レウス討伐外伝
ぬかみそ様作
【第一話 外伝小説】
それはずっと前の、けれど伝説と呼ぶには新し過ぎるお話。
「なんで一人でG級グラなんぞ狩ろうと思ってしまったかな・・・」
狩り自体は成功したものの、完璧に赤字になってしまった。
(失敗したなぁ)
狩りを終え、今にも睡魔に負けそうになりながらもお金のため、
もとい困っている人々の為酒場に顔を出しては何か目ぼしいクエはないかと探す。
途中、変な奴等が喧嘩していたが、そんなモノは無視。
「ん?」
(雄火竜討伐か)
「ついて行く気?」
そう話掛けてきたのは顔なじみの酒場の店員であるナツキだった。
「お金ないからそれもいいかな」
「また金欠なの?けど今回は見送ったほうが良いと思うわ」
「何でさ?」
ナツキは私の問いに答えず視線を豪快に麦酒を飲み干す少女へと向けた。
「・・・なるほど」
雄火竜を狩ろうと言うのだからそれほど弱くはないのであろうが、
「HRが大分違うね」
「そう。確かに貴女がついていればレウスを狩るなんて造作もないでしょうね。けど、」
「あの娘の為にならない、でしょ?」
私がそう言うと彼女は満足気に頷いた。
「そんな貴女にぴったりのクエがあるんだけど?」
「遠慮しておくよ」即座に返答する。
私の命を何度となく救ってきたカンが全力で言うのだ。
危険だ、逃げろ、と。
「ジャングルの4がイノシシでいっぱいなの。狩ってきて」
それはお願いである筈なのに私には命令にしか聞こえなかった。
こうして私はこの時まだ彼女達の仲間にならなかったんだ。
ん?、まだってどういう意味かって?
ふふ、それは私も後に仲間になるからさ。
けど、それはまだまだ先のお話さ。
「うう、、ぶ、ブルファンゴ何か嫌いだぁっ!」
私は麦酒と料理が運ばれてくる僅かな間に悲鳴と愚痴を合わせた大声で叫ぶ。
だが大声といってもすぐに酒場では他の騒音に紛れてしまう。
他のハンター達の声も相当な大きさだからだ。
それでもこの愚痴を聞かせたい相手にはしっかりと聞こえた筈だ。
私にブルファンゴの大群を討伐するよう脅してくれたあの極悪人には。
並み居る飛竜達を差し置いてブルファンゴはハンター達に恐れられている。
大群ともなるとハンター達は「レウスよりも凶悪」と言って敬遠する程厄介なのだ。
「だからゴメンって言ってるじゃない、、」
麦酒と料理を私が占拠しているテーブルへ運んできた極悪人は開口一番反省の色の無い謝罪だ。
「危うく死に掛けたよ。ああいう依頼はもう勘弁だよ」
そう言って盛大にため息をつく私を極悪人(ナツキ)は何が楽しいのかクスクスと笑う。
「そんな事言ってると今に追い越されるわよ?」
「追い越される? 誰に?」
クスクスと笑う彼女はある一団に目を向け、「とっても良いPTよ」と付け足す。
私は彼女の視線を追ってその一団に目を向けると
「あれ?」
見覚えのあるPTだった。こう言ってはなんだが私は記憶力には自信がある。
「確か、、レウス討伐の、、」
間違いなかった。今も生きて騒いでいるという事は無事にレウスに勝ったという事だ。
「、、ふふ」
思わず微苦笑が漏れてしまった。私にもああやって喜んでいた時期もあったのだ。
、、随分と前の話しだが。
彼女達を見ていて私は一人の小柄な少女に目が止まった。
ガンナーか。
「ねぇ、あの娘達が気になるのも分かるんだけどさ。料理、冷めちゃうわよ?」
「え?、、ああ」
「うふふー、若い頃を思い出してたんでしょー?」
「、、今だって若いさ。まあ確かに昔は思い出していたけど。、、ちょっと気になった事があってさ」
「気になった事?」
「うん。彼女の引き金の重さだよ」
「引き金ってボウガンの?」
「ああ。私がまだ新米だった頃通っていた訓練所の教官が言っていたんだ、、」
私は目を閉じ、私に「それ」を教えてくれた教官のセリフを思い出す。
あれは試射を終えてからだった。
「これが、、引き金の重さだ。どうだ重かったか?軽かったか?、、そうか。
この引き金の重さが、、命の重みだ。お前達自身の、そして、仲間や依頼人のな。
引き金を重いと感じた者はいつかその重みに負け、ハンターを辞める時が来るだろう。
引き金を軽いと感じた者はその軽さ故に引き金を引き続け、戦い続けるだろう。自分が死ぬ時までな」
、、馬鹿な話しだ。
引き金が重ければ命の重みと戦い続け、軽ければモンスターと戦い続ける。
どちらにしても救いは無い。
あの娘の引き金は重いのだろうか? それとも軽いのだろうか?
「貴女はどっちだったの?あの娘よりそっちが気になるんだけど。友人として」
私が感じた引き金の重さは、、。
ただ気まぐれに吹く風のみが大地を駆け抜けていく。
太陽の暖かな日差しすら濃い霧によって阻まれ、昼であると言うのに薄暗く、視界を狭める。
沼地、、本来であればランポス種やアプトノスなど多くの獣達が生きる地である。
だが、
此処に彼らの姿は無い。此処に生きる獣は、、いや、獣と呼ぶ事すら憚られるソレは
刀剣を弾く鱗、火炎を吐く口、天空を舞う翼。他の獣達を圧倒する巨体。
強大な、、あまりに強大な力は彼らを獣と呼ぶ事を躊躇わせる。
獣を超越した化け物、魔獣。
此処に在る魔獣の名は暴君竜、シルバーソル。
銀に輝く暴君竜はただ一頭で存在していた。
彼と共に居る筈の金の女帝、ゴールドルナの姿は何処を探しても見つける事は出来ない。
(守らなければ、、)
暴君、と人間達に恐れられる彼の思考はただそれだけに占められていた。
彼には命を賭してでも守らなければならない者達がいた。彼と今は亡き妻の子供達だ。
例え地上最強と呼ばれる飛竜であろうと幼竜である内は親の保護が無ければ死んでしまう。
(、、ルナ)
今は亡き妻の笑顔がソルを怒りに染める。
全てはハンターと呼ばれる忌むべき者達が彼と彼の妻に突如襲い掛かって来たのが原因だった。
邪悪なハンター達を退けたものの、その戦いで妻は死に、彼も手傷を負った。
ハンター達はすぐにまたやって来るだろう。
彼を殺しに。
だが彼は勝たなければならない。
妻の為に。子供達の為に。そして自分の為に。
今、再び戦いの狼煙が上がる。
家族を守るという正義を背負った暴君竜。
この沼地のそばで暮らす村人達を救うという正義を背負ったハンター達。
勝つのはどちらの「正義」であろうか?
一瞬にして睡眠からの覚醒。中間はない。
・ ・・・来る!
それは予感。幾度となく彼の命を救って来た不可思議な感覚。
彼は月を抱く天に眼を向けた後、微かな笑みと共に我が子へと視線を移す。
(守る。何としても)
彼は自分に寄り添う小さな我が子に誓う。
戦いに勝利し、死んだ妻の分まで愛してやろう、と。
太陽を背に遥かな高みより彼は縄張りである沼地を見下ろしていた。
もうすぐ、だ。もうすぐ彼を狩ろうとハンター達がやって来る。
(一人で勝てるだろうか? いや、私は一人では無い。私にはルナ、お前がついていたな)
眼を閉じ、風に乗って流れてくる敵の匂いを探る。
(天空の主としてではなく、私は一介の父として戦おう)
風に敵の匂いが混じった。
(いざ・・・戦場へ!)
沼地10で彼は敵を見つけた。
(ハンターの数は4人。大剣が1、ハンマーが1。双剣1.ガンナー1か)
彼の狩人としての本能が告げる。勝ち目は薄い。
だが本能は彼を止められはしなかった。
彼は天空より重力と彼自身の翼によって一陣の風となって大剣使いに突撃した。
突然空から降りてきた、厭、速度からすれば落ちてきたと言ったほうが正しいだろう・・銀の巨体はハンター達を混乱させ、恐怖させた。
どれ程経験を積み、強力な装備に身を包もうと悠久の時を越え人類の天敵として君臨して来た
魔獣王に対して原始的な恐怖を拭い去れる者などいはしないのだ。
大剣使いは辛うじて己の大剣で身を守るが
(甘い!)
距離を取る愚を侵さずそのまま火球を吐く。
超高温の火球はグラビモスの火線には及ばぬもののあらゆる者に死を与える死神の顎。
火球は大剣使いの防御を突き破りハンターの身を焼き尽くす。
「――――!」
ハンマー使いが何事か叫ぶ。だが怒れる暴君竜は意を返さずその身を大地に落とすと
近くに居た双剣使いに視線を向ける。
「ヒ、、、ヒィ」双剣使いの絶望的な視線に悦を感じつつ食らいつくべく襲い掛からんとした。
だが
殺気、、意識するよりも早くハンマー使いの脇を突進して「何か」を避ける。
恐ろしい勢いで巨体を掠めるは貫通弾か。
3人となってしまったハンター達と距離を取ると彼は己の攻撃を中断させたガンナーの姿を観察する。
(貴様は・・そうだ! 貴様だ!)
そのガンナーこそが彼の妻を殺した憎きハンターだ。見間違う訳が無い。
彼の耳に妻の断末魔が木霊した。妻は最期まで子供達を案じていた。
感情が理性を超える。
咆哮。否、それは絶叫だった。薄く張った水面がゆれ、ハンター達が耳を抑える。
予備動作無しの突進。ハンター達が散開し突進は失敗したかに見えた。
暴君竜は突進後に倒れこむという事はせずハンター達の中心で立ち止まると尻尾を振り回す。
巨大な尻尾が唸りを上げてハンター達に襲い掛かかった。反撃に出ようとしていた双剣使いが吹っ飛ぶ。
腹から翼にかけて熱い何かが走り抜けて行く。直後の激痛。
痛みに顔を歪めると大地に太陽が現れたかと見間違う程の閃光が彼の目を焼く。
(目がっ!何も見えん!)
今だかつて無い混乱が彼を襲う。大木程もある彼の足も折れよと言わんばかりにハンマーが叩きつけられる。
(動かなければ)
とにかく立ち止まっていてはただの的に過ぎない。彼はがむしゃらに尻尾を振り回し噛み付いた。
だが彼の攻撃は空を切るばかりでまるで手応えがなかった。逆に嵐の如くハンター達の攻撃は彼を
傷つけていく。
目が見えるようになるまでの僅かな間彼は黙って耐えた。目が見えるようになると同時に後ろに飛ぶ。
そして間を置かず火球が吐かれた。
彼の足元に居たハンマー使いが避ける間も火球に飲まれる。瞬間、辺りにキラキラと粉塵が舞いハンマー使いの傷が瞬く間に癒されていく。
生命の粉塵。彼ら竜族の癒しの力を持ったそれは貴重ではあるがこのハンター達は仲間を助ける事を
選んだようだ。
ガンナーはハンマー使いに駆け寄り双剣使いは再び閃光玉を投げようとしていた。
(させんっ!)
火球を3連続で吐き出し、ハンター達の行動を中断させるとすかさず突進する。狙いなどデタラメだ。
とにかく動き回らなければ憎き気ガンナーの攻撃と閃光玉によって視界を奪われてしまう。
だが、常に動き続けられる訳も無く、気がついたら壁際で立ち止まっている自分が居た。
荒い息を整える間も無くハンター達が彼に群がる。
ハンマー使いの重い一撃が彼をのけぞらせ、双剣使いは執拗に尻尾を斬りつけてくる。
ハンマー使いに噛み付こうとするが顎は空を切った。偶然だが噛み付きの時尻尾を振り回していたら
双剣使いに当たり木の葉の如く中を舞う。
だが、致命傷には至らない。その証拠に双剣使いはサッと立ち上がり再び立ち向かってくる。
ハンマー使いが強力な攻撃でのけぞらせ、双剣使いが尻尾を斬ろうと動き回る。
そして妻の命を奪ったガンナーが貫通弾や回復弾で二人をサポートする。
敵でありながら彼はハンター達の連携にある種の感動を覚えていた。
(ハンマー使いは背に壁か・・)
翼爪を破壊されながらも彼は足元に居るハンマー使いに再びブレスを当てるべく後方へ飛ぶ。
ハンマー使いが兜の奥でにやりとほくそ笑むのが伝わった。
―――二度も同じ手は食らわない。
そういう心の内が伝わってきた。
ハンマー使いの読み通り火球が吐かれる。ハンマー使いは火球を後ろへ転がり見事に避けた。
(甘いわっ!)
これこそが彼の狙いだった。元々壁際の戦いであったのにハンマー使いは火球を避けた為にもう身動きするだけのスペースは残されていない。
後ろへ飛んでブレスを吐いたからといって地に降りなければならない理由は無い。
中空にある暴君竜は猛禽類の如く毒爪を繰り出す。
ガードの出来ないハンマーは攻撃を回避する以外に選択肢はない。だが今ハンマー使いが居る場所は壁際。
逃げ場所はなかった。
毒爪はハンマー使いの鎧を突き破り骨を断ち、内臓にまで達した。
更に激痛の走る傷ついた翼に鞭打ってブレーキを掛ける。
急激な制動に息が詰まるが意識を無くしたりはしなかった。
勢いのついたハンマー使いの身体がズボッと言う音を立てて毒爪より引き抜かれる。
ハンマー使いは凄まじい量の血を撒き散らしながらすぐ後ろにあった壁に叩き付けられた。
(後二人)
勝ち目が見えてきた。彼は一瞬だけその事に気を取られてしまった。
直後、翼が、足が幾度もの爆発によって傷つけられ骨がむきだしになっていた。
拡散弾・・人間達が対飛竜戦用に開発した死の弾丸。
むき出しになった神経が激痛に焼かれる。
意思が・・痛みに負ける。
暴君竜の巨体がどうっと地面に横倒しに崩れた。
生き残った二人のハンターが猛攻撃を仕掛けた。
次々と刻まれる裂傷・・そして
「やったっ!」
双剣使いの歓声。ついに斬り飛ばされた尻尾。
(ぐうぅ・・ウオォォォォッ!)
彼は尻尾を斬り飛ばされた反動で立ち上がると激痛に呻きながらも翼をはためかせ、
空に退路を求めた。
追撃せんと貫通弾や閃光玉が彼を襲うが何とか他のエリアへと逃れる事に成功する。
「ハァッハァッ」
翼を羽ばたかせる度に肉を突き破った骨が不快に鱗を撫でる。自分の息遣いさえ遠くに感じられ
血は止まろうとしない。
ハンター達は彼が他のエリアへと逃れる度にしつこく追いかけて来た。
何度か追いかけっこを繰り返す内にいつの間にかエリア2へと降りようとしていた。
ハンター達の姿は見えない。
(ようやく、、休める)
安堵の息を吐くとゆっくりと地面に降り立つ。
瞬間
降り立った地面が消えた。落とし穴だと気づき避けようとするも重力の鎖は彼を逃さなかった。
巨体が地面に埋まる。すると何処に隠れていたのかハンター達が現れた。
ガンナーは貫通弾を撃ち、双剣使いは大きなタルを担いで近づいてくる。
彼はその大きなタルが何なのかよく知っていた。
大タル爆弾G・・圧倒的なまでの殺傷力を持つ人間達の切り札。
(殺される・・?)
ぼんやりと死神の顎を見つめる。
甘い絶望が囁く。
――もう良いじゃないか。
必死に戦った。もう・・限界だ。
全身から力が抜けて行く。
意識が暗闇に落ちようとしていた。
だが誰かが彼の意識を必死で繋ぎ止めていた。
(・・・ルナ?)
彼女はもういない。この世の何処にも。
しかし彼は近くに彼女が居るのをしっかりと感じていた。
彼女が、ルナが必死にソルの意識を繋ぎ止めていた。
それだけではない。
彼のすぐ側には気の会う友人達が居た。
両親が居た。まだ幼い我が子達が居た。
(私は・・?)
彼等以外にも無数の存在が居る。それは彼に失った者、
守り切れなかった者・・けれどまだ彼には守らなければならない者がいる事を教えてくれた。
(私は・・私がっ!)
――守る!
血を吐くような祈りと共にソルは想いを力に変える。
それ、を目撃していたガンナーは息を飲んだ。
死に掛けていた暴君竜の目に再び闘志が宿ったのだ。
(ハンター達よ、確かに王としての私は負けた。だが父としての、夫としての私はまだ負けてはいない!)
心の中で彼は雄叫びを上げると彼と共に在る想いが身体を満たす。
「逃げろーーっ!」
ガンナーが喉も張り裂けよと言わんばかりに叫ぶ。
大タル爆弾Gを設置し終わった双剣使いが驚愕と共に彼を見上げる。
落とし穴より飛び上がった暴君竜、厭、父なる竜は大タル爆弾Gへと火球を吐き掛けた。
鼓膜を破らんばかりの轟音、全てを飲み込まんとする爆風。
爆風が彼の目を焼き尽くし、顔周りの甲殻が跡形も無く吹き飛んだ。
空より降り立った彼は再び地面に倒れていた。
翼は千切れかけ、血はもうあまり出てくれようともしない。
無事である場所を探すほうが困難になる程彼は傷だらけであった。
自分を叱咤激励しつつ立ち上がろうにも身体はピクリとも動いてくれない。
やはり、もう限界なのだろう。
「私達は今まで多くの銀飛竜を狩って来た・・だが」
生き残ったガンナーが語り掛けて来る。
「貴方程強かった竜はいない」
(そんな賞賛などいらない!)
欲しい物は勝利でもない。欲しい物、それは
「暴君竜、厭、父なる竜よ。安心して欲しい。貴方達の子供達はギルドが責任を持って
守り、育てよう・・」
(育てた後は・・その後は)
「自然に帰ってもらう。そこでどうなるかは私達も知らない。人を襲うようであれば・・
狩る事になるが・・」
(・・・・・)
「約束しよう、父なる竜よ。ギルドは、私は貴方達の子供達をしばしの間・・貴方達の代わりに守る」
平時であれば人間の約束など一笑に付していただろう。
厭、それ以前に何故人間の言葉を理解出来るのかと悩んだだろう。
しかし彼はこの人間を疑わなかった。
この何処か悲しげな声を。
或いは最後の希望に縋り付いているだけなのかも知れない。
(ハンターよ、二つ頼みがある)
「私に出来る事であれば・・」
(一つは私の最期を子供達に伝えて欲しい)
「もう一つは?」
(私を戦いの中で死なせてくれ)
ハンターが息を飲むのが分かった。もう生きているのでさえ奇跡であるのにこの父なる竜は
最期の戦いを望んでいるのだ。
彼はハンターの返事を待つよりも早く最後の力を振り絞って立ち上がった。
(さあ・・来い)
ハンターは無言で頷くと距離を取りボウガンを構えた。
そして・・一発の銃声が悲しげに沼地に木霊した。
完
「、、ふう」
食事を済ませた私は自分の部屋へと戻ってくるとイスへ腰掛け、ナツキとの会話を思い出しいていた。
私は結局引き金の重さを曖昧に濁した。
「言える訳、、無いさ」
初めて手にした「武器」。私は銃口をあっちこっちへと向けたいと言う誘惑に駆られていた。
実際向けたりしなかったが、私は引き金の重さなどまったく感じられなかった。
ただ、撃ちたい。その意識だけしかなかった。
ぼんやりと窓から覗く月が私を照らす。
月に照らされながら愛銃を手に取ると模擬弾を装填し、空撃ちする。
引き金は確かな重みを持って引かれた。
「あの時」からだ。引き金の重さが変わったのは。
目を閉じれば瞼の裏にいつも「あの時」の戦いが鮮明に描かれる。
太陽の光すら届き難い濃霧に覆われた戦場。
一人、また一人と欠けていく戦友。
圧倒的とも言えるある竜の強さ。
恐怖と憎しみでいっぱいだった。
だが
荷物袋から宝石のように鈍く輝く玉を手に取る。
銀火竜の紅玉、、伝説と語られる事もある宝物。
「貴方が、貴方の想いがなければ私は何処かで野たれ死んでいただろう」
紅玉を手にしたまま、目をゆっくりと閉じた。
それは不思議な夢。だけれど確かな現実。
この紅玉を手に持ったまま眠りにつくと私はあの誇り高き竜になって空を翔る。
私は夢の世界で「彼」になるのだ。
王であるよりも唯一人の父として戦った竜に。
私に「守る」事の大切さを教えてくれた偉大なる父に。