
「また、きてる……」
スコープから覗く中年の顔、やや白く染まった髪と頬からぼうぼうと生える髭、のんびりしているが、目の鋭さは落ちてない。
池の横に座り込みては釣りを楽しんでいるようだ。
「アシュー、いまさらなんのつもりだ……」
自分にしか聞こえない声呟いたつもりだが、背後から
「へ〜アシューの叔父様、近頃よく見えるのね」
「え、エレノオル!」
ガンナーとして、感覚は鋭いのはず、ここまで接近許しても気配を気づかないとは。
「偵察お疲れ様です。よほど叔父様に専念してたのね、危ないですよ?」
先日失敗したレイア狩りの偵察である、一度は撤退をしたが、まだクエスト期間は過ぎてない、チャンスはまだある。そもそも契約不履行は私の辞書にはない、採集ハンターの頃もそうだ、受けた依頼は必ず遂行する。
「収穫ありました?」
「レイアの巣らしいところを見つけた」
認めたくはないがやはり彼のことが頭でいっぱいだったと思う、だから気がつくのは遅すぎた。咄嗟にエレノオルを押さえ、悲鳴を出さなかったのは日ごろ訓練の賜物と言えた。
指で前方は指し、数十歩さきにレイアの存在を教える。獲物を探しながら、ゆっくりとこっちへと近づく。幸い密林の視界の悪さでまだこっちに気づいてないが、周りに隠れるほどの大木もないし、身代わりになってくれるモスやアプトノスもいない。
「・・・・・・」
エレノオルが悲鳴を出さなかったのは奇跡に近いが、このままではいずれ見つかる。狩人と獲物、出会ってしまえばどちらかはいき、どちらかは死ぬ、そして、この場で、果たしてどちらが狩人でどちらが獲物か?エレノオルもなかなかできるが、ひとりでレイアに立ち向かえるほどの腕ではない、私に至ってはサポートできるほどの用意すらしていない。今日はあくまで偵察で、ポーチに詰めてあるのは群れたランボスを蹴散らすための散弾のみ。なにか!なんとかしないと!こうしている間もレイアは確実に接近してくる。
閃光玉を取り出す、
「いい?合図したらにげるのよ?」
エレノオルは首を横に振った、閃光玉がはずしたら結果は考えなくてもわかるが成功したところで、なげたひとは怒りに狂うレイアからしつこく追跡されるに違いない。
「姉さま、ここはわたくしが……」
「ばかなこといわないで!」
バシ、バシ……
耳を立てる、何者が枝を踏んだ。
パシ、パシ……
どこから小気味のよい音を立てて、それが近づいてくる。
もちろんレイアもそれに発覚し、首を伸ばしてはあたりを見回す。
バシ、バシ……
それがレイアの方向へと向かっていく。
バカな!レイアの存在を察知できないのか?だっとしたら新米ハンターか物好きの一般人か?
バシ、バシ……
ようやく確認できた後ろ姿は、なんとリオソウルの一式を着ていた。それはかなりの上級装備の一つで、普通のハンターは手にすることすらできない、私の知っている限り、この装備をもつハンターは何人かしかしないはずだ、例えば、アシュー、彼はその一人であった。
「こんなところにレイアが一匹か……お嬢さんたち安心していいぞ、オジサン頑張るよ」
「いまよ!」
エレノオルの手を取って走り出した、アシューはなんか言ったような気もするが、レイアの咆哮に消された。
夜のドンドルマは昼間からではまったく想像できないといってもいい、繁華街から一歩でれば、静かそのものだ、たまに遠くから微かな音が聞こえる、飛竜の咆哮だ。高台へと続く階段は灯火が規律に並び、なんとも荘厳たる雰囲気を醸し出す。階段の下並ぶ建物は、ギルドがハンターたちに格安で貸し出しする宿だ、一度所属ギルドに登録すれば、だれでも利用可能だが、ギルドが規定したハンターランクというものがあり、そのランクによっては豚小屋から豪邸までと住める部屋も随分と違ってくる。
超豪華ともいえるその部屋を入ったこと、私は後悔した。
エレノオルは私に言った:あってお小遣いでも取ってきなさい。
ルッツは私に言った:貴女の考えるほど深刻ではない。
ロイドは私に言った:ぶつけてみる事だ。
「なんか飲むかい?プレスワインなら12年のものがあるぞ?」
「いいえ、お気遣いなく、昼間は助けて頂いて、ありがとうございます」
「なんのなんの」
一息を置いて、私は聞いた
「一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「なにをかね?」
「どうして助けてくれたのですか?」
だれから聞いてもわけのわからん質問だった。アシューからも極当然の答えが帰ってきた
「愚問だな〜ハンターとして、いや、人として助けるのは当たり前のことだ」
そして、私の目をみて笑った。
「と、建前はそれだが、本音は美人が怪我するのを見るのが忍びなくてね、第一、男も知らずに死なせるのが勿体無い」
にやにやした顔を眺めて、ふっとある噂を思い出した、ある日の朝、アシューは女性Aの部屋からでて、ロイドは女性Bの部屋からでた。次の日アシューは女性Bの部屋からでて、ロイドは女性Aの部屋からでた、そして二人はよく頑張るねとお互いを称えあった。
英雄として称えられているが女遊び激しいという噂も絶えない。
胸から込上げる怒りを覚えつつ
「あ、あなたは母を口説くときもそうだったのですか?」
「やはりそうきたか」
アシューの顔からみるみる微笑がきえた
「それが目的なら、なぜ最初からそれをいわん?」
「し、失礼しました、では質問を変えます、あなたは母愛していらっしゃったではなかったのか?」
沈黙、そして
「自分を女とも思ったことのない女性をか?」
「な……」
眩暈がした、みんなから励まされて、勇気出してきたけど、これが現実だ。
「分かりやすい答えありがとうございます!あなたから生を受けたことは感謝します、でもあなたに育てられたわけでもないし、私の中にも黒い翼を敬愛すべき理由など見当たりません、失礼します」
ドアを閉め、廊下を走る、予想はしていたけど、予想を遥かに上回るショックに涙が滲んできた。
だれかとすれ違った、腕が急に引っ張られ、危うく転倒するところだった。
「え、エレノオル!?」
「し〜〜静かに!ついてきて」
「な、なに〜」
ついた場所は、やはり父アシューの部屋前だった、ロイドが入ったのをみた。
「ロイドさんがね、お姉さまは叔父様に敵うわけがないって、口添えにいったらしいですわ!」
「くだらない!」
帰ろうとする私を、ま〜〜ま〜〜と止めるエレノオル、なかからアシューの声が聞こえてきた
「今日は珍客多いな、で、なんの用だ?」
「ガレーンはいい子ですよ、父親に似ずにね」
さすが黒い翼のまえで緊張でもしたのか、いつもの覇気がない。
「あ、それはおれもそう思う、なにせ養育費がかからなかったからな」
「あは〜〜慰謝料請求される可能性だってありますよ?」
ロイドの苦笑いが聞こえる。
「ま、まじめに言いますと、彼女は自分を不幸と思い込んでいる、そしてそれをひとに打ち解ける術など彼女にはもっていない、精神の袋小路に迷った少女をここは年長者として出口に誘うべきではないのですかね?」
「ほほ〜これは驚いた、まさかお前さんの口からそれを聞けるとは、今日は記念すべき日だな、12年物のワインだ、記念のために一杯どうだね?」
「恐縮です」
アシューはグラスを二つ取り出し、ワインを注ぎ込む。その琥珀色の液体を見つめながら
「あれは強い娘だ、学問もあってな、ただいろいろ知っているが、母親に似て自分が女であることを知らない……」
夜の灯台は静かだ、モンスターを観察する役目をしているが、一人になるには実にもってこいの場所であった、遠くから伝わる土の香り、潮水の味を満ちた夜風は私の心を癒してくれる。
「どうですか?感想は?」
背後からルッツの声が。
「想像通りのひとだった、予想はしていましたから」
「そうですか」
「はい」
「アシューさんは貴女より25歳は上です、このままいっても彼は貴女より25年は早く亡くなります。黒い翼の片割れ、ガイアさんの墓はそこの森にある、3年前のことだ、殺しても死なないと思わせといて、あっさりあの世にいきました」
「なにが言いたい?」
ルッツは灯台から降りる、彼の声が聞こえる。
「ここの連中は多かれ少なかれずれていることが多い、ロイドも私も笑ってこの街に来たわけではない、だからせめて出るときくらいは笑っていたいものだ。すべては貴女の心次第ですよ」
その後ろ姿を見送り、乱れた髪に手を当てる、すべては私の心次第か。
ここはドンドルマの街、モンスターから人を守るために作られた要塞、あるものは名誉のために、あるものは金のために、そしてあるものは己のためにやってくる。
ガレーン=グレード、22歳、いまだに不幸の輪の中にいる。
3、リオレイアは相手不足だった
ドンドルマ、複雑の地理に囲まれ、故に独自の経済システムを生み出した街、他所では滅多に見ない地理構成に囲まれるこの地域は、多くの生物を生息させ、同時に豊富な自然資源に恵まれていた。
例えば火山、あちこちで溶岩が溢れ、一歩間違えば、命を落とすことだってある。そこに生息しているグラビモスは厚い鎧を纏い、強力な高熱ブレズと催眠ガスを分泌し、ハンターたちの脅威を集めている。ショウグングザミ、大きな鋏と攻撃的な性格をもち、さらに地中も天井も移動できると来れば、遭遇したら無傷ではすまない。しかし、火山には多くの鉱石と燃石炭や火薬岩がある、帝国の軍備に当てられた年間の半分は毎年ドンドルマから提供されている。
例えば密林、大自然の恩恵を一身に受け、多くの生物を育つ母、特産キノコをはじめ、薬用の太陽草や落陽草から栄養豊富で子供にも人気の蜂蜜。人々は森を愛し、その恵みを熟知している、しかし、視界の悪い密林は熟練のハンターでさえ道に迷うことがある、そして一度道を迷ってしまえば、危険極まりこの上ない。太陽すら届かない大木の下を歩いては後ろからファンゴに襲われる可能性だってあるし、水辺で休憩を満喫する間も突然下から出てくるサザミンを警戒しなければならない、群れで獲物を襲うランボスは狡猾な相手で、飛竜と来ればさらに厄介だ。
その密林の一部を地図にした紙を3人に渡し、分析をはじめる
「これが彼女の活動範囲になる場所、区域ごとに番号も書いてある」
「毎回毎回好きだな」
と文句をいれるロイドに、ルッツは
「ガレーンさんが一週間かかって作ったものです、敬意を払うべきだ、現に、毎回毎回これのおかけで楽に依頼を遂行できたのでしょう」
「6番、7番、8番、それらの場所は洞窟になっていて、レイアの巣はそのどっちかにある」
「どっちだとおもう?」
「どっちでも今回はあんまり重要ではないわ、3番をみて、そこは水辺と密林の構成になっていて、ゲルビ生息地域でもあるわ」
「ってことはランボスもいるってことだな」
「そして5番、キノコが多く、モスたちが主に活動する場所だ、この二箇所はレイアの捕食地域である可能性が極めて高い」
「つまり、この二箇所でレイアをまつというのか?そんなことより一気に巣に押し込むのが早くないか?」
「巣は飛竜休憩の場所、逃げ場を失った飛竜は死ぬ気でくるわ、繁殖期にはいったレイアはなお更のことだ、迂闊に入るのは得策じゃない」
「賛成!さすがお姉さま!」
「へいへい、我らはいい司令官をお持ちだ、で、司令官殿、当然いつものように策は考えてあるだろう?」
「3番でレイアに傷を負わせ、攻撃を受けたレイアは狩猟場所を変えるべき5番へ向かうわ、そこで彼女を捕獲する」
「言うには易し、だ。地図から見ると3番と5番はかなり離れている、空を飛ぶ飛竜と地に足を離れない我々、旨くいけるかな」
「いい所をつく、ルッツ殿、だから今回は二手で分かれる、私とロイドは3番で直接レイアに当たる、ルッツ殿はエレノオルをお願いする」
「え?お姉さまとロイドさんが?」
「ロイド嫌いのと彼の腕を評価するのとはまったく違うことだわ、エレノオル」
「は?」
と口を大きく開くロイドに私は笑いをかけた
「今回は、あなたの腕の見せ所よ」
ぎんーーー
ランボスの歯を盾で受け止め、その下から突き出す一撃、竜撃槍ゲイボルグはランボスの腹を貫通した。
「ほらよ、これで全部だ」
ロイドはこっちに顔を向け、眉をすこし顰めた
「おんなのくせによくやるな」
「そう?」
ランボスの死体にナイフを当て、力いっぱい横に引いた。生暖かい液体は顔へ飛び、不快感を堪えつつ、私は水辺へ移動する
「こっちも終わったわ」
「レイア一匹のために、なにもここまで……」
「下準備は大事だ、それだけで勝負を分かつことすらある。ランボスを一掃できる上、血の臭いでレイアを誘い出し、一石二鳥じゃない」
「でもなんで俺たち二人なんだ?」
「ルッツはルッツで、5番の地形把握をしないといけない、罠つくるのにも時間がかかる」
「エレノオルは?」
「キャンプでみんなの飯を用意している、いよいよ明日だ」
「ほらよ」
渡されたタオルを水に漬け、顔の返り血を落とす
「ありがとう」
「一つ聞いてもいいか?お前はこの街に何しにきた?父探しと思っていたが、違うようだ」
「英雄をなりにきた」
「は?」
まるでとんでもない冗談でも聞いたのか様に、ロイドは笑った。
「ははは、ははっはははははは」
「そんなに可笑しいか?」
「お前はそんなやつじゃない、大した女だが、お前はハンターになりたいような女じゃない、吟遊詩人のお伽話に感動することもなければ、英雄に憧れるはずもない、エレノオルとはまったく違う質の人間だ」
「その通りだ」
訝るロイドに横の地面を指した
「ここに座るがいい、わがグレード家の歴史を教えて進ぜよう」
グレード家は言わばハンターから生まれた貴族であり、一説によれば一代目のガイア=グレードは彼の黒竜もを倒した凄腕のハンターであり、都で王女レリア姫を娶った、帝位こそ就くことできないが、ガイア=グレードは一介のハンターから都の名門となり、グレーント家に王族の血筋が流れるのも確かであった。当時、帝国は内戦であったため、二代目のオスタ・フォン=グレードはドンドルマの実力者たちと手を結び、自治権を与える代わりにドンドルマの全力支援を得た、これは新王朝が内戦に勝つ大きな勝因となった。以来、代々の当主となるグレードは必ずこのドンドルマに訪れ、ギルドと親交を深め、英雄になるべくとハンターの生活を送った。
「ドンドルマは残念なことに農墾する所が少ない、故に大部隊の駐留にも向かない。しかし、その資源は無視できないものだ。ギルドによる自治こそ認めているが、独立されては困る。わがグレード家は代々ギルドと親交し、そういった独立を歌える名士を処分させる。英雄として名を知らされればハンターたちにも根強く影響力を持たせられる、王朝に弓引く種を事前に摘むのは私の役目だ」
「・・・・・・」
ロイドは絶句した
「な、なんで俺に教える?」
「この前の礼だ」
アシューのことを指している。ロイドも当然それを理解し、
「やはりとんでもない女だ、エレノオルのお嬢ちゃんとは訳が違う」
「でも、今回はちょっと無茶な作戦だったかもしれん、よくぞ信頼してくれた、礼をいう」
「無茶でも何でもない、人は死ぬときは死ぬ、いつもそう思ってるよ」
「ほほ、案外潔い方だな」
「実際お前が来てから事故は少なくなった、前はもっとどきどきしたもんだぜ?認めたくはないが、俺もルッツもいいリーダが現れて感謝している」
顔が緩んだのがわかる、人に認められるのは嬉しいものだ。
「夕日は好きか?」
「なんでわかる」
「見れば分かる」
「あ、好きだ!」
ロイドは立ち上がった
「昔は夕日を追って草原を走ったことすらある」
「ほほ、いまは?」
「いまは毎日の酒代を稼ぐのが忙しい」
「ははははは、なかなか愉快なやつだ」
本気で笑った。ロイドよ、すこしは見直したぞ。
「殷賑を極める王都の人々は登る太陽を好む、沈む太陽を好むのはすくない。」
「お前はどうなんだ?」
「小屋よし、浮雲よし……だがグレード家に生まれてはそうも行くまい」
「とても貴族とは思えんな」
「それ誉め言葉として取っておこう、ほかに好きなものはないのか?」
「あ!あるさ」
ふっと、ロイドは私を見つめる。
「例えばその太陽よりも輝く金色の髪」
「・・・・・・」
無意識に金色の髪に触れてみる。
「例えば海よりも深い青い瞳」
「・・・・・・」
目をパチパチしてみる。
「君という存在のすべては僕の心を掴んでは離さない」
いまの風景を考えてみる、夕日に染まる白砂と男女が一組か、さぞかし詩意のあるロマンであろうな。
あごに指が宛がわれた、顔が近づけてきた。
「教えてくださいロイド様。どうしてわたくしなんかを?人は、だれも運命には逆らえませんから」
「そそ、人は誰も……え?」
「ふん、歌劇ゲールマの愛なら貴婦人達と何回も見たことあるが、評価に与えしない作品の一つだ」
指を払い、帰途を目指す。
「グレードの太陽は落ちぬ、グレード家のおんなもそんな陳腐の応用では落とせぬ」
「参ったな、物知りのお姫様だ、酒場のリアちゃんには一発だったのに」
もう〜〜アホか!
密林、太陽に晒される白砂。
濃密な潮風を満身で受け、スコープから覗くロイドとレイアの一進一退は、見事なものだ。
「実に牽制してくれる、大した腕だ」
盾でガードするのではなく、受け流してはステップでかわす。離れず近すぎず、レイアの注意を引いていく。
おかけでこっちは気づかれることもなく延々と急所を狙える。麻痺弾でレイアが痺れるたびに、ロイドの猛攻が始めては頃合いを計算して間合いをとる。堪らずレイアは翼を羽ばたいて後ろへ下がろうとするが、それを予測でもしたかのように、ロイドもまた風と化して突進する。
性格には問題あるが、槍を持たせたら間違いなく一流の使い手である。
やがてレイアは新たな狩猟場へとにげたが、すでにかなり弱っていた。
「お見事!大した腕ね」
物陰から出てくる私を見て、ロイドは槍を背後にしまう
「この方向からみると、予想通り5番にいたな」
急いで5番についた頃、ルッツが暇そうに座っていて、横には落とし穴に嵌って鼾をかくレイア。
「もう捕獲したのか?」
「あ、予想以上に弱っていてね」
「ま、これもこの俺様が……なんじゃこりゃ!お前、尻尾切ったのか?」
ロイドは地面に落ちたレイアの尻尾をさして
「買い叩かれるだろうが」
「すまない、逆鱗でもでるかと思ってね」
「出たのか?」
ルッツは苦笑した。それをみてロイドは
「ま、希望は諦めないことだ。それにしても、ああああ、可哀想に、爪もぼろぼろ、お前、もっとレディーに優しくできないのか?」
冗談を言い合う二人、辺りを見回す。エレノオルがいない、それを察して、ルッツは
「エレノオルなら、アイルたちにレイアの運びを頼みにいたところだ」
「そか、これで依頼完了だ」
レイアを見下ろす、私が求めるのは、あなたではない、もっと力強い存在だ。そうでなくてはグレードの名を世に知ら示せることができない。ときはまだこないのか?
ここはドンドルマの街、人は英雄に憧れ、英雄はハンターから生まれる、しかし、憧れからではない目的で英雄になろうとするものもいることを人々はしらない……
ガレーン=グレード 22歳、いまだ英雄になれずにいた。
4、英雄
慌しく叩かれたドアの向こう側は9人も立っていた、8人は全身黒い服に纏われ、目にはマスクを被っていた。彼らを両脇に従え、真ん中の男性は赤い上着に白いシャツ、そして決めつけは羽付きの赤い帽子、目立つことこの上ない。この街で逗留することがあるなら、誰でもギルドナイツと彼らを束ねる隊長であることがわかる。
ギルドナイツ、これはギルド所属している私兵である。ドンドルマでは帝国による軍隊の駐在はない、そのため街の治安を任せられたギルドは毎年腕のいいハンターなどを物色し、ギルドに引き入れる。また有力者の資金援助のもとでギルドナイツ養成学校も建てられ、それは王都でいうと仕官学校に近い。ギルドナイトになれば、給料が支払われ、一定の地位も名声も保証される。彼らは軍人の意識を植え付けられ、対人戦術など訓練も受けられており、街の守護や治安維持、及び遭難したハンターの救出が主な仕事である。たまにハンターとは名ばかりの盗賊団の討伐もさせられるが、近頃は治安もよくなったため、そういった任務はすくない。一説ではギルドの精鋭部隊は王都親衛隊にも引けを取らないとされるが、その真偽は定かではない。
深めに被った帽子のしたからは鋭い目が窺える。顔たちも美男子といってもいい。こちらに一礼して
「ガレーン=グレード様?」
「お待たせしましたか?」
「初めてお目にかかる、私はジーク=フリードと申します。ギルドより命を受け、参りました」
堂々たる態度だ、声に媚も感じられない。
「ご丁寧に」
彼に好意を持ったことが自覚できる。
「失礼ながら、ただいま、砦にて古龍クシャルダオラを迎撃中のことをご存知ですか?」
「はい、これより撃退に出向くところだ」
「かなり苦戦しているとの通報が受けております、ギルドからはご退避の願いが……」
「退避はせぬ、その首をもって世に功を誇る!」
「持って帰れますかね?」
「持って帰る!ギルドナイツの指揮権を譲られたい」
これはグレード家とギルドの契約である、有事下に置いて、それも正当性が認められた場合、様々な制限が設けられているが、グレード家は一時期ギルドナイツの指揮権を借りることができる。
「ははは、ははははは」
ジークは笑った、しかし目は鋭いのままであった。
「では、お守り致しましょう」
砦。
クシャルダオラを迎撃する最前線。そこは予想よりも混乱していた。
ギルドナイツや腕のあるハンターによるクシャルダオラの迎撃を行われているが、かなりの被害を出している。
クシャルダオラだけではなかった、空中に回旋するガブラス、さらにはイーオスもいた。
腕が悪いわけではない、連携がとれない故に、各々で苦戦するハンターたち。それはギルトナイツをも巻き込み、クシャルダオラの攻撃で命を落とすものもいれば、イーオスやガブラスで怪我するひともいる。
「古龍と聞いていたが、案外小さい体をしているな、これしきの龍に苦戦するとは、なんて無様な……」
これに不快でも感じたのか、回りのギルドナイトたちは眉を顰める。しかしハンターからの出とはいえ、彼らは兵士としての訓練も受けてある。目上の命令は絶対であり、不服はあってもそれを口にすることはない。
「獅子が率いる羊の群れは羊に率いられた獅子の群れに勝ることを、みせてやろうぞ」
早速第一の命令を下す。
「卿たちはガンナーたちを下から呼び戻せ、高所に配置し、空中のガブラスを一掃せよ」
「は!」
走り去る二人を見送って、三人目に命令を下す。
「ギルドナイトによるランス部隊の編成をしよう、無理に攻撃せず、やつを龍撃槍へと追い込む!」
「ギルドナイトのみですか?」
明らかに理由を求める顔であった。
「ギルドナイトだけのほうが連携とれる、下手にハンターが混ざると却って危険だ」
「なるほど」
彼は満足した。
四人目に向けて
「すまないが、真紅の角のメンバーを探してはくれないか?それと英雄アシュー殿も」
「御意」
ほどなく、四人は階段から登ってきた、みんな疲れているが無事であった。アシュー以外はことを読み込めなかったが、特に質問をしなかった。
「ロイドにルッツ殿、何人か腕のいいガンナーを探してはくれないか?バリスタや、大砲に配置しよう、バラバラ撃っても効果が薄い、やつが飛び立ったら翼を狙って一斉射撃を」
「ほほい」
さすがにメンバーの仲間であった、疑問を持ちつつも私を信頼してくれる。
「アシュー殿、お願いがある」
「なんでしょうか?長官殿」
「ハンターたちを率いて、ナイトたちをフォローして下さい。怪我人の救護や、イーオスの排除に協力してください」
「分かりました」
「それと……あの龍が身に纏う風が厄介だ、なんとか消す方法はないのか?」
「お任せくだされ」
向けるアシューの背中は、喜びすら感じていた。
ここまできて、やっと一安心、みんなが命令通りに動いてくれる。しかし、言うことを聴いてくれそうにない人もいる。
「はい、はい、はい!」
高く手を上げている娘をみる。
「わたくしは?」
「貴女に作戦参謀を命じる」
「拝命致しました、なにをすればいいですか?」
「ここで戦況を見極め、上官に進言することだ」
「え〜〜〜私、下でみんなと……」
わがままではないが、好奇心がつよく、何事も挑戦したいエレノオル。しかし今日は特別だ。なにかあってはミュゲル伯爵に顔向けできない。
彼女の行動はすでに予想はしているし、対処法も考えてある。ここに来たのが最後、もう好きにはさせない。
「ミュゲル嬢を拘禁しろ、敵前抗命の罪、後ほど罰してくれる!」
「ちょっと、ちょ……お姉さま!」
抵抗するエレノオルですが、ギルドナイトには適わない。有無を言わせない実行力に、私は大いに満足した。
「つれていけ」
ここで、エレノオル=ミュゲルが退場したのである。
ギルドナイツの行動は実に素晴らしいであった。
すでにガンナーたちが高台に登り、ガブラスたちに向けて攻撃始め、彼らを襲うガブラスもいるが、尽く回りのハンターたちに迎撃され、半分が撃ち落とされた頃、残りは四散してにげた。
下では編成されたランス部隊はクシャルダオラを囲んで展開し、半円型の包囲網を構成していた。
前進するたびに擦れ合う鎧と盾、一人一人から発せられた音、それが何十人もいるとさすがに迫力が違う。クシャルダオラもそれに動揺し、迂闊に攻撃を仕掛けてこない。
縮小する包囲網、左へ、右へと飛び向かう古龍、ついには後退はじめ、龍撃槍へと移動する。
ガーーーーーーーーー
巨大な音に伴って龍撃槍が発動した、深手を負ったクシャルダラオは地上から飛び立とうとするが羽ばたく翼に向かっては巨大な槍や丸型の大石が飛んでいく。バリスタと大砲の集中攻撃である。たまらず落ちる古龍、地上ではランスによる追撃が待っていた。
それでも立ち上がり、反撃する古龍に、何人かはバランスを崩され、顛倒されるが、すぐハンターたちによって後ろへと引きずられ、新たなギルドナイトがその隙を埋める。
アシューが前に出た、程なくしてあの厄介な風は消えた。なにをしたのかはしらないが、効率かつ効果的な方法に違いない。
すでにガブラスもいなくなり、すべての攻撃はクシャルダオラに集中した。
点から線へ、線から面へと展開する組織的な攻撃に、クシャルダオラはただ怒り狂うのみであった。
「お見事でございます」
赤い帽子に白い羽は風に揺れる。
「大したことではない」
「ご謙遜を」
「ここの構成についてはもう特に研究済だ、これあくまでも先人が考えた迎撃戦の運用にすぎない」
「さすがはグレード家の血筋。これで新たな英雄が生まれることでしょう。もはや勝敗が決した故、大老殿に行かれてはいかがですか?」
「いいえ、やつはまだ力尽きておらぬ」
あとは時間の問題である。しかし、クシャルダオラが死んでいない以上、指揮官たるものは戦場からは離れない。
「怖いお方だ」
「いいえ、怖いのはむしろギルドナイトたちだ、いくら作戦が秀でも、実行される力がなければ意味が成さない、ギルドナイツの実力は王都親衛隊を超えて帝国竜騎士団に比敵するとみた」
「恐れ入ります」
大老殿から戻り、酒場にはすでに祝宴になっていた。
古龍の襲撃は何回もあったが、今回ほど被害がすくなく、しかも討伐したのは初めてである。故に各ギルド運営の酒場ではハンターたちを労うために宴会を用意していた。
当然私をみて、多くのハンターは集まってきた、ギルドの情報操作もあって、ガレーン=グレードの名は英雄として祭られた。
多くの酒に囲まれて困ったが、幸い仲間がいた。
「いいね、酒はただ酒、つまみもおごりだ」
と豪快なことを言って、ロイドは身代わりになってくれる。
そして頃合いをみて、私は切り出した。
「明日、王都に帰る」
「え?」
一番落胆したのは、むしろエレノオルであった。
私の王都帰還はいわば彼女の冒険の終わりでもある。
「エレノオルのことですが、しばらくルッツ殿に託そうと思う、任せてもよろしいか?」
途端に笑顔になるエレノオル、ついこの前までお姉さま、お姉さまとべったりつくのに、女の友情とは儚いものだ。
「ロイド殿、度のすぎた飲酒は判断の低下を招く、体にも悪い、できれことなら控えめにするのがよろしいかっと」
普段の私からでは考えられない言葉にビックリする3人。こっそりと離れる、これ以上の会話は涙を招く。
「御転婆娘に乾杯」
迎えられたアシューに一礼する
「これから王都に帰ります」
と伝えた
「もう帰るのか?」
「3人には明日と伝えてありますが、涙は嫌いので、今夜立ちます」
「そか、ドンドルマはどうだった?」
「ギルドナイツは予想よりも精鋭であった。ギルド懐柔の策、これからもさらに強化されるべきです」
「それを聞いたのではないが……」
見つめるアシューの視線、かすかに感じる彼の感情、それは悲しみか?
「お前が母に似すぎた、いや、俺がしっかりしていれば……」
なにかずっと昔に忘れていたものが、胸に込上げた。
目がぼやけて来た。これ以上彼と会話してはいけない。
「アシュー殿も、お元気で……」
深夜、ドンドルマ東の門が開かれ、漆黒の闇に向けて、一両の馬車が発進した。
車両の中には急用の商人をはじめ、観光の貴族もいた。夜の闇を凌ぐために、あるものは自分の英雄談、あるものはこれからの人生について語った。次へ次へと変わる話題はいつしか古龍を討伐した英雄へとなっていく。
熱く語り合う人々と対照的に、隅っこで静かにハンターが座っていた。顔はかなりの美人だが、ひどく疲れていた。座る姿勢からしてはどこか名門のお嬢様にも見えなくもないが、身なりはあんまりにも似合わない。使い古びた安物の鎧を着て、背中には軽量の小型ボウガンが飾ってある。恐らく彼女の全財産でしょう。レザーライト装備は軽量で採集には便利だが、狩りには向かない。クロスボウガンも飛竜相手では無力すぎる。夢をみて、この街にきた若者が多いが、夢が潰えて出る落ちこぼれも多い。しかし、ここまで酷いのもすくない。
すでに意地悪そうな貴族が
「まったく、ガレーン=グレード様に見習ってもらいたいものだ……」
「あなた、ちょっとやめなさい!」
夫人らしい女性が彼を制止した。
だれもが女性をみた、彼女は無言で目を閉じた。やがて揺れる馬車の中で、小さな寝息が立てた。
半年前、ガレーン=グレードがレザーライト装備をつけて町にきたことも、彼女が街で作った唯一の武器はクロスボウガン改であることも、馬車の人たちはしらない。彼たちはガレーン=グレードにあったこともなければ、その顔もしらない、ただ英雄という名に憧れ、それを想像し、賛美していく。やがてその名は彼たちによって昇華させられ、一つの伝説となる。
ここはドンドルマの街 第一部 英雄 完
かつて、彼は龍を倒し、街から王都へ。彼は伝説となった。
いま、彼女は龍を倒しに、王都より街へ。彼女は伝説になるのか?
やがて、運命はすべてを巻き込み、破滅へと導く。
愛すら知らないハンターとわがままな龍の仁義なき対決。
裁かれるのは人か、龍か……
ここはドンドルマの街 之 伝説
1、 暗雲
「これはドンドルマが見捨てられたと取ってもよろしいか?」
「各国から伝わる文献が正しければ、あれは人知を超えた生物です、なのに援軍は来ないとは、どういうことか?」
「グレード様はいかなる哲学の元で、騎士団も連れずにきたのか、まさか一人で万龍の祖に挑むつもりではあるまいな!」
かなり豪華な一室で、ギルドナイツの熾烈な質問が飛んできた。
「諸君、ここでグレード嬢をせめても仕方あるまい」
回りを抑えたのはジーク=フリード、私を見て微笑む。
もちろんその好意に答えるべく、
「グレード家はドンドルマを見捨てたりはしない」
これで十分だ。
一瞬沈黙が落ちて、論題が次へと移る。
「幸いまだ時間がある、やるだけはやってみようではないか、我々はギルドナイツであることを忘れるな」
「住民の避難、各方面から街への通行封鎖、いくらでも人手が足りなさ過ぎる」
「育成学校の訓練生も動員して掛かるしかないな」
「食糧、水などの確保、これほど大規模の避難はいままでなかった、ギルドからなにかの正式発表が必要でしょう」
「そうだ、もはや古龍来襲だけでは通せなくなった。ハンターたちにも事情を知らせよ、彼たちが引いて逃げるか、それとも徹して守るか、大いに興味がある」
一通り雑な意見が出し尽くしたあと、ジークは聞いてきた。
「古龍観測所からによれば、大型で動きも素早いとのことです、クシャルダオラときみたいにはいかない、グレード様はどう思います?」
「相手は未知の存在だ、やはりガンナー部隊による遠距離攻撃が一番理想でしょう、バリスタや大砲が要になってくるはずだ、それらを察知されないように工事が必要だ」
「そう手配させましょう」
目の前の男たちを見ながら、十日前のできことを思い出す。
その日、特になにか起きた訳ではなかった。
朝、前から悩まされていた盗賊団は憲兵隊により殲滅されたとの報が受けた。
昼、港では女性に暴行を働いた貴族は逮捕され、その親は法務部の偉いさんに泣きついたが、面会のみが許された。
夜、名門ランベル伯爵家で宴会が開かれ、王自らが訪れたことで、宴会を一層活気つけた。
辺境では隣国シュレイドとのいさごさが起きたが、大事には至らなかったとの知らせがあった。
唯一、王宮に仕える占いおばばの発狂はありましたが、帝国で平和にあった。
その深夜にドンドルマより非正式な救援要請が届いた。
優雅な庭園を曲がり、豪華な扉の前に足を止めた、呼吸を整えて事情をもう一回整理する。
ドアが開かれ、中から上品なご夫人が迎え出た。第一王女、フィアーナである。
「待っていましたよ、ミスグレード」
「王女陛下の身辺を騒がせ奉り、お許し頂き……」
「ここには他人がいません、そのような挨拶は無用です」
そういって、フィアーナは私を部屋に入れた。
「ご機嫌麗しゅう、ガレーン」
「ご機嫌麗しゅうございます、フィアーナ様」
席につけると、私は早速本題に入った。
「やはり竜騎士団は動かせないですか?」
「はい、私からも進言したのですが、ランベル伯が……グレード家が社交界から離れた十年、あなたの出現により、彼は再びグレード家に危機感を覚えたのでしょう、あのときアシュー卿の件が無ければ、彼の下衆に国政を悩乱されることも無かったのに……あ、これは失礼なことを」
「いいえ、お気になさらずに、この様な事態を招いたのはわがグレード家の不甲斐でありますゆえ」
「それといつも貴女を高く評価したレッツ卿からも異議がなされた」
「あの法務部のレッツ伯が?」
「恐らく目に見えて勢いを増すグレード家に憂いを持ったのか、それとも軍部の色強い現体制から法部の地位を確立させたかったのか……公正で正義感のある方だけに、回りや父からの信頼も高く」
「レッツ伯はなんと」
「兵権の所在についてです」
「正論です。確かに竜騎士団が負ければ、帝国の威厳が損なわれる、それによって中央集権が弱まれば、また地方からの独立の可能性も出てきます、加えて今回はあくまでもグレード家宛への非公式は救援にすぎない。」
「では……」
「ですが、不肖このガレーン=グレードは、陛下と主に帝国の旗を仰ぎながらもグレード家を再興する役目を背負っております……此度は、一人でもドンドルマに赴く所存でございます」
「やはりそうでしたか、そういうと思いました」
フィアーナは立ち上がり、奥に入った、程なくして、大きな袋と黒い剣を両手に乗せて
「これは帝国に代々に伝わる黒龍の神殿から取り寄せて来たものです。」
「これは……」
「ドラゴン防具と黒龍剣です、そなたが死ねば、帝国軍人に騎士とはなんたるかを身をもって教える者がいなくなる、そして、私も貴重な友人を失うことになります。生きて帰りなさい、これは私からの命令です。」
大した収穫でもないのに必要以上に疲れさせる作戦会議であった。
部屋に戻るよりもさきに酒場を回った。やはりいた。
三人はテーブルを囲み、暇そうであった。
「つれないな、戻ってきたのに、顔の一つも見せない」
ロイドの意見にエレノオルが
「そうなんですよ、三ヶ月ぶりでいっぱいお話したいのに、お姉さまたら」
「なんでも宿も取らず、ギルドの作戦室で寝止まりしてるそうじゃないか」
「そうなんですよ!しかも、あのジークっていうギルドナイト、美男子だし、姉さまに好意持ってるらしいし、姉さまも満更って感じじゃ無さそうだし……」
ロイドはエレノオルを見つめ
「俺、やっぱやつに決闘申し込んでくるわ!」
「やめなさい、ロイド、恐らくいまこの町になにか途轍もない危険が近づいているのだ、エレノオルもロイドをからかうのをやめなさい」
さすがルッツだ、すでに何かを察知した。
「お久しぶりね」
と背後から声をかける
驚く三人に事情を説明し、避難を提案したが
ロイドは
「こいつは参ったな、でもお前ならなんとかしてくれるだろ?」
(これはそのつもりだけど……)
ルッツは
「万龍の祖か、お目にかかれるな」
(お目にかかれるだけでは済まないかもよ?)
エレノオルは
「ルッツ様と一緒にいるから安心していいよ」
(それはそれで心配だ……)
まったく町を出るつもりは無い三人であった。
2、対峙
その日、陽は高かった、しかし、午後になって一変した。南より流れてきた暗雲は太陽を消し、街を黒い影で覆い尽くした。
暗い地の底から湧き出るような、暗黒すらわななきそうな歓喜を持って、彼は雲より現れた。
彼の気配に押さえられぬ様、私は手に持つ黒龍剣を高々と挙げ、全身全霊を込めて叫んだ
「ドンドルマの興亡はこの一戦にあり、全員一層奮起せよ!」
「おおおお!」
たちまち応呼する声が立ち上がり、砦に戦意が渡っていた。
「射程距離に入りました」
耳元でジーク=フリードの低い声が伝わった。
「撃て!」
一声を合図に、無数の瑠弾や貫通弾と拡散弾がそれを向かって飛ぶ、しかし、すべての攻撃を物ともせず、古龍は悠々と砦の中心へと降り立った。
(ほほ、その鎧、その武器、我が同胞の臭いがする)
なんと!脳に響く声?こやつ、これで対話することもできるのか?
驚きはしたが、混乱するまではしなかった。
相手は魔龍、意思の伝達ができても可笑しくはない。
(子供のごろから、あなたの伝説を聞きました)
(ほほ、案外落ち着いているな)
感心すら聞こえる声であった。
(なんとお呼びすればよろしいか?)
(すきにせい。どれも本当の名だ)
(では、伝説通りにミラボレアスと)
(よい名じゃ)
回りを見回すミラボレアス、すでに無数の攻撃を受けているが、まるで無傷の様だ。
遠くから私を射抜くような目が輝き出した。貪欲な飢えと狂気に満ちて、こっちへ見据える凄まじいさ。
まるで金縛りで食らった見たいだが、力を振り絞って
(ミラボレアスよ、なんのために参られた?)
(知らぬ)
(知らぬ、と?)
(目的のあった千年と思うか?強いて理由を言えば、好きに生きるためだ。行きたい場所にいき、腹がへれば物を食う、怒りを覚えれば破壊もする、この様に、な!)
古龍は大きな咆哮をあげた。すくざま口から噴出された火球に、何人かが避けきれず、燃えつくされた。
(サルの末裔にしては見事だ、だがわしの眼に魅せられれば、楽に死ねたものを、不憫なやつよ)
(残念ながら、この命はまだ差し上げる訳には参りません)
(ふん、その言葉、いままで何度も聴いた)
強風を立たせ、ミラボレアスは飛び立とうとする、恐らくは上空から攻撃するつもりであろう、それをされたら厄介だ。
「いまだ、撃て!」
それはバリスタと大砲による一斉攻撃であった、さすがにそれに耐えられなかったのか、やつは地上に落ちた。
(他愛もない、この街へと来たことを悔やまれよ)
(ははは、わしにそのような口を聞くとは、だが千年を生きた龍を葬るには、それだけの礼を尽くさねばならんぞ?来い!)
ミラボレアスはひときわ大きな叫びをあげた、
(動けまい!そのままでおれ!)
続いて、巨大な火の玉は近くにあったバリスタのひとつに直撃した。
「このままではまずい、ランス部隊を出してやつを牽制しよ」
「しかし、やつはまだ弱ってはおりません、これでは……」
「犠牲は大きくなるが、バリスタと大砲を壊されては勝ち目がなくなる」
「御意」
城門は開き、ギルドナイトのランス部隊は出撃した。
ハンターとギルドナイツを総動因したドンドルマ防衛戦、それは熾烈を極めた、多大な犠牲を払いつつ古龍を地上から飛び立てぬようランス部隊奴を囲んで攻撃した。尻尾に触れて城壁に激突するナイト、四方からなんとかダメージを与えようとするガンナー、咆哮に金縛りされては火球の直撃に燃え尽くされた。ついに断末魔の如く、ミラボレアスは地に伏せた。
顔に滴る冷や汗を拭き。
(千年の終わりが、この場所ではご不満でしょうが、ゆっくりと休まれるがいい、いずれ私も参りますゆえ、語り合いはまたあの世で)
(ふふふ、はははは)
地獄に凶悪無残な鬼がいるならば、これがその笑い声であろう。
不吉な影が胸を掠った。
「ランス部隊に伝えろ、足を突いて立たせるな!」
(まさかここまでやるとは、わしにとって、今日は厄日のようだ……だが、やわか数十年の生命に敗北はせぬぞ!)
一瞬、なにが起きたのか分からなかった。
気がつけば、アシューが横で倒れていた、状況からして、私を庇って負傷したのがわかる。
回りを見渡せば、ハンターやギルドナイトが倒れ、ひどい有り様であった。
「一体なにが……」
「落雷です、広域な落雷です」
答えるのはエレノオルでした。
ジーク=フリードがされに付け加える。
「撤退命令を!被害が著しく、もはや組織的な抵抗は不可能になりつつあります」
「お姉さま、はやく逃げ……」
そのままエレノオルが硬直した、見上げれば、巨大な悪魔は私たちの前に浮いた。空中に羽ばたく翼と見据える瞳。左の前足をゆっくりと、手招いた。そして、ミラボレアスはまた悠々と下へと降りた。
「は、はは、はやく逃げましょう」
エレノオルをみる、顔が恐怖に歪んでいた。
横にいるロイドとルッツも大した変わりはなかった。
ここまで駆けてくるだけでも凄いと思う、これ以上要求してはいけない。
アシューを見る、百匹の飛竜を倒した英雄も今じゃ虫の息であった。
「父上をお願いします」
三人に一礼して、
「最後までありがとう、はやく逃げなさい」
「おい、よせ……」
止めようとするロイドの声は途中で消える。
腰に飾ってあった黒龍剣に触れる。
フィアーナさま、伝説の武具を授けられたにも関わらず、お約束は守りそうにありません、お叱りはあの世で受けますが、どうかそれは遠い未来のことでありますように。
階段から降りた所で、ミラボレアスは座っていた、逃げまとう人々を追撃もせず、ただ私を待っていた。
(やはり来たか)
(こなければならぬ、多くの人を死へと追いやり、ここで逃げれば、その責任は呪いとなってグレード家に降りかかるであろう)
(見上げたやつだ、いつでも抜くがいいぞ?)
黒龍剣のことであろう。
(人智を超えた力に我が武運は届かなかった、これ以上見苦しいマネをしても始まらない)
(ならばなぜ降りた?)
(私を食らうがいい、その代わり行き残った人々を見逃せ)
(思い上がるな、お主の命とこいつらの命、わしが天秤にかけるとでも思うか?)
(ならばなぜ私をまった?)
彼の龍は沈黙した、やがて
(面白い奴よ、千年で始めてあったわい)
そして、ミラボレアスの眼は私から後ろへと移す。
やっと竜撃槍ゲイボルグを手にした男の存在に気づいた。いつの間に階段下りたのか、全くばかなやつだ。
「エレノオルたちは?」
「アシューさんを背負って逃げたよ」
「あなたは何しに来た?」
「さ〜な、自分でも分からない」
「感情だけで動く男ではないと思ったが……」
「感情を捨ててまで動く男でもないさ」
「あなたがいっても結果はなにも変わらない、無駄なことよ」
「そうでもないさ、一緒に死ぬことができる」
平然と反論するロイドをみる。
口元が一文字になる意思のつよさ、軽浮な男だと思っていたが、こういう顔もできるのか。
さきまで死を覚悟した心に、急に生への執着が生まれた。
3、伝説
後、ドンドルマに避難から戻った民衆は身震いした。
ドンドルマ防衛戦を物語るが如く砦は悲惨に破壊尽くされた。
人々はギルドナイツに感謝し、ハンターたちの勇猛を称えた、そして、戦死した者には花と酒が送られた。
一つの伝説が生まれた、最後の希望が消えそうになったとき、女は一人で巨大な存在に挑もうとした。男は勇気を振り絞って女性を守ろうとした。ギルドナイツが壊滅しても、二人は最後まで町を守りきった。
黒龍を地面に突き降ろしたのは竜撃槍ゲイボルグ、ミラボレアスの喉を引き裂いたのは黒龍剣。深手を負った古龍は逃げたが、二人は災いの元を立つべく、そのあとを追跡した。
民衆は知らない、ギルドナイツやハンターたちが負傷者の救護や被害の確認に走り回るとき。誰もいない酒場である男女が座っていた。
当然メイドも避難中だから、水をもってくる人もいない。
「お互いよく生き延びたものだ、今回ばかりはもうだめと思っていたが」
「え、我侭な龍でよかった」
死を呼び、破滅をもたらした魔龍の正体はこれとは、だれが信じられよ。
(言ったはずじゃ、好きに生きると。好きなときに喰う、好きなときに寝る。これが好きに生きるということだ、いまは一眠りしたい)
これが死闘の終焉であった。
死を待つ私たちの前から、巨大な魔龍が上空に飛び立ち、雲の彼方へと向かっていくのを見届けても夢だと思っていた。
「喉渇かないか?」
さきからそれを繰り返すロイド
「女性に水を持って来させるのか?」
カウンターを指す。
沈黙が落ちた。
「実は、先から足に力が入れなくて、な」
「恥ずかしいことだが、いま腰が抜けているのだ!」
再び沈黙が落ちた。
「男のせくに本当にだらしないのね」
「うるせ!いつか絶対ひ〜ひ言わせてやる」
「そのセリフ、なんども聞いたが、いつひ〜ひ言わせてくれるのだ?」
「え?」
ぎょっとなるロイド
「嘗て、我が先祖、ガイア=グレードは一介のハンターでありながら王女を娶った。父アシューも王都に来ては母に求婚した、あなたも王都にくるがいい、相手にするとは限らんが」
「お前、オンナのくせに凄いこというんだな」
「う、うるさい、黙ってそう承知したまえ!」
「へいへい、ご命令とあれば」
「命令だ!」
またもや、沈黙がおちた。
なんとま、ムードのない結婚話であった。
「な、さきから外騒がしくなってないか?」
「恐らくは負傷者の救出や町の復旧でみんなが働いているのであろう」
「俺ら、このままじゃまずくないか?」
「どこかに隠れたほうがいいかもしれないわね」
半年後、ロイドからの結婚の申し入れが来たが、意外なことに父のアシューが猛反対。
その反対を押し切って彼と結婚したもの、父の忠告通り、旨くいかない二人であった。
大喧嘩する毎日の夫婦生活は三ヶ月と持たなかった。
それと同じ年、ルッツがミュゲル家に求婚し、エレノオルを妻にした、二人は評判の夫婦であった。
ここはドンドルマの街、逞しく生きる人々の要塞。
そして、こことは無関係に、ガレーン=グレード、24歳の春。家庭とは縁が無かった。
ここはドンドルマの街 第二部 伝説 完