-銃と剣の狂想曲-
銀獅子様作
【序章】
轟 と言う咆吼と共に俺に向かって火球が放たれる。
しかし推進力の低いその火球は俺まで届かない。
弧を描き地面に落ち、その大地を焼いた。
小型の火竜『イャンクック』だった。
太い筋肉の束がうねる脚が大地を踏みしめる。
スコープ越しに、白目のない爬虫類独特の無機質な瞳と目が合う。
獰悪な感情のない双眸が俺を直線で補足し、長い首をたわめる。
その嘴が開かれ、赤い炎が漏れ出す。
再び灼熱の炎が吐き出されようとしているのだ。
しかし次の瞬間、俺の銃が火を噴き上げた。
長くたわんだクックの首筋に、赤黒い穴を穿った。
放たれた弾は貫通弾。
その名の通り、貫通力の高い亜音速の弾丸が、
クックの桃色の鱗を容易く突き破ったのだった。
突然の激痛に、堪らず地に伏すイャンクック。
俺の愛銃は 【ディスティハーダ】
ヘビィボウガンの中でも上位に位置する銃だが、更に各所に改造を施してある。
首に開けられた穴から血を迸らせながら、
憤怒の眼をしたクックが巨体をたわめながら立ち上がろうとする。
しかし次の瞬間、瀑布のような白刃がその長い首を等分した。
血煙の向こうに、疾走し終わった 【鬼斬破】を担ぎ上げている相棒の猛禽にも似た笑みが見えた。
胴から切り離された首が丁度二回転し、湿った音と共に地に落ちた。
それとほぼ同時に、ディスティハーダから排出された薬莢が地に落ち、
妙に澄んだ音色を奏でた。
まるで戦いの終わりを告げる晩鐘のように。
遭遇から約三分。
俺が放った弾はただ一発。
相棒の振るった刀もただ一刀のみだった。
【第一章】
「ちょ…なぁ、止めようぜ、な? ほら、こんなにいい天気なんだし…」
俺の周りを興奮したアイルー達が取り囲んでいる。
「マジで…な? ほら、爆弾なんてしまってさ〜」
俺が必死になってなだめてみるが、奴等の興奮は一向に収まる気配がない。
討伐したクックから素材を剥ぎ取っている最中に、
一匹の尻尾を踏んだのがこの災難の始まりだった。
一度いきり立ったアイルー達はイャンクックなんかより余程たちが悪い。
杖で叩かれるだけなら、まだ笑っていられるものの、
流石に爆弾投げられて笑っていられるほど俺の身体は頑丈じゃない。
「う〜ん、まいったなぁ…力ずくで追っ払うのもかかわいそうだし…」
「おい、ウィズ、何をしている?」
着火する前に爆弾を取り上げ、適当にあしらいながら俺が思考を巡らせていると、
討伐したイャンクックから素材を剥いでいた男がこっちへやって来た。
こいつは俺の相棒にして最低のクソ野郎 アヴィス…俺の知る限り最高の人格破綻者だが、
その背に背負った大剣【鬼斬破】を操る腕に関してはその実力を認めざるをえない。
−鬼斬破−大業物級の鉄大剣でその身には雷を帯びている。
重さと威力で叩ききる骨系の大剣と違い、
金属系の大剣は、研ぎ澄まされた刃の切れ味で切り裂くと言う目的で作られている。
このタイプの剣は東の大陸に起源を持つ物が多い。
その反り返った刀身が鞘に収まり、アヴィスの背に揺れている。
「いや、ちょっとアイルー達に囲まれちまってな…」
「役に立たないのは知ってたが、アイルーすら倒せないクソだったとはな…」
ほら来た…まぁアヴィスの口の悪さはいつものことだけど。
取り敢えず俺も軽口を返すことにしておこう。
「いや〜 まさか大剣振り回すしか脳のないクソ野郎にクソ呼ばわりされるとは思ってなかったなぁ」
次の瞬間、たった今まで俺の頭があった場所に、鬼斬破の切っ先が突き刺さる。
「すぐに武力行使に出るな!!」
首を引っ込め、紙一重で刀を避けた俺に、アヴィスはさらりと言ってのける。
「すまんな、手が滑った。なに、ちょっとした手違いだ」
この短気もいつものことだ。いつか手違いで死ぬな…俺…
「にゃ、にゃ〜ん…」
いつの間にか俺を囲んでいたアイルー達が、ふにゃふにゃと崩れている。
「マタタビだ」
アヴィスがその長い黒髪を掻き上げながら言った。
アヴィス…お前何でそんなもん持ってんだよ…
いつ蒔いたのか、辺りにマタタビが散らばっていた。
【第二章】
「何だその顔は?」
「アホ、間抜け、悪魔、鬼畜、アヴィス君、今すぐ くたばって下さい。と思っている」
「そう思っても口に出すな。短気だな…カルシウム不足か?」
俺の言葉に相棒が整った鼻先で笑う。
「剥ぎ取った素材全て一人で背負わされたまま一時間近くぬかるんだ山道歩かされたら
誰だって不機嫌になるだろ。それとカルシウム不足で怒りっぽくなるというのには
異論がある。電位差で生体内の神経伝達を起こすカルシウムやナトリウムの
イオン濃度が、感情に影響を及ぼすほど変化したら、むしろ重病を疑うべきだ」
「ガンナーの理屈臭さは職業病と考えて良いのか?」
「この場合は接近戦専門の怪力馬鹿達のいい加減さの方が問題だろ?」
城塞都市ウォルド近郊。静かに闇に包まれゆくアイニー山の山道を、
相棒アヴィスと不満顔の俺が歩いていた。
クックを討伐した後、最寄りのアニル村の宿に一泊し、翌日ウォルドに馬車で帰ればよかったのだが、
「山中の村の小汚い宿に泊まる事は俺の主義に反する」
とアヴィスが言い出し、1時間もあれば到着するという奴の言葉を信じてしまった俺は、
わざわざ二本の脚で、辺鄙な山道をこうして歩いているというわけだ。
一時間で着くというのは嘘ではないらしい。
ただしそれは、近接戦専門のアヴィスが狂走薬を使って全速力で走った場合の計算であり、
更に俺が何度も引き返そうと無駄な説得をしなければの話だそうだ。
いい加減倒れそうな俺の隣で、アヴィスは楽しそうに歩いている。
恐らく大自然に触れて、先祖帰りを起こしているのだろう。
これだから人類失格の脳内筋肉馬鹿は…
そう考えていた俺に向かって、鬼斬破の白刃が飛んできた。
「うぉっ!!」
俺は頭を下げて何とかそれをかわした。
その刃は俺の背負っていたクックの甲殻の一部をすっ飛ばしていった。
「な、なにすんだ!?」
「不愉快なオーラを感じた」
オーラってあんた…やっぱ野生の勘ってヤツですか…
アヴィスの不必要なときにばかりよく働く勘に驚いた瞬間、鼻先に冷たいものを感じた。
空を仰ぐと、パラパラと雨粒が降り注いできた。
俺はふてくされながらも前方に歩を進める。
アヴィスが生まれてきたことを呪いつつも山道を進むと、大きく開けた平野に出た。
雨足は次第に強まっていき、地面を一面の泥濘へと変えていった。
「どうした? ウィズ、ひ弱なガンナーは雨粒が重いのか?」
どんな時でも嫌みを忘れないアヴィスに賞与を与えたい…
アヴィスのためにわざわざ賞状作る気はないけどね。
「荷物と銃で肩がもう限界。いい加減休憩しないとちょっと泣くかも」
「お前がそんなに繊細だとは思えないが」
「あれ、何でだろう。アヴィスと比べたらランゴスタが可愛く思えてきた」
「ウィズ、お前のような珍獣の鳴き声は高貴な私の耳に触る。今すぐ消えるか死ぬかしてくれ」
「お前の右隣の左隣の人に言ってくれ。世界の平和と秩序のために光速で死んでくれと」
「貴様は本当に性格が腐食滅殺しているな」
「性根が原子崩壊しているお前に言われたくない」
このままアヴィスと会話するのは永久凍土での稲作と同じくらい不毛なので、
取り敢えず話題を変えてみる事にした。
「それにしても報告ほどの巨竜じゃなかったな。それでもクックにしたら大物か。
ま、面倒は小さいほど良いけどな」
「私の信条には 〈獲物と女は手強い程良いものだ〉 と有るのだがな」
俺の言葉にアヴィスが答え、更に続ける。
「とにかく依頼は終了した。後はギルドに報告して、明日は休暇だ」
「お前って狩りに行かない日は何してるんだ?」
アヴィスの休日というものが気になって聞いてみた。
「呼吸」
………アヴィスと交流可能な人間はこの世にいないんだろうな。
多分虚数空間とかにも…
こういう結果になるのは分かっているのに、それでも話しかけてしまう自分のおしゃべり癖が恨めしい…
ちなみに、このアヴィスという人物は、人格は完全に崩壊しているが、その容姿は異常に美しい。
本人はそう形容されるのをひどく嫌うが、世に言う 美人というものに分類される。
これで性格がよければ完璧人間なんだろうけどな…
雨も次第に収まり、アヴィスとのこれ以上会話の続行は不可と判断した俺は、
少しでも気を紛らわそうと、依頼書を読み返すことにした。
ここアイニー山周辺で2週間ほど前から人や家畜を殺傷されるという事件が多発した。
村民が現場に巨大な足跡を発見し、飛竜の仕業と類推された。
この一帯には過去に何度も飛竜の目撃例があり、その竜が元凶と推測された。
そして俺達のような狩人が派遣され、
のこのこ 牧場にやってきた間抜けなお前は首だけになったってわけだ。
俺は背中に背負ったクックの首にチラリと視線を送った。
虚ろな瞳が、どこか遠い彷徨を写していた。
視線を前に戻すとそこにアヴィスの背があった。
俺はぶつかりそうになり、急停止。
荷物の重さもあり数歩よろめいた。
「おい、荷物を下ろす事を許可してやる」
視線は前を睨みつけたままでアヴィスが言った。
「ほえ?」
間の抜けた声を出した俺の隣でアヴィスが刀を抜いた。
アヴィスの視線を辿っていくとその先で、俺達を睨んでいるリオレウスと眼があった。
「マ、マジですか?」
「マジのようだな」
リオレウスの裂帛の咆吼が周囲に響き渡り、本日二度目の飛竜戦が始まった。
【第三章】
どうやらさっき狩ったのは、偶然牧場にやってきた運の悪いイャンクックで、
本命はこちらのリオレウスということらしい。
ああ… いつもの事ながら運がないな… 俺。
愚痴っていてもしょうがないので、俺は気を取り直し、弾薬の詰まったポーチを探る。
「なぁ、俺もう弾が無いんだけど…」
俺はレウスの吐く火炎弾を避けながらアヴィスに言ってみた。
先ほどの討伐の直後なので高レベルの弾は持っていない。
突進を避けて、背後から斬撃を加えながらアヴィスが答える。
「今すぐ調合しろ」
即答
しかし、もちろん調合素材も殆ど残っていない。
結論
「俺は何にも出来ないから頑張ってね〜♪」
「貴様…レウスの前にその首掻っ切ってやろうか?」
レウスの尻尾を避けたアヴィスが凄い眼で睨んできた。
ヤバイ…あの眼は本気だ…
このままじゃ確実に殺られる…
しょうがない、とっておきの弾だけど使うしかないかな…
命には変えられないし…
俺は腰のポーチから一発の弾を取り出した。
通常の弾より遙かに大きな口径の弾丸。
改造を施してある俺の銃でなければ使えない俺のハンドメイド弾だ。
「ぬんっ!」
その間にレウスの尻尾をかわしたアヴィスがレウスの懐へと低空跳躍を決起する。
そしてそのままレウスの左後ろ脚に鬼斬破を叩き込んだ。
刀身が高硬度の鱗を断ち割り、肉を切り裂いた。
赤黒い血が傷口から迸る。
レウスは、アヴィスを噛み砕こうと頭を振るが、
その牙は横転したアヴィスの上を掠めただけだった。
う〜ん、やっぱり何回見ても人間の動きじゃないね。うん。
野生の虎とか獅子の動きだよ、アレは…
レウスはその巨躯を後方へと退け、胸腔を急激に膨張、
死をもたらす火炎弾を放つべく、大量の呼気吸入を行う。
既に弾を装填し終わっていた俺は、待っていたこの瞬間を逃さない。
スコープ中央の十字がレウスの開いた口中に重なる。
「アヴィス! 離れろ!!」
俺の声に反応したアヴィスが、反射的にレウスから飛び離れた。
鋭い銃声。
火を噴く銃口。
俺の放った弾がレウスの口内へ着弾。
次の瞬間
『ゴウゥゥゥゥン』
凄まじい爆音。
迸る炎と白光。
一拍子遅れ、朽ち果てた大木が倒れるかのような重低音が周囲に響いた。
煙がはれた後には、頭部の吹き飛んだレウスの死体が横たわっていた。
見よ、俺特製の『火炎弾Lv3』のこの威力。
弾の中に詰まっていたのはニトロダケから生成した
『トリメチレントリニトロアミン』と言う強力な爆薬だ。
レウスの炎に対する抵抗力などお構いなしの尋常ではない破壊力。
ちなみにギルドの規則からしたら、この弾の口径も、銃の改造も違法。
………ついでにアヴィスは、その存在全てが違法。
これが見つかったら俺はハンターライセンスを剥奪される事になる。
とは言うものの、ギルドの連中も、それなりに有名なガンナーである俺のことは
見て見ぬ振りをしてくれている。
流石に年に一度の査定には予備銃のメテオバスターを出すけどね。
胸部近くまでを吹き飛ばされた死体は、膨大な黒血を流していた。
強靱な飛竜の肉体も生命の中枢たる脳を吹き飛ばされては意味がない。
爆音の後の耳の痛くなるような沈黙と静謐。
俺は嘆息し、長く重いため息を付き、地にへたり込んだ。
俺がへたり込んだのを確認した後で、
アヴィスがへたり込んだ俺への当て付けのように優雅に倒木に腰を下ろした。
アヴィスは、そう言うイヤなヤツなのだ。
【第四章】
「ほらお兄ちゃん、蜂蜜が安いよ!!」
食材屋のおばさんの言葉を聞き流しながら、俺は他の人々と
同じように、朝の市場の鬱蒼とした人の森の中に立つ。
人々の話し声、足音、武器、防具のこすれる音、その他の音が
解体、融合した独特の音響が終わることなく響いている。
昨日と先週と先月と、そして多分去年とすら変わっていないだろう
平凡きわまるウォルドの朝市の風景だった。
−城塞都市ウォルド
数ある自治都市の一つであり、その四方を長大な城壁で囲まれている。
その全景は東西約6q、南北約7・5qに及び、
市街地と王城区に別れている。
現在国を治めているのは、王位継承権第一位の王子でありながら、
先王 存命の間はハンターであったという変わり者で豪傑、
〈緋色の狼〉と呼ばれた英雄『ヴァーレンハイト』
四方を巡る城壁を除けばどこにでもある様な中規模都市、
ウォルドとはそんな街だ。
朝市の雑踏を抜けて右折、突き当たりの鍛冶屋を今度は左折。
俺はギルドへと向かった。
扉をくぐるとそこはいつもと変わらない風景。
朝から酒を飲む者、狩りへと赴く者、仲間と話し込む者。
俺が席に座ると一人の男が右手を上げながら、鷹揚な笑顔で近づいてきた。
「よぉ ウィズ、景気はどうでぃ?」
近づいてきたのは身長2メートルを超える大男。
背が高いだけでなく、全身が鎧のような筋肉で覆われている。
そして一際目を引くのがその長いアゴ。
「お前は……グレート巽?」
「プロレスを舐めるな………って違うわ!!
一部の人にしか分からないことを言うんじゃねぇやい!!」
「悪い悪い、つい口が滑った」
この男はアントニー・イノキア。この街では有名なハンマー使いだ。
有名なのはハンマーの技術ではなく、むしろその長いアゴと言う説もあるが。
ハンターランクは27で俺と同じ。
因みにアヴィスは28で俺達よりわずかに上だ。
更に言っておくと、俺は今年で23才。
アヴィスは自称24才で俺より一つ上。
アントニーは今年で40になるらしい。
そろそろ中年を通り越しつつあるが、その腕力は衰えることを知らない。
「ったくよぉ…相変わらずだなぁ、おい」
そう言いながら俺の隣に腰を下ろした。
その重量で椅子がギシギシ軋んでいるが本人は全く気にしていない様子。
「今日は相方の別嬪さんはいねぇのかい?」
「その言い方はアヴィスの前ではしない方がいいな。
流石にその長いアゴでもアヴィスの刀から首を守るには無理があると思うぜ?」
俺の忠告にアントニーは、アゴを…もとい首を傾け肩をすくめる。
「まあどうせトレーニングルームだろうがよ。どうだいウィズ、今日は俺と狩りに行くか?」
「行かん」
「そうかい。じゃあ依頼は何にしようかねぇ」
そう言ってアントニーが立ち上がりかける。
「耳が聞こえんなら口の形をよく見ろ。行・か・ん!」
明確な俺の拒絶を無視し、アントニーは依頼を物色し始めた。
「昨日依頼地から帰ってきたばかりらしいじゃねぇか。楽な依頼の方がいいかい?」
俺の脳は、急いで撤退するのが良策と判断。
出口に向かいかけた俺に向かい、更に別方向から声がかかった。
「そこの如何にも幸薄そうな後ろ姿はウィズか?」
声の方へ顔を向けると、トレーニングルームへと続く扉からアヴィスが出てきた所だった。
はぁ…今日も最低な一日になりそうだ…
【第五章】
森の茂みの中で俺はスコープを覗いていた。
視線の先にいるのは二人の男とランポスが38匹。
いや、今アヴィスが二匹斬ったから36匹だな。
結局俺は、アントニーとランポス狩りに行くことになった。
すると珍しくアヴィスが自ら付いて来ると言い出した。
大型の飛竜が相手の依頼以外に滅多に付いてくることの無いアヴィスが
自分から付いてくるのはどうにもきな臭いが、まぁ戦力は多いに越したことはない。
俺は音を立てないように弾を装填した。
今回使うは通常弾。ギルドから無料で支給される安価な弾だ。
しかし俺の銃の威力があれば、相手がランポスならこれで事足りる。
一匹の頭に十字を重ね、引き金を引く。
首に大穴を開けたランポスが血煙を上げながら倒れる。
あれ? おかしいな。頭を狙った筈だけど。
……あぁ、昨日整備しなかったからか、こりゃ スコープがずれてるな…
しかし戦闘への影響は軽微。
修正は後でやれば良いか。
そんなことを考えてる内に、アントニーがハンマーを振り回しながら回転。
次々にランポスを吹き飛ばしていく。
1、2、3,…6匹か。
あと29匹。
吹き飛んだランポスを数えている内にアヴィスが鬼斬破を振るう。
更に4匹が首を無くした。
25匹。
いかん いかん。俺も数を数えてる場合じゃないな。
我に返った俺は、ランポスに照準を合わせ次々に引き金を引く。
途中、スコープの狭い視界の中にアヴィスが入った。
引き金を引きたい衝動に駆られるものの、何とか堪える。
暫しして、最後の一匹をアントニーが上空に打ち上げた。
宙を舞うランポスの身体を俺の弾丸が貫く。
そして落下してきたその体をアヴィスの刀が一閃、空中で両断した。
−依頼終了−
「俺も年かねぇ。久しぶりに動いたら腰が痛てぇわ」
アントニーがハンマーを地に下ろし、右手で腰を叩いている。
アヴィスは鬼斬破の刀身の点検と研ぎを始めている。
俺も愛銃の整備を始める事にした。
先ほどスコープのずれを感じていた俺は、少し離れた大木に照準をあわせ、
試し撃ちをする事にした。
ずれの大きさを確認するため、大木の中央に照準を合わせ、引き金を引く。
しかし、引き金を引いた瞬間俺は青ざめた。
なんと、大木の下の茂みから人間が起き上がってきたのだ。
ギィンと言う金属に金属の当たる刺激音。
わーい、命中だ〜♪
………なんて喜んでる状況じゃないだろ、落ち着け俺。
そんな中、俺の思考の混乱を見通したアヴィスがボソリと呟いた。
「ある意味衝撃的な出会いだ。女性だったらいいな、ウィズ」
そう言って背後からポンと肩に手を当ててきた。
「被害者と加害者でときめけるか!!」
音からして鎧に当たったみたいだし、
距離的にも死ぬような威力じゃあないだろうけど怪我はしてるだろうな…
いっそのことこのまま放置する方向で行こうかな…
そういう腐った考えも頭をよぎるが却下。
取り敢えず俺は現場の確認に行くことにした。
【第六章】
大木の下には一人の女が倒れていた。
弾は脇腹に当たったらしく、レイアレジストの一部がへこんでいた。
「お〜い、撃った俺が言うのも何だけど大丈夫か?」
昼寝でもしていたのだろうか?
兜と武器は外していたらしく、木の根本にそろって置いてある。
どうやら彼女もガンナーのようだ。
俺はしゃがみ込み、青白いほおをペチペチ叩きながら呼びかけた。
頭に当たってたら犯罪者になってたな……俺。
そんなことを考えながら呼びかけること暫し。
「う、う〜ん」
彼女が目を覚ました。
「おっはよ〜う、俺はウィズ。大丈夫だった?」
取り敢えず爽やかな笑顔で誤魔化そうとする。
「あれ? 私は…何があったんですか? 何かが脇腹に当たって…」
そう言いながら鎧のへこみに手を当てる。
「あぁ、そのことね。俺がスコープの調整で撃った弾が突然立ち上がった君に直撃したの」
唖然とした顔の彼女。
「え〜と、それじゃあ貴方は、事故だったとしても 突然弾丸を当てられて、
気を失っていた初対面の私に謝りもせず、現在こうして馴れ馴れしく話しかけている訳ですか?」
流石ハンター、状況理解が早い。
「まぁそう言うことになるかな…」
俺は笑顔のまま頷いてみる。
「ちょっといいですか?」
彼女は俺の肩に手をかけ、「よいしょ」と立ち上がった。
見上げる俺と、見下す彼女。
「この腐れ外道が!!!」
アヴィスの抜き打ちに匹敵するのではないかという彼女の回し蹴りが
俺の側頭部にクリーンヒット。
爽やかな笑顔のまま 地に伏す俺。
俺の首に鎌を当て、今にも刈り取ろうとしている死神の幻が見えた気がした。
意識を失いそうになったがギリギリで堪える。
死神があら、残念とどこかへと去っていく。
足音に気が付き、起きあがりながら振り向くと、
アヴィスとアントニーがやって来た。
「何だ? いきなり押し倒そうとしたのか?」
「んな訳あるか!」
朦朧としながらも、アヴィスとの馬鹿なやり取りを終え、改めて彼女の方に向き直った。
彼女は脇腹を押さえながら俺を睨んでいた。
するとその彼女の視線が俺の後方へと移っていった。
「あの…アヴィスさん…ですか?」
「ああ、そうだが?」
アヴィスが答えると、彼女に尊敬と羨望の表情が表れる。
「うわぁ!! こんなところで会えるなんて!!」
脇腹の痛みも何のその。
走り寄ってアヴィスに握手を求める。
「……あれ…じゃあもしかして、こっちのウィズって人は…」
俺の方に向き直る彼女。
「私の相棒である銃に付いてきたおまけだ」
引きつった顔で俺の方を向く彼女。
「もしかして…私…憧れの…人に…回し蹴り…喰らわしちゃった?」
【第七章】
ギルドにて。
「あの…首の方は大丈夫ですか?」
向かいに座った彼女がおずおずと話しかけてくる。
「あ、うん。それはもう大丈夫。それより君の方こそ大丈夫?」
「はい。私も大丈夫です。でもせっかく作ったレイアレジストが…」
そう言って俺の方をじとーっとした目で見つめてくる。
「……」
暫しの沈黙。
「はい…責任もって直します…」
「え! いいんですか?」
先に折れたのは俺。
白々しく驚く彼女。
「クックックックッ…」
こらえられずアントニーが笑い出す。
「なかなか良い根性のお嬢ちゃんだ」
そう言いながら椅子から立ち上がる。
「さて、俺はそろそろ行くぜ。まだ昼過ぎだからな、
もう一仕事してくるわ」
そう言って受付の方へ向かって歩いていった。
しかしながら一日に二回も狩りに行く筋肉馬鹿の気が知れない。
「ところで君の名前は?」
そう言えば彼女が俺達のことを知っていたので、名前を聞く機会がなかった。
「あ、私オルハって言います」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
「えーと、もう知ってるだろうけど俺はウィズ、
こっちの人と獣の境界線上にいる野獣擬きがアヴィスだ」
一応俺も自己紹介をしておく。
もちろんアヴィスへの嫌みも忘れずに。
しかしアヴィスは、俺の嫌みを無視し、にこりともせず珈琲を飲んでいる。
「そう言えばウィズ、貴様はレイアの素材を持っているのか?」
あ、前回狩ったレイアの素材は全て売却したんだっけ。
「……なぁアヴィス、頼みがあるんだけど…」
「野獣擬きにお願いするのか?」
俺が全て言い終わる前にアヴィスが言った。
げっ、そう来るか…
「申し訳御座いませんでした…」
取り敢えず謝る俺。
「宜しい」
「じゃあ取り敢えず鍛冶屋へ行きますか」
俺はそう言って椅子から立ち上がった。
そして俺達はギルドを後にした。
鍛冶屋へ向かう道中にて。
「そう言えば俺が憧れの人って言ってたよね?」
回し蹴りの後の朦朧とした意識の中でそんなことを聞いた気がする。
「あ、はい。私はウィズさんに憧れてハンターになったんです」
「それはどんな経緯かは知らんが悲劇だな」
大げさな身振りで、額に手を当てよろめくアヴィス。
いちいち突っ込むな、陰険自動剣振り機。
しかしそう思っても口に出さない程度には俺も賢明になった。
オルハが更に続ける。
「丁度一年ぐらい前、砂漠へディアブロス討伐に来たのを覚えてますか?」
そう言われて暫し考える。
「あぁ、国境の防壁を突破したっていう奴のことか?」
そう言えばそんなのを討伐した気がする。
確か去年の頭に受けた依頼だったな。
「じゃあその時に助けた家族のことは?」
そう言えばあの時、馬車ごと襲われていた家族を助けたっけ。
とすると、オルハは。
「もしかしてあの時の…?」
「はい。あの馬車に乗ってた娘が私です」
一年程前・砂漠にて。
「暑い」
「そう言うな。余計に暑苦しくなる」
「暑い、暑い、暑い、暑い、暑い」
うんざりした顔のアヴィスに向かい更に続ける。
「貴様、私に喧嘩を売っているのか? いいだろう、現在高値買い取り中だ」
そう言ってアヴィスが刀を抜く。
「わ、待て待て。冗談だって! うおっ!!」
そう言った俺の頭上を鬼斬破が一閃。
逃げ遅れた俺の髪の毛を少し切り飛ばした。
「お前はもう少し正義とか常識って言葉を知れ!!」
「悪・即・斬・それが私の掲げる唯一の正義だ」
「どこの壬生狼だよ! ってか お前の中で俺は悪なのか?」
どこまでも不毛なやり取りが続く。
「ちっ…貴様の所為で余計に暑くなった」
そう言って優雅な動作で刀を納め、額の汗を拭う。
「はぁ、今ので体力が一気になくなった」
クーラードリンクを飲めばいいのだが、数に限りがあるため、
ディアブロスに遭遇するまでは、なるべく節約したい。
ディアブロスさん、俺が干物になる前に早く現れて下さい。
「にゃにゃ〜!!」
その時、砂漠にアイルーの悲鳴が響いた。
「!?」
俺達が悲鳴の方に顔を向けると、一台の馬車と、
馬車に向かい突進をするディアブロスが目に映った。
次の瞬間、馬車を引いていた草食竜を、御者のアイルーごと吹き飛ばした。
血の尾を引きながら砂漠の焼けた砂の上に落ちる草食竜の死体。
その死骸を貪るディアブロス。
俺達はクーラードリンクを飲み干し、
俺が馬車の方へ、アヴィスはディアブロスの方へとそれぞれ駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
俺が幌の中をのぞきこむと、
夫婦らしき男女、その娘であろう少女の怯えた瞳と目があった。
「君は…ハンターかね?」
初老の男が俺に尋ねる。
「はい、安心してください。奴は俺達が始末します」
「お願いよ! 私たちはどうなってもいいわ! ただ、この子だけは…」
婦人はそう言って少女を抱きしめる。
「大丈夫です。暫くここで待っていてください。決して外に出ないで下さい」
「ウィズ!! 気を付けろ! 潜られた!」
外からアヴィスの声が届いた。
砂漠に視線を戻すと、一条の砂煙がこちらに向かってくる。
「チィッ!」
俺は舌打ちをし、銃を構え、弾を装填する。
弾は徹甲榴弾。
砂煙の先へねらいを定め引き金を引く。
弾は砂に突き刺さり、爆発する。
「ギシャァァァァァァ!!」
音と衝撃に驚いたディアブロスが、まるで蟻地獄に落ちた蟻のような姿でもがいている。
アヴィスが走り寄ってきているが、奴が抜け出す方が早いだろう。
俺は馬車と逆の方向へ走り出す。
その俺を、穴から抜け出したディアブロスが急追。
取り敢えず馬車からは遠ざけられた。
そして俺は、奴の渾身の突進を難なくかわして見せる。
どうだ! だてに毎回アヴィスの抜き打ちをかわしているわけじゃないぜ!
ってこんな事何の自慢にもなりゃしない。
むしろ悲しくなるだけだから止めよう。
そんな俺の横を、アヴィスが疾風のごとく駆け抜けていく。
しかしそれに気づいたディアブロスも、アヴィスに向かい突進。
流石のアヴィスもディアブロスとの突進勝負に勝てる見込みは無いだろう。
「ウィズ!」
アヴィスが吼える。
「分かってる!」
答える俺。
俺は再び徹甲榴弾を装填、奴の顔面に打ち込んだ。
弾丸は二本の角の中心にめり込み、炸裂。
その爆風が、片方の角を半ばからへし折った。
爆発に怯み、急停止したディアブロスの頭をアヴィスの剛剣が断ち割る。
「シャァァァァァァ!」
頭を割られてもなおアヴィスに襲いかかろうとするディアブロス。
もの凄い生命力だ。
アヴィスは、鋼鉄の鎚のようなディアブロスの尻尾を難なくかわす。
かわしながらアヴィスがその尾を切り飛ばす。
自慢の剛尾が、鈍い音を立てて地に落ちる。
そして俺の銃が再び火を噴いた。
着弾した瞬間、高圧の電流がディアブロスを襲う。
光蟲を使った雷撃弾だ。
感電し、場に崩れ落ちるディアブロスの巨躯。
横転したディアブロスの頭蓋を、アヴィスの一撃が砕いた。
そして刀身から迸った雷が脳髄を焼く。
脳を沸騰させられたディアブロスは、数度の痙攣の後、そのまま動かなくなった。
討伐が終わった後は、確か疲れと暑さのため、ろくに挨拶もしないで帰った気がする。
再び現在。
「次の日にお礼を言いに行こうと一家で宿へ向かったんですけど、もう居なくって」
「あぁ。アヴィスが暑いところは嫌いだって言って無理矢理帰らされたんだ」
「ふん、暑さは貴様の存在と同じくらい嫌いだ。砂漠には二度と行かん」
因みにアヴィスは、暑い場所と甘い物が苦手らしい。
「お二人は仲が良いんですね」
「「良いわけ無いだろ」」
俺とアヴィスの声が重なった。
「ほら、息もぴったり」
「「どうしてこんな奴と」」
再びハモる俺とアヴィス。
「喧嘩するほど仲が良いって言うじゃないですか」
そう言ってアヴィスの顔をのぞき込むオルハ。
「ふん」
アヴィスは鼻を鳴らし、そっぽを向く。
アヴィスをやりこめる人類がこの世に存在したとは…
俺だったら斬られてたな…多分。
「お、着いたな」
そうこうしている内に鍛冶屋に到着していた。
【第八章】
鍛冶屋『鬼殺し』
巨大な樫の木にそうとだけ彫られている無骨な看板。
しかし店主の腕は一流。
店名通り、鬼ですら叩き殺せそうな武器を作り出し、
鬼の一撃すら防いでくれそうな防具を作る。
俺とアヴィスの武器防具もここで制作した。
「おーい、爺さん。まだ生きてるか? うおっ!!」
そう言った俺に剥ぎ取り用のナイフが飛来。
体をひねってかわすと、顔の真横の柱に刀身の半ばまでが突き刺さった。
「死人にこんな事が出来るか?」
店の奥に目をやるとカウンターに座っている爺さんと目があった。
「こら! ジジィ、当たったらどうするんだ!」
「ふん。アヴィスの一撃を毎日のようにかわしているお前さんにこんなもんが当たるかよ」
微妙な信頼だな…ってかこんな事で信頼を受けたくないもんだ…
「で、今日は何だ? 今日も銃の違法改造か?」
「違法って言うな。ちょっとギルドの規則を無視するだけだ」
「おや? そっちのお嬢ちゃんはどちらさんだ?」
俺の減らず口を無視してオルハに目を向ける。
「オルハだ。今日はこいつの鎧を修復してもらいに来た」
そうして事の経緯を説明した。
「ほう…どれどれ」
そう言ってカウンターから降り、鎧のへこみを確認する。
「うーん、こいつは…」
「これぐらいなら直せるだろ?」
「ウィズ、貴様がまともな人間として生きるのが無理なようにな、
人にはそれぞれ限界があり、出来ないこともあるんだぞ?」
爺さんの反応を見たアヴィスが俺に諭してくる。
喩えが腹立たしいが、取り敢えず無視。
と言うより俺ってそんなに人間失格か?
「誰が出来ないと言った。通常弾でレイアレジストをここまで
へこませる自分の改造に感動していただけだ」
そんなことに感動するなよ… 間違った職人魂全開だな。
「爺、私が以前置いていった素材がまだ残っているな?」
無駄なやり取りにあきたアヴィスが爺さんに問う。
「おう、まだかなり残っていたな。あれだけあれば十分足りるだろうよ」
もう一度へこんだ箇所を確認しながら爺さんが言う。
「どれぐらいかかりそうだ?」
「半日もあれば十分だろう。明日の朝一に取りに来い」
オルハの鎧をはずしながら爺さんが言う。
「それまではこれを着とけ」
爺さんは、そう言ってオルハにランポスレジストをわたした。
オルハが鎧を着けた後、俺達は店を後にした。
「金はもう払ってきたからな、後は明日の朝とりに行くだけだ。
今日は悪かったな、じゃあ俺達はこれで」
オルハに背を向けかけたところで左手を掴まれた。
「鎧は直して貰いましたけど、私に怪我させた分がまだ残ってますよ」
「え゛っ」
振り向くとオルハの笑顔。
「いや、俺達そんなにお金は持ってないんだけど…」
「お金なんていりませんよ」
ニヤニヤしながら言うオルハ。
何だか嫌な予感がする。
「ウィズさん、私を弟子にしてください!!」
やっぱりそう来たか…
「………もしかして……本気で言ってる?」
取り敢えず意思確認をする俺。
「本気ですよ!」
目を輝かせながら言い切るオルハ。
アヴィスに助けを求め、視線を送るが、ニヤニヤ笑っているだけで完全に俺を無視。
明らかにこの状況を楽しんでいる模様。
やばい、味方がいない…
「あれ、もしかして嫌ですか?」
演技過剰なぐらい悲しそうな顔をするオルハ。
この状況で断れるわけがないだろ…
「明日の朝、鎧を受け取ったらギルドにこい」
「え、じゃあ…」
「ああ、色々教えてやる…」
「やったー!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶオルハ。
あぁ、何だか先が思いやられそうだ…
【第九章】
翌日、ギルドにて。
「あ、ウィズさん! もう来てたんですか!!」
声のほうを振り向くと、オルハの笑顔が見えた。
俺を確認したオルハが手を振りながら走り寄ってきた。
途中、食材を抱え、厨房に向かうアイルーにぶつかりそうになったが、何とか回避。
「お、来たな。鎧はどうだった?」
俺が尋ねると、オルハが大げさな身振りでへこんでいた脇腹の部分を見せてきた。
「じゃーん! 元通りでーす!!たった半日で直しちゃうなんて、あのお爺さん凄い人ですね! 」
確かにそこは、半日前までへこんでいたことが分からない程に修復されていた。
さすがは爺さん、干物になりかけてても腕は衰えていないようだな。
「そりゃ良かった。だがなオルハ、いちいち『!』を付けてしゃべるな。
朝っぱらからそのテンションで来られると俺の身が持たない。」
俺はため息混じりにそう言った。
「あ、分かりました。 あれ、そう言えばアヴィスさんは?」
そう言ってオルハはギルドの中をきょろきょろ見回す。
「アヴィスは先にトレーニングルームに行ってるよ」
「?? 先にって、もしかして私たちも行くんですか?」
「もしかしなくても行くんだよ。お前がどれぐらいの腕か見ておかないとな」
そして俺は飲みかけの珈琲を一息に飲み干し、立ち上がる。
狩りに行くのだとばかり思っていたオルハの不満顔を無視してトレーニングルームへと足を運ぶ。
トレーニングルームというのはその名の通り、ハンター達がそれぞれ訓練をするための施設だ。
どうやらアヴィスは狩りに行かないときは殆どここでトレーニングをしているらしい。
中に入ると、アヴィスの後ろ姿が目に入った。
「この如何にも貧乏くさい気配はウィズか?」
そう言ってこちらを振り向くアヴィス。
「じゃあそこの人から獣へと退化しかけているような、見るも無惨な後ろ姿はアヴィスか?」
俺がそう言うと、振り向きかけていたアヴィスから、
右の後ろ回し蹴りが飛んできた。
体を沈めて難なくかわす俺。
あれ? 今日はやけに軽いな。
トレーニングで疲れてんのか?
そんなことを考が頭をよぎるが、何だか違和感を感じる。
いや、疲れてるとかそんなことで突っ込みの手を抜くアヴィスじゃない。
この回し蹴りは囮だ!!
そう気づいたときには、アヴィスの太刀が振り下ろされていた。
やばい、これは間に合わない!
とっさに腰の剥ぎ取り用ナイフを、左手を峰に添えて構え、アヴィスの太刀を受け流す。
ギチィ!!
金属と金属のぶつかる刺激音と、飛び散る火花。
「ほう、これが捌けるぐらいにはなっていたか」
「ば、お、お前、今本当に斬ろうとしただろ!?」
刀を退くアヴィスと、腰を抜かしかけてへたり込む俺。
「すげぇ、あれがアヴィスとウィズのコンビか」
「毎日あんな事してんのかな?」
「俺だったら回し蹴りの時点でやられてたな…」
俺達のやり取りを見ていた周囲から、色々な声が聞こえてくる。
いや、こんな事 誉められても嬉しくないんだけどね…
「これもトレーニングの内だ。飛竜共は貴様の泣き言なんて聞いてくれんぞ」
「いや、いくら何でも相棒を本気で斬ろうとするなよ…」
立ち上がりながら、無駄とは分かりつつも、そう言ってみる。
「安心しろ、今日は刀身の錆止めに、ココット椰子から採った天然油を使っている。
環境に優しい切れ味だから心おきなく斬殺されろ」
「環境の前に俺に優しくしてくれよ…」
俺の呟きは周囲の雑音に掻き消され、誰の耳に入ることもなかった。
オルハの方を見ると、ポカンと口を開けながらアヴィスの刀を見ていた。
「お〜い、オルハ。どうしたんだ〜」
俺が目の先で手をひらひらさせると、はっと気がついたオルハが叫んだ。
「すっごーい!! あの体勢であれを受け流すなんて!!」
「いや、アヴィスが本気だったらナイフごと真っ二つだったよ」
「あれで本気じゃないんですか!!」
更に驚きアヴィスに向かってにじり寄るオルハ。
しかしアヴィスは黙して語らず。
「3割ぐらいってところだろうな」
そんなアヴィスの代わりに俺が答える。
「こいつが本気になったら鉄柱だって真っ二つだぜ?」
「余計なことを喋るな」
アヴィスが口を開いたときには時既に遅し。
「すっごーい!! ねえアヴィスさん、見せてくださいよ!!」
オルハがアヴィスにすがりつく。
「噂に名高いアヴィスの斬鉄か、俺も見てみたいな」
「いや、流石に鉄は切れないだろ」
周囲からも様々な声が上がり初め、後には引けない雰囲気が出来上がってしまいつつある。
「斬鉄鬼アヴィスが斬鉄出来なければ詐欺だもんな〜」
俺がアヴィスに向かって言ってやる。
『斬鉄鬼』がアヴィスの通り名だ。
由来は上の会話を参照。
そして俺が『百識』
俺の使う様々なオリジナル弾(8割が違法)がその由来らしい。
「貴様…」
アヴィスが俺を睨みつけてくる。
もともとアヴィスはこういう見せ物まがいに腕を振るう事を嫌う。
しかし 誰が用意したのか、既に直径30p程の鉄柱が用意されていた。
ここまで来ては後に引けない。
アヴィスは不服そうな顔つきながらも鉄柱の前へと進み出る。
そして鬼斬破を肩に担ぎ上げ、構える。
「ぬうっ!!」
咆吼と共に一閃。
ギザァ
「おおっ!!」
周囲から感嘆の声が上がる。
鉄柱は見事に真っ二つにされていた。
「ふん」
つまらなそうに鼻を鳴らし、刀を納めるアヴィス。
やっぱ化け物だな、こいつ…
あんまり怒らせるの止めようかな…
俺にそう思わせるほど凄絶な一太刀だった。
切り口は楕円形を保っている。
つまり、威力で叩ききったのではなく、切れ味で文字通り切ったのだ。
鉄柱を叩き折れるハンマ−使いはいても、こうも見事に真っ二つに出来る大剣使いはアヴィスの他にいないだろう。
アヴィスは轟雷斬術という東国の剣術を納めているらしい。
俺もよくは知らないが、雷の如き斬撃で、全てを両断する他に類を見ない剛剣術との事だ。
何でも、入門して直ぐに、滝に打たれ、先ずは脳の制御を解除する術を体得するらしい。
そもそも、アヴィスの脳に制御装置が付いていたか自体が不明だが。
先程鉄柱を両断したのは、初伝の『神鳴』〈かみなり〉。
俺が見たことがあるのは、この『神鳴』と、中伝の『降御雷』〈ふるみかずち〉だけだ。
大抵の飛竜は普通の斬撃で片がついてしまうのだ。
初伝ですら鉄をも断つ威力なのだから、中伝以降の技の威力は尋常ではない。
「さてと、一段落したみたいだし射撃場に行くかな」
そう言ってオルハをつれて射撃場へと向かう。
結局あの場所に居づらくなったアヴィスも、仏頂面で後からついてきた。
【第十章】
「さて、ガンナーにとって必要なものは?」
「必要なもの?」
俺の問いに首を傾げるオルハ。
そのオルハに向かって俺は続ける。
「弾を選択するセンス、洞察力、空間認識力、標的の弱点などの知識」
「へぇー」
分かっているのかいないのかは分からない返事をするオルハ。
「そして」
「そして?」
俺はアヴィスの方を見ながらいう。
「盾代わりになる前衛役」
飛んできた白刃を頭を引っ込めてかわす。
たった今まで俺の首があった所を刃が通過する。
「貴様は先程から… そんなにこの世とお別れしたいか?」
「もう一つあった。相手の攻撃を喰らわない回避力、コレ大事ね」
「おー」
俺の見事な回避に感心するオルハ。
だてに何年もこいつの相棒をしているわけじゃない。
嫌でも避けるのが上手くなる訳だ。
「と、まあ講義はこの辺にして、実技に言ってみるか」
「はーい!!」
元気な返事をして、オルハは背中の愛銃を手にする。
オルハの銃はヴァルキリーフレイムだ。
鎧と同じ、雌火竜リオレイアの素材を使ったライトボウガンである。
どうやら鎧と一緒に新調したらしく、傷らしい傷もなく綺麗なものだ。
「じゃあ取り敢えず撃ってみてよ」
「はーい!!」
先程と同様、大変元気の宜しいお返事で。
しかし銃を構えたとたんオルハの雰囲気が一変した。
「ほぅ…」
アヴィスが感嘆の声を漏らすほどの、空気が張りつめるような緊張感を放つ。
的は10M程離れている土壁に、ランポスをかたどった木製のギルド特製の的が張り付けてある。
(因みにギルドマスターの手作り。一枚8zで有料)
そして六連の銃声が響き、的の頭部が正確に砕かれる。
そして一瞬で六発の弾をリロード。
更に六連射、新たに六枚の的が砕かれる。
「ふぅ」
打ち終わったオルハが嘆息する。
「どうですか?」
銃を背に戻しながらオルハが尋ねる。
「60点だ」
俺の代わりにアヴィスが答える。
「え〜、厳しすぎですよぉ」
頬を膨らませながらオルハが言う。
「その程度ならまだまだ一般人だ」
厳しいようだがまぁそんなところだろう。
以外とまともなアヴィスの意見にちょっと驚く。
「じゃあ一般人の域を超えるにはどうすれば良いんですか?」
オルハの当然の疑問。
アヴィスは不適な笑みを浮かべながら、俺に六発の貫通弾を投げてよこした。
意味が分からず顔をしかめるオルハ。
無言で弾を受け取り装填する俺。
「何をするんですか?」
「見ていろ」
俺にはアヴィスのやらせようとしていることが理解できた。
俺はスコープを覗き、狙いを定める。
「………」
沈黙を破る六発の銃声。
「えっ?」
俺が撃ち終わると同時に、オルハが驚きの声を上げる。
俺の狙っていた的には穴が一つあいているだけだった。
貫通弾なので、的は砕けることはない。
しかし当たっているならば穴が六個あいているはずだ。
「一発しか当たって無いじゃないですか!!」
もっともな意見。
「的の裏を見ておいでよ」
納得のいかない様子のオルハに俺が言ってやる。
不承不承といった感じでオルハが的の方へ向かう。
「えーーーーー!!」
的の裏側に引っ込んだオルハが奇声を上げ、こちらへ駆け戻ってくる。
「ウ、ウィズさん、弾、穴、一つ、う、嘘ーーー!!」
何を言っているか分からないぐらい興奮しているオルハ。
「確かに一発しか的には当たってないけどね」
俺がやって見せたのはワンホールショット。
初弾が開けた穴に残りの五発を通して見せたのだ。
壁には同じ所に六発の弾が埋まってただろうね。
「どうだ? お前にも出来そうか?」
アヴィスが意地悪くオルハに問う。
「うぅ… アヴィスさんって意地悪ですね…」
「意地が悪くなければ一流にはなれん」
アヴィスに軽くあしらわれるオルハ。
まるで飼い主にじゃれつく子犬みたいだな。
あぁ、珍しく平和な光景だ。
オルハがいれば俺へのちょっかいも減るだろうし。
不覚にも和んでいた俺の視界に何かがきらめいた。
んっ? 何か銀色の物が飛んでくるな?
何だろう、あれ? ナイフ?……
「うおっ!!」
「おー」
紙一重で、飛来してきたナイフをかわす俺にオルハが感嘆の声を上げた。
「こらオルハ!! 何するんだ!!」
「だってアヴィスさんが『ウィズが向こうの世界に行ってしまったから呼び戻してやれ』って…」
「ア〜ヴィ〜ス〜く〜ん」
「さて、オルハの腕試しはこれで良いだろ。時間もある、狩りに行くぞ」
俺が睨みつけるのを軽く無視して言いやがった。
前言撤回。アヴィスの手駒、要するに危険因子が増えただけだ。
「アヴィスさんとウィズさんですね?」
狩りに行こうと受付へ行くと、唐突にそう聞かれた。
「そうだが?」
アヴィスが答える。
「お二人を御指名の依頼が入っております」
そう言って依頼書をわたされる。
名指しでの依頼なんて珍しいな。
受付嬢のアリシアが、二通の依頼書を取り出し、俺達に渡した。
受け取った俺とアヴィスが封を開き依頼書を取り出す。
『君の腕を見込んでの頼みがある。
もしこの依頼を受ける気があるなら、王城区への門の前まで来い。
衛兵に言えば私の所へ通すように言ってあるからな。
本人が居るなら仲間と一緒でも構わない。
依頼内容はここでは書けないが、退屈させないことだけは確かだぜ。
ヴァーレンハイト 』
そうとだけ書いてある簡素な依頼書。
報酬金額も依頼内容も書いていない辺りが如何にも怪しい。
しかし一番最後に署名されている名前を見た瞬間俺は目を見開いた。
「ヴァーレンハイトって…」
「確か王様もそんな名前ですよね」
俺とオルハが顔を見合わせる。
間違いない。王様直々の依頼である。
「王直々の指名とはな。面白い、受けて損はないだろう」
「お前、こんな胡散臭い依頼受ける気かよ!」
アヴィスの即断に思わず叫ぶ俺。
「嫌なら貴様は受けなければいいだろう。私は面白そうな話を逃す気はない」
そう言うとアヴィスは俺に背を向けさっさと歩き出す。
「えーと、面白そうだから私も行こっと」
ぱたぱたとアヴィスについていくオルハ。
一人その場に取り残される俺。
「……分かったよ、俺も行くって!」
結局こうなるのはいつものことだ。
【第十一章】
「えーと、俺はウィズ、こっちの…」
「王に呼ばれた。道をあけろ」
俺の言葉を遮ってアヴィスが言う。
相も変わらずど真ん中にストレートな言い方で。
流石に衛兵もたじろぐ。
「えっ、あ、はい。お話は伺っております。お通り下さい」
そして門の中で待機していた別の兵士に導かれ、俺達三人は城内の一室に通された。
部屋の中央には円卓が置かれており、室内には既に七人の人間がいた。
「なっ…」
俺はその面々を見て驚愕した。
その殆どがハンターランク30近くか、30に到達している者達ばかりだった。
俺達から見て左側の窓の側の椅子に座っているのは鎧の上から黒いローブを纏っている男。
その横には大鎌が立てかけてある。
黒いローブに猛毒の大鎌『鎌威太刀』。
『黒衣の死神』 ゼルゼノン だ。
ハンターランクは30。
常に一人で行動し、二匹のディアブロスを一人で討伐した話は有名だ。
扉の直ぐ右の角に立っているのは金と銀の双剣 『ゲキリュウノツガイ』を携えた男。
『剣舞王』 ラブレスだろう。
ハンターランクは27。
もとはランサーだったが、数年前 双剣に武器を変えてからその才覚を顕わにした男だ。
ゼルゼノンの正面には、自分のハンマーの上に座っている男がいる。
ハンマーは『パルセイト・コア』
このハンマーを所持している奴は、俺の知る限り『破神槌』 ボルドレフただ一人だ。
ハンターランクは29。
ボルドレフの隣に立っているのは、白槍『ホワイトディザスター』を背負った男。
ボルドレフの相棒『貫き手』 アルベルドだろう。
ハンターランクは28。
この2人も有名なコンビだ。
最近も、百頭を越えるランポスの群を、数十分で、それも無傷で駆逐しつくしたという。
そして部屋の一番右奥の角で椅子に座っている老人は、ガンナーなら誰でも知っているだろう。
齢60を越えて今なお現役のハンター。
東洋系の顔立ちに、既に真っ白の髪は伸び放題と言った感じだ。
そして両目を一直線に走る凄絶な傷跡。
盲銃士、『心眼』のアオバだ。
ハンターランクは堂々の30
東の大陸出身の銃士で、若い頃レウスの尾でその目を潰されたが、
その後の血のにじむような修練により、遂に心眼の境地を開いた。
アオバの心眼には、相手の姿はおろか、その心理状態すらも映し出すという。
そして部屋の中央に居る二人についてはよく分からない。
二人とも道化師のような格好をし、顔にピエロのようなペイントを施している。
一方が青い衣装で、もう一方が赤い衣装。
武器らしい武器も持っていない。
片方はさっきから、見えない壁に両手をついたような格好のままピクリとも動かない。
パントマイムと言うやつだろうか。
もう一人は五つのナイフを交互に投げ、ジャグリングをしている。
どちらも街角の大道芸人の姿であり、この部屋に居るのが何とも異様だ。
「そうそうたる顔ぶれだな」
俺の右隣に立っているアヴィスが呟いた。
その声で俺ははっと我に返った。
アヴィスが言うと俺達の後ろから聞き覚えのある声がした。
「何だ? 最近は良く会うなぁ」
やって来たのはアントニーだった。
「それにしても凄い顔ぶれだな、ここいらの上位ハンター達が勢揃いか」
アントニーも室内の顔ぶれに気がついたようだ。
そして俺達が空いていた椅子に座ったとき、扉の向こう側からドスドスという足音が聞こえてきた。
扉の前で足音が止まり、勢いよく扉が開かれた。
「よう、待たせちまったなぁ。こう見えても色々と忙しくてな」
やって来たのは緋色の髪に緋色の瞳の大男。
全身が麻袋にぎゅうぎゅうに岩を詰め込んだような筋肉で覆われている。
身長はそう高くないが肉の量は、頭一つ分大きいアントニーと同等といったところだ。
例えるなら大岩を粗く削っただけのような体。
現国王『緋色の狼』ヴァーレンハイトその人だ。
「おいおい、お前等そんな隅っこに居るんじゃねぇ。こっちに来いよ」
そう言って部屋の中央の円卓に腰掛けみんなを呼び寄せる。
言われたとおりに全員が円卓につく。
「お前等よく集まってくれたな、礼を言うぜ」
にこにことしながら言うヴァーレンハイト。
「で、俺達に何をしろって言うんだ?」
まず口を開いたのは双剣使いのラブレスだった。
仮にも王の前だというのに畏まる素振りすら見せない。
「おう、そうだな。だが まぁ 待てよ、せっかく集まったんだ、自己紹介ぐらいしようぜ?」
ラブレスの無礼を気にもとめない方も方だが。
「おいらのことは全員知ってるだろうな、ヴァーレンハイトだ。いわゆる王様だ」
先ずはヴァーレンハイトが自己紹介をする。
続いたのはラブレスだった。
「俺はラブレスだ。宜しくな」
「ゼルゼノン…」
ラブレスの隣に座っていたゼルゼノンが呟く。
黒衣の中から気味の悪い髑髏のような兜の面が覗いた。
「アルベルドだよ〜」
顔つきにまだ幼さを残す槍使い、アルベルドが続く。
「そしてこっちの無愛想がボルドレフ。宜しくね〜」
相棒のアルベルドに紹介されたボルドレフが軽く頭を下げる。
「アントニーだ。宜しく頼むぜ」
俺達の隣にいたアントニーが言う。
「アヴィスだ」
「ウィズです」
「あ、えっと、オルハと言います」
俺達三人が自己紹介をする。
「『道化師』のセルル・ロロンで御座います」
「同じく『奇術師』セルル・ラランで御座います」
よく分からない二人が、恭しく挨拶をする。
「アオバと申す」
最後の一人、アオバが挨拶を終える。
「まぁ一通り終わったな」
ヴァーレンハイトが手を揉みながら続ける。
「よし、じゃあ問題の依頼内容を話すぜ?」
ヴァーレンハイトが話し始める。
「最近よぉ、領内に変異種の飛竜が複数現れたらしいんだよ」
まるで他人事のような言い方だ。
「おい、そこの冴えない兄ちゃん、フルフルって何色だ?」
ヴァーレンハイトが俺に問う。
ん? 今冴えない兄ちゃんって言ったか?
隣でアヴィスが笑いを堪えている。
俺ってそんな風に見られてたのか?
軽く鬱になってきたが取り敢えず問いに答える。
「白でしょうね」
「だろ? それが 違うんだよ」
ヴァーレンハイトが続ける。
「赤いフルフル、翠いガノトトス、黒いディアブロスに紫のゲリョス、青いイャンクック、
おまけに蒼いレウスと桜色のレイアのつがいときたもんだ。
報告があるだけでもこれだけの色違いの飛竜が現れてるらしいんだよ」
「ほぅ…」
俺の隣でアヴィスが声を漏らす。
確かにそんな色の飛竜は今までに見たことがない。
「そんでよ、おいらも気になって城の兵を向かわせてみたんだがな…」
そこまで言って再び言葉を切るヴァーレンハイト。
「どうだったんだ?」
すかさず問いかけるラブレス。
「いやよ、それが誰も帰ってこねぇんだ」
「………」
場に重い空気が流れる。
「そこでお前さん達の出番ってわけだ」
全員の顔を見回すヴァーレンハイト。
「やり方はどうでもいい。全員で行こうが、手を組んで気の合う奴同士で行こうがかまわねぇ。
この7匹を狩ってくれねぇか?」
「そう言うことか」
アントニーが言う。その顔が見るからに浮き浮きしているといった感じだ。
見たこともない飛竜の話を聞いて興奮しているんだろう。
「俺達は勝手にやらせて貰う」
ボルドレフが言う。
「付け焼き刃の連携など糞みたいなもんじゃからな、各々勝手にやるのが一番じゃろ」
アオバが言う。
「俺、ハンマーと槍の兄ちゃん達、大鎌の人、爺さん、ピエロの二人、
そしてそこの冴えない兄ちゃん達、丁度六組いるわけだからさ
一組が一匹で良いんじゃないか?」
ラブレスの提案。俺を冴えないと言ったこと以外はまぁ妥当な意見だろう。
「おい、今何と言った?」
アヴィスがラブレスを睨みつける。
「冴えない兄ちゃん達だと? 貴様…私とこの銃のおまけを一緒にしたな?」
ああ、嫌な予感…
っていうか怒るポイントがずれてると思うのは俺だけ?
「何か文句有るか? ア・ヴィ・ス君?」
わ、わ、馬鹿野郎、これ以上アヴィスを煽るなよ。
「なぁ、アヴィスさん、まさかいきなり斬りつけ…」
俺が話し終える前にアヴィスが跳躍、真正面に座っていたラブレスに斬りかかる。
後ろに飛び斬撃をかわすラブレス。
円卓を真っ二つにしたアヴィスが更に追撃する。
周りの奴等は止めようともしない。突然の余興劇を楽しんでいるようだ。
アヴィスの横薙をかわし、懐に潜りこむラブレス。
既に両手に抜き払った双剣を携えている。
さすがは高名な双剣使いだ。動きが風のように軽く速い。
ただ、相手が悪かった。
後一歩で間合いに入るというところで、ラブレスの顔面に金属光が走る。
「なっ!」
横に転がりかわすラブレス。
先程アヴィスが俺に向かってオルハに投げさせた物と同様の手投げナイフを投擲したのだ。
「死ね」
アヴィスがそう言い放つ。
体勢を崩したラブレスの頭上に迫る白刃。
しかしその時、突然現れた白い布がラブレスを覆った。
突如出現したその布ごと、アヴィスの太刀がラブレスを両断した。
「ば、馬鹿かお前!? 俺と一緒にされたぐらいで人を殺すな!」
しかしアヴィスはどうにも怪訝そうな顔をしている。
「妙だ…手応えがない」
「は?」
俺がどこからとも無く現れたその布をめくると、中から無数の白い鳩が羽ばたいた。
「皆様」
「仲間割れは」
「やめた方が」
「宜しいのではないかと」
「思ったり」
「思わなかったり」
声の方を向くと、道化師と奇術師を名乗った二人の足下にラブレスが座り込んでいた。
「へぇ、凄いなぁ、どうやったんだろう?」
アルベルドが無邪気に笑いながら手を叩いている。
「ふん…」
アヴィスは興醒めだと言うように鼻を鳴らし、刀を納める。
何がどうなったのかはまるで分からないが、
あの二人がただ者ではないことだけは理解できた。
「で、誰が何を狩るんじゃ?」
まるで何事もなかったかのようなアオバの言葉。
「ディアブロスは頂こう…」
ゼルゼノンが言う。
「じゃあ僕達はフルフルがいいな〜」
アルベルドが続く。
「それならワシがガノトトスを」
更にアオバ。
「じゃあ人数の多い俺達が夫婦に行くぜ」
アントニーも言う。
ん、待てよ。
「おい、俺達ってどういうことだ? お前と俺達は関係ないだろ?」
しかしアントニーは気にもとめない様子。
「俺とお前の仲だろ? 堅いこと言うなよ」
まあ良いか、今回は相手が相手だし。
中年筋肉馬鹿でもいないよりはましだろう。
「中途半端な ひよっこ にはクック程度がお似合いだろう」
アヴィスが嘲るようにラブレスに言った。
「くっ…」
悔しそうに拳を握るラブレス。
「それでは」
「私たちが」
「ゲリョスを」
「引き受けましょう」
先程と同様、二人が互い違いに喋る。
何だか聞いていて妙な感じだ。
「話はまとまったか?それじゃあここに、それぞれの飛竜の目撃場所なんかをまとめた物がある。
担当の飛竜のを持ってってくれ」
ヴァーレンハイトがそう言うと、ゼルゼノンが書類を受け取り、部屋を後にした。
それにガルガント、アオバ、ラブレスが続いた。
最後にアヴィスが書類を受け取る。
そのアヴィスにヴァーレンハイトが囁く。
「お前さんやるねぇ、気に入ったよ。初対面の男をいきなり斬殺しようって所が粋だね。
やっぱり男はこうでなきゃいかんな」
「ふん、害虫の駆除もハンターの仕事だ」
アヴィスが答えるとヴァーレンハイトは太い笑みを浮かべ、書類を手渡した。
こいつもアヴィスの同類か…
そもそも粋って言葉の意味からして間違ってるし。
男がみんなアヴィスみたいだったら多分人類はとっくの昔に滅んでただろうよ…
アントニーといいオルハといい、類は友を呼ぶって奴か?
いや、でもそうすると俺も同じ類の中に入ってるって事になるからこの考え方は止めておこう。
そんなこんなで、取り敢えず俺達四人はギルドに戻ることにしたのだった。
【第十二章】
ギルドに戻ると、そこにはさっき王城で一緒だったハンターが何人かいた。
アルベルドとボルドレフ、そしてゼルゼノンだ。
「あ! ボル、もう一組 お城にいた人達が来たよ〜」
俺達が席に座ると、こちらに気づいたアルベルドが、
相棒のボルドレフの脇腹をつんつんと突っきながら言った。
はぁ、何か元気な奴だな…
見てるだけで疲れてきそうだ。
「ねえ、ねえ。君たちはどこ行くの?」
ボルドレフに無視されたアルベルドは、俺達のテーブルに歩み寄ってきた。
「沼地だよ」
アントニーが答えた。
ここへ来る途中に、受け取った書類は読み終わっている。
蒼と桜のつがいは沼地に現れたとのことだった。
国王の送った兵は25人。
通常種のつがいなら問題なく討伐出来るだけの兵力である。
しかしそれがだれ一人戻らなかった。
一週間が過ぎ、斥候を視察に向かわせたところ、その斥候までが戻らなかった。
恐らくその斥候も死んだのだろう。
「えっ! 君たちも沼地に行くんだ! 僕達も沼地に行くんだ〜」
アルベルドはテーブルの周りを跳ねながら嬉しそうに言う。
「少し黙れ」
アヴィスが言った。
これぞアヴィスの必殺技の一つ、名付けて『人間関係クラッシュ』
並の人間は、この時点でアヴィスにコンタクトを取ることを諦める。
しかしアルベルドは、この程度ではたじろがなかった。
天性の人なつっこさを持っているらしい。
「あ、ごめんね。うるさかった? ボルにもいつも言われるんだよね〜
これでも気を付けようとは思ってるんだよ?
でも これは生まれつきってやつみたいでさ、どうにも直らないんだな〜」
「聞こえなかったのか?」
短気なアヴィスが、鬼斬破の柄を握った。
それを見ても、アルベルドは怯むことなくしゃべり続けている。
「あ、そうそう。お城で双剣の人と喧嘩したときは凄かったね!
ピエロの人がいなかったらほんとに切っちゃってたでしょ!?
でもダメだよ? 嫌な人とも仲良くしなきゃ。お友達がいなくなっちゃうよ?」
そう言いながら、空いているアヴィスの隣の席に腰を下ろした。
アヴィスも流石に何を言っても無駄だと悟ったらしい。
「ふん」と鼻を鳴らしただけで、アルベルドが隣に座るのを許した。
「よかった〜 話し相手がいないんじゃないかって心配だったんだ。
ボルはいつも僕が話しかけても相手にしてくれないし、
沼地に着く前に、暇すぎて死んじゃうんじゃないかと思ってたよ」
そう言ってけたけたと笑っている。
「なぁ、どういう経緯でお前さん達はコンビを組んでるんだ?」
アントニーが聞いた。
確かに。
無口で無愛想なボルドレフと、愛嬌たっぷりで、お喋り大好きなアルベルド。
どこからどう見ても、間違った組み合わせに見える。
「あ、それね。みんなに聞かれるんだけどね〜
僕達幼なじみなんだ〜 ちっちゃい頃から二人で遊んでたんだよ。
それでね、ボルがハンターになるって言ったから、僕も村からくっついてきたの。
それと、ボルってね、無口だけど、ほんとはとっても優しいんだよ?
なんて言うのかな〜 口下手ってやつかな?
あ、そう言えばこんな事があったっけ。この前砂漠に行ったときにね…」
「待った、分かった、もういい」
このままでは永遠に話し続けかねないと危惧した俺が話を中断させる。
「え〜 待ってよ、この話だけさせてよ〜」
ふくれっ面で抗議してくるアルベルド。
取り敢えず全面的に無視する。
「で、いつ出発する?」
俺が本来の議題に路線を修正する。
「僕達は明後日だよ〜」
「そうだなぁ。薬や道具も揃えにゃならんからな」
「ああ。俺とオルハには弾も必要だしな」
「私はいつでも構わない。貴様等で勝手に決めてくれ」
「あ、私はバレルとか変えたいんですけど」
「ねえ、ねえ。だから僕達は明後日に行くんだけどな〜」
場の全員に無視され、それでも尚、食い下がるアルベルド。
「そうだなぁ。今回は相手が相手だから防具の点検も必要だろうに。
そうなると、明後日か明々後日といったところになるか」
「ねえ、だから僕達は明後日に…」
「あ、アントニーさん。カラ骨持ってませんか? もし余ってたら分けて欲しいんですけど」
「おう。構わねぇぜ。明日辺り取りに来い。好きなだけ持って行けや」
「わーい。有り難うございます!!」
「ねえ… もしかしてみんなで僕のこと無視してる?」
ようやく自分の置かれている状況を理解したアルベルドが呟いた。
「いんや。誰も返事をしないだけだい」
アントニーが諭すように言った。
「それを世間では無視してるって言うんじゃないの?」
「そう見方も出来るかもしれねぇなぁ」
「ぶぅ〜」
アルベルドが頬を膨らませながら、テーブルに突っ伏した。
「茶番は終わりだ。私達も明後日というのが妥当だろう。
この中に準備に二日も三日も時間がかかる様な三流はいないと思うが?」
そろそろ退屈になってきたアヴィスが言った。
「明後日。まあ、妥当な線だろうぜ」
アントニーの一言で出発日が決まった。
「え、明後日になったの? 」
無視され続け、テーブルにへばり付いていたアルベルドが急に元気になる。
「よかった〜 よ〜し、じゃあ今度はゼルゼノンさんの所に行ってこよ〜っと!!」
今度は一人で酒を飲んでいたゼルゼノンに白羽の矢がたった。
勢いよく立ち上がったアルベルドは、テコテコとゼルゼノンへと駆け寄っていった。
取り敢えず、俺達はそこで一時解散し、個々で必要なものを揃えに行くことにした。
明後日の朝、沼地へ向かう馬車の乗り場に集合することにして。
その後、俺はオルハと買い物に行くことになった。
「ええと、貫通弾と、徹甲榴弾と、拡散弾と、あ、あと散弾も」
「あ、そこの回復弾と毒弾と鬼人弾も下さい。あとついでに毒消し弾も」
「回復薬と、閃光玉と… あ、生命の粉塵ある?」
「おばちゃん生肉切っといて下さい」
「あ、あとついでに………」
結局小一時間ほど買い物をした後俺とオルハは帰路についた。
「あぁ… また俺の貴重な財産が飛んで行った…」
「ほんと、ガンナーってお金かかりますよね」
「お前のも俺が払ってやったからだろうが!! 大体財布忘れたってなんだ!?
今時小学生でもやらんわ!!」
オルハに向かい叫ぶ俺。
金を払うときになって、オルハが財布がないと言い出したのだった。
オルハに泣き付かれ、結局俺が払うことになったのだ。
しかしそんな俺にオルハはしらっと言いやがった。
「だって嘘ですもん。財布忘れるほど私は馬鹿じゃないですよ?」
そう言いながら、可愛いブタさんの財布をとりだした。
膨らみ方からして、俺よりよっぽど持っている。
一瞬目の前が真っ白になった。
「返せ!! 今すぐ返せ!!!」
「あ痛たたた… 何だか急に脇腹が痛くなってきた…」
わざとらしく脇腹を押さえるオルハ。
「あの。俺が撃ったのそっち側じゃないんですけど…」
「………」
俺が言うとオルハは、脇腹に添えていた手を、無言でゆっくり逆側に移動させた。
「もういいです…」
俺は心の底から泣きたくなったのだった。
オルハと別れた俺は、自宅に戻り、特殊な弾の調合を始める事にした。
翌日も弾の調合に勤め、最後に防具と愛銃を点検し、床についたのだった。
しかしこの時 俺は、いや、俺以外の誰もが、蒼桜のつがいをなめてかかっていた。
色が違うだけで能力がそれ程までに変わるはずがないと。
それが大きな間違いであることを知る術はなかった。